亡霊たちの████アカデミア 作:炭火カルビ
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オール・フォー・ワンからの“仕事”はかなり久しぶり。
去年の九州。バレットガールとヒートストリングの個性調査。
その後起きたオールマイトとの交戦。『ワープゲート』を展開してもらうのが後少し遅れていたら、凍火はあの気持ち悪いヒーローに捕まっていた。
再び似たようなことが起きるのを恐れてか、オール・フォー・ワンはしばらく
凍火からしても素直にありがたい。オールマイトには
もちろん
「行ってらっしゃいませ、フロストゲイル」
「ありがとー! 頑張るねっ」
仕事以外──凍火の趣味のパトロール。
それだって交通手段は黒霧さん。ただの趣味にこれだけ付き合ってもらっているから、お仕事ならなおさら、自分だけで頑張れるようにしないと。
ヒーローの悪事を見かけたら、自由に処理して良い。オール・フォー・ワンはそう言ってくれている。
大体はカウカウの時のように、言い訳のつかないほど広範囲に広める。例外はオール・フォー・ワン好みの個性を持っていたマイナーな
彼が個性を貰う時、有名人だと騒がれてしまう。だから、そのヒーローの名誉だけは保たれた。
もっとも、名誉と信頼を失うか、
「いたぞ! フロストゲイルだ!」
「まさかこんなところにまで……。ほぼ正反対じゃないか」
「本当に日本中どこでも現れるんだな」
ヒーローとサイドキック。
凍火を見つけて追いかけてくる。
「もう怖いことはない。これまでのヒーローたちは上手く出来なかったようだが──」
「逃げたぞ、追えっ!」
「待ちな、相手は子どもだよ。あまり怖がらせるのは……」
凍火と距離が開いて油断したのだろう。
大方、子どもに聞かせるべきでない話が薄っすら聞こえる。
「子ども以前に相手は
「あのオールマイトですら保護出来なかった子どもを保護出来れば──」
「エンデヴァーの接触が禁じられている今がチャンスだろ」
自覚はないのだろうがヒーローの声は大きい。だから距離があっても聞こえた。
〈接触が禁じられている……? No.2を、大物
〈多分クソ親父のせいだな。凍火ちゃんへの忖度のつもりだろ〉
〈む、偉い人に言われたからって素直に
〈まだそう決まってはいないのですよ?〉
反転ヒーローアンチの彼女は、『色塗り』を
むしろ、些細な──それこそ
凍火は救急車と同じで、緊急なんだから悪いことはないと思う。
お片付け=殺害だけど、オール・フォー・ワンは悪徳ヒーローが名誉を傷つけられて落ちぶれるのが好きらしい。
殺したらそこでおしまいだから、凍火は彩葉に従えない。
「おしまい、だね。個性もあんまり強くないし、個性以外も強くないんだ。ねえ、あなたたち、何か悪いことしてる?」
「俺、たち、ヒーローが、悪いことなんか……」
「嘘ついたことはある? 嫌いな物を残したことは? 車道を歩いたことは?
凍火が質問責めにすると、ヒーローたちは閉口した。
別にこれらのことをしてようが、凍火にはどうでもいい。彼らが子どもを──大人も、いじめないヒーローで、オールマイトみたいに気持ち悪い人じゃなければ。
でも、彩葉には違う。
たった一つの小さな罪悪すら、彼女は
そして。
「もし、今まで何にも悪いことしてなくても。今、
弱いヒーロー。それすらも罪。
凍火は彼らをゆっくりと凍らせて、一時的に動けなくした。
これが彼らを生かして先生を楽しませたい凍火と、一刻も早くこの世からサヨナラさせたい彩葉の折衷案。
もしも彼らが何か悪いことをしていたのなら、マスコミが掘り起こし、嬉々として報道する。
〈悪い人を倒すお仕事は終わったね!〉
〈……。しばらくこれやめて、休まないか? アイツからの仕事もあるだろ〉
〈そうですね。おやつでも買って、ゆっくりしましょう〉
凍火は
お菓子とジュースを買ってゆっくりしよう。弔と黒霧の分も買おう。先生は……彼が市販のものを飲み食いしている姿が、いまいち想像できない。
(抹茶フェア……!)
〈プリンおいしそー! でも高くない?〉
〈コンビニならそんなものですよ〉
〈400円なら全然安くないか?〉
のぼりに惹かれて、凍火は店にふらふら吸い込まれた。
◇◆◇
バイトで金が──まあそれなりに貯まった。
ほとんどラブラバがクラウドソーシングで稼いだのは、考えないことにする。ちなみに彼女はまだ未成年だから
ジェントルに出来るのは肉体労働。それも高校中退を雇うところだから、働く人間の質は少し悪い。
声は大きく粗野で乱暴。将来歴史に名を刻む男がいる場所にはふさわしくない。
とはいえ、働かなくては金は入って来ない。
全てラブラバ任せなんて論外。偉業を成す男がそんなのじゃ、後世教科書を読んだ子どもたちに笑われてしまう。
それに、フロストゲイルの行動データが溜まるまで、どの道待たないといけない。
されど、その間世直しを全くしないのか? 否!
