亡霊たちの████アカデミア   作:炭火カルビ

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大人同士のつまらない話
一章まとめを本日投稿しました。栞の話数などにズレがあるかもしれません。


ex3.彼の立場の使い方

 

 トップヒーローであろうが、そこまで偉くはない。

 ヒーローより警察の方が上。ヒーロー公安委員会の方が上。

 嘆かわしいことに世間では彼らよりヒーローの方が上だし、当事者もそう思い込んでいる者が多いが。

 

 故に、オールマイトですら、上からの指示には逆らえない。

 

 「どういうことですか!?」

 「先程伝えた通りだが」

 

 茶髪で桃色の瞳の男──最近代わった公安委員長は、オールマイトの剣幕にも揺るがない。

 

 彼からの指示は、オールマイトにはとても受け入れられないものだった。

 フロストゲイルを追いかけるな。

 ただその一言。でも、彼女はただの子どもで、いつかの被害者。それを知っているオールマイトには、助けたいという衝動を抑えることが出来ない。

 

 「エンデヴァーは受け入れてくれたんだがな」

 「彼の方にはまともな理由があったでしょう」

 

 秘書らしき若い男が呆れた様子で言った。

 

 「まともな理由? フロストゲイルを追うな──あの子を助けるななどという指示に、一体どんな正当性があると言うんです!?」

 「子ども以前にあれは(ヴィラン)だ。社会に混乱を招き、ヒーローへの信頼を揺るがす鬼子」

 「私が助けられなかった被害者でしかない! ……もちろん彼女が罪を犯したのは分かってますが、まだやり直せるはずです!」

 

 1つずつ罪を償って。

 少しずつ普通の子どもに。

 

 どれだけ時間がかかろうと良い。

 善を積み重ねて行けばきっと、どれだけ深く傷付いていようと、彼女の心を埋めることが出来るはず。

 

 なのに、鬼子という言葉で片付けてしまう目の前の男が、オールマイトには信じられない。

 

 「あー……補足しますと、エンデヴァーさんにはこうお伝えしました。彼女の溶けない氷、あるでしょう? 炎系個性のヒーローで日本──いや、世界で最強と言っても過言ではないエンデヴァーさんですら、溶かせない氷」

 「ああ、あの……」

 

 恐らく、彼女生来の個性ではない。

 

 後少しでフロストゲイルを保護できる。

 なのに、オールマイトの手は届かなかった。いや、引き離されたのだ。

 

 あの謎の黒いモヤ。

 そして、あの中からまるで嘲笑うように言ってきたあの声は、忘れもしないオール・フォー・ワン。

 お師匠の仇にして、世界を侵す男。

 

 彼の個性を奪い与える力なら、氷個性と何らかの個性を組み合わせて、溶けない氷を作ることも出来るだろう。

 

 「あの氷、いつ溶けるかご存知です?」

 「……いや」

 「カウカウ──牛田(うしだ)価生(かう)の件の告発のような、誰かにメッセージを伝えるための氷板は、1ヶ月が経った今も溶ける兆しがありません」

 

 カウカウ。

 まさかヒーローにあのような者がいると思わなかった。

 彼の悪事を見逃し、犠牲者をみすみす増やし、まともに関わりのないとはいえ同業者の心の闇を晴らせなかった自分が、オールマイトはたまらなく憎い。

 

 「それはフロストゲイルが長持ちするように設定しているんでしょうね。逆に短時間しか氷が保たないもの。これが問題でして……例えばあなたと会う前、コンビニの火災を建物ごと凍らせて消火していましたよね。他、攻撃をいなすために炎を凍らせたり、氷の弾丸が残っていたり」

 「ああ、そういえば……」

 

 やっぱり優しい子のはず。

 あの火災はヒーローのミスによるものらしい。(ヴィラン)への狙いが外れたわけでもなく、ただの内輪揉め。

 燃える店内に取り残された店員まで救ったフロストゲイルが、取り返しのつかないほど悪に堕ちているとは、オールマイトには思えない。

 

 「はい。火災に関しては、消防が来るまで時間稼ぎ出来れば良いと考えたのでしょうね。それらは、数時間後から1週間後の、特に規則性のない時間に溶け始めます」

 「それが、一体……?」

 

 秘書は「あなたほどの方が察していないはずないでしょう」と、苦笑いした。

 

 「氷の弾丸には問題ありません。溶けるだけですから。悪用を防ぐため、近隣ヒーローには回収をお願いしていますが」

 

