亡霊たちの████アカデミア   作:炭火カルビ

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3章は全6話プラス番外編2〜3話予定です。


3章 雪を掴む
1.偉業を成す男


 

 飛田(とびだ)弾柔郎(だんじゅうろう)は嘆いていた。

 この国のヒーローの不甲斐なさに。

 

 彼はジェントル・クリミナルという名で活動する迷惑動画投稿者。初投稿はおよそ半年前。

 どんな権力にも屈せず、大手コンビニや飲食チェーン店の悪事に切り込む現代の義賊!

 ……というと聞こえは良いが、総投稿動画は8本。生来の凝り性と要領の悪さが相まって、相棒が来るまで動画編集に時間がかかりまくった。

 何なら世直し──コンビニや飲食店の店員に、上層部の悪事を問い詰める業務妨害──の段取りや、歴史に残る男に相応しい言葉の台本作りにも異様に時間を取られた。

 

 総再生数は乏しく、コメントは否定的なものばかり。

 建設的、論理的ならともかく、『何これ』『ダサ』だから堪ったものじゃない。

 これでは歴史に名を残すなど、夢のまた夢。

 

 「ジェントル〜! 見てちょうだい! あのね、フロストゲイルの次の出現場所を分析するプログラムが出来たの。……ちょっと精度には自信がないけど」

 「ありがとうラブラバ! この、モードというのは?」

 「フロストゲイルの行動方針をこっちで設定して活動区域を見れるの。今は、『近くにいる子どもを助ける』、『遠征して悪党ヒーローを倒す』の2つよ!」

 「ふむ、これは……。遠征しないことを祈りたいな」

 

 ジェントルは冷や汗を垂らした。

 遠征モードでは日本全土にマーカーが打たれている。貧乏迷惑動画投稿者には、交通費がしんどい。

 

 「そんなに悪党ヒーローがいても困るものね。AI作って分析させたんだけど、十分にファンサービスをしなかったってだけでも悪党に分類されちゃったの。改善の余地大アリだわ」

 「ファンを大事にしないヒーローか……。私を見習ってほしいものだな!」

 「きゃー! 素敵よジェントル!」

 

 キメ顔で言うと、黄色い声援が飛ぶ。ジェントルは得意げになった。

 相棒──本名を相場(あいば)愛美(まなみ)、まだ中学校も卒業していない歳の少女だ。

 学校で何か嫌なことがあり不登校になった後、ジェントルの動画で励まされたのだとか。

 彼女が住所を割り出して家に来た時のことは今でも夢に見る。自分にもファンがいたのだ! と嬉しさが勝る出来事だが、主に濡れた下着の感触とか、名誉の面で思い出したくないこともある。

 

 「フロストゲイルの行動原理が変わっていなければ、これで大体の予測は付くはずよ!」

 「そして私が彼女を助け出す。そんじょそこらのヒーローには出来なかった偉業を成すのだ!」

 

 オールマイトとの対峙で判明した、フロストゲイルの歳。恐らくは(ヴィラン)犯罪被害者から(ヴィラン)に転じたと思われる境遇。それにも関わらず、犯罪被害者の子どもを助ける姿勢。

 そして、おまけにして最大の要素は、彼女の強さだ。

 オールマイト(No.1)からもエンデヴァー(No.2)からも逃げ切れる(ヴィラン)がどれくらいいるのだろうか。

 だからこそ、色んなヒーローが彼女の保護に躍起になっている。

 

 可哀想な子どもに正しい道に進んでほしい善意。

 あるいは、可哀想な子どもを正しい道に導いた、偉大なヒーローになりたい気持ち。

 

 ジェントルは自分を前者だけで、他のヒーローは後者だけと思い込んでいた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ヒーロー公安委員会委員長が替わって1年。

 小学2年生になった凍火(とうか)の生活は、けれど何も変わらない。

 

 家と学校の往復。

 (ヴィラン)活動のカモフラージュで、「図書館に行ってくるね!」と姉兄(両親)に言って外出するのは頻繁。でも、実際図書館に行くのは月1程度。

 

 家ではエンデヴァーの鳴らす音──怒鳴り声、足音、呼吸音、扉を開ける音までとにかく全部──にうんざりして、横暴な父に怯える末っ子を演じている。

 

 学校では大人しく、個性も弱い女の子。

 

 〈虚弱系儚げ超美幼女ですね〉

 (でも前、嫌な子にブスって言われた……凍火可愛いのに)

