亡霊たちの████アカデミア   作:炭火カルビ

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ヒロアカアニメ完結おめでとうございます。moreのアニメ化も楽しみです。

ちょこっと邪悪な話。
AFOと殻木と芽愛がキモいです。


ex3.『受容器(轟凍火)

 

 オール・フォー・ワンにとって、(とどろき)凍火(とうか)は“次の与一(よいち)”だ。

 

 OFA(おとうと)を取り戻した暁には、忌々しいあの男たちを、簒奪(後継)者どもを捩じ伏せて、与一の人格しか残らないようにする。

 もっとも、上半身と下半身が泣き別れしても、決して逃れられない死が目の前にあろうとも、オール・フォー・ワンに敵意を向けることをやめなかった愚か者。

 それに、OFA(おとうと)を上手いこと守り通した奴ら。全員の精神を壊せるなどとは思っていない。

 

 例えば、(とむら)を使えば志村(しむら)は壊せるだろうが、駆藤(くどう)は──。

 

 忌々しい!

 オール・フォー・ワンは、それが己に湧き上がる感情であることも理解しないまま、頭を掻きむしる。

 これは、ただ過去を振り返るのが不快なだけだ。己から逃げて、あの男に拐かされ、最後には死んでしまった可哀想な与一。

 

 ──だからこそ、『肉体強化』の代償は都合が良い。

 声を出せないのなら、駆藤(ヒーロー)に絆されることもないから。

 駆藤を慕っていた、あの憎たらしい女の子孫の個性なのも最高だ。

 

 仮に凍火の記憶が無くなろうと、それは後に入れる与一には関係しない。

 五感が無くなっても手足を動かせなくなっても頭が回らなくなっても構わない。

 むしろ、与一を入れるための人形としては最適。

 

 僕を疑えず、ヒーローを憎み、()を愛する。

 エンデヴァーは本当に、本当に都合の良い容器を作ってくれた。

 弟を入れる容器。有用な個性を入れたままにしておく容器。個性を取り出せないのは不便だが。

 それにもう1つだけ、あの容れ物への文句。

 最近弔と少しばかり仲が良すぎる。憎まれ口を叩くような仲ならともかく、健全すぎる。

 いずれ与一になる子が次の僕に好意を向けているのは喜ばしいことだが、それはそうとして気に入らない。

 

 あれから個性を取り出せるようになれば、『肉体強化』と『氷結』は僕が。

 『色塗り』や『超器用』、『温度操作』といった何の強さもない個性は、凍火(与一)に残してやっても良いかもしれない。

 『毒』(ゴミ)はゴミ箱へ。強いがデメリットが大きすぎるから、脳無にでも捨ててやろう。

 『シェルター』は与一と僕で分ける。ドクターに頼めば複製出来るだろう。もちろん、凍火から奪えてからの話になるが。

 与一を有象無象の干渉から──攻撃されるような場所に晒すつもりはないが──守れるし、何より魔王に相応しい無敵の防御。

 

 「えっと、名前はなんだったか……。そう!」

 

 オール・フォー・ワンは両手をポンと叩く。

 

 「可部(かべ)覆一郎(おおいちろう)くんだったね」

 

 『シェルター』の元の持ち主。

 そもそも、『シェルター』は一定時間、自分を中心とした絶対に壊れない箱を生み出すというだけの個性。

 オール・フォー・ワンだって興味を抱かなかったであろう、その場をやり過ごしための個性だ。

 凍火は自由自在に体表の冷気や、氷に『シェルター』の絶対に攻撃を通さないと言う特性のみを付与しているが。

 彼女が魅力的な使い方をするから欲しくなった。だから、貰った。

 

 覆一郎の母は、箱を生み出すだけの個性。

 覆一郎の父は、触れた物を丈夫にする個性。

 

 「まあ、覆一郎くんの親戚の名前は忘れてしまったが……別に良いだろう」

 

 父親の方は少し欲しくなったが、所詮息子の劣化版。しかも生き物は対象外。

 

 父方の親戚と、シャボン玉を出す個性の間に出来た子供が、たまたま『シェルター』に似た個性を持っていた。

 絶対に壊れないシャボン玉を、自分中心に生み出す個性。

 優しい老人のフリをして、その子どもに触り、個性を貰った。

 

 ギリシャ彫刻のような巨体が、シャボン玉の中に入る。一定時間が経つと割れ、オール・フォー・ワンは優雅に着地した。

 どれだけ言葉で取り繕ってもシュール。魔王に相応しい個性ではない。

 懊悩する素振りの後、再びシャボン玉を生み出した。

 

 やはり、自分の体表に合わせてシャボン玉を──しかも、その性質だけを保持して作り出すなんて不可能だ。

 

 「……」

 

 『肉体強化』、『毒』。

 強個性2つは無関係だろう。いや、『肉体強化』で個性の扱いでも強化したか? それなら代償は?