 適切な射出装置があれば、フロストゲイルが放った物でなくても、溶けない氷の弾丸は十分な脅威だ。悪用される恐れも十分ある。

 それは理解できた。

 

 「さて、炎を閉じ込めた氷ですが……あの氷、中の物の時間を止める効果があるみたいなんです」

 「語弊がある。中の炎の威力が、閉じ込められた時から減衰しないだけだ」

 

 公安委員長が秘書を睨みながら補足した。

 

 氷が溶け、ただの水になれば。

 炎を包む程度の量の水が、エンデヴァーの『ヘルフレイム』を消すことは不可能。

 どころか、あの火力に負けて、すぐさま気化してしまうだろう。

 

 「適切な消火体制が整っていない場所で溶けてしまうと、彼の火が守るべき市民に牙を剥くと……」

 「そう言うことです。なので、エンデヴァーさんも渋々ですが納得してくれましたよ。……フロストゲイルを目の敵にしているらしいので、彼女を前にして冷静な判断してくれるかはちょっと怪しいですが」

 「彼ならそこで判断を違えることはない」

 

 オールマイトは一抹の不安もなく言った。

 それだけ、エンデヴァーへの揺るぎない信頼があった。

 

 ファンへの愛想が悪く、そのせいか(ヴィラン)っぽいヒーローランキングなどという不名誉な物にも入っているが、それは彼のストイックさの現れ。

 日本トップクラスの事件解決数を誇り、多くのサイドキックを抱え、後進の育成にも積極的な彼。

 エンデヴァーがそこで判断を過ち、フロストゲイルに──子どもにムキになって襲いかかることなど、あり得ない。

 

 「オールマイトさんへフロストゲイルの追跡を禁じる理由ですが……私はここで、席を外します」

 「えっ、……どうしてだい?」

 「ヒーロー公安委員会委員長と、トップヒーローしか知ることの許されないものについてと伺っておりますので」

 

 秘書が出て行った。

 

 「…………」

 「…………」

 

 居心地が悪い。

 新しい委員長──確か名前は願野(がんの)だったはず──は、書類を見ているばかりでオールマイトには目をやらない。

 

 私から切り出すべきか? いや、話の内容を確認でもしているんじゃないか?

 オールマイトは柄にもなく緊張した。警察や政治家のお偉いさんと話したことは何度もある。時には海外の方とも。彼ら相手には緊張しなかったのに。

 

 まあ、威厳のあるトップがまとめるのは良いことだろう。

 オールマイトは自分に言い聞かせた。先の、有益な個性の子どもを攫っていたと言う()委員長のこともあるし。

 

 「オール・フォー・ワン」

 「……っ! どこでその名を……」

 「公安委員長には治安維持のため代々伝えられている。超常黎明期からの死に損ない」

 「死に損ない……? 失礼ですが、それは彼の危険性を低く見積りすぎていると言わざるを得ないです。オール・フォー・ワンについてはどれほど──」

 「個性を奪い与える個性。たかが個性に干渉できる程度で、自分を神か何かと勘違いした思い上がり」

 「思い上がり……」

 

 オールマイトの言葉を遮って、願野は続けた。

 書類に向けられていた鋭い目が、こちらへ向けられる。

 

 「フロストゲイルが彼の支配下にある。その考えは一致していると言うことでよろしいかね?」

 「ああ! だからこそ一刻も早く、彼女をオール・フォー・ワンの魔の手から救い出さなければ!」

 「私も同じ意見だ。ある一点を除いては」

 

 まさか、この期に及んでフロストゲイルには助けられる資格がないとでも言うのか。

 オールマイトは思ったが、ただの杞憂だった。

 

 「前委員長の悪事については──強個性の子どもを誘拐した、としか公開されていないはずだな。その子どもたちを何に捧げようとしたか、この話の流れでわからないあなたではないだろう」

 「オール・フォー・ワンに、子どもたちの個性を……ヒーロー公安委員会の委員長が!?」

 「奴はその対価に、自分に良い個性を貰えることを望んでいたらしい。ここだけの話、それを私に告発したのはフロストゲイルだ」

 「あの子が……」

 「レディ・ナガンと協力し、奴を地の底に追いやった立役者だとも」

 「……レディ・ナガンは現在、活動を停止していると聞きました。それにもオール・フォー・ワンが関わったと?」

 「ヒーロー活動は出来なくされた。……カウカウの件の後に、有名ヒーローの引退を報道する訳にはいかなくてな。今は活動停止ということにしている」

 「そんな……」

 

 レディ・ナガン。

 けして弱いヒーローではない。むしろ強い。

 

