「ま、簡単に言うと、黒幕登場☆ってところかな?」
闇の帳を開くように、少女の場違いなまでの明るい声が響き渡る。
くるりとこちらを振り返る少女の姿は、まるでその講堂を舞台に塗り替えるほどに美麗だった。腰まで届くふわふわの髪。細部まで行き届いたコーディネイト。外からそのままやって来たからか、僅かに土で汚れた靴から、口元に添えられた人差し指のつま先まで、まさしく“お嬢様”という言葉で万人がイメージするその姿。間違っても、こんな場末の旧校舎には相応しくない存在。
トリニティ総合学園生徒会長、ティーパーティーの最高幹部。3人の生徒会長のそのうち一人、パテル派首長の聖園ミカ。どこまでも不似合いなこの場所に降り立った少女は、しかしまさしく状況に沿う不穏な台詞を伴って、遂に堂々とその座に舞い降りた。
「ティーパーティーの、聖園ミカさん……貴女は、どうして……」
「ん?……えっと、誰だっけ? ごめんね、私ちょっと顔覚えるの苦手で……いや、そうだ思い出した。浦和ハナコ、確か礼拝堂の授業を水着で参加して追い出された──あははっ、懐かしいね」
気安い呼び掛けに、しかし対峙する彼女はそれに答えない。当時のことを思い出しているのだろう──何かに思案している様子でたった一人、無防備に立ち尽くしているというのに、警戒はますます強まり、構えた銃は徐々に少女の頭部へと狙い澄まされていく。
「なぁに、それ? まさか貴女、私が一人だからって勝てると思ってるの? そんなんじゃ日常生活大変じゃない? あ、だから補習授業部なんてお馬鹿丸出しな部活に所属しているのか」
「な、何を言ってるのよ!? こっちは4人よ!? しかも私を筆頭に、それなりに腕に覚えだってあるわ! よく分かんないけど、あの人ティーパーティーってことは凄いお偉いさんでしょう!? だったらそんなの、今のうちに押さえ付けちゃえば──」
「駄目です。逃げましょう──今すぐに」
「はあ?!」
「ナギサ様を確保されたら全ては終わりです。私たちであればいくらでもリカバリーは効く。彼女は現時点でも厳戒態勢の正義実現委員会を止められる権限を持つ。そんな彼女がホストに君臨すれば、次は補習行きでは済まされませんよ」
「だ、だから今のうちに──!」
その言葉を遮るように、講堂内に複数の銃声が響き渡る。発砲元は一歩離れた位置にいた白洲アズサのモノ。銃を突き付けるハナコでもなく、何やら企んでいそうな会話中の二人でも無い。完全に意識外からの不意打ち。事実、ミカはその銃声に僅かな反応を示したものの、回避はおろか身動ぎする時間さえもなく、容赦なく放たれた弾丸が無防備な側頭部に当たり──しかし、それは彼女に爪痕を残すどころか、体幹を揺らすことすら叶わない。
「ティーパーティー最高幹部、パテル派首長聖園ミカ──彼女の実力は、あのツルギ委員長と同格です」
「え?! はぁ?! なんで!?」
なまじ間近でその脅威を実感しているからだろう。下江コハルの疑問は心底から湧き出たものだった。そして、真に恐ろしいのは、まさに彼女が疑問を覚えた“どうして”という質問に、おそらく理由などないということ。
あまりに不可解で、とことん理不尽に、どこまでも圧倒的な。猫が虎に敵わないように、象が蟻を踏み潰すように。彼女は生まれながらにして、日々の生活を治安維持に費やすかの正義実現委員会の委員長と互角かそれ以上に、ただの事実として強者で在り続けた。
「……ええ。
ハナコが何かを合図すると、直後に講堂の扉が開け放たれ、一人の女性が姿を表す。と、同時に無数の足音、雑踏の如き話し声が伝播し、徐々にそれらが講堂の内部にへと集っていく。
「歌住サクラコ──あの秘匿主義のシスターフッドがどうして……」
その中心にいるのは、最初に講堂に足を踏み入れた女性。その美しく長い髪の殆どをヴェールで覆い隠し、黒を基調とする清廉な衣装に身を包んだ彼女のことは、その特徴的な衣装とも相俟って、すぐにその場の全員に認知された。
「貴女が彼女たちを呼び寄せた方法も知りたいところだけど……無駄だよ。少なくとも、ナギちゃんがこの建物のどこかに居るのは分かってる。確かに手間ではあるけど、この場の全員を伸して、控えてるアリウスの子たちも呼んで……ああ、貴女たちの身体に直接聞いた方が早いかな? 何にせよ、貴女たちでは私を止められない。ナギちゃんさえ確保しちゃえば……」
「さて、それはどうかな?」