 

 『温度操作』。

 近親婚と個性婚の果てに生まれた弱個性が、関与しているとは考えがたい。

 

 『超器用』。

 ただ手先が器用になる程度。周囲の者には、成績や成果を妬み「実は無個性一家なのでは?」と風潮する者もいる、地味個性。

 ……まさか、個性の扱いも器用になるのか?

 

 「弱くて地味な個性は、魔王には似合わないのだが……」

 

 気は進まないが、芙院(ふいん)芽愛(めあ)の親辺りから奪ってくるか?

 

 実践したところ、結局ハズレだった。

 手先が器用になるだけ、個性の扱いには変わりがない。それどころか、芙院芽愛の父親は、『超器用』を失ったとは思えないほど平素と変わりなく過ごしている。

 無個性一家なのは本当なのだろうか?

 絞りカスのような個性因子が僕の中にあるのは不愉快だ。こっそりと返して、オール・フォー・ワンは、『超器用』の真価に気付くことはなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 殻木(がらき)球大(きゅうだい)は天才だ。

 自己評価であり、客観的な評価もそう。驕りでもない、ただの事実。

 

 しかし、そんな殻木のプライドに揺らぎが入る出来事があった。

 

 「のう、ケージちゃん」

 

 凍火には(なぎ)と呼ばれていた脳無候補に、殻木はか細く声をかけた。

 培養液の中の死体は、何も語らない。

 

 「何度やっても無理なんじゃ! 受容器ちゃんの個性因子はまるで、パズルのように複雑で……」

 

 殻木はおいおいと嘆く。

 この結果を先生にどう方向したら良いのか。

 

 「あれを解析して薬の作成なんぞ出来ない! ましてや、個性因子の複製だなんて……」

 

 わなわなと声が震え、

 

 「ケージちゃんと受容器ちゃんの知り合いの若造は、一体どんなアプローチでやったのか……なぜワシにはそれが思いつかないのか…………こんなのじゃ先生に……」

 

 しまいには聞き取ることすら難しくなる。

 

 「『実験』の奴らもじゃ。受容器ちゃんがああなったメカニズムの解明に、脳無の材料を幾人か使って同じことをしておるが、とても受容器ちゃんの結果を再現出来ない」

 

 殻木は一瞬で気を取り直して、脳みそを回した。

 

 複数個性を持たせる。それだけなら困らない。脳無か『オール・フォー・ワン』で事足りるのだから。

 

 問題は先生の次の器を作ること。

 脳無では知能低下、意識混濁、許容量以上の個性を入れると壊れたりと、問題が多い。黒霧(くろきり)が奇跡なだけで、それ以下の標準的な性能の量産にすら至っていない。

 対して受容器ちゃん(凍火)。知能低下の傾向は見られず、意識混濁どころか他の個性因子の人格とははっきり別れており、9つの個性を余すことなく受け入れた。

 もっとも意識については混ざった方が都合が良いのだが。

 

 「そういえばケージちゃんも成功作と聞いたが……、ケージちゃんたちはどちらかというと、ただ生きていただけじゃのう」

 

 ケージちゃん()。それと、()公安委員長の『実験』で生き残った子どもたち。

 『吸音』、『遮光』、『停止』。音エネルギーの吸収、光エネルギーの吸収、運動エネルギーの吸収。

 全てがエネルギー吸収に関わるが故。個性エネルギーと呼ばれるような物も、『実験』で投与された個性強化薬によってある程度吸収出来た。

 殻木はそう仮説を立てる。奇しくも、それは治崎(ちさき)の仮説と同じ。

 

 ならば、『温度操作』は?

 本当に熱エネルギー()()の操作なのか?

