王女アイリスの消息不明——。
砂漠を支配する巨大な怪物。
未来から訪れる謎の少女。
それは、人類の存亡をかけた戦いの幕開けだった。

1 / 1
二万文字程度です^


 

 魔王を討伐してからそれなりの月日が経った頃。

 早朝、珍しく健康起床をして同じくなダクネスとお茶を啜っているような時間。

 俺が、郵便ポストの確認に行くと、そこには一枚の手紙が入っていた。

 

 屋敷の中へと戻り、それをなんとなしに開封してみると、

 

『緊急。魔王討伐貢献者のサトウ・カズマ殿パーティ一同に連絡。王女アイリス様が元魔王領への遠征から帰還しておらず音沙汰なしの模様。至急、装備の準備をしてから王都へと参るように』

 

 ……って、アイリスに身の危機が迫っているってことか⁉︎」

 驚愕して大きな声を上げる俺の様子に、ダクネスが何事かと近寄り手紙を取って見る。

 そして、王家の紋章が記されたその手紙を眺めると、あせあせと事態の深刻さを物語るように、甲冑を急いで被り始めていた。

 

「お、おいダクネス。これって本物なんだよな⁉︎」

「何を言っている。王家の紋章を偽造する者がいるとしたら極刑だぞ! これはつまり、アイリス様の身に危機が迫っていることに他ならない!」

 

 俺の妹に……危機が‼︎

 

「わ、わかった。じゃあ俺はアクアとめぐみんを起こしてくる」

「その間に私は皆の装備の準備をしておこう」

 

 俺は慌てて屋敷の二階へ駆け上がり、アクアとめぐみんの部屋のドアを叩く。

 

「おい、起きろ! 緊急事態だ!」

 

 しかし、反応がない。

 仕方なくドアをどしんと開けると……酒くせえ。

 アクアは布団に包まれてぐっすり寝ており、めぐみんは何やら寝言で「爆裂魔法……最高です……」と呟いている。

 そういえば昨日は女子会とかいって、アクアの部屋で酒盛りをしていたっけか。

 いやいや、問題はそこじゃない。

 

「お前ら、いい加減に起きろ!」

 

 俺はアクアたちの布団を引っ剥がし、その身体を揺さぶる。

 ようやく二人は目を覚まし、不機嫌そうに瞼を開くと、俺を見上げた。

 

「何よ、カズマさん。まだ朝じゃないの」

「そうです、よぉ……。もう少し寝かせてください……ふが」

 

 二人とも眠そうにしている。

 アクアはともかく、めぐみんの方は完全に二日酔いだ。

 これじゃあいけない。

 俺は本題に入る。

 

「アイリスが行方不明なんだ! 至急、王都に向かうぞ!」

 

 その言葉に二人は一気に目を覚まし、驚いた表情を浮かべる。

 

「あの娘が? 一体どういうこと?」

「詳しいことは後で話す。とにかく急いで準備してくれ! あと、アクアはめぐみんに浄化魔法をかけてやってくれ!」

 

 俺はそう言い残し、一階へと足早に戻る。

 ダクネスはすでに全身甲冑をまとい、真剣な表情で待っていた。

 

「カズマ、アクアとめぐみんは?」

「今起こした。すぐに来るはずだ」

 

 その時、階段を駆け下りてくる足音が聞こえ、アクアとめぐみんが現れた。

 つまり準備万端の四人が集結したということで。

 

「準備できたわ! 早く行きましょう!」

「爆裂魔法が必要とされる事態のようだですね!」

「よし、全員揃ったな。カズマ、テレポートで王都へ向かってくれ」

「任せろ!『テレポート』っ‼︎」

 

 

 

 

 魔法を唱え、次の瞬間。

 俺たちは王都ベルゼルクの街並みに立っていた。

 

 王城まで一走りで到着すると、二人の従者、クレアとレインが焦燥の面持ちで出迎えた。

 クレアが素早く駆け寄ってくる。

 