 〈あらあら。可哀想な子たちです。わたくしがまだ生きていれば、超高性能義眼を入れて差し上げたものを〉

 〈お前それ健康な目をくり抜くとか言わないよな!?〉

 〈凍火ちゃんを可愛く見えない目は、健康ではありませんよ!〉

 〈女の子にブスって言うのは悪だけど、罪に対して罰が重いよぅ〉

 〈男の子に言うのは?〉

 

 (のぞむ)の質問に、芽愛(めあ)彩葉(いろは)も答えなかった。

 

 〈男の子の顔はそんなに大事じゃありませんし〉

 〈大事だわあほ芽愛〉

 〈で、でも、女の子にブスって言う方が悪だから……!〉

 〈男の子に言うのも悪だわ。凍火ちゃんはコイツらみたいに、男女差別をするような悪ガキになるなよ!〉

 (えっ……うん)

 

 芽愛たちの態度の何がいけないんだろう? 凍火は疑問を隠して返事した。

 

 1年生の時のいじめっ子3人のうち、『空間置換』の子とはクラスが別れた。

 教室が離れているから、わざわざ凍火のところに来てまで嫌なことはしない。他2人と別の友達を作り、1年生の頃を忘れたように普通の子どもとして過ごしている。

 

 『火弾』と『空気砲』の子はそのまま。

 彼らがいるせいで新しいお友達も出来ない。新しい担任も日和見主義。

 火傷はしないからいいけど。

 去年1番嫌だったのは、『空間置換』で物を盗まれたり、筆箱やポケットに虫を入れられたりすること。

 だから、彼と離れただけで万々歳。

 

 〈ソイツの新しい友達に、ソイツの人間性分からせた方が良い〉と望はうるさいけど。

 面倒だからそんなことしたくない。

 

 暗い話はさておき、凍火は焦凍(しょうと)とも同じクラスだ。

 一緒にいる時は凍火を守ろうとしてくれるけど、結局役に立たないのだからやめてほしい。

 焦凍くんがたまに訓練のため学校を休むのも変わらない。宿題やお知らせプリントを持って帰ってあげるのは凍火の役目。

 そして、焦凍くんがまるで父のように個性で威嚇し、凍火を庇うと彼が休んだ日が面倒。

 

 〈で、でも……! 凍火ちゃんのお兄ちゃんかっこいいよね!〉

 (夏兄の方が好き)

 〈えー……〉

 

 やっぱり彩葉とは気が合わない。

 

 カウカウの件で、ヒーローが悪事を働いていないか? という目は厳しくなった()()()

 新委員長──望の父主導で調査を行なった結果、数十人のヒーローによる犯罪や賄賂が見つかった。

 いずれも有名なヒーローではなく、そこまで大きくは報道されなかったけど。

 そう。有名ヒーローで後ろ暗いところがある者は1()()()いない。

 エンデヴァーによる虐待は見逃された。

 

 (お兄さんのお父さんの役立たず)

 〈発見出来なかったってより、ないことにしたんだろうな……〉

 〈エンデヴァーのために?〉

 〈エンデヴァーによって守られる平和のために〉

 

 大人はみんな汚い。

 凍火は小さく溜息をついた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 フロストゲイルの生活は、あれから少し変わった。

 (なぎ)みたいな子や、カウカウみたいなヒーローがいないかのパトロール。

 あるいは、オール・フォー・ワンから不定期に受ける、無名ヒーローの個性調査の仕事。

 (ヴィラン)としての活動内容自体は変わらない。

 

 問題は、フロストゲイルに絡むヒーローたち。

 ただこっちを捕まえようとだけしてきたエンデヴァーが、まるで天使に思えるくらい鬱陶しい。

 

 「君はまだ小さいんだから、やり直せる!」とか。

 「もう辛いことはないんだよ」とか。

 「助けに来たよ」とか。

 

 断言する。

 一度(ヴィラン)になった凍火はやり直せない。いじめっ子やエンデヴァーにムカつくたびに、殺すが頭をよぎる。

 姉兄(両親)みたいな善良な一般市民の思考から、あまりにも逸脱してしまった。

 

 もう辛いことはない?

 あり得ない。凍火はそれを聞いた時、鼻で笑ってしまった。

 あの日からずっと、望たちは死んで凍火だけ生き残ったことを後悔しているのに。

 あの時からずっと、(なぎ)の最期の言葉が耳に染み込んで離れないのに。

 きっと全部、死ぬまでまとわりつく。

 

 助けに来たよ?

