亡霊たちの████アカデミア   作:炭火カルビ

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11.スパゲッティを見に行こう

 

 確かめて見ればいい。

 オール・フォー・ワンにそう言われたけど、公安施設にはそう簡単に入れないらしい。

 彼は公安委員長と接触してからの案を授けてくれたけど、肝心の接触方法は教えてくれなかった。

 

 フロントまでなら入れるものの、エレベーターを使うにはカードキーが必要。部屋ごとにもカードキー。

 適当な人のを盗むと権限がどうとかで入れない部屋もある。

 階段はシャッターで使用禁止。赤外線センサーによるセキュリティ。温度は誤魔化せても赤外線は誤魔化せない。

 何度か教育のため父に連れられたことがあると言う(のぞむ)から聞いた。

 

 知り合いの公安関係者は2人。

 望の父とナガン。

 

 前者を頼るのは望が非常に嫌がったから、凍火(とうか)は後者に接触した。

 

 「アンタたち、またこんな小さい子をいじめてるの!?」

 「うわ、逃げろー!!」

 「違うもん!」

 「気持ち悪い(ヴィラン)だからやっつけてんだよ!!」

 

 接触したと言うか、焦凍(しょうと)くんのいない下校中、嫌な子に絡まれているとまたナガンが助けてくれた。

 

 「……あれをバレてるわけじゃないんだよね?」

 「うん。凍火は個性で熱とかに強いんだけど、『火弾』……オレンジの髪の子の個性ぶつけられた時に火傷しなかったら気持ち悪いって言われて、それで」

 「親はどんな教育してんだ」

 

 ナガンは憤った様子だ。いじめっ子たちの去った方向を、鋭い目付きで見つめている。

 

 「あの子たちをさ、……殺そうとか考えたことないの?」

 「相手は子どもだから」

 「大人みたいなこと言うんだね」

 

 言われて、凍火は嫌だなと感じた。

 

 「凍火たちはあんなことされたから、子どもをいじめる大人が嫌いなの。子どもは悪い子でも守らないといけないの」

 「……そうか」

 「でも、たまにこう思うんだ。あの子たちは、将来ヒーローになるよりも(ヴィラン)になる姿の方が想像しやすくって、もし本当にそうなったら、大人になったあの子たちが子どもをたくさんいじめるんじゃないかって」

 「その前に……やっちまおうって?」

 「うん」

 

 ナガンは言葉を探すように沈黙を保って、

 

 「……踏み留まってるのは偉いと思うよ」

 「ありがとう? えっと、ナガンお姉さんはどうしてここに来たの?」

 「凍火ちゃんが、バカなことを考えていないか心配になって」

 「バカなこと……。あのね、凍火、ナガンお姉さんにお願いがあるの」

 「何? あいつから頼まれたことなら、言われなくても私が何とかする」

 「違くて。本当にあの人がそんなことしているのか、自分の目で確かめたいの。手伝って!」

 

 肝心なところはぼかしての会話だけど、意図は十分に伝わったらしい。

 

 「凍火ちゃんはもうそんなのに関わらなくていい」

 「お願い!」

 

 『公安委員長についての真相を凍火は知るべきだ。ナガン本人も知りたい』。

 『思考誘導』をかけると、ナガンは思案した後に口を開く。

 

 「姿を誤魔化す方法は? 公安(うち)には凍火ちゃんくらいの身長のはいないぞ」

 「これ出来るよ!」

 

 『色塗り』での擬似的な透明化を見せた。

 

 「そのまま動いてみてくれる? うん、普通に歩いて。あー……」

 「どうしたの?」

 「いや、結構ブレるっていうか、違和感あるなこれ……」

 「えっ、そうなの?」

 

 どうやらダメらしかった。

 

 〈後ろの景色が常に同じなら良いですけど、そうは行きませんからね〉

 〈しかも高確率で初めて行く場所だし、下見も出来ないだろ〉

 〈ワ、ワタシの個性があんまりでごめんね……!〉

 (全然あんまりじゃないよ!)

