亡霊たちの████アカデミア   作:炭火カルビ

7 / 43
3.はみ出し者たちの宴

 

 (なぎ)死穢八斎會(しえはっさいかい)に拾われ、凍火(とうか)が彼らを見張り始めて1ヶ月。

 彼らが凪に危害を加える様子も、大きな悪事を働く様子も見られない。

 それどころか。

 

 「凪ちゃーん! 今日のお昼はおうどんでちゅよー!」

 「おうどん……感嘆。緑色です」

 「よもぎうどんだって。凍火が冷ましてあげるね」

 「体に良いんでちゅよー!」

 

 凪に赤ちゃん言葉で接するのは、変なデザインの喋って食事もするぬいぐるみ。

 ミミちゃんと呼ばれている彼は、凪の世話係。

 高性能なAI搭載ぬいぐるみか、人の個性によるものか。凍火と(のぞむ)は前者、芽愛(めあ)は後者を主張している。

 

 『温度操作』を使い、うどんを程々の熱さに。

 凍火生来の個性の唯一の利点だ。

 

 凪は胃腸が弱いからあっさりしたものしか食べられない。具沢山で野菜も取れるうどんは、少ないレパートリーの中で繰り返し出されている。

 

 「凪ちゃん、俺のお揚げいりまちゅか?」

 「肯定っ! 凪はお揚げさんを所望しますっ!」

 「凍火のも半分いる?」

 「こう、て……。否定。お姉さまの分が無くなってしまいます……」

 「でも好きなんだよね?」

 「お姉さまのは取りたくありません!」

 

 良い子に育ってくれた。凍火は凪の頬にキスをした。

 唇をスライドさせて、ぶちゅぶちゅと大きな面積に。

 

 「テメェこのクソガキ何しやがる! 凪ちゃんのほっぺからお出汁の匂いがして美味しそうになっちまっただろーが!」

 「ベタベタします……探索、おしぼりはありませんか?」

 

 ミミちゃんが唾を飛ばしてブーイング。

 凪はしょぼしょぼしながら文句を言った。

 

 凪の父親役だという入中(いりなか)さんにはなぜか会わせてもらえてないが、それなりに良い生活だ。

 会わせてほしいと言うと、凪とミミちゃんがフフフと笑う。少し疎外感はあるけど、妹が楽しそうなら良い。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 凍火が協力している、治崎(ちさき)の研究。

 

 最初は注射器1本分の血液。そこから徐々に増えていき、今では半身の血肉を治崎の研究のため提供している。

 切り刻まれる傷も、多すぎる注射跡も『オーバーホール』があれば何1つ残らない。

 たまに傷跡が残る時もあるけど、外で活発に遊ぶ子どもならおかしくない程度。

 

 ちなみに、凪は血液を提供するのには協力していない。

 最初の日、注射器の半分の半分すら血を取っていなかったにも関わらず、貧血で倒れたから。

 何より、妹が可哀想な思いをすることに対する凍火の抵抗が激しかったから。

 『オーバーホール』の治療能力さえなければ仕留められたのに。

 

 「……痛くないのか?」

 

 お化けか何かを見るようにして、玄野(くろの)が尋ねた。

 

 「ちょっとスッキリする」

 「うへぇ、マジか。最近のガキはどうなってんだ」

 「凍火も『実験』のときが1番痛かったから……。お兄さんたちは死んじゃったのに、生きてる凍火が痛いなんて言っちゃダメ」

 「お姉さま、そのような法的あるいは道徳的規範はないと思いますが……」

 〈凍火ちゃん……。辛かったら言ってくれよな〉

 

 でも凪の人生の辛さには及ばないし、むしろ妹と同じ痛みを味わえるなら『分解』だって辛くない。

 

 「それじゃ……今日の課題だ。凪はこれ、凍火はこれ」

 「提案、お姉さま。わからないところがあれば、凪が教えて差し上げます」

 「う、うん……」

 

 玄野から幼児用のテキストを渡される。

 これは治崎発案だ。何でも、凍火のように馬鹿っぽい喋り方の子どもは人として扱えないから、せめて知恵くらい付けろとか。

 自分のことも“私”と呼ぶように矯正中。でも、つい“凍火”と言ってしまう。

 