 もはや笑いも怒りも出ず、凍火の顔には無が出力された。

 あのヒーローの顔は俗物のそれだった。

 オールマイトみたいに純粋に凍火を助けたいんじゃない。凍火を助けて賞賛を受ける自分を夢見る顔。

 そもそも、助けに来るなら2年前に来い。

 いや、それ以前、エンデヴァーがDVを始めた時に。

 

 凍火は純粋に、何の裏もなく助けてくれる大人の顔を知っている。

 オール・フォー・ワン。それに、拒絶してしまったけど久遠(くおん)とオールマイト。

 フロストゲイルを助けようとするヒーローたちは、彼らに比べて酷く醜悪だった。

 

 「よっ、1年半ぶりか? 子どもの成長は早いな……あっという間に背ぇ抜かされちまいそうだ」

 「さすがに大人になっても無理だよ」

 「違いねぇ」

 

 言うと、彼は1本ない前歯を見せて笑った。

 

 「久しぶりだね、義爛(ぎらん)さん。義爛さんはここ、初めて? わたしは初めて」

 「俺ぁ何度も来たことあるな」

 「じゃあ黒霧さん、わたしにお仕事内緒にしてたんだ……」

 

 凍火が座るのは、バーのカウンター。

 どうやら黒霧がやっているらしいお店。出会って1年も経つのに存在を知らなかったから、凍火は拗ねた。

 隣には義爛。他に人は誰もいない。

 

 凍火の目の前にはモクテルというお酒に似せたノンアルコール飲料。黒霧には抹茶ラテを薦められたけど、お洒落だから飲んでみたかった。

 どうせノンアルコールならもっと甘くすれば良いのに、お酒に似せて苦くしてあってまずい。

 

 「フロストゲイル、こちらを」

 「わたし、真剣なお話の時、オレンジソーダ飲むほど子どもじゃないよ」

 「でしたらこちらを」

 「りんごジュースなら飲む!」

 「何が違うんだ……?」

 

 義爛は首を傾げた。

 彼はお酒も飲めるけど、まだ昼間だからノンアルコール。ちょっとだけ好感が持てる。

 

 「それで何のお話? お仕事なら先生に相談してからだし、情報も……そんなに良いのは持っていないよ?」

 「違う違う。嬢ちゃんに用があるってやつの代理で来た」

 

 グラスを拭く黒霧の動きが止まった。

 

 〈直接来ないなんて、どこのどいつでしょう〉

 〈そもそもこの人誰?〉

 〈えーっとな……前にちょっと会った人〉

 

 「どこのどなたですか?」

 「死穢八斎會(しえはっさいかい)の組長」

 「……もしかして、代替わりでもしたの?」

 「いいや? 嬢ちゃんのいたころから同じ人だ」

 

 代替わりはしてない。

 ということは!

 凍火は目を見開いた。バーの薄暗い明かりが、凍火の目に光を与える。

 

 「その方はフロストゲイルに何の御用が?」  

 「元気か? だってよ」

 「元気だよ。そっか、……まだ凍火のこと、気にしてくれてるんだ」

 

 フロストゲイルのニュースを見れば、元気なのはわかっただろうに。

 もう関わらないと言いながらこれか。凍火は笑ってしまった。

 大好きな人。初めての頼れる大人。凍火の──。

 

 「これだけじゃダメかな? ええとね、最近トマトをボウルいっぱいくらい食べられるようになったし」

 「フロストゲイル?」

 「テストは全部満点だし」

 「フロストゲイル……あまり虚偽は」

 「背は200センチまで伸びたよ」

 「なぜそのような無意味な嘘を?」

 

 〈嘘は悪だよ!〉

 〈ふふっ、わたくしは身長の高くて筋肉質な女性も好ましく思いますよ〉

 〈なんでお前無駄にストライクゾーン広いの……? ムキムキの女ってキモくねえか?〉

 〈わたくしとあなたは住む世界が違うようですね〉

 

 自分の成長を彼に伝えられる。それが嬉しくって、凍火の口は油を差したように回った。

 

 「とりあえず、嬢ちゃんが成長したのは伝えとく。2メートルはさすがにねえがデカくなったし、学校もちゃんと行ってるし、苦手なトマトも克服したよってな」

 「フロストゲイルは現在、トマトを0個食べることが出来ます」

 「黒霧さん!?」

 「克服できてねえのな」

 

 義爛は苦笑いした。

 

 「0個でも……食べれるは食べれるだから! マイナスじゃないもん!」

 「マイナスとはなんですか……」

 「吐いてるだろそれ」

 「とりあえず久遠(くおん)さんにはトマト食べれるよって言って」

 「へえへえ。ま、元気だって伝えとく」

 「むぅ……、久遠さんたちは今何してるの?」

 「ヒーローが多くて肩身が狭いらしい。最近、持ってる資産、例えば建物とかをいくつか手放したとよ」

 「……そう」

 

