亡霊たちの████アカデミア 作:炭火カルビ
お久しぶりです。最近忙しく、あまり書けていません。
弔から凍火への感情がちょっと重たい回です。
いつも通りに
話すのは筆談かスマホのメモ帳に文字を書いて。姉は不便じゃないそうだが、こっちは地味に不便だ。
ゲームのマルチプレイ中のような、テンポの良い会話は出来ないし。
『ちょっと色々あってね』
「色々って何だよ」
そもそも声が出なくなっただなんてこと、色々で片付けて良いわけがない。
綺麗な──じゃなくて、温かみのある──でもなくて、優しい声が聞けないのは──。……。
とにかく、話せないのは不便だ。
先生から与えられた弔の物が、ほんの少しでも他人に壊されたのが苛つく。
しかも、物まで飲み込めなくなったらしい。
おかげで弔がゲームソフトのついでに買ってやった、抹茶スイーツも無駄になった。
イラついたから壊してやろうかと考え、やっぱり目の前で食ってやった。
「……! ……!!」
「そんな顔するくらいならとっとと治せよ」
『わたしも治ってほしいと思ってるよ!』
「なら先生頼れよ。それかドクター」
姉は怒ったらしい顔をした。
小型犬の威嚇みたいで、あまり怖くない。
「なんでそんなことになったんだ? アンタのストレス源なら殺してやっただろ。あれで治らねえの?」
『ストレスげん?』
誰かの手書きの字は目新しい。
学校に通っていない弔には、板書や人のノートの文字を見る機会はない。
凍火が鬱陶しく感じていそうなこと。
彼女が声を失ったのだと笑って帰ってきた日の夜、弔はそれをリストアップした。もっとも、弔は凍火のプライベートをそうそう知らなかったけど。
よく愚痴るのは学校の出来事。
見るたびに露骨に嫌がる話題がヒーロー。
露骨ではないが、明らかに声のトーンが暗くなるのが家族。
弔は凍火の家族を知らない。ヒーロー全員を殺すのも、
ぱっと片付けられるのが学校。
「あのいじめっ子ども。凍火ちゃんのことが好きとか抜かしてた」
『そんな子もいたね』
記憶を探るように首を傾げ、少しの沈黙の後、凍火はスケッチブックに返事を書いた。
「お前記憶力大丈夫か? クラスメイトだろ?」
『大切な子じゃないから。キオクのムダ』
画数の多い漢字はひらがなかカタカナで。書きながら、凍火はきょとんとした顔をした。
「良いから、何で声出なくなったのか、弟の俺にちゃんと教えろよお姉ちゃん」
『ちゃんとお姉ちゃんって呼べたごほうび!』
凍火はそのまま、スケッチブックに経緯を書き始めた。
……単純過ぎて逆に怖くなる。
『って感じ。わかった?』
「他人を治して自分の声は出なくなりましたってか。馬鹿かお前」
『先生たちにはナイショね、おこられるのヤダ。わたしと2人だけのヒミツ』
「……おう」
『わかってくれたらこれこわして』
言いなりになるみたいでムカつくが、スケッチブックを壊してやる。
「お掃除が大変!」とでも言いたげに、凍火が塵を凍らせて固めた。
「……!」
「『凍火は立派なお姉ちゃん!』ってか? 普通にお前は俺より年下だし、しかもチビだぞ」
「……っ?」
「『どうしてぇ?』って、事実を言っただけだろ」
「……!」
「頭突きするなよ。……スマホ使って喋れ。いちいち答え合わせするのが面倒臭い」
『どうして色々わかるの!』
凍火ははっとした様子で慌ててメモ帳アプリを立ち上げると、文字を打ち込んだ。
「顔に書いてある」
「?」
ペタペタと顔を触り始めた。そういうことではない。
『そんなにわかりやすい?』
「わかりやすい」
首を傾げる人の絵文字で返事。
絵文字とほぼ同じ表情の凍火に、思わず笑いそうになった。
◇◆◇
「フロストゲイル、死柄木弔。先生からお話があるそうです。ご用意が出来ましたらこちらに」
『弔、大丈夫?』
「ああ。黒霧、とっとと連れてけ」
「かしこまりました」
2人で『ワープゲート』に入る。
そういえば、前にこれを使って追い出してから、酷く長い間凍火が帰って来なかったことがあった。
「……? ……!」
弔が手を握ると、『なぁに? わあ、甘えん坊さんだね!』と言いたげな顔で握り返された。
凍火の手に接地させているのは4本指だけ。残りの1本をゆっくり下ろす。……壊れない。
それに安心した自分に気付き、逆にコイツが油断しすぎてるんだとムカついた。いくら無敵の防御があるからって、普通、触られたらアウトの相手に躊躇なく触れるか?