 少しは賢い喋り方になったと思うけど。

 

 「…………」

 〈英文スラスラ。(りん)ちゃんみてぇ〉

 

 凍火は小学校低学年レベル。

 凪は大学院レベルの英数理。国語は中学生レベルで、社会科だけが年相応。

 虐待混じりの英才教育を受けてきた彼女と、『実験』まではただの子どもだった凍火。比べても無意味とわかっているけど。

 

 つい思ってしまうのだ。

 ヤクザとはいえ、助けてくれる人がいた。教育まで受けさせてくれるんだから、路地裏暮らししかさせられない凍火の助けはいらなかった。

 凍火のせいで、不憫な暮らしを強いてしまったと。

 

 以前採ったほんの僅かな血液からの解析結果。

 既存の『個性強化剤』の他に、凪の体は『個性拡張剤』と治崎が名付けた薬剤が残留していた。脳に作用し、既存の思い込みをなくし、個性の解釈を拡大する薬らしい。

 

 「お前の個性『温度操作』は、大きく分ければ熱エネルギーの発散と吸収だ。凪は『吸音』。そのまま音の吸収なのはわかるな」

 「吸収が大事ってこと、ですか? 個性やお薬を吸い込むため?」

 「この『実験』の成功には、何でも良いから吸収にこじつけられる個性と、先入観に縛られない子どもの被験体が必要ってところか。その上でさらに個性の使い方を広げる(ヤク)までいると」

 

 最も成功例は2例だけだ。治崎は嘆息する。

 

 「凍火の遺伝子? は問題ない、ですか?」

 「自分のことは私と言え。はっきり言って無茶苦茶だ。10の個性因子が合体して1つになってやがる。こんなの見たことねえ」

 

 さらに、と治崎は続ける。

 

 「お前の細胞を、あのゼリーの中に入れているのはわかるな?」

 「はい……何となく」

 「さまざまな薬品やら毒やらに浸して経過を見ている。どうなっているか知りたいか?」

 「はい。わたしの体のことですから」

 

 利益になる成分だけを吸い込み、有害なものは吐き出して、未知の毒を作り出す。

 凍火の体はそうなっていると聞いて、全く意味がわからなかった。

 ある日毒物を飲まされて、苦しむより前に自分の体から個性の毒とは違う何かが出て、「そういうことか」と納得した。

 それから、毒を飲まされ、全身を捌かれることが日課になった。

 

 もちろん毒を飲まされず捌かれるのも日課だ。

 『実験』の薬物から、利益になる成分だけを吸い込んだ凍火の体は、それ自体が個性強化剤(トリガー)のようになっている。

 けれど凍火の血をそのまま飲むのはダメ。感染症云々以前に個性が暴走して、寿命を爆速で縮めてしまうから。

 治崎曰く、『鉄砲玉にも使えない』そうだ。

 

 それを加工して個性強化剤(トリガー)として比較的安全に使えるようにする研究も治崎はしているが、難航しているらしい。

 

 「……見てもよくわからないです。何か良いのありますか?」

 「ああ。26番と47番。詳しく言っても低脳のお前にはわからないだろうから簡潔に言うと、毒薬と麻薬を垂らしたものだ」

 「毒……」

 「提案、良ければ凪が細かく説明しますよお姉さま」

 「わかんないから良い……ありがとーね……」

 「毒薬を垂らした細胞からは、死ぬまでの時間をかなり短くし死体に残留しない未知の毒。麻薬からは、快楽を弱め依存性を強めた新しい物質が生み出された」

 「あの、麻薬って……気持ち良くないのに続けたいものなの?」

 「回答、否定。大体は快楽と依存性は比例するものです」

 「なら、やっぱおかしいんだよね?」

 「回答、肯定。画期的なものです」

 〈物は言いようだなぁ〉

 

 とにかく人を苦しめるための効能を特化させて、凍火の体は未知の毒を作り出す。

 