 

 たとえば。

 個性エネルギーの操作とか。

 

 「友よ! エンデヴァーの個性婚は最高に成功していた! ワシの仮説が正しければじゃが! のぉ、ケージちゃん」

 

 人体の許容量を超えた個性強化剤。

 死に頻して目覚めた本来の個性。

 短いサイクルで近親婚を繰り返した故、同世代より個性の進化が早い氷叢(ひむら)の血。

 

 そのどれが最大の要因かはわからない。

 仮に氷叢の末裔を大勢集めても、きっと再現出来ないだろう。

 

 殻木球大は、凍火生来の個性を『温度操作』などではなく、『エネルギー操作』と仮定した。

 

 「そうだ! 時が来たら受容器ちゃんの子どもを作ろう!」

 

 フロストゲイルが出来たメカニズムを理解せずとも。

 その子どもから、個性エネルギーを吸収するメカニズムを判明させれば良い。子どもならフロストゲイルの特性も薄まっているだろう。

 適当な個性の精子と彼女の卵子をかけ合わせれば、ある程度は狙った個性の子どもを作れるし。サンプルは多い方が良いのだから。

 

 「ケージちゃんにとっては甥っ子か姪っ子かのう? ケージちゃんと一緒になるかもしれんから、可愛がってやってくれ!」

 

 黒霧(脳無)には生殖能力がない。殻木自身もとっくに枯れ果てている。

 『エネルギー操作』の仮説が正しければ、オール・フォー・ワンと掛け合わせればとんでもない個性の子どもが生まれるのだろう。だが、彼の尊い御子を実験動物のように扱って良いのだろうか?

 

 「そういえば……先生に頂いた個性は、子孫に反映されるのか?」

 

 あまり考えたこともなかった。殻木本人は『摂生』を捧げて以降の子どもはいないし、歳も歳だから考える必要がなかった。

 異形型の個性を奪えば、その者は超常黎明期以前の、いわゆる普通の人間の容姿になる。

 『オール・フォー・ワン』はDNAにも作用する個性だ。

 

 具体的な疑問。

 仮に死柄木(しがらき)弔の遺伝子を使ったなら、生まれつきの空を飛ぶ個性と『崩壊』、どちらが遺伝されるのか。

 

 考えながら、殻木はケージちゃん──凪の入る培養槽の成分を調節する。

 

 「ふう、ケージちゃんとお話しすると思考がまとまるのぅ」

 

 『崩壊』と『エネルギー操作』の子どもが、『オーバーホール』の上位互換にならないか。

 仮説をいくつと乗り越えないといけない、所詮机上の空論だ。

 

 「ま、地道に脳無の量産が出来るか試しながら、受容器ちゃんの個性因子を調べるのが良いじゃろう。それと、声は治さなくて良いと仰っていたが、嚥下機能の回復は優先せんと」

 

 それを分かっているから、殻木は()()()()()、そう結論付けた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 〈くしゅん! べーくしょい! うぇーい……〉

 ((のぞむ)お兄さん、大丈夫?)

 〈大丈夫! ありがとな凍火ちゃん!〉

 (えへへ)

 

 凍火は今日も世界で2番目に可愛い。望はそう思う。

 儚げ真っ白な容姿に可愛い声に、デカすぎる一部の例外を除けば優しい家族。金銭で苦労は絶対しない暮らし。

 両親からの干渉がないというのがグッド。理想の生活の1つだ。

 

 〈風邪ですか? 感染(うつ)さないでくださいね〉

 〈そ、そもそもワタシたち、体調不良とかあるの……? 意味わかんないよぅ……〉

 (なるの……? うつるの……? お兄さん、体調大丈夫?)

 〈おう! 平気だぜ! 多分誰かが俺のこと噂してたんだな!〉

 〈天才美少女のわたくしの方が多く噂されてるでしょうし、その理論で行くとわたくしは毎秒くしゃみしなくてはいけませんね〉

 〈うるせえ!〉

 (お兄さん!?)〈センパイ!?〉

 

 大方、噂してるのはクソ親父かクソのどっちかだ。

 

 クソ親父が自分のことを話しているだけなら、まだ許せる。母さんとの話かもしれないし。

 

 なぜか生理的に受け付けないクソール・フォー・ワンのクソ信者。

 個人名を挙げるとドクター。あと本当に本当のついでに治崎。

 『肉体強化』が本当の個性じゃないことがバレたか? あるいは、凍火ちゃん(おれたち)の個性因子を解析出来ない──出来なくなったことにムカついているのか?