 〈そうだ! 提案のついでにナガンさんのお胸の肉まんをセクハラにならないように手の甲で触っていただきたいのですが……〉

 〈悪がいる……しゅくせー……〉

 〈待ちなさい! 提案は、提案だけは真面目ですよ!〉

 

 芽愛(めあ)は慌てた様子で言う。

 

 何があってもナガンなら十分対処が出来る。故に、凍火は足手纏い。

 『氷甲』は攻撃を防げるが、拘束の類へは無力。

 本当に『実験』を行っているなら、フロストゲイルは確保したいだろう。していなくとも、(ヴィラン)の確保は当たり前。

 

 〈というわけで、ナガンさんに盗聴器を付けて、公安委員長さんとのお話を聞けば良いのです!〉

 〈お前……レディ・ナガンの生活音とか聞こうと思ってねえよな?〉

 〈向こうにも同意を貰ってから付けるんです! 帰宅したら捨ててくれればいいですよ! というか、まず褒めてくれません? 良い案でしょう?〉

 〈盗聴は悪だよ〉

 〈同意もらうって言ったでしょう!?〉

 

 芽愛が叫ぶけど、これは普段の言動が悪い。

 

 (それで良いと思うけど……盗聴器はどうするの?)

 〈盗聴器とは言いましたが、バレなければ通話中のスマホでも十分ですので〉

 (なら、お金もかからなさそう?)

 

 「ナガンお姉さん、凍火の中のお姉さんが――」

 「ちょっと待って。望くんとは違う子?」

 「うん。えーっとね、おっきいおっぱいの人が好きな、超天才美少女エンジニアの芽愛(めあ)お姉さん」

 「???」

 〈きゃっ、性癖暴露されちゃいました。恥ずかしい〉

 〈お前にも“恥”の概念があったんだな……〉

 

 ナガンは首を傾げて、「あー……」と話を切り直す。

 『凍火の指示に従わないといけない』。

 凍火の意思の外で、『思考誘導』が使われる。

 

 「携帯……うん、複数持ってるし、1個を凍火ちゃんと通話しときゃ良いのか」

 「それじゃそれでお願いします」

 「わかった。…………凍火ちゃん、仮にあれが真実でも馬鹿なことは考えるなよ」

 「…………うん」

 

 妙に話の進みが早い。

 でも、凍火は不審に感じることはなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 『凍火の言うことを聞かないといけない』。

 『凍火に好意を抱かないといけない』。

 『公安委員長に真実を話させないといけない』。

 

 加重の『思考誘導』で歪められた思考に気付かないまま、義務感と使命感がナガンを突き動かした。

 それらも凍火への好意も公安への憤りも、『思考誘導』の効果こそあれど全てが嘘ではない。

 その人物のとりうる行動の中から、1つを確実に遂行させる。あり得ない選択肢からは行動を選べない。例えば、オールマイトが困っている人を見捨てるだとか、必要なく(ヴィラン)の殺害をするだとか。

 

 話を切り出すのは簡単だった。

 

 「最近……殺しより捕獲命令の方が多いけど、『記憶操作』みたいな便利な協力者でも出来たの?」

 

 何も知らなかった時の能天気な考えを口にする。

 公安委員長は得意げに、「将来そうなるかもしれない」と笑った。

 

 「どういうこと?」

 「君はよく働いてくれているし、伝えても良いだろう」

 

 結論から言おう。

 願野(がんの)の話は真実だった。

 

 「『睡眠短縮』、『思考加速』、『憑依』……これらの便利な個性を使い潰してしまったのは非常に残念だが、親族に類似個性が多数いて良かった」

 「…………『実験』とやらの手法を確立できたら、その親族たちを犠牲にするのか?」

 「平和のための礎さ、レディ・ナガン。『睡眠短縮』をオールマイトに与えられれば、今の何倍の人を助けられる?」

 「オールマイトはそんなの喜ばないだろ」

 「人体実験のことは隠せば良い。知ったとしても、与えられた便利な力だ。犠牲を無駄にしないためにも使わざるを得んだろう」

 「『思考加速』は想像つくけど、『憑依』はどう使うつもりなの?」

 「ナガン、治安が乱れるのはいつが1番多いかわかるかい?」

 

 考える。

 ハロウィンやクリスマスのイベント、と答えてほしいわけじゃないだろう。

 

 「トップヒーローの引退。大物(ヴィラン)に当てられた奴らの暴動」

 「それも正解だ。日本においてはその回答で満点。だが海外は?」

 「選挙の時……?」

 「正解!」

 

 日本にはオールマイトがいる。

 (ヴィラン)犯罪発生率は最低。世界でもトップに治安の良い国だ。裏を知っているナガンには、誇らしいと思えないけど。

 