ジェントルは衣装に着替え、ポーズを取った。目の前にはカメラを構えて黄色い声を上げるラブラバ。
「諸君、我々はサイコーマートの副社長の汚職について、今回迫ろうと思う!」
サイコーマート。日本の都道府県のほとんどにあるコンビニ。知らない者はまずいない。現在はお気楽に抹茶フェアを開催している。
脱税が判明した結果、副社長は任を降ろされた。サイコーマートとはもはや無関係。
そして、ジェントルが赴くのは本社でもなんでもない、バイトが中心に回す店舗。
つまり、副社長の悪事について問われたところで──。
「え? えっと、私にそんなこと聞かれても……」
こうなるのは必然だった。
「つまり、自分には無関係だと言うのかね?」
「え、だってたまたまここでバイトしてるだけですし。何が欲しいんですか? お金ですか? 社員の方なら来週まで出勤しませんよ」
「君では話にならない! 他のアルバイトは!?」
「先輩はあっちのパチンコ店に朝からタバコ休憩に行ってます。戻る時間は未定です。今日は私とその先輩だけです」
「サボりじゃないか!?」
「物凄いサボりじゃないの!?」
熊耳のバイト少女は俯き、ジェントルと一度も目を合わせない。肩も小刻みに震えている。この態度も強がりなのだろう。
……。いや、よく見るとスマホを弄っていた。お笑い動画を見ている。
「はあ……金なら渡すんで、業務妨害なら帰ってください」
「そ、それは君の一存で決めていいのかね?」
「命には代えられませんし……マニュアルには強盗に渡して良いってありますよ」
「それバラしていいことなの!? というか、ジェン……彼は強盗じゃないわよ!」
「まあ、文句言われたらバックレるだけですよ」
「最近の子には責任感がない!」
バイトの少女はレジを開け出す。
「きゃー! やめなさい、そんな簡単にお金渡すのはー!」
「あ、いらっしゃいませー」
「凄く呑気だな君!?」
次の瞬間、子どもが店に入って来た。
子どもの見た目を、ジェントルは覚えていない。
それを記憶する前に、子どもの姿が変わったから。
瞬きの間に肌色は消えて、氷の鎧が纏われる。
奇しくも、そこにはジェントルとラブラバが追い求めた
◇◆◇
バイトの子どもが、制服姿でもない男にお金を差し出している。どう見ても社員でもバイトでもない男だ。
それを見た凍火の行動は異常に早かった。
国の有数の権力者。表では
スイーツに浮ついていた心は戦闘モードにセットされる。
バイトが茶色い髪で──つまりは、
「ふわぁぁぁ〜」
「えっ、ちょっ、あなた!? 死んでないわよね!?」
凍火の撒き散らす冷気で、店内の人間は震えている。もちろん凍火を除いてだ。
バイトの子はあくびをして、倒れた。
病気? 体調不良? 凍火は慌てて駆け寄ろうとする。
〈耳と尻尾だけか。異形だとやっぱこれくらいが一番可愛いよな。毛皮とかヒゲとかあるとどうにも〉
〈ケモナーレベル1……雑魚ですね〉
〈よくわかんないけど、個性差別は悪!〉
「フロストゲイル……か?」
「そうだけど」
変わった服の彼は震え、凍火がバイトに近付くのを眺めた。
店内には彼とバイト少女と、ピンクの髪のツインテールの小さな子。凍火と同じくらいだろうか。
「んにゃ……冬眠にゃ…………にゃごろ……」
「あなた猫じゃないでしょう!?」
「なんだ冬眠か……」
「納得していいの!?」
体調不良や、あの強盗男の個性のせいじゃないなら良い。
凍火はほっと一息つく。
バイトの周りに散らばった紙幣を集め、レジカウンターに置いた。
「……そこだと盗まれてしまうのではないかね」
「そう。……レジが開かない」
「そりゃ開いたらダメでしょう!? その子の服にでもねじ込んでおきなさいよ!」
「ならそうする」
制服のポケットに入れた。ちょっとぐちゃぐちゃになってしまった。
「……そういえば、あなたたちは……強盗?」
「違う! 強盗などしていない!」
「この子が勝手にお金を渡して来たのよ! 何を言ってるかわからないと思うけど本当よ!」
「そんなことする店員さんいるわけないよ」
「私だって初めて会ったさ!」
男は何やら狼狽える。
これが本当なのか、フロストゲイルからの粛正を免れるための嘘なのか。凍火には判断できない。
「ンッン! 諸君、我々はあの大物
「ジェントル! もうちょっと目線をちょうだい!」
「そう! あのオールマイトからも、エンデヴァーからも逃げ切った
「きゃー! 今の画角、最高よ!」
(テレビの人……? でも、テレビの人ってもっといっぱいいるよね?)
〈多分2人だけってことはない、けど……お外、他にそれっぽい人いなかったよね?〉
〈個人動画配信者でしょうか? でも、普通
〈早く逃げないと死んじゃうかもなのにな〉
凍火たちが困惑している間にも、男──ジェントルと女の子はカメラに向かって話を続ける。
「オールマイトと戦った動画を見たことがある者も大勢いるだろう? 耳が良い『個性』の視聴者がおこした2人の会話によると、彼女はまだ6歳!」
「……」
この人は一体、何を語っているんだろう?