「こうして顔を合わせるのは久しぶりだね、弔、凍火」
「そうだな、放ったらかしにされた」
「僕も忙しいんだ。許してくれよ」
凍火はスマホのメモ帳に文字を打ち、展開される会話に追いつかず打ち直し、さらにそれを直すのを繰り返している。
やっぱり不便なんじゃねえか。
「……スマホよりジェスチャーとかのがまだ良いんじゃねえの?」
「……!」
「『その発想はなかった!』か?」
凍火は首肯した。
「馬鹿だな。お前、学校で書くものなかったらどうする気だったんだよ。『人に貸してもらう』? はっ、そうかよ」
「……!」
「『みんな優しいから大丈夫だよ!』。優しくないヤツは俺が壊してやったもんな」
「……〜!」
「『頼んでない』? あの時お前もせいせいしたって顔してただろ。そもそもまともに顔覚えてない奴が死んだところでどうでもいいんじゃないのか?」
「!」
「『そうかも!』じゃないだろ」
先生がわざとらしく咳をした。
弔たちは彼の方へ向き直る。
「随分仲が良いね。声が出せなくなって生活に支障が出るんじゃないかと思ったけど、それほどではなさそうで良かったよ。ああでも、学校や家ではやっぱり大変なのかな」
『学校は大丈夫です。みんな気を使ってくれてるし。家は、お姉ちゃんとお兄ちゃんは大体言いたいこと分かってくれる』
「ヒーローのお父さんは?」
凍火が打ち終わるのをゆっくり待つと、口角を僅かに上げてオール・フォー・ワンは尋ねた。
「ヒーローの」を妙に強調して。
そういえば凍火の家族の話には妙に偏りがある。
姉と兄の話ばかり。両親の話は聞いたこともない。
親がヒーローなのも初耳だ。
先生が弔のように常に手元に置かず、定期的に家に戻してやっているのはそれが理由だろうか。
何で教えてくれなかったんだよとムカつき、親がヒーローということ自体にはそれほど苛つかない自分に気付く。
別に親と凍火には関係がないし、それに──。
それに? 続きの言葉が靄がかかったように出て来ない。
『お父さんは前よりさらに、わたしと目も合わせなくなった』
「君から聞く人物像だと、やはりそうだろうねとしか言えないね」
「お前、お父さんやお母さんのこと、全然話に出さないからな」
凍火は暗い表情を浮かべた。
「『あんな人たち家族じゃない』って?」
首肯。躊躇いは全くなかった。
「なら、捨てちまおうぜ。ヒーローとその嫁だろ?
凍火は不満そうだ。
「……やっぱり親は殺されたくないのか」
首を横に振った。猛烈な勢いで、これでもかと否定の意を示す。見て、先生が笑った。
「家族を捨てるのが嫌か?」
『表現はなんか嫌。でも、あの人たちを捨てるのはいいかも。お姉ちゃんたちとはいたいけど』
「ふーん」
その内そいつらとも引き剥がすが。弔は心の篭らない相槌を返す。
凍火の姉と兄が
「俺があんたのお父さんを殺すのが嫌か?」
「……」
コクリ。凍火はゆっくり頷いた。
『弔は、もし嫌になったらわたしや黒霧さんも捨てるの?』
「それとこれとは別だろ」
凍火は納得行かなそうだ。
先生の前で話したくないこっちの気持ちも分かってほしい。
まともに学校に通っていれば中学生くらいの弔には、オール・フォー・ワンの前で家族への赤裸々な気持ちを語るのは恥ずかしい。たとえ偏った教育で、普通の中学生ほど情緒が育っていなくても。
「『ちゃんと聞かせて?』、……後でな。怒るなよ」
「本当に仲が良いね」
「良くない」
「そこまで凍火の思考がわかるのは、仲が良い証拠だろう?」
「コイツの顔が分かりやすいだけ。『わかりやすくないもん!』って? は?」
呆れて声を漏らすと、口にクッキーを詰め込まれた。犯人は言うまでもなく凍火だ。
凍火から自分に向けられる感情。
家族愛と慈しみと優しさ。その全てが本来死人に向けられるべきもので、自分へ向いているのはただの偶然。
先生から弔に与えられたもの。唯一触れ合える存在。他のやつならムカつく発言や行動でもまあ許してやっても良いかとなる相手。それなりに役立つお姉ちゃん。
なのに、死人に横から取られた。そもそも弔の物ですらなかったのかもしれない。ムカつく。
弔は恋愛ゲームの類はしたことないし嫌いだが、それでも攻略対象を観察し、好みを把握することが大事というぐらいはわかる。