「カズマ殿、お待ちしておりました! すぐに王様との謁見をお願いします」

「お、おい。アイリスは本当に行方不明なのか?」

「詳しいことは王様から直接お聞きください。こちらへ」

 

 クレアが有無を言わさず促し、俺たちは急ぎで城内の廊下を進む。

 普段は貴族らしく優雅に歩く二人だが、今日はその足取りも乱れている。

 

「カズマ、状況はかなり深刻みたいですね」

 めぐみんが小声で言う。

「ああ、嫌な予感がする。とにかく急ごう」

 

 豪華な絵画や装飾品が並ぶ廊下を駆け抜け、やがて巨大な扉の前にたどり着いた。

 扉には王家の紋章が刻まれており、重厚な雰囲気を醸し出している。

 

「王様はこの中にいらっしゃいます。どうぞお入りください」

 と言い、レインが扉を開けると、王の間が姿を現した。

 

 玉座には王様が座っている。

 だが、その表情は疲労と憂慮に満ちており、背筋もどこか重たげだ。

 側近たちも皆、深刻な面持ちで沈黙を守っている。

 

「カズマ殿、単刀直入に言おう。娘を連れて帰ってきてほしい」

「何があったのか詳しく教えていただけますか?」

 

 ダクネスが代表して王様に質問をする。

 すると、王様はこう答えた。

 

「アイリスは新たな魔物の出現情報を受け、自ら騎士団を率いて調査に向かった。しかしそれ以来、連絡が途絶えてしまったのだ。残りの騎士団も捜索に向かったが、未だ手がかりがない」

 

 王様の沈んだ目を見た途端、俺はただならぬ状況だと理解した。

 するとそれを聞いたダクネスが、驚きと怒りを込めて声を上げる。

 

「アイリス様が自ら調査に? なぜそんな危険なことを!」

「……娘は、国の平和と民の安全を何よりも大切にしておる。新たな脅威が現れたと知り、いても立ってもいられなかったのだろう。私も止めたのだが、娘の決意は固かった」

 

 王様の声には深い悲しみと後悔が滲んでいる。

「我々も、未だに手がかりが掴めておらぬ。そこで、君たちの力を借りたいのだ」

 

 俺は王様の言葉を受け止め、強く頷いた。

 

「分かりました。俺たちにできることなら全てやります。必ずアイリスを連れて帰ります!」

「ありがとう、カズマ殿。娘をどうか頼む」

 

「これが現在得られている情報と地図になります」

 側近の一人が書類を手渡してくる。

 地図にはアイリスたちの進路や、目撃された魔物の位置が詳細に記されていた――。

 

 

 王の間を出ると、クレアとレインが待っていた。

 二人の目には涙が浮かんでおり、その不安は計り知れない。

 

「カズマ殿、どうかアイリス様をお願い致します!」

 クレアが震える声で言う。

「アイリス様は私たちの誇りです。どうか無事に連れてお帰りください!」

 レインも必死に頭を下げる。

 

「任せろ。俺たちが必ずアイリスを見つけ出して連れて帰るから」

 俺は二人に向かって力強く答えた。

 

 

 城の外に出ると、夜の帳が街を包み始めていた。

 空には無数の星が瞬き、月が静かに光を放っている。

 

「カズマ、すぐに出発するのか?」

 ダクネスが尋ねる。

「ああ、時間が惜しい。できるだけ早くアイリスのもとへ向かいたい」

「でも、夜間の移動は危険じゃないかしら? 魔物も活発になる時間帯ですし」

 アクアが心配そうに言う。

 

「大丈夫だ。こんなこともあろうかと、テレポート地点に魔王城を登録してある。これでアイリスのいるところの近くまで一っ飛びする。それからの移動は……そうだな」

 一呼吸おいてから、その方法を言った。

 

「なるほど! それは名案ですね」

 めぐみんが目を輝かせる。

「たしかに、それなら現地調達できるというわけか」

 ダクネスが納得したように頷く。

 

 と、いうわけで。

「じゃあ皆、準備はいいな?」

「「「もちろん!」」」

「よし、いくぞ『テレポート』!」

 

