阿慈谷ヒフミ男の娘概念   作:融合好き

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vs聖園ミカ

 

 

これってもしかしなくても既に恋人認定されているのでは?????

 

そんな今更も今更過ぎる結論に辿り着いてしまったのがつい昨日のこと。

 

思えば、恋人になるプロセスに“告白”というイベントは必ずしも必要だとは言えない。例えば生まれつき喋ることが出来ない。耳が聞こえない。四肢が欠けている。いずれも好意を伝える手段の喪失として致命的とも言えるが、だからと言ってその人物に恋人が出来ないかと言うとそれは否だ。

 

人類が言葉を発せない時代から、ヒトの種としての営みは当然に繰り返されて来た。ならば敢えて言葉を用いた婉曲表現をしなくても、気の合う男女が無言で睦み合うことはあまりにも自然な流れなのではないか──という一つの“答え”に、私はもう色々何もかもが手遅れっぽい事態にまで陥ってようやく思い至った。

 

ちなみにどれくらい手遅れなのかと言うと、まず場所がソファからベッドに移動しました。いやあ流石に寝室まで招かれてベッドに寝かされた時はビビり散らかしたね。それも明らかに客室とかじゃなくてナギサ様のガチ私室。あまりに動揺していたのか、初めて入ったナギサ様の私室だというのに、『このお金持ちのベッドとかにある天蓋って何のために付いてるんだろう』とか、そんなくだらない感想ばかりが次々疑問として浮かんだのを覚えている。

 

続いて流れるように制服を剥かれました。ナギサ様!!粘膜接触を避ければ何をしたっていいわけじゃないんですよナギサ様!!!補足すると私はこう見えて割と小物にも拘るタイプなので、普段から制服の下には女性モノの下着を身に着けています。どこにでもあるようなブラトップにもっこもこのかぼちゃパンツ。我ながら色気もクソもない組み合わせだとは思うが、男の下着に色気なんか求めても仕方ないし、とはいえトランクスなんかも論外だし、ぶっちゃけ出来のよろしくない我が頭脳では他に良案も思い付きませんでした、はい。くそダサいのはマジで許して欲しい。私が女物の勝負下着とか履いてたらそれはそれで問題だけど。

 

そして気付けば向こうも寝巻きです。しかも妙に生地が薄いです。……普段はキッチリした服を着熟しているから分かり辛いけど、こうして見るとスタイル抜群だなナギサ様いやっほう可愛いヤッター!!!──いやいやいや落ち着け落ち着け何かがおかしい落ち着くのだ私ナギサ様美しYEAH!!!

 

はっ、私は一体何を……あれ??落ち着く必要なんてあるのかな?????もうどう考えても鴨がネギを背負って来たとかそんなレベルじゃないんですけど?????まさに据え膳!!!これは合法です合法!!!!ナギサ様は条例的にもセーフ!!セーフです!!!!!私アウトじゃんね違法万歳!!!!!!!

 

『あっ、ナギサ様、そこは──』

 

更には抱きつくのはもはやデフォで、その上すっごい身体を(まさぐ)られます。もうね、男女逆にしたら普通に事案ですよ事案。男女そのままなら良いってわけでもないけど私は役得だから全然OKです。でもこれで恋人扱いじゃないってのは流石に無理があると思うの。

 

だから少なくとも向こうの認識ではほぼ確定。つまりこれはもう多分ナギサ様は私の“大事な話”をプロポーズか何かだと思ってる可能性が大!!!いや最終的にはそのつもりだから間違ってはないんだけど、それならなんかいつまでも告白できずに悩んでる私が馬鹿みたいじゃん!!!!!いや私ってば自分がどうしようもない大馬鹿な自覚あるけども!!!!!

 

徹底して焦らして来るのはアレだろう。どうぞ決意が固まったら手を出してください的な──学生の身にしてなんたる覚悟!!!!!私なんか口ばっかりでこの期に及んでウダウダしてるというのに……!!!!!何という気高さ……!!!!!ほんとヘタレで申し訳ありませんナギサ様!!!!!ヒフミだって、ヒフミだってぇ……(血涙)

 

ただ、言い訳するわけではないのだが、どうしてこうまでして結論を急ぐのだろうという気持ちはある。割と慎重派なナギサ様らしからぬというか、詰め寄り方があまりに性急というか。いや単にナギサ様が覚悟決めたら一気に詰めて来るタイプだったりするのかもだけど、それにしたって些か急過ぎやしませんかね。ほんと贅沢な悩みばかりでごめんなさい!!!!!!!

 

何か、何か……うーん分からない。少なくとも昨日はいつも通りに昨日の出来事をざっと話しただけで──いや、そうだ。思えば以前にも似たようなことがあった。それまでは近況報告も兼ねた週一くらいのお茶会が、気付けば7倍に増えていたことが……!!ナギサ様!!!少しは加減をナギサ様!!!!いや気付けよ私。これまで浮かれてて何一つ疑問に思ってなかった私ってホントお馬鹿!!!!!

