突然の爆発にトリニティは混沌を極めた。
「なになになに!?一体なにしたんですかリーダー?!」
「話は後だ突き進め!いくぞシロコ姉!ついてこい!」
「ん!」
「…………は!まちなさーい!」
しかし爆破には担当も聞いていなかったのか、混乱から抜けきれていなかった。リーダーは即座に担当を俵の様に担いで聖園の横を通り過ぎる。
その様子を少し遅れて気づいたトリニティ面々は即座に追跡を開始した。
「ん。リーダーさんもう直ぐ追いつかれる。どうする?」
「まいったなー。正直車ぶっ壊されるのは想定外だったから本来なら囲まれても何とかなると思ったんだが……こりゃもう少し火薬盛った方が良かったか?」
「でもそれだと流石に実害が大きすぎる。怪我人でない程度はこれが限界」
「だよなー。まぁこけおどし程度でも効果は十分だ。過ぎた事は振り返ってもしょうがない。シロコ姉、フェーズ2だ」
「ん」
『な、なにこれ?煙?』
『!?まずい!このままでは見失います!急いでサーモグラフィの用意を!』
『持ってきてません歌住さま!』
リーダーがそう言うとシロコテラーはいつのまにか手に持っていたスイッチを押した。するとドローンからスモークが焚かれ、周囲の視界を完全に塞いでしまった。その影響か後を追っていたトリニティ勢も足を止めて困惑状態になっていた。
「よーしこのまま突っ切るか」
「こんな機能あるんだったら最初から使えば良かったんじゃ……」
「あのキヴォトス戦闘民族にはもう一捻り必要だ。爆破でびびらせる事が重要なのだ。いつだってこけおどしは不意打ちが重要なんだよ」
「そうですかって…………ちょっと待って下さいリーダー!一旦ストップ!」
「なんだ急に?」
「迂回しましょう!このままじゃ向こう側に先回りされる!」
突然の担当からの提案にリーダーが一瞬立ち止まった。担当はその間もそそくさとリーダーとは別の方向に走り始めていた。
「……は!いや気付いてはいたぞ?!気付いてはいたがここは担当くんがしっかりと作戦立案や参謀としての役割を全うできるか試しただけであってだな!」
「見栄張ってないでサッサと走る!」
「心得た!」
いざという時こそ上下関係ははっきりするものである。
「うぇっほ!えっほ!やっと霧が晴れました……が、逃げられましたね」
「油断したね。予知で包囲網を作っていたから捉えられると思ったんだけど……やはり一筋縄ではいかないね彼らは」
「…………」
リーダーたちが逃げた後の広場では、シスターフッドの面々とティーパーティの聖園ミカと百合園セイアが立ち尽くしていた。
「ですが安心して下さい。この先の校門には正義実現委員会と協力して検問が引かれています。車も大破していますし、確保は時間の問題で「まだだよ」……へ?」
「…………ミカ?」
歌住の言葉に被せる様に聖園は抑揚のない声で一言言い切った。その場にいる全員が彼女を見ると、彼女はジッと一方向を見ていた。普段と変わらないはずだが、現在の彼女には何か凄みを感じた。
「あっちじゃない。担当さんがいるのは…………アッチじゃないよ」
「その理由は?ミカさん?」
一点を見つめながら呟く聖園に、そう言いながら桐藤ナギサは現れた。
「おや。随分と遅い登場じゃないかナギサ。てっきり最後まで司令官で居続けるのかと思ったんだけど」
「さすがの私も爆発が近くで起こればティーパーティーとして現場を確認しない訳にはいきませんよ……みなさん怪我はありませんか?正直に申し上げないと後が怖いですよ?ね?ミネさん?」
「えぇそうですね。正直今すぐにでもこの場にいる全員の簡易的な診察くらいはしたいのですが……どうやらそうも言っていられないようですね?」
桐藤セイアと共に現れた水色の豊満な髪を持った美女、ミネは少しばかりしかめた顔を隠すことなく目的が走り抜けたとされる方角を見つめる。その方角は奇しくもミカと同じ……
校舎へと続いていた。
「虎穴に入らずんば虎子を得ずというが、虎の穴どころかアナコンダの巣の間違いだろ。さっきよりも過激になってないか?」
「頭脳担当とバカ担当の二人には厳しいですね。せめてバトル担当と会いたかったんですけど」
「そこはそこのシロコ姉がカバーだ?」
「ん。リーダーさんちょっとあたしの扱いが雑」
「よーしよしよし!それならこれが終わった後で角砂糖を投げてやろう!3個でいいか?」
「いや」
「だったら5個か?5個!?このいやしんぼうめ!!」
「量の問題じゃないですよリーダー」
渦中の集団の登場に慌てる生徒たちを華麗に躱しながらリーダー、担当、シロコテラーは廊下を颯爽と走り抜ける。
「確かこの先にあるはず……急いで急いで!」