 凍火が過ごしたあの建物はまだあるだろうか。

 もしなくなっていても、関係ない。

 凪を取り戻すことが出来て、久遠たちのところに帰れれば。どこだろうといいから。

 

 義爛が帰った後、凍火はカウンターの高い椅子に座って、床に付かない足をパタパタ動かす。靴が飛びそうになったから氷で固定した。

 

 黒霧が食器を整理する、聞いていて心地いい音。

 真面目な話は終わったから、子どもっぽい飲み物も飲み放題。黒霧に抹茶ソーダを頼む。

 

 「フロストゲイル。死穢八斎會の方々と死柄木(しがらき)(とむら)では、どちらがお大事ですか?」

 「比べられないよ。治崎(ちさき)さんや玄野(くろの)さんはどうでも良いけど……久遠さんだけは誰とも比べられないもん」

 「そうですか」

 「急にそんなこと聞いて、どうしたの?」

 「いえ、何でも」

 

 黒霧の意図がわからない。

 凍火は首を傾げながら、抹茶ソーダにストローで息を吹き込む。ぶくぶくなって楽しい。

 

 〈美幼女の息の入ったソーダには大変価値がありますが、お行儀が悪いのでやめましょうね〉

 〈どうしてお前、後半だけを言えないんだ……?〉

 〈冬美(ふゆみ)お姉さんたちの前でしたら怒られちゃうよ〉

 

 黒霧の視線はそこまで痛くない。

 弔と比べれば、凍火が何しようとお行儀良いから。

 

 「もし、私たちと彼らが敵対したら、フロストゲイルはどうしますか?」

 「凪……弔と久遠さんだけは、凍火が何してでも守るよ」

 「死柄木弔と死穢八斎會の組長、どちらかしか守れなければ?」

 「その時は…………」

 

 ()は、凍火が守らないといけない子。

 久遠は、凍火の心を一度は救ってくれた人。

 

 考える。考える。

 もちろん両方とも失いたくない。

 2人目の凪を失えば、凍火はきっとダメになる。2度と立ち上がれない。

 久遠がどこにもいなくなっても同じ。凍火は2度と前を──もう前なんて向けていないから、2度と目を開けなくなる。

 

 「凍火、は、……」

 「意地悪な質問をしてしまい申し訳ありません。フロストゲイル、おやつを用意しましたので、死柄木弔と一緒に食べましょう」

 「う、うん……」

 

 『温度操作』を使い、抹茶ソーダがぬるくならないようにしながら、凍火は『ワープゲート』に入った。

 

 「遅い」

 「ごめん」

 「1人だけ美味いもんでも食べて来たんだろ」

 「そんなことしてないよ! えっと、おいしいジュースはもらった……」

 「抹茶の何がそんなに良いんだ?」

 

 弔は緩慢な仕草で首を傾けた。

 多分、子供舌だからあのうまみがわからないのだろう。つまり、凍火の方がお姉さん。証明完了。

 

 (完っ璧な証明!)

 〈えーっと、証明はもう少し論理的に……まっ、可愛いからいいですね!〉

 〈諦めるな〉

 

 「あのね、あのね! 聞いて聞いて!」

 「聞いてるだろ……鬱陶しい、もう少し声小さく出来ないのか?」

 「ごめんね! わたしのすっごく大事で大好きな人がね、わたしのこと──」

 

 ガンっ、と音がした。

 凍火は驚きのあまり目をぱちくりさせる。

 目の前ではゲーム機がポロポロと『崩壊』。

 どうして? 負けていたりしたわけじゃなさそうなのに。

 

 「弔?」

 「……。なあ、そいつの名前、凪って言うのか?」

 

 空いた手で首元を弔は掻きむしる。

 重い前髪も顔を覆う手も意味のない、刺すような視線が凍火を射抜いた。

 

 「え? 違うけど……どうして?」 

 

 大事で世界一可愛くてとびきり賢い妹がいることは弔に話したけど、名前まで言ったっけ?