流石に焦りの感情が芽生えたのか。僅かな苛立ちと共に銃を構えた少女の動きが、しかしその一言に反応してあからさまに鈍る。その原因は、その声が果たして“誰”のモノであるのか──そこに全ての理由が集約されていた。
「確かにこのままでは肝心要のキミをどうすることも出来ない。だが、ナギサとキミの関係には及ばずとも、私も君とはそれなりに長い付き合いだ。何が苦手か、どこが不得手か、それくらいであれば熟知している」
「──セイア、ちゃん。まさか、生きて……!?」
「おや、ようやくその似合わない表情が崩れたね。そうだ、君はナギサに嗜められてあたふたしている姿が一番
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「正直私が指揮を取っても戦況は変わらないと思うのだが……むしろ足手纏いが増えて不利になるだけだろう」
検討会の第一声は、セイア様のそんな身も蓋も無い一言から始まった。
とはいえ、状況を鑑みると、それは謙遜の一種ではなく、単なる事実だと言わざるを得ないだろう。死んだ筈の、殺した筈の人物が目の前に現れて啖呵を切る──あの時のミカさんの心情を思えば、動揺を誘うには十分過ぎる一手であるが、それで勝てるのかどうかと言うと、その……多分ミカさんが本気だったら劇中の通りにミカさん単独であっても普通に負けていたと思う。
当時の我々が曲がりなりにも勝利を収めたのは、例の戦術指揮がバグった“先生”が居たことに加え、部外者かつ万が一にも殺すわけにはいかない彼が矢面に立つことでミカさんの攻撃の手が緩んでいたことが大きく、更には劇中のようにセイア様の生存を伝えミカさんのやる気を削ぎ、交渉に持ち込むことが叶えばこそ。
そう考えると、シャーレの権限とはつくづく厄介であるのだなぁと改めて思う。下手しなくてもあの連邦生徒会とほぼ同等の権力とか最後の最後で全部ひっくり返されかねない鬼札だからね。そりゃあミカさんだって軽々しく扱えないよね。成功したクーデターを後から無かったことにされたら堪らないからね。
「──この服だが、本当に大丈夫なのかこれは」
次いで発言をしたのは、ハナコちゃんがどこからか調達してきたシスターフッドの制服に身を包んだ女性……先の場面では歌住サクラコさん役を務めていたサオリさん。アリウス出身である彼女は、その手の挽歌を厭う例の“マダム”の影響で礼拝の授業なんかは受けていないそうなので、単なるコスプレにしかならないのでは──とその衣装を着る前にも漏らしていたが、それはまあその通りだろう。
でも結局は誰が着てもコスプレなので……この場面って全員が出るからサオリさんの他に選択肢がないんですよね。まあ他にもゲヘナ風紀委員長兼万魔殿生徒会長役のアズサちゃんとか、自警団兼図書委員役の私とか色々と混沌とした役割も多いので、そこら辺の兼任はある程度許して欲しい。そもそも服を着ること自体が罪とかそんな法律はないからヘーキヘーキ。……ボディペイントが許されるとかそういう意味じゃねぇからな浦和ァ!
(しかし、まあ……)
予想外というか予想できそうなモノだったと評するべきか。まさかハナコちゃんまでアズサちゃんに倣ってセイア様を連れて来るとかそんなの全く考えてもなかった。非常識さで言うのなら私の方も大概だが、そもそもセイア様が友人の頼みとはいえこうしてアクティブに行動するイメージが無い。年上なのにちゃん呼びしてるから仲は良いんだろうなと思っていたけど、そんな無茶を通せるような相手がいるとは……。
「駄目だよーセイアちゃん。“先生”なんだからもっとどっしり構えないと」
「無茶を言わないでくれたまえ。私は人使いは荒い方だが、ヒトの使い方が優れているわけじゃないんだ。ましてあのような神懸かりな指揮など、この私には荷が重いよ」
と、思っていたら普通に無茶を言ってる人がいた。でもまあミカさんはそうだよね。あの事件以降この二人が直接やり取りをする場面を見たことがなかったから実はちょっと心配していたのだが、こうして軽口を叩き合えるようなら安心だ。美少女の喧嘩とか世界の損失ですからね。できればらぶらぶぬちょぬちょ粘膜接触しているところに混ぜてもらいたい。
「どっしり構えていただろうか……?」
ボソッとサオリさんが何やら呟いたが、そこ気にするところじゃありませんから。確かに彼は色々と慌ただしい人ではあるけど、この場面でも忙しそうに声を張り上げていたけれども!!