 「個性に関係する方は?」

 「あまり進んでいない。そもそも個性因子がめちゃくちゃだからな。使われた薬品もはっきりしないが、凪みたいに残留する期間も過ぎたから解析はほぼ不可能だ」

 「とりあえず、わたしと凪の体に悪影響はないんですよね?」

 「今のところは」

 

 新たなシノギになり得る麻薬を作るため。

 治崎と玄野が麻薬を服用させた凍火の腕から膝から腹から尻から肉を削ぎ落とす。

 ゆめうつつな多幸感が気持ち悪い。

 

 「お姉さま。本日のおやつはクッキーですって」

 「ひょんっ、と……? たのしみ……」

 

 凪が応援してくれる声すら、歪んで聞こえる。

 

 〈……ここで暴れ……でも凪ちゃんの住む場所が……凍火ちゃんの体を考えると色々わかった方が……〉

 

 望が唸るようにぶつぶつ言う。うるさい。

 

 「提言! 治崎さま、そろそろ出血量がっ!」

 「言われなくてもわかってる」

 

 これ以上採れなくなると、『再構築』。

 『オーバーホール』は死んですぐなら蘇生すら可能にする。すぐ、というのがポイントだ。

 仮に治崎と玄野が研究に夢中になり、死体になった凍火を放置したら取り返しがつかない。

 そんな事態を避けるため、凪は研究者として治崎に協力している。薬品を扱う楽しそうな姿も、凍火が血で真っ赤になると慌てる姿も可愛らしい。

 

 〈凍火ちゃん……〉

 

 望の声が滲む。

 そういう趣味じゃないけど。痛みと苦しみが凍火の救いだ。

 あの時与えられなかった死が、何度も凍火を襲う。

 望と芽愛と、『実験』で死んだ友達みんなとお揃い。助けられなかった子どもたちとも。

 だから、『分解』も『再構築』も苦しくない、のに。

 

 「おい、治崎? 呼んでも応えなかったから勝手に入るが怒るなよ」

 

 治崎は研究と『オーバーホール』の扱いに集中。玄野はその手伝い。

 凪は凍火が治る様子に胸を撫でて、壊れる様子に焦ってと忙しく。

 凍火は痛みと苦しみの中で、妹以外を気にかける余裕はない。

 

 緩慢な足音。間違いない。久遠(くおん)だ。

 凍火の飛び散った血液を玄野と治崎が急いで掃除しようとする。

 健闘も虚しく、久遠は見た。

 

 「凍火? おい、……これは何だ」

 「……。ええとね、治崎さんの『研究』をお手伝いして──」

 「それでこんな血塗れになるかァ!! 治崎!! テメェこんな小さなガキに何しやがったっ!? 答えろ!!」

 

 汚れと生臭さは、短時間で隠せず。

 凍火の肉体は治っても、真っ赤な服は直らない。

 顔に皺をたくさん増やして、久遠が詰め寄った。

 

 「あの、本当にちょっと痛いだけだから。大丈夫だよ!」

 「玄野! 俺はお前のことも信用してたんだぞ!? 治崎が何かやらかしそうなら止めてくれると!! これは何だ? ええ?」

 「お互い同意の上で、少し体を切り刻ませてもらいやした」

 「ああ、組長(オヤジ)。これを見てくれ。コイツの細胞から生み出された、証拠を残さない毒と、依存性を極限まで強めた麻薬があるんだ。ブーストやトリガーだって高品質なのが出来る。新しいシノギに──」

 「──!!!!」

 

 適当な記号の羅列でしか表せないような怒声を、久遠は叫んだ。

 

 「提案。お姉さま、おやつの時間です。お姉さまと凪は早急に甘味を味わう必要があります」

 「え、あの、あれ、良いの……?」

 「心配。お爺さまの喉と血圧に悪影響?」

 「そうじゃなくて……」

 「お姉さまは早急に休む必要があります」

 「それは、そうだけど……、でも可哀想だよ?」

 「否定、自業自得なのです」

 

 凪は頬を膨らませると、凍火の腕を掴む。

 よたよた歩く彼女の支えになりながら、凍火は部屋を出た。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ミミちゃんと凪とおやつタイム。