 海外にも、もちろんその国のトップヒーローはいるが、致命的に手が足りない。

 個性が現れる前からの国民性故か、日本でデモや暴動は滅多に起こらない。

 選挙で掲げられる公約には、前時代と比較すると個性関連のものが夥しいほど増えた。

 

 『異形だけの街を作る』と言う政治家がいるとする。

 異形を隔離する差別と捉える人間も、反対に異形を税金で優遇するのかと怒る者もいるだろう。

 幸い日本では、よほど上手くやらなければそんな主張は炎上し、票は入らない。すぐに忘れられ、『あんなのもいたなぁ』と翌年思ってもらえれば良い方。

 対して海外。まず血の気の多い異形型が差別反対デモを起こす。その内主張と関係ない略奪に発展し、抵抗する相手との個性闘争。

 デモに参加する異形。参加しない、通りがかっただけの異形。たまたまその通りに店を構えていた店主。面白がって乱入して来た者。近所に住んでいただけの不幸な者。ヒーロー。警官隊。軍隊。政治家のボディーガード。

 誰もが関係ない。自己主張と自衛のために個性を使う地獄が形成される。

 

 「選挙がなければ良いってこと、か……まさか」

 「その通りだ。『憑依』で肉体を入れ替え、不老不死になった優れた総理大臣が永遠に日本を統治してくれれば良い。だろう?」

 「アンタが不老不死になりたいだけじゃなくて?」

 「それはどうでも良いが……日本をより良くするため、優れた者が頂点にい続ける必要があり、それは私以外に該当しないとは思っているんだ」

 

 狂っている。

 ナガンは本気でそう思った。

 

 いつからコイツはこんな、化け物になったのか。

 大勢の人を殺しておいて、平然とした顔で話せるのか。

 

 『生かしておいてはいけない』。

 

 『思考誘導』で他の選択肢は消されたけど、でも、初めからナガンにはその選択肢以外なかった。

 

 「アンタは――きっと、この国の平和を願う気持ちだけは本当なんだろうね」

 

 でもダメだ。

 きっとそれは本当の平和じゃない。

 ナガンが心をすり減らして守った平和と同じ、偽物。

 

 ナガンは銃口を突きつけた。

 

 『今から行く!! お姉さん、やめて!!』

 

 服の内側に入れた携帯から、幼い声が聞こえた。

 

 「今のは……」

 

 公安委員長は驚くけど、ナガンは答えを教えるつもりはない。

 

 「フロストゲイルが悪を凍らせに来たよ」

 

 盛大に正体をバラしながら、部屋の真ん中に凍火が現れた。

 フロストゲイルと同じ、氷の装甲。これじゃ誤魔化すことも出来ない。

 

 凍火は家でナガンたちの会話を聞いているはずだった。エンデヴァーの家からここまで、どう頑張ってもこんなに早くは着けない。

 

 「黒霧さん、ありがとーね!」

 

 黒いモヤ。

 福岡でも見たそれが、遠距離瞬間移動を可能にするフロストゲイルの協力者?

 

 「あのね、わたしの先生から伝言。『君たちの行っている実験結果を見せてくれ』って。もしかしたら、先生の力でさっき言ってたのを――わたしは嫌だけど、叶えてくれるんだって」

 「先生、とは……?」

 

 固まった表情。冷や汗を垂らして、それでも毅然とした態度で公安委員長は尋ねた。

 黒霧とやらの個性とフロストゲイルの個性。どんな強固なセキュリティのある建物にいても、こちらを殺せる相手。

 頼りのナガンは、けれど絶対的な味方ではない。

 

 「名前だけ言えばわかるんですよね?」

 「ええ」

 「オール・フォー・ワンさん。最後のさんは名前じゃないよ」

 

 黒霧に向けて確認を取ると、凍火は何のことなしに言った。

 

 「あの! 個性を自由に与奪できるという……伝説の!」

 「結果によっては……あなたとご友人になりたいのだとか」

 「お友達?」

 「はい、そうですよ」

 

 氷のフェイスアーマーの向こう、凍火がきょとんとした顔をしたような気がした。

 ナガンへも公安委員長にも子どもらしい振る舞いだけど、黒霧と名乗る異形の男に対してだけ、あどけなさが増している気がする。

 