なお、しれっとミカさんが言っていたセイア様に対する“先生”発言は、人員削減のためにハナコちゃんが考案した、「実はセイア様は死んだフリをして色々暗躍していたことにしようぜ!!」という、セイア様贔屓の彼女らしい作劇上のウルトラCである。正直言ってその発想はなかった。私なんてどうやって先生抜きの劇に誘導しようか頭を悩ませていたのに。やっぱりハナコちゃんはすげぇや。
その後は実際にステージでやる場合での配置がどうだの、台詞が全体的に冗長過ぎるから削ろうだのと真面目な話が続き、最初の懸念は何処へやら、終始穏やかに話し合いは進む。
そして、
「次、は──」
あの日。
全てが駄目だと、そう思った時──がむしゃらに、このままアズサちゃんとお別れなんて嫌だと思って、けれどナギサ様にも頼れなくて。あの日、あの時……私は、何をしたのだろう?
「あの言葉……」
嘘吐きの私。嘘で塗り固められた私。私の本質は、この世が全て無駄と自分に言い聞かせてきたアリウスの人達と何も変わらない。
───私には、大好きなヒトがいます!!!!!!!!!!!
あの言葉は、果たして本当に、私の本心だったのだろうか?
何も分からないままに、舞台は徐々に“その場面”へと向けて突き進んでいく。それは、まるで処刑台に向かう虜囚のように。
☆☆☆
「難しい問題ですね……」
寮に戻る途中、自販機の近くでたまたま遭遇したミネ団長と連れ添ってベンチに座り、せっかくだからと詳細を暈して軽く相談をすることにした私。ちなみにどうでもいいですが私の寮は他の子と違ってもう使われてない建物の宿直室を流用した一人部屋です。流石にうら若き少女たちの園に野獣を放り込むわけにはいかないからね、仕方ないね。
「虚言癖──とも違うのでしょう。自己防衛の一種と言いますか……申し訳ありません。その手の症状に関しては、その……残念ながら、私にはどうにも……」
「……いえ、良いんです。誰かに愚痴りたかっただけで……忙しいでしょうに、こんな馬鹿げたお話を聞かせてしまい申し訳ありません」
「いえ……いえ! 断じてそのようなことは御座いません!! 悩める子羊──と言うとシスターフッドの領域になりそうではありますが、私とてこの
いや、本当にそこまでしていただく義理は……勇み足ではあるが、こういうところが彼女の慕われる所以なのだろう。でも本当に愚痴りたかっただけだからなんか普通に申し訳ないな。最終下校時刻直前のこんな時間まで学校に残ってるということはそちらも忙しいだろうに。いやマジでそこまで気にせんとも良いんですよ?
「ですが口惜しいことに、今の私には貴女を救う術は御座いません──ですが明日、明後日、いえその先も!! 我が誇りに賭けて、必ずや貴女の治療を成し遂げて見せましょう!!!」
「……ありがとうございます」
厄介な人に話しちゃったかなぁ、とはちょっと……いやかなり思ったが、せっかくの厚意を無下にするのも失礼だろうと、快く(?)その提案を受ける私。まあ、彼女も明日からしばらくはこの時間帯にこの自販機の前を通るそうなので、その時に軽くお話しをしましょうということで、ひとまずその場はお開きとなる。
一気に静寂が訪れた夜の闇で、私は無意識に独り言ちる。
「私は、私の人生を──………」
最後に呟いた言葉は、本音なのかそうでないのか。それすらも分からない嘘吐きな私は、しばらくその場で闇夜に浮かぶ月を眺め続けていた。
この手の作品には致命的な欠点がある……! それは主人公にしたキャラクターをえっちな目で見られなくなるということだ……!
既に作者はアロナとヒフミが半裸の絵を見ても変な笑いしか出ないようになりました。他にはヒロアカの轟くん?を初めて見たのが女体化して痴漢されてる作品だったので彼が登場して以降のヒロアカは全く読めていません。
なので皆さんも各キャラクターの男体化を書いて読者を汚染してやりましょう。私もやったんだからさ(無茶振り)