 クッキーも緑茶もおいしい。

 

 「…………! ……っ!!!」

 

 襖何枚分か向こうから、久遠の怒声が聞こえるのを除けば、穏やかな良い時間だ。

 

 「庇いに行った方がいいのかな」

 「心配。凪は薬局で喉のお薬を買いたいです。……思考。お爺さまは薬はダメと言っていました。のど飴に留めるべきでしょうか?」

 「薬局で売ってるような薬なら問題ねえ。凪ちゃんは優しいな! あと凍火、お前が行くと事態が紛らわしくなるからやめとけ」

 

 ミミちゃんが短い手足をパタパタ動かし、「これでも食っとけ」と、クッキーをさらに押し付ける。

 

 「あ、やっちゃった」

 

 お茶を飲む拍子に長い前髪を巻き込んでしまった。

 毛先がコップに浸る。

 自分の髪だけど、数十分前まで血塗れだったんだよなあと思うと気分は良くない。

 

 「お姉さま、提案」

 「どうしたの?」

 「ヘアピンやヘアクリップを使うべきです。そうしたら髪に気を付けて食べなくても良くなります」

 

 「凪ちゃん賢い!」と褒めるミミちゃん。

 それを無為にしてしまいそうで後ろめたい。凍火はゆっくり口を開いた。

 

 「ちょっとね……ここ、傷があって変だから隠してるの」

 「否定、傷口の残り方としては普遍的なものであり、変ではありません」

 「そういうことじゃなくてね」

 

 右眉の上。昔、父親に突き飛ばされて、家具の角にぶつけて3針ほど縫った傷跡。

 気にしてはいないけど、からかいの種になるのは嫌だ。それに、見ると冬姉が悲しそうにする。

 だから、俯いたりすると右目が隠れるくらいに凍火は前髪を伸ばしている。

 

 「顔は良いのにもったいねえなァ」

 「疑問。凪は?」

 「もちろん可愛いよ。ね、ミミちゃん?」

 「当然!! 可愛い!! 顔面偏差値100点満点!!」

 「疑問。顔面偏差値というのは初耳の単語です。統計の偏差値と同じなら、標本にもよりますが100という値はまず出ません。それに単位も点ではなく……」

 「キエエエ!! 良いんだよそんなこと! 凪ちゃん賢い! 100点満点中1000点!」

 「疑問。満点というのは──」

 

 その後もミミちゃんが凪を過剰な表現で褒めて、凪が真面目な顔で疑問を口にするの繰り返し。凍火もミミちゃんに加勢した。

 

 「すいやせん、凍火……さん。食後で良いので来てくやさい。組長(オヤジ)がお呼びです」

 「わたしに対して敬語じゃなくていいのに」

 「推測。お爺さまにたくさん怒られたのでしょう」

 「想像するとなんか可愛いねっ」

 「大の男が説教されるのなんざ可愛くねェやい」

 「凪はミミちゃんの意見に賛成します」

 

 少し小さく見える玄野の背中を追って、久遠の待つ部屋に向かった。

 

 

 

 

 「…………すまない」

 

 襖を開け、凍火が座布団に座る前に久遠の土下座。横には治崎が申し訳程度にお辞儀──いや、上体を微妙に傾けている。

 久遠は治崎の頭を押し、無理矢理頭を畳につけさせた。

 

 「ええと、何を……?」

 

 老人は何を勘違いしたのか、嫌に真剣な眼差しになる。

 少し目を離している間に、久遠が急に老け込んだ。凍火は思って、痺れそうな足をモゾモゾさせる。

 

 「こんな稼業だが、息子達には“女子供には手を上げるな”、“薬には手を出すな”とずっと教えてきたつもりだった。それを破っちまうと、本当に人の道から外れたただの(ヴィラン)になるからだ」

 「はい。凍火も凪も、ちゃんと教わってます」

 「治崎は賢くて、組に貢献すると拘らなければ、ヒーローにでも医者にでも何にでもなれるヤツだった。だから期待をかけて、色々教え込んだ」

 