 そんな彼女がやられた。それを見過ごした。オールマイトは無念に拳を痛いくらい握りしめる。

 

 「良い個性を望む者はいくつになっても、どんなに上の立場になろうといる。あなたほどの個性なら、幼い頃に周りの個性を羨んだ経験はないだろうから、分からんだろうな」

 「…………」

 「むしろ偉い立場になったからこそ、けして埋められない弱個性にコンプレックスを抱くらしい。それを唯一何とかできる者がいて、自分は彼に接触でき、有益な情報を提供できる立場。その誘惑に負ける者はいくらでもいるさ」

 「警察や公安に、オール・フォー・ワンと通じている者がいるとお考えで?」

 「ああ」

 

 なるほど。

 フロストゲイルを助けたところで、内通者がいればオール・フォー・ワンのところに戻されてしまうかもしれない。

 一度救われ、またあの男の元に落とされるぬか喜び。

 

 想像して、オールマイトの心には怒りが沸いてきた。

 この話の結論はとうに見えている。それがぬか喜びよりマシなのか?

 

 「彼らを何とかしないと、フロストゲイルを救えない。……そういうことですか」

 「ああ。それに関しては我々が何とかする。新生公安委員会──私の部下に、奴と通じている者がいないのは明らかだ。だからオールマイト。あなたはこれまで通り人を助け、来たる時に備えて、力を蓄えていてくれ」

 「わかりました。ですが……」

 「フロストゲイルに恨まれるべきは私だ。あなたは私の、業務命令を聞いたに過ぎない。私たちの間の上下関係からして、逆らうのは不可能だ」

 「フロストゲイルに恨まれるべきは、私もです。彼女から何をされても、けして私に文句は言えない」

 「……そうか。もし外部にとやかく言われたら、私に『国内でヒーロー活動出来なくしてやる』と脅された、とでも言いたまえ」

 「え!? いや、しかし……いえ、わかりました」

 

 願野の瞳の奥底に浮かぶ強い覚悟。

 それに押し負け、オールマイトは大人しく頷いた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 「……行ったか」

 

 願野は手元の書類──調べて分かった強個性の持ち主についてを読み込む。

 さらにここから“オール・フォー・ワンに渡しても問題ない個性”と、“オール・フォー・ワンに渡してはいけない個性”を絞り込む必要があった。

 最近見つけた『超再生』などは、絶対にオール・フォー・ワンに渡してはいけない。(のぞむ)を取り戻しても、家族3人でこれまで通りの生活を送れなければ意味がない。魔王の支配下などもってのほかだ。

 

 もちろん、あの子が帰って来たらこの国を飛び出す。

 自分の裏工作のせいで、ヒーロー公安委員会の地盤はズタボロ。さながらジェンガの終盤戦のようだ。

 

 海外に行ったとして──日本より治安が悪いのはしょうがないが、そこでもオール・フォー・ワンが目を光らせているなんてごめんだ。平穏には程遠い。

 日本も、公安も、願野家も全てがどうでも良い。大事なのは妻子だけ。それ以外は全てが塵芥も同然。

 

 フロストゲイルとレディ・ナガンについての話はほとんどが嘘。適当なでっち上げ。

 『実験』について教えてフロストゲイルの正体に辿り着かれても困る。前委員長の動機も半分は嘘。

 

 警察にもオール・フォー・ワンと通じている者がいるらしい。それは本当。

 新生ヒーロー公安委員会はオール・フォー・ワンと通じていないことが確か。これも本当。ただし、願野を除く。

 身の潔白が確かな者だけ集めたのは、自分以外が勝手に彼と通じて、意図しない何かをされては困るからだ。けして彼に対抗したいからではない。

 

 ただ一つの目標のためなら。

 もう一度、あの家族団欒を取り戻すためなら。

 

 世界最高のヒーローも、世界最悪の(ヴィラン)も欺き続けよう。

 願野はその覚悟を持つ男で、だからこそ、全てを失うことになる。

 

 




正直最初のプロットにいないキャラだったので焦ったけど、何とか始末出来そうで良かったです。
オールマイトがワンチャン筋肉の軽微な震えや心臓の鼓動などから嘘を見抜けるかもしれないと考え、願野はそれらに感情が表れないようにめちゃくちゃ訓練しました。無駄な努力です。地味に嘘ではないような言葉選びもしています。

この後は2章のまとめ→3章(2.5章とか言いましたが0.5でナンバリングしてくのは逆に面倒だと気付きました)を投稿する予定です。
3章の進捗は8割くらい。
週末には投稿したいです。
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