所詮死人は生者には勝てないのだから、
つまり、弔に言いたいことが分かるのは、凍火を奪うためによく観察しているからというだけ。
「凍火ちゃんさ」
「?」
「自分がいっぱい食べれないから人に食ってほしいって無理やり食わすのやめろよ。おっさんみたいだぞ」
「……!?」
「痛っ! 何しやがるこの馬鹿!」
手のささくれを毟られた。
凍火や黒霧じゃなきゃ殺してる。いや、黒霧はこんなことしない。
「程々にね。……そろそろ本題に入って良いかな?」
「ああ。大事な話か?」
「そうだね」
その返事に弔は気を引き締めた。
年下の凍火もいるのが気に入らないが、そんな話を聞かせてもらえるくらいには認められているのだ。
「凍火の声のことさ。正確には喉かな? 飲み込めもしないんだったね?」
「だったな」
「その原因について、何か心当たりはないか聞きたくてね。僕としては仮説が2つあるんだが……」
「……?」
「どんなのだ先生?」
「1つはストレス。やっぱりあの家が内心苦痛なんだろうね。日和見主義の姉と兄にも不満があっただろう。言葉に出来ないだけで」
「!」
凍火は首をブンブン横に振る。
『そんな風に思ってない!』と、叫んでいるのが分かる。
「2つ目は個性。個性の代償と言うべきかな? 凍火、“彼ら”も僕の話を聞いているんだろう?」
「……」
凍火は頷いた。
彼らとは誰か、弔だけが話に着いていけなくてムカつく。
「彼らの方が自分の個性についてよく分かっているはずさ。意思疎通をとれるのは数人だけだったかな? とにかく、何かしら代償のある個性がないか」
「……」
「……」
『言わないで』と言わんばかりに凍火に袖を引っ張られた。
弱気な態度と仕草。自分の中の何かが擽られ、弔は1つの判断を下した。
「凍火ちゃん。先生の方が個性には詳しいだろ」
「……」
『でも怒られるかもしれないし。治らないかもだし』。
凍火は視線をキョロキョロさせた。
どう考えても、今の凍火はどれだけ少ない可能性に縋ってでも喉を治さないといけない。
声を出せない。固形物を飲み込めない。……咳を上手く出せない。
「あんたさ、前死にかけたの覚えてるか?」
「……!」
『今度はああならないもん!』。
よく言えるものだ。
咳に失敗して吐いた物を、吐き出しも飲み込みも出来ず気管に詰まらせ、あやうく死にかけていたのを見つけた時には慌てて黒霧を呼んだ。あれほど焦ったのは初めてだ。
「ヒーローみてえに人助けしたのは気に入らないけどよ、先生は怒らねえって」
「…………」
『そこまで言うなら弔の好きにしなよ』。
凍火は投げやりな雰囲気だ。
「ああ、好きにするよ」
家族に向けるには当然の心配。
弔の脳はそこから、先生に凍火が声を失った経緯を話すという自然な結論を下した。
2人だけの秘密も関係ない。だって、先生はこの世で最も頼れる人だ。
「何か内緒話があったみたいだね。それで、僕も聞かせてもらえるのかな?」
「ああ。凍火ちゃんが声を無くした原因だけどさ──」
弔は話す。
ヴィジランテと戦い、やり過ぎた凍火が『肉体強化』を使い、致命傷を治した代償がこれなのだと。
「そうかい。……そんな大怪我の代償が、その程度か」
「先生……?」
「いや、もっと酷くてもおかしくなかっただろう? 奇跡の代償がこの程度で済んで良かった」
「そうだな」
目が見えなくなった凍火や、歩けなくなった凍火を思い浮かべる。……確かに、まだマシだ。
「ドクターに頼んで、また色々調べてもらおう。代償を自分で決められれば個性の使い方に幅が出来る。喉だって、早く治したいだろう?」
「凍火ちゃん、注射嫌がらずに頑張れよ。あん? 『お姉ちゃんは注射を怖がったりしない』? でもあんた痛いの嫌いだろ」
「小さい子は誰でもそうだよ」
弔は知らせてしまった。
オール・フォー・ワンに、凍火の新たな使い道を。
後に、
この後AFOvsオールマイトというビッグイベントが控えてます。多分5章くらい。
代償さえ払えば何でも治せる(かもしれない)奇跡があります。
払える代償はまだたくさんあります。そういうことです。まあ死にはしませんし、雄英普通科に通えるくらいの状態です。
次回は轟家サイド。シリアスだったりギャグだったり。