「この圧倒的ハイスペックボディをフル活用しているんだぞ?というか走るの遅いお前に合わせて遅くしてんだ!ちょっとは頑張れもやしっこ!」
切羽詰まった声で急かせる担当は3人の中で最も後ろに陣取っていた。なんならリーダーが先に走り抜けており、それについて行くのに精一杯である。
年下の女子であるシロコよりも遅いという事実に涙が流れそうになるのをグッと堪えて、走り続けるが……
「「「「「目標発見!!」」」」」
「「「!?」」」
突如として目的地へ続く廊下の目の前に正義実現委員会の生徒が現れる。しかもしっかりとした陣形を組んでおり、先回りされていたことは確実である。
銃口をリーダーたちに向けており、些細な行動一つで発砲することは明白であった。
「おいおいおいおい?巻き返すにしても早すぎねーか?相当数撒いたと思ったんだが?」
「……仮にも武装組織。駐在部隊は当然いるとは思ったけど、ここまで迅速とはね……仲正さん」
担当は陣形を組んだ正義実現委員会の後ろに見える、和やかながらも少しばかり申し訳なさそうな笑みを浮かべた女子、仲正イチカを見据える。
仲正は少しばかり申し訳なさそうに頭を掻く。
「いやー担当さんには申し訳ないっすけど、諦めてくれません?今ならそこまで酷い仕打ちは受けないと思いますよ?……多分」
「ならば断る。俺たちがいつも確率の低い方を選んで来たことは知っているだろう?大体俺たちは不当に拘束された被害者側だ。正義は俺たちにある」
「リーダーさんには聞いてなかったんすけどねー」
「……生憎だけど、僕も同じだよ。正直今の彼女達と会いたくはないかな」
「たはー!傷つくっすよー?その言い方」
「…………」
三者三様のやり取りをシロコは俯瞰して眺めていた。一見和やかなやり取りではあるが、イチカはさりげなく会話を引き延ばし時間稼ぎを狙っているのは明白だった。しかし担当もその点は理解しているのだろう。あえて策に乗り挽回のチャンスを伺っていた。リーダーはおそらく考えなしに乗っていることだけだが。
「委員長から傷つけず確保しろって事で言い聞かされてますけど、この調子じゃ多少の怪我はしてもらう羽目になりそうっすねー?」
「じゃあ引き金をさっさと引け。覚悟ができてねーから引き金を引けねーんだよ…………待てよ?さてはその弾……実弾だな?」
「……」
「慌てて司令がかかり普段と同じ対応で進めた結果、キヴォトスの人間よりも脆い俺らを相手にする事を忘れて非殺用の弾を用意するのを忘れたってところか?どうしたどうした?らしくねーなぁ仲正?」
「……そっか、だからさっきから撃ってこないんだね。キヴォトス人相手に普段通りに撃つと僕らが死ぬかもしれないから」
「全力での相手は慣れているが、普段から加減という行為が必要な状況がなかったからなー?撃つ時はよーく狙いを定めて撃てよ?眉間にあたれば即死だぜ?おまらんとこのトップは色々と怖いからなー?命令違反をしたらどうなるかはお前らがよく知ってるだろ?」
リーダーはそう言いながらゆっくりと歩き始めた。銃口を向けられたとは思えない足取りの軽さに、数ある銃口のうちの数口が揺れる。
「っしゃあ!ならば突っ込むぞお前らぁ!」
「ええ!?ちょ!?」
「は?」
リーダーは躊躇いなく走り出す。向かう先にいる部隊を気にする様子もなく。ただ真っ直ぐに。
「待ってリーダーさ「総員構えー!」ん?!」
止めに入ろうとしたシロコテラーの耳に、背後から声がする。
「やっと追いつきましたよ!いい加減大人しくして下さい担当さん!」
「追跡部隊!?早すぎでしょ?!」
そこには正義実現委員会の羽川ハスミがいた。部隊を指揮し、背後から囲い込む流れは織り込み済みだったのだろう。これではリーダーが仕掛けた奇襲も効果が薄れて結局捕まってしまう。
それは突然だった。壁から突如として車が生えてきたのだった。
轟音と共に壁を突き破り、リーダー達とシロコとの間に割って生えてきたそれは、流石の熟練戦闘部隊である正義実現委員会をもってしても動揺を誘い、一気にその場はカオスに包まれた。
「おおお!?更なるchaosがチャオっすか!?さすがだぜトリニティ!」
「トリニティに変な印象持たないで下さいっす!」
「リーダーさん早く乗って下さい!」
壁を突き破り現れた車から聞こえてきた声に、一瞬ばかり場が止まる。
そしてその瞬間。
閃光。
「っ!閃光弾!?」
突然の奇襲にイチカを含む部隊はもろに光を受け目を塞ぐ。そして視界が開けた頃……
「……やられたっすね」
「……こちらもです」
そこにはイチカとハスミの率いる部隊のみが残されていた。
「……ん。乗り遅れた」
あとついでに