阿慈谷ヒフミ男の娘概念   作:融合好き

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vs下江コハル

 

 

 

 

ナギサ様で抜くと濃いのが出る。

 

そんな真理に気づいてからというものの、私の性癖はそれはもう盛大に捻じ曲がってしまった自覚がある。密かに隠し持っていた雑誌は悉く焚書行きとなり、携帯端末のデータにはお嬢様モノの音声作品がズラッと並ぶ始末。

 

尤も、かつては趣味が高じてか「ペロロ様×ニコライさん」みたいなアレな作品ばかり集めていたので、ある意味では健全化していると言えなくもない。とはいえ不埒なことには変わりなく、何ならナマモノを題材にしている分よりタチが悪いとも言える。

 

さて、そんな思春期真っ盛り(柔らかい表現)な私ではあるが、何も四六時中性欲に支配されているわけではない。ナギサ様のお側に立てるように、という不純な動機こそあれど、我ながら勉強も運動もその他諸々もかつてないモチベーションで臨んでいるように思う。特に運動──戦闘能力の伸びは凄まじく、自分にこんな才能があったのかというか、ほんの少しの訓練で実力がめきめきと伸びて逆に戸惑ったのが本音だ。

 

「あ、ヒフミ。おはよう」

「おはようございます、コハルちゃん」

 

そんな理由で私がいつものように補習授業部の教室で勉学に励んでいると、いつの間に教室に入ってきていたのか、おずおずとした様子のコハルちゃんが私に声を掛けてくる。

 

「あ──」

「…………」

 

──そして、視線が重なると同時に、やんわりと目線を逸らされる。そんな彼女の行為に一切の非はない。非難するべくは全て私。むしろ気まずいながらもマトモな対応をしてくれている辺りに、彼女の人の良さが滲み出ている。

 

「その、ヒフミ?」

「はい?」

「あの……きょ、今日の天、天気の話なんだけど……」

「天気……?」

 

何やら気を使わせてしまっているらしく、そのままコハルちゃんは発言の通り天気の話から始まり、正義実現委員会での任務、最近の成績、この前の雨上がりにカタツムリを見掛けた、などと、何の益もない、毒にも薬にもならない話を繰り広げていく。

 

(そんなことよりも、話すべきことがあると思うけど……)

 

主に私の性別とか性別とか性別とか。けれどこの様子を見るに、敢えてその話題に触れないことが彼女の最大限の優しさなのだろう。その分話題を踏み込めず無味乾燥な会話ばかりが成されてはいるが、それが逆に彼女の気遣いの結果なのだと存分に感じられてとても嬉しい。こういうところだぞ見習え浦和。

 

「それで、その……ヒフミのおちん……スカートの中にあるソレを、ちょっと見せてもらえないかなぁ…って」

「はぁ。まあ、それくらいなら別に───………、…………。…………───え??????」

 

おかしいな。確かにちょっと差し障りのない話題ばかりでぼーっとしてたところはあったけど、いきなり耳が遠くなったのかな。なんか色々とあり得ない言葉が聞こえた気が。

 

脳の処理が追いつかずに私がしばらくフリーズしていると、コハルちゃんは一度生唾を飲み込むと、意を決した様子で私のスカートをずり下げ──いやいやいや待て待て待った待った待ったちょっと待った。

 

「な、何をしているんです……!!?!!?!!」

「だ、だって、見せてくれるって──」

「拒否はしていませんでしたけど!!!それは確かに私が迂闊でしたけど!!!!何を流れるようにスカート下ろしてるんですか!?!!?!??」

 

がたん、ばき、がたがた、どすん。ずりずりずり。

 

中途まで降ろされたスカートに動きを阻害され、教本や筆記用具を盛大に撒き散らしながら、芋虫のように机から這い出る。と同時に、押し除けるように手を伸ばしてきたコハルちゃんと手を合わせ、在らん限りの力を込める。

 

が。

 

「…………。……ねぇ、ヒフミ? 貴方は当然私の勉強の成績については詳しいでしょうけど──私が正実でもトップクラスの握力と背筋力を誇っていることは、その様子だと知らなかったみたいね」

「っっ……!!?!」

 

ぐぐ。ぐぐぐ。ぐぐぐぐぐ。

 

最初の場所から殆ど動いていない位置。つまりはお世辞にもまともに力を込めるのは難しい位置関係だというのに、床の反動も利用している私の膂力を、不安定な姿勢のまま片手であっさりと押さえ付けるコハルちゃん。

 

「待っ──何これ全然抵抗出来ないんだけど力強っ!?! あっ、コハルちゃんストップですストッ、あ、そこは……!!」

「ひ、ヒフミが悪いのよ? あんなに仲が良かった友達なのに、実は男の子だなんて──お、お泊まりもする友達ならこれくらいは普通、よね?」

「ッ〜〜!!」

 

そんな友人関係はだいぶ爛れていると思う、じゃなくて。まずい、ガチで血管千切れそうなくらい全力出してるのにまるで押し返せない。普段からソフトボールの2倍以上の重さの手榴弾をえげつない距離正確に遠投しているから力持ちだなぁとは思っていたけど…!!

 

「あのね。確かにすごく驚いたけど、嫌悪みたいのはなかったの。むしろヒフミなら、って──ほら、私ってこんなだから。今後同じような人が現れるとも限らないし、“お試し”で、その、ね?」

 

お前普段の貞操観念の高さはどこに置いて来た。浦和か?また浦和の仕業なのか?どうせ浦和にまた何か吹き込まれたんだろ畜生!!!