 話すより、独り言に近かった。

 時折つっかえたり、おかしな倒置法になったりするのを言い直す。思考を垂れ流しながら人の耳に入る体裁を整えるような。

 

 「何がいけなかった? 俺の教育が間違ってたのか? 期待しなきゃよかったのか? だからお前に変なプレッシャーを与えちまったか?」

 「……組長(オヤジ)は悪くない。コイツが悪い。蘇生したから良いはずなのに、大袈裟に血塗れになりやがって」 

 〈は?〉

 

 望が敵意いっぱいの声を漏らした。

 久遠はたっぷり息を吐いて、呆れたように口を開く。

 

 「……。治崎。確かに初めは、敵対して戦ったが、互いが憎くてそうしたわけじゃないだろ。なのになぜ、凍火に毒物を飲ませて、個性で何度も蘇生してまで身体中掻っ捌くまねをしたんだ」

 「あの、凍火は何とも思ってません……」

 「組を復建させるために……」

 「あのな治崎。俺もご先祖様もんなこと望んじゃいねえよ。俺は、凍火のご両親にどう謝りゃいいかわからねえ」

 「そんなことしなくても良いです! お父さんもお母さんも、凍火が死んだらせいせいします!」

 

 失敗作、あるいは最高傑作のおまけ。それが凍火。

 両親が1番大好きで、傷つけるという形だとしても関心を持たれているのは焦凍(しょうと)くんだけだ。

 久遠は目を伏せた。

 

 「……。だとしても、お前の姉ちゃんや兄ちゃんたちは凍火を可愛がってるんだろ?」

 「はい!」

 

 即答した。冬美(ふゆみ)夏雄(なつお)の愛を疑う余地なんてないから。

 

 「可愛がって大事に守り育てていた妹が、こんな目に遭ってるのを知ったらどう思うんだろうな」

 「とても悲しむ……と思います」

 「ああ。ただ悲しむだけじゃねえ、長い間とっても深く悲しむんだ。他人(ヒト)にゃ想像つかねえくらいにな」

 

 着物の懐から棒を出す。鞘が抜かれて、凍火はやっとそれが短刀とわかった。

 

 銀の刃が光り、慌てて『氷甲(ひょうこう)』を覆う。

 

 「え……?」

 「許してくれとは言わん。せめてものけじめ、ただの年寄りの自己満足だ。……治すなよ治崎」

 〈うわっ、何だ!?〉

 

 刃は凍火でなく、彼の腹を突き刺した。

 鮮やかな赤が白の着物を染める。

 

 凍火は患部を凍り付かせて、治崎を怒鳴りつける。

 

 「早く治してください!!」

 「あ、ああ。だが組長(オヤジ)には」

 「こんなことされても困ります! 早く治して! お詫びなら他に方法がありますから!」

 

 『再構築』する治崎の顔を流れる冷や汗を見る。彼への恨みはなく、ただ羨望だけがあった。

 自分のために土下座して、よく意味がわからないけど、謝罪のため切腹までしてくれる父。凍火がどれだけ願っても、きっと手に入らないものだ。

 ズルい。

 心によぎった3文字を見ないフリして、凍火は彼が目覚めるのを待った。

 

 

 

 「久遠さん、お願いがあります」

 「何だ?」

 

 事前に止めていようが治されることを予想していたのか、半ば諦めたように受け入れると、久遠は辛気臭い顔で凍火の言葉を待つ。

 

 「戦い方を教えてほしいんです。わたしも、久遠さんの役に立ちたいの。凪をお世話してくれてるお礼がしたい。だから、治崎さんに教えてくれるよう言ってくれませんか」

 「子どもがそんなこと考えるな。それに、そんなことしたらまた痛い目に合うぞ! アイツに手加減なんざ出来ねえ!」

 「お願いします」

 

 家族を──冬美、夏雄、凪、あとついでに焦凍くんを守り切る力が欲しい。

 そのためには、どうして『氷甲』を『オーバーホール』に突破されたのか知らないといけない。

 あわよくば、『光合成』とか『色塗り』とか。よくわからない個性の使い道を考えるのに協力してもらいたい。

 