 

しかし、思い起こせば簡単なことだった。常日頃ナギサ様との会話は全て心に刻んでいる(流石に一言一句覚えてるレベルではない)この阿慈谷ヒフミ、最初の頃はエデン条約のあれこれが済んでからだったのでどれが本命の理由なのか分からなかったが、昨日の演劇──つまりナギサ様襲撃当時のことを思えば察しはつく。

 

「そう──つまりナギサ様は、ミカさんが黒幕だったことにショックを受けていたのです!!!」

「………。………うーん。いや、それも確かにそうなんだろうけど──ヒフミちゃんってニブチンさんって誰かに言われたりしない???」

 

そんな昨日の出来事から推理し私が出した結論を披露すると、ミカさんに心底呆れたような顔でそう聞かれる。ふっ、そんな顔をしても無駄ですよミカさん。ミカさんと言えばトリニティが頂点たる(元)ティーパーティー所属にして羽の生えたハイパー超絶美少女お嬢様。つまりは実質ナギサ様というわけで、この阿慈谷ヒフミ、ナギサ様のお言葉であれば何を言われようと全てご褒美です。嘘ですもしも罵倒されたら死んでしまいます。

 

まあそんな冗談はさておき、

 

「そうですね。ハナコちゃんからはたまに……いえ、割と頻繁に言われてる気が……」

「げ。浦和ハナコと同意見かぁ……やっぱ撤回しちゃおうかな」

 

なんでや。ハナコちゃんは凄いんだぞ。えっちくて可愛いし頭も気立も良い。ぶっちゃけ見てるだけでちんちんがイライラする。もしもナギサ様より先に友達になっていたらきっと私はあっさり誘惑に屈して今頃一児の父だ。女の子としての私から見ても、彼女の美麗さは羨まざるを得ないし、男としては言わずもがな、一度はあの豊満な乳房に埋もれたいとこの世全ての男性が願うことだろう。

 

「うーん。相変わらずヒフミちゃんはお馬鹿さんなのか大物なのか判断に迷うね☆ 本気でそう言ってるなら……あれ? もしかして本気で()()()()()()()()のかな?」

 

解離性同一性障害だっけ──と割と深刻そうな顔で言われてしまったが、別にそこまで大したものでもない。せいぜいが本性を隠していたとかその程度で……それは多分、ナギサ様が多少大袈裟に言っているだけだと思う。男の子なんてどれだけ紳士的に振る舞っていても頭の中はだいたい下半身と直結してるからね。一皮剥けばこんなもんですよ。

 

「何にせよ、ヒフミちゃんが語った劇の内容がナギちゃんのトラウマに直撃したって意見は多分本当。ナギちゃんってば昔、ウチの実家の壺を壊しちゃったことがあって、子どものしたことだからって特にお咎めは無かったんだけど、その日ずっと腕にがっちりしがみついちゃって大変だったんだから」

 

ナギサ様って不安になると誰かに縋るタイプだったのか。意外なようなそうでないような。思えば彼女は自分が犠牲になってでもミカさんだけはどうにか救おうと考える精神性の持ち主。それは裏を返せばそれだけミカさんを信頼している証明であり、彼女に対する依存とも受け取れる。

 

そこで不意に、それまで軽快であったミカさんの足が止まる。体調不良などではないだろう。ちょうど差し掛かった中央広場の噴水越しに、彼女はティーパーティーの幹部席を見つめる。

 

「……今まで、何か大変なことがある度に、ナギちゃんは決まって私を訪ねて来た。新入生代表のスピーチ。ティーパーティーに選ばれた時。その代表となった時。ホストとしての最初の行事……けれどエデン条約の騒動を経て、彼女が私の私室を訪ねることは無くなった」

 

こうして下から見上げていても、角度の関係で柵側の椅子すら視認できない。今や気軽に上がれなくなった場所。かつて自分が居たはずの其処に、彼女は果たして何を思うのか。きっと愉快な其れではないのだろう。

 

「それは立場であったり世間体的な問題だったり、あるいは単純な身の危険だったり──何にせよ、私がこうなってしまった以上、私はもう本当の意味でナギちゃんを守ってあげることは出来ない。そんな今のあの子に、縋れる先があるとするなら──………それは頭のてっぺんからつま先まで性欲に支配されたような、実家の圧や権力的なアレコレとも無関係な、ある意味では完全に自分の力だけで勝ち取ったとも言える、どこかのお馬鹿さんとのヒミツの繋がりくらいなのかもしれないね」

「むぅ……」

 

なんかとても失礼な呼ばれ方をしたが、事実なので何も否定できないで唸る私。

 

しかしまあ、何となくは分かって来た。つまりはそれまでの依存先であったミカさんが裏切り者だったから、縋れる先がそのまま次に信頼できる私にズレて来たと。そうまで信頼して頂けるのは非常に有り難いのですが、でも私ってばそろそろ暴走してナギサ様をキズモノにする気満々なんですけどそれは良いんですか?????