 凍火は疑問を増やして聞いた。

 

 「前に寝ぼけて俺のことを、そう呼んだから」

 「え、え、っと……」

 

 〈あら? いつのことでしょう?〉

 〈そんなことあったっけ? 寝起きだとぽやぽやで、あんまり凍火ちゃんの見聞きしたことわかんないの〉

 〈尻の穴の小さいやつだな……〉

 〈……!〉

 〈望センパイ、芽愛センパイが反応するようなこと言わないで〉

 

 「ごめんね?」

 「謝れとは言ってないだろ」

 「名前を間違えたのは失礼だし」

 「……別に責めてない」

 「でも怒ってるでしょ」

 

 弔は不機嫌オーラを撒き散らしながら、怒ってないと主張する。

 

 「俺、あんたのこと結構嫌いだ」

 「……前、弔のお皿にトマト移したのバレた?」

 「は?」

 「あっ、言わなきゃバレなかったやつ……!」

 

 首筋を掻きむしりながら、不機嫌オーラを増して彼は言う。

 

 「年下の癖に姉貴ぶるところとか」

 「でも……わたしの方が精神年齢は上だもん! みんなそう言ってるよ!」

 

 〈言いましたか?〉

 〈言ってないぜ〉〈ないよー〉

 

 「みんなって誰だよ。俺の個性が効かないところとか」

 「うう……それは仕方なくない?」

 「(ヴィラン)の癖して人助けするところとか」

 「別に良いじゃん」

 

 〈よ、喜んで良いの……? 悪って言われたんだよ〉

 〈美少女悪の女幹部ですか……〉

 

 ヒーローの『君は悪くない』、『まだやり直せる』よりも。

 

 「結局さァ、1度落っこちたやつはどれだけまともぶってても日の当たるところに戻れないんだよな」

 「そうだね。知ってる。わたしは2度と、お姉ちゃんたちと同じところにいれないんだ」

 

 弔や先生からの、『お前は(ヴィラン)だ』、『普通の生活に戻れると思うな』の方が安心する。

 

 太陽を亡くしたあの日。

 どうして、と。あの子の最期の言葉をついに聞くことの叶わなかった時から。

 凍火の心に日差しが射すことはない。

 

 代わりに影が──凍火を責め立てる言葉の数々が、どうしようもなく凍火を救った。

 

 「先生からお仕事、色んな県のヒーローの個性を調べてって久しぶりに言われたけど……弔は何か欲しいお土産ある?」

 「一年ぶりくらいか? お前、ずっとニートしてたよな」

 「ドクターさんの研究のお手伝いはしたもん……」

 「はぁ……まずい菓子じゃなければ何でもいい。前みたいに変なキーホルダー買ってくるなよ」

 〈剣とドラゴンのは変じゃないだろ!〉

 〈変だよ〉〈変ですよ〉

 (実は凍火も変って思ってた……)

 〈望さん、男の子はみんなこれが好きとか言ってましたよね〉

 〈アイツが例外!〉

 

 頭の中で予定を組み立てる。

 日本中を東西南北あっちこっちに。地味に交通の便が悪いところばかり。

 黒霧さんがいないと何日かかるんだろう? 凍火は疑問に感じた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 『フロストゲイルの目撃情報です。先ほど高知と報道しましたが現在は茨城で目撃されており──』

 「な、何ですってー!?」

 

 ラブラバは慌ててプログラムを書き換えた。キーボードの上をマッハで指が動く。

 それでも行動が急に変わったせいで正確な予測が出来ない。新たな行動ルーチンへの十分なデータがないから。

 

 「ラブラバ……」

 「ジェントル……覚悟を決めましょう」

 「決めていたが、だがこれは! くっ、しばらく安物ティーバッグに抑えるべきか……」

 「ジェントル! どんな劣悪品だって、あなたと一緒なら贅沢なティータイムよ!」

 

 ジェントルは感激と苦悩混じりに眉間を押さえた。

 

 午前九州で活動したと思えば1時間後には東北。

 新幹線も飛行機でも不可能な動き。自家用ジェットでもきっと不可能だ。

 

 ジェントルとラブラバが嘆く原因は、ずばり交通費。

 動画の広告収入はない。そこまでの有名アカウントではない。

 貯金もほぼない。ジェントルの貯金は衣装代と収入に不釣り合いな紅茶代でパー。不登校中学生のラブラバの少ない貯金は、愛しい人(ジェントル)に会いに行く前日、身なりを整えるのに半分を使った。残りの半分は動画編集用の機材。

 

 「バイト…………増やすか……」

 「ジェントル……」

 

 ジェントルは消えそうな声で呟いた。

 




ジェントルとラブラバはまだ出会って半年経たないくらいです。
ジェントルが23歳くらい。ラブラバが14歳。

引きこもり時代のラブラバの近くに卒アルのあるコマがあったので、ジェントルと出会ったのは中学卒業後っぽい気はしますが、小学校の卒アルかもしれないし、何らかの方法で得たジェントルの同級生のかもしれない。
オリキャラのいるせいでバタフライエフェクト的なアレで本作の時空はちょくちょく歪みます。
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