 

やばい。このままでは練習と称して条例違反幼妻とのラブラブ新婚生活を体験することになってしまう……!! 明らかに暴走し混乱の極みにあるコハルちゃんを、これ幸いと孕ませて既成事実を作ろうなどとそんなことは有ってはならない!!!!!

 

「きゃっ……!?」

 

手の力を一瞬だけ抜いて、体勢を崩したコハルちゃんを抱き止めるようにしてぐるんと回転。場所を入れ替えて教壇側の扉から脱兎の如く逃亡する。

 

自慢じゃないが、私の逃げ足は補習授業部の誰よりも早い。追走にも長けたアズサちゃんならいざ知らず、直線距離の長い廊下で初動が遅れたコハルちゃんが追い付ける道理は──

 

「ひっ──」

 

突如として背筋を駆け巡った悪寒に任せて身体を捩ると、直後に破砕音を鳴らしながらすぐ隣にあった空き教室の入り口が爆散する。

 

「は?」

 

えっなに怖っ…。もしかしなくても今のコハルちゃんの手榴弾だよね? 既にこのクッソ広い旧校舎のほとんど端から端、具体的には80mくらい離れているはずだけど、この距離を正確に狙撃とか精密機械かな?

 

「………」

 

まともな経路だと身の危険を感じたので方針を変換し、丁度破砕した教室の扉から教室内に侵入し、アズサちゃんの時のように窓を割って外に出る。

 

ああ、どうしてこんなことに……。昨日はあれだけアズサちゃんと粘り強く交渉して、学業に支障が出ないようその手の追いかけっこ(婉曲表現)は放課後だけに限定するよう頑張ったのに。おのれ浦和。絶対に許さないぞ浦和。

 

「こんな時は……」

 

手榴弾なら乱打も出来ないだろうと、すぐ建物の物陰に隠れ、二代目ペロロ様のバッグ内部をごそごそと漁り──一つ策を思い至る。

 

今のコハルちゃんはおそらく例の如く思春期による暴走で正気を失っているだけで、冷静になればすぐさま「私はなんて恥ずかしいことを言ってたんだろう」と己を改めてくれるだろう。そしてコハルちゃんと言えば誰もが認める優しい子。ここは──

 

「………」

 

いや待て。ここで何か策を講じて余計なリスクを作るより、このまま学校を出て時間を置いた方が互いに頭が冷えるのでは????

 

そんなわけで“怪我を装って心配してもらう作戦”を破棄し、私は上手いこと物陰に隠れながら近くを走っていた電車の上に飛び乗りトリニティを脱する。

 

よく考えたら怪我云々を気にするなら手榴弾を投擲とかするはずもないので、どうやら冷静じゃなかったのはお互い様であったと、今更ながらに実感する私だった。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「なるほど。そのような事情で本日は欠席していたのですか」

「あ、あはは……申し訳ありません」

「しかし、下江コハルさんの暴走癖はお聞きしてはいましたが、そのような方向で弾けるとは少々予想外ですね」

 

まあそれはそう。でもぶっちゃけ疎遠になることを覚悟していたから、方向性がアレとは言え交流を維持できそうな点は正直言って割と嬉しかったりする。

 

ちなみにであるが、トリニティに限らずキヴォトスの学園はだいたいが単位制で、優等生を演じていた私にはそれなりに日数の余裕もある。だからと言ってこのまま連日休み続けるわけにも行かないが。まあコハルちゃんは学年も違うし、あんな感じで二人きりのシチュエーションでもなければ突貫はしない良識もあるから、多少意識すれば十分に予防できる範囲ではあるのだけど。

 

頭を悩ませる私に、ナギサ様はいつものようにくすくすと笑って、

 

「賑やかで羨ましいことです。こちらは常に何かしらの調整で気が休まる暇もなく……」

「お、お疲れ様です」

「いえいえ。それでもこうして心安らぐ時間を取れるのですから、私は恵まれている方ですよ」

 

お???? 男と二人きりでそんな発言、もしかしなくても誘っているのかな?????

 

冗談はさておき、まあ学園のトップともなれば心労が嵩むのも当然だろう。特にトリニティは他の学園と比較してややこしい事情がこれでもかと積み重なっている。エデン条約然りアリウス分校然り、トリニティに限った話ではないのだが、正直入学して三年やそこらの生徒に押し付けていいレベルの責務ではないと常々思う。

 

一度頭を冷やすためにも、私も紅茶を一口啜る。付け合わせの菓子とかもそうだが、この一口でも明らかに違いが分かるくらい美味しくて、値段云々を考えると少し怖いので私は敢えて考えないようにしている。

 

(あれ? どうしてナギサ様は私が今日休んだことを知っているんだろう──)

 

ふと浮かんだそんな疑問は、楽しい時間に流されて消えて行く。

 

楽しい時間。そう、楽しい──まあ色々と引っ括めて、確かに悩ましいことはあれど、けれどそんな時間を楽しく思っている自分は間違いなく存在していて。願わくばこんな時間がいつまでも続けばいいなと、私はそう切実に願うのだった。








人物紹介

阿慈谷ヒフミ

補習授業部の一人で本作の主人公。男性。えっちなことばかり考えている。

白洲アズサ

補習授業部の一人。えっちなことばかり考えている。

下江コハル

補習授業部の一人。えっちなことばかり考えている。

ナギサ様

ティーパーティーの一人。えっちなことばかり考えている。

浦和

補習授業部の一人。ラスボス。
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