 「……わかった。ただし、似たようなことがあったら無しだ」

 「はい! ありがとうございます!」

 「治崎もわかったな?」

 「………………ああ」

 「その日何したか、お前ら両方に聞く。違うところがあったり、無駄に凍火を痛めつけてたりしてもなし」

 「…………」

 「治崎。面倒だからってわざとそうしたら、俺はもうお前を信頼出来ねぇ」

 「……!? そんなこと考えてねェ」

 「お前の考えくらい顔見りゃ大抵わかる」

 「この餓鬼に訓練付ければ……アンタの、信頼を取り戻せるんだな」

 「してくれるんですか!? ありがとうございます!」

 

 観念したように言った治崎に、自分の出来る最大の笑顔でお礼をした。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 一方その頃。

 (とどろき)家の子どもたちが避難するホテルの一室で、寝込む少女がいた。

 

 「凍火ちゃん大丈夫?」

 「うう……熱はないんだけど、お肌がチクチクするの。お姉ちゃんに抱っこして欲しいけど、多分チクチクしちゃう……」

 

 白髪に青緑の目をした美幼女は、凍火の『氷分身』。ただし、内に分けられた魂のほとんどは芙院(ふいん)芽愛のもの。

 

 凍火──芽愛は夏の薄着ゆえに、胸部の傾斜がよくわかる冬美を横目でチラリ。チラチラ。続けてガン見。

 

 「どうしたの、凍火ちゃん?」

 「何でもありません!」

 「? どうして敬語なの? 変な凍火ちゃん」

 

 クスクス笑う冬美を見て、危うく溶けそうになる。

 こんなに可愛い人が近所にいたなんて! なんでわたくしは気付かなかったのでしょう!

 

 芽愛は自分至上主義者(ナルシスト)だ。文系と理系なら理系を尊ぶ。生物学と工学なら工学。男と女なら女。ヒーロー科とサポート科ならサポート科。

 それらの理由は全て、自分がそうだから。内心見下す男相手にときめく訳もなく、恋愛対象も女。

 

 「もう夜中に探検しに行ったりしちゃダメだよ?」

 「はい……」

 「迷子の凍火ちゃんを連れて来てくれた人に、失礼なことしてない?」

 「してない……」

 「どうしてもお外が気になるなら、お姉ちゃんか夏かサイドキックの人たちを誰でも良いから誘ってね」

 「はい……」

 「冬美姉、ぼくもいるよ!」

 「焦凍はまだ小さいからね」

 

 困り笑顔すら可愛らしい。

 

 「か、かわっ、げひっ、げへへ……」

 「凍火ちゃん、ゴホゴホ? もらったおくすり出すから、まっててね!」

 「確かこっちに……はい、お水注いで渡してあげて」

 「うん! 凍火ちゃん、早く良くなってね!」

 

 うつ伏せになり笑みを隠すのを、焦凍くんが誤解してくれた。

 残りの兄弟と、護衛のサイドキックのほとんどが下等生物(おとこ)なのは気に入らないけど。

 

 「大丈夫? むせないように、お水はゆっくり飲むんだよ。あ、背中は摩らない方が良いかなぁ?」

 「うん……。わかった、冬美おねぃちゃん!」

 

 タイプど真ん中の彼女と1つ屋根の下。しかもわたくしは妹。合法的にバブれる。

 あー!! 死んだ甲斐があった!!

 

 芽愛は内心ガッツポーズを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 




原作でエリちゃんの血肉から薬を作った時には個性破壊弾という大きすぎるリターンがありましたが、凍火からはそうじゃないので治崎はあっさり研究を諦めました。
もし、凍火からも個性破壊弾のようなものが作れたら普通に組長を昏睡させています。

芽愛→冬美の描写のせいでガールズラブタグがいるかちょっと迷います。

オリキャラ・オリ個性等の設定まとめ

  • 欲しい(各章の最後に、その章でのまとめ)
  • 欲しい(最新話段階でのまとめを第1話)
  • どちらでも良い
  • いらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。