 

「良いか悪いかで言ったら……まあ良いんじゃない?? 私たち実家がアレだからいつまでも独身のままだと政略結婚とかさせられそうではあるけど、別に両親も娘を不幸にしたいわけでもないだろうから、普通に恋愛結婚する分には歓迎されると思う」

 

なんと!!! 驚いてはみたが、まあ普通の親ならそんなものか。例の漫画のアイちゃんママですら、方向性が歪んではいたものの、それが娘の幸せに繋がると本気で信じていた。ウチの母親だってそうなのだ。腹を痛めて産んだ子。愛し合って産まれた子。誰も不幸にしたいなんて思うはずもない。そも一夜の過ちの産物と厭うのであれば、今の年齢まで大切に育てたりはしないだろう。

 

「ただ、もう少しだけ自重するようには言ってあげて。弱みを握った男の娘を夜な夜な自室に連れ込んでアレコレとか、流石の私でもドン引きじゃんね。せめて2ヶ月、いや3ヶ月先だったら、まだギリ“太った”で押し通せるとは思うから……私としても、仮にも親友が女子校で妊娠騒動起こして退学とか御免だから……ほんとそれだけは勘弁して」

「………申し訳ありませんでした」

 

速やかに土下座する私。え??ここは噴水の飛沫滴る屋外だって???やだなぁ本気で謝罪する気持ちがあるなら、服が濡れるとか顔が汚れるとか、そんなの全く関係ないんですよ。こうして額を地面に擦り付けて。ほぅら簡単でしょう?????

 

「そ、そこまでは別に……私だって、あんまり人のこと言えないし……と、とにかく、そろそろ人目に触れそうだし早く行こう?? 場所は例の旧校舎の講堂で良いんだよね?」

「あ、はい……!」

 

スタスタと早足で歩くミカさんを追いかけて、小走りで彼女の後をつける私。そう、そもそも何故私が彼女と連れ立って歩いていたのか疑問に思う方もそろそろいるだろう──察しの良い方ならお気づきかとも思うが……それは当然謝肉祭における演劇のためである。

 

ええはい。聖園ミカさんの代わりとか全然思い付かなかったから本人をお連れしました。気の利いた人材??そんなのが都合良く転がってたら苦労しません。しかも明らかにアズサちゃんの二番煎じです。単純な私でごめんなさい。

 

「あの……今更ですけど、本当に良いんですか??」

「本当に今更だね……大丈夫だよ。その分のボランティアを肩代わりしてくれるんでしょう?? それなら私に損は無いし、何より私のためだって話なら無碍には出来ないよ。──まあ、あの浦和ハナコの提案ってのがちょっと癪だけどね」

 

なんでミカさんはさっきからハナコちゃんをこんなに敵視しているのだろう。エデン条約の時にそれなりに話す機会があったそうだけど、それが関係しているのだろうか。でも逆にサオリさんと会うのは楽しみにしてるっぽいんだよな。どんな心境の変化があったのやら。

 

「そういえば、あの人は呼んでないの? ある意味では補習授業部以上に“主人公”とも言える人なのに」

「………。………ええと」

 

少し、返答に困る。別に彼が多忙であるだとか、トリニティの演し物に彼を出演させるのはどうなのかとか色々と言い訳は浮かぶが、これまで意図して考えないようにしていたからか、つい答えに詰まってしまった。

 

まあミカさんの言い分は私欲混じりにせよ、その手の意見が出るのは分かる。実際、補習授業部の方でも意見が賛否に分かれた。結局は「流石に演劇に駆り出すのはどうなのか」という結論に落ち着いたが、正直なところホッとしている。理由としてはそのままズバリ、私が彼を苦手としているからだ。

 

(………)

 

別に、“嫌い”とか“憎い”とか、そういうマイナスな感情を抱いてるわけでもない。むしろ彼のことは尊敬しているし、彼は私から見ても将来はまさにああなりたいと思える素晴らしい人間だ。ただもっと単純に、私のような変態に“先生”と呼べる人はいるのかという、そういった話。

 

(……私は、間違うことでしか、生きていけなかった──)

 

“先生”とは、読んで字の如く、生徒の先を生きる者。ひいては生徒を教え導く者。

 

──なら、最初から間違っている、今後も間違うことでしか自分を示せない私は?

 

それを直接問い質しもせずに彼を見限っている私は、どうしようもない卑怯者だ。

 






ナギサ様の視点、というかナギサ様の内心は描写したら色々と台無しになるので多分やらない。
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