 「……ここからだと車で2時間ほどかかるところだ」

 「黒霧さんには関係ないよ。ねっ?」

 「はい。正確な座標をお伝えいただければ何人でも即座に転送いたします」

 

 公安委員長が2人を見る目がいやらしいものに変わった。

 黒霧の個性の有用さ。凍火の存在の希少さ。

 オール・フォー・ワンとの繋がり。

 

 ナガンには彼の気持ちがわかってしまった。でも、理解しきることはできない。

 凍火と黒霧の確保。これはまだわかる。

 オール・フォー・ワンと手を組むこと。なぜそこまで欲を伸ばしてしまうのか。

 彼は(ヴィラン)を上手く利用してやる、自分なら超大物(ヴィラン)をも出し抜けるとでも思っているのだろうけど。

 破滅への道を丁寧に敷かれているようにしか感じられなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 『ワープゲート』を体感したナガンと公安委員長が目を見張る。

 凍火は、お母さん(黒霧さん)を自慢に思いふふんと笑った。

 

 しまった。黒霧さんは子どもを火傷させたりしない。黒霧さんは凍火を無視したりしない。

 

 「工場……?」

 

 凍火が1人勝手に傷ついていると、ナガンが呟く。

 変な大きな機械がたくさんあって、だだっ広い。

 

 〈変な機械ではありませんよ! 右奥のはプレス機、左奥のは切削加工機、手前のはR――〉

 〈お前……ちゃんと機械に興味あったんだな……〉

 

 機械は全て止まっていて、人もいない。

 

 「こちらへ。フロストゲイル、黒霧、レディ・ナガンの順で着いてきたまえ」

 「わたしはあなたの部下とかじゃないんだけどな」

 「同感です」

 

 溶接室と書かれた部屋へ。

 芽愛が言うには、部屋は普通に溶接用の設備が整っているようだ。

 

 消火器が入っているらしい、小さなドアを公安委員長が開ける。中には消火器はない。

 代わりに、ボタンの集まりみたいなものがあった。

 手慣れた様子でボタンを適当に押していく。恐らく適当ではないのだろうけど、凍火には適当としか思えない。

 

 ゴゴゴ……と地響きがして、地下への階段が現れた。

 壁にかかった懐中電灯で照らしながら、公安委員長はそれを下る。凍火も黒霧もナガンも、落ちないように気を付けて歩いた。

 

 階段は結構長い。

 一歩、また一歩。

 

 「血の匂い……」

 「…………子どもの声!」

 

 ナガンの鼻が、凍火の耳が。

 致命的な違和感を拾い出した。

 

 あのサナトリウムの実験場のマイナーチェンジ。

 大きな相違点は子どもが2人だけしかいないこと。

 檻に閉じ込められた大人が「助けてくれ」と、それが精一杯とでもいうように呟いた。

 

 「何これ……」

 

 ナガンの目が揺らぐ。現実を拒む材料を探すように上下左右を順にゆっくり向いて、最後は下に落ち着いた。

 

 檻の他に病室らしき部屋があった。公安委員長が遠隔操作すると、自動ドアが開く。

 

 白いベッドが2つ並んだ無機質な部屋。

 よくある病院のベッド。よくある点滴。

 それら自体は何ら変わりない普遍的なもの。

 

 「『遮光』と『停止』だ」

 〈温度エネルギーの吸収、音エネルギーの吸収、光エネルギーの吸収、運動エネルギーの吸収……なるほど。治崎(ちさき)さんの仮説は正しかったようですね〉

 

 光を吸い込んで一定範囲を真っ暗にする個性と、触れたものの動きを固定する個性。

 公安がわざわざ捕まえるには微妙も、すごいも。凍火とナガンの口からは出てこない。

 それよりも目を引く光景があったから。

 

 彼らの全身には夥しいほどの管、管、管!

 顔こそ見えるし、性別はわかる。でも太っているのか痩せているのか、背が高いのか低いのか。それすら判別できないほどの管が繋がっていた。

 

 大きさ。骨格と肌艶。それぞれのパーツの配置。

 顔しか見えないけど、それらから彼らが子どもなのだけはわかる。

 

 「ナガンお姉さん、ごめんね」

 

 巻き込まないようにしようとしてくれたのに。

 

 一切の罪悪感はなく。

 凍火は公安委員長に氷柱を放つ。

 

 それを、ナガンの弾丸が弾いた。

 

 

オリキャラ・オリ個性等の設定まとめ

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