ただ、何だか胸がざわつく。
「
〈事実だけどムカつくな。殺すか?〉
〈
とってもとっても不愉快。
凍火の感情に呼応して、個性が強まる。
『温度操作』か『氷結』か、はたまたその両方なのか。コンビニには霜が張り、白い冷気が漂い、まるで店内全体が冷蔵庫。
「ハックション! ……失礼。だが、彼女が害したのは悪いヒーローと
「……」
凍火は今まで殺して来た人たちを思い出す。
『実験』をして望たちを殺した、
凍火が手を下したわけではないけど、『成功作』の確保に巻き込まれてよくわからない
わざわざあの人のところで働くのは理解できないけど、サイドキックの全員が悪党ではない……はず。
彼らが死んだのは凍火のせいで、この時点で男の論理は破綻している。
〈あれは凍火ちゃんのせいじゃない!〉
(でも……)
──凍火のせいで死んだ凪。
後は、凍火が生き残ったせいで
〈凍火ちゃんが能動的に殺したのは、悪党とチンピラだけではないですか〉
〈そ、そうだよ。そこまでたくさんの責任は……本物のヒーローなら持たなきゃだけど、ワタシたちはヒーローじゃないし……〉
(……うん)
「私が言うことはただ1つ! 君を助けに──私が来た!」
男は手を差し出す。
物語の王子のように、片膝立ち。
過剰なまでに自信満々。自分に酔い切った顔。凍火がその手を掴まないとは思っていないのだろう。
ムカつく、ムカつく、ムカつく!
凍火は
こんなにムカつくのなら、その原因を壊さないと解消されない。うん、弔がよく物を壊すのは理に適っている。
〈そうかなあ?〉
〈マジであんな風になるなよ! 凍火ちゃんは儚げふわふわ虚弱系美少女であるべきで──〉
〈でも、儚げ美少女の中身がパワー系なのもギャップがあって良くありません!?〉
〈よくない!〉
当然の帰結として、凍火は男の手を振り解いた。
「うわぁ!」
「ジェントル、大丈夫!?」
男──ジェントルは大袈裟なくらい仰け反る。
個性抜きの凍火の力はそれほど強くない。足は速いが他は平均。
だから、きっと痛かったわけじゃなくて、凍火が手を振り払うことを全く想定していなかったのだろう。
「何のつもり?」
「それはこっちのセリフよ! 彼はただあなたを助けようとしたのよ!」
〈あら、わたくしたちと同じくらいの子じゃありませんか〉
〈中学生くらいのお姉さんってこと?〉
(中学生……)
凍火は彼女を観察した。
背は小さい。凍火よりちょっと大きいくらい。でも、胸は大きい。芽愛お姉さんが変な声を出さないのが不思議なくらいには。
重要な点は1つ。
彼女が子どもか、大人かだ。
子どもなら不快にさせた人の仲間でも許す。場合によってはまともな生活に戻れるように『思考誘導』で助けてもあげる。
個性のせいとかで小さい大人なら倒すべき対象だ。このコンビニには横たわった人間が3人残って、熊耳バイト以外の2つは死体。
もちろんバイトの身分証も確認して、彼女が成人していたら殺す。
〈ヘイ芽愛!〉
〈成人したら合法ロリ巨乳になるタイプの方ですね〉
〈つまり?〉
〈まだまだお子さまです〉
らしい。
つまり、彼女は凍火が救ってあげないといけない可哀想な子だ。
バイトがお金を渡してきたというのは嘘。あの強盗
「ラブラバ……もし戦いが始まったら、君だけでも逃げなさい」
「何よ……ジェントルは負けたりしないわ! どんなヒーローからも逃げ切ってきたもの!」
「はは、私はオールマイトやエンデヴァーから逃げ切れるような彼女とは違うよ」
凍火の行動指針は決まった。
「きゃっ! 何っ!?」
「ラブラバっ!? どうした、平気かね!?」
「へ、平気よ。痛くも痒くも……寒くも、ないわ」
ラブラバを氷のドームに閉じ込める。氷の鎧と同じ、『シェルター』の特性を加えた溶けない氷。
ラブラバがいくら内側から叩いても。ジェントルが壊そうと試みても。決して壊れないドーム。
戦闘の余波から子どもを守るための安全地帯。凍火にはわからないけど寒いのは辛いらしいから、『温度操作』で35℃くらいの適温にしてある。
体温くらいなら問題ないはずだ。
〈それはちょっと普通に暑くない?〉
〈まあ近年の夏の気温に比べたらマシですけどね。後10℃ほど下げてあげてくださいな〉
(……? わかった!)
今後こそ過ごしやすい温度にした。
氷の弾丸が牙を剥く。
なんで凍火は35℃を適温とかぬかしたの?
→『温度操作』による副次的な高温&低温耐性で、真夏も真冬も凍火には過ごしやすい気温だからです。
この子いっつも勘違いして戦闘ふっかけるな…