 

 〈それで冬美(ふゆみ)から頂いた離乳食のようなご飯。凍火ちゃんのガワを被っていなければ、わたくしは第2の産声を上げていました〉

 (やめてね。本当に)

 

 義爛(ぎらん)に案内された凍火がオール・フォー・ワンの話を聞き、個性を奪われそうになり、『肉体強化』で“個性を奪われない力”を得た日。

 そして、その代償でしばらく寝込んだ日。

 

 〈凍火ちゃんも理解(わか)ってますよね? 冬美に膝枕をされながら彼女の顔を見て、お日さまのような笑顔を向けられて頭をよしよしされると、ヘブンに行けることを〉

 〈そのまま成仏してね! センパイっ!〉

 (……気持ちはわかるけど、言い方が気持ち悪いよ)

 

 浮上しない凍火の意識の代わりに、望がしばらく体を動かしていた。

 主にしたことと言えば、鳥肌の立つ嫌悪感に突き動かされるようにオール・フォー・ワンへの憎悪をぶつけただけ。

 それと、勝手に『肉体強化』を重ねがけした。

 

 ──“凍火の個性因子が、誰かに解析されませんように”と。

 

 望を突き動かしたのはとにかくコイツを邪魔してやりたいという一心。

 『オール・フォー・ワンの願いが叶いませんように』とかだと、範囲が広すぎて凍火ちゃんが即お陀仏。

 

 自己流の勉強とそれなりの機材で解析する治崎を見たから、それより上。

 オール・フォー・ワンの知能を、あるいは彼の協力者に一流の医者や研究者がいることを警戒した。凍火の中にある自分の個性因子が解析されること、利用されることを何より恐れた。

 『この子の体があのような不快な男たちの利益になってよろしいのですか?』と、あの月の光のように綺麗な声が、望を突き動かしてくれた。

 

 〈おぎゃぎゃー! ばぶぶふわっ! 冬美がダメだと言うならっ! 凍火ちゃんがおっぱい吸わせてください!〉

 (い、嫌……)

 〈や、やめてあげてね! 嫌がってるよっ、やるならワタシにして!〉

 〈良いんですね?〉

 〈ひぃっ!〉

 

 凍火の使った分も望の分も、『肉体強化』は凍火の体調不良という形で代償を取り立てた。

 もしも望の分がなければ凍火はもう少し早くに目が覚めて、凪の死に目に会えたのか?

 ……会えなかったと望は思う。オール・フォー・ワンのクソ野郎が色々理由を付けて、引き留めただろうから。

 罪悪感を紛らわすための、罪の押し付けかもしれない。でも、全て凍火を守るため。

 

 凍火には生きていてもらわないといけないから。

 たとえ、どんなに嫌なことがあっても。

 

 〈……あほ芽愛、その辺にしとけよ〉

 〈うわあん! センパイっ、ありがとー!〉

 〈望さんは15歳ですもんね……乳首は女の子ではないですよね……〉

 (意味がわかんないよ)

 〈焦凍(しょうと)くんや夏雄(なつお)くん、弔くんくらいの歳なら乳首は女の子なんですよ♪〉

 

 余計な知識を凍火ちゃんに入れるな。

 望は結構本気で芽愛の頭をどついた。

 

 〈いっっっってっっっっ!!!?〉

 〈わたくしの頭は石頭なので。お馬鹿さんですね望さんったら〉

 〈センパイの役立たず……〉

 (よわよわお兄さん……)

 

 助けたはずの妹2人に軽蔑の視線を向けられながら、望は思う。

 この綺麗な声の女を何としてでも黙らせないと、凍火に健やかな暮らしはないのかもしれない、と。

 




望は本能レベルでオール・フォー・ワンが嫌いです。
超常黎明期にいた駆藤を愛し、彼の役には何一つ立てず死んだ、望と同じ個性の女はオール・フォー・ワンと互いに大嫌い同士でした。

芽愛の書き方ちょっと忘れたかも。このベクトルでキモかったっけ。
実は性癖ど真ん中の女は冬美ではなくスターです。

ヒーローサイドの話書いたら4章投稿します。
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