 

 

 

 俺たちは一瞬にして魔王城の前に転移した。

 荒涼とした大地が広がり、冷たい風が吹き抜ける。

 

「ここが元魔王城……なんだか懐かしいわね」

 アクアが感慨深げにそんなことを言う、だが。

「時間がない。急いでアイリスを探そう」

 

 俺は地面に手をかざし、魔力を集中させる。

 そして、先ほどの……貯めにためた俺の秘策を使う。

 

「『クリエイト・アースゴーレム』!」

 

 大地が揺れ、土と岩が集まって巨大なゴーレムが形成される。

 魔法によって作られたゴーレムは四つ足を生やして安定した姿勢を保つと、犬でいうところの“伏せ“の姿勢をとる。

 ……すると、その背中には俺たちが乗れるスペースがあった。

 

「おお、すごいわね!」

 アクアが感嘆の声を上げる。

「みんな、これに乗ってくれ。こいつなら広範囲を効率よく探索できるはずだ」

 そして俺たちはゴーレムの背中に乗り込み、周囲を見渡す。

 

 過去にめぐみんが爆裂魔法を放ちまくった、その周囲の地形は、数多くのクレーターがありデコボコとしている。

 すなわち、薄寒い土地にも暖かな思い出といったところ。

 そんな感傷に、俺が浸っていたところ、ダクネスが尋ねる。

 

「カズマ、アイリス様はどの方向にいるのだ?」

「……っと、そうだ。うーむ、これは王都で受け取った地図によると……アイリスたちはこの先の砂漠地帯に向かったみたいだな」

「では、その方向に向かいましょう!」

 めぐみんが前方を指さす。

 

 それもそうだ、俺たちの目的はアイリスを救出することだ。

 ぱんぱん、と自分の頬を叩き、緩んだ意識を切り替える。

 

「よし、ゴーレム、出発だ!」

 

 

 ゴーレムは力強い足取りで荒野を進み始めた。

 途中、魔物が現れたりしたが、ゴーレムの巨体に圧倒されて逃げ出していく。

 今のところ冒険は順調だ。

 

「ねえねえカズマさん、無事にアイリスちゃんを助け出したら、家に帰る前に王都で高級シュワシュワを買って欲しいんですけど」

 

 アクアが俺の身体に寄りかかって、そんなお願いをしてくる。

 それを見ためぐみんが、対抗するように、

 

「そ、それはズルですよアクア! 私だって、高級マナタイトの一つや二つ、カズマに買ってもらいたいと思っているんですから!」

「ふむ……そうだな。それなら私はカズマに新しい鎧を新調してもらおう。この鎧も、そろそろキツくなってきたからな」

 

 ダクネスも自分の要望を口に出していた。

 いつの間に、後ろの席の方では、俺に何を買ってもらうか談義が始まっていた。

 

 ……こいつら、俺のことを金ずるとか思っていないよな? 

 

 

 しばらく進んでいくと、深夜の中に明りが見えてきた。

 洞窟の入口から漏れる光が、そこにはあった。

 

「おっ、多分あそこだ!」

 

 俺はゴーレムを止め、皆と一緒に徒歩で洞窟へ向かう。

 近づくにつれ、中から人々の話し声や、うめき声が聞こえてきた。

 

「急ごう! もしかしたらアイリスがいるかもしれない!」

 

 俺たちは洞窟の中へ駆け込んだ。

 するとそこには、傷ついた騎士たちが集まり、疲労困憊の様子で座り込んでいた。

 そして、その中心には――。

 

「アイリス!」

 

 俺は彼女の姿を見つけ、駆け寄った。

 アイリスの鎧は傷だらけで、顔には疲労の色が濃く浮かんでいる。

 

「お兄様……来てくださったのですね……」

 アイリスはかすかな笑みを浮かべたが、その声は弱々しい。

 

「大丈夫か? 今すぐアクアが回復してくれるからな!」

 

 俺はアクアに目配せをする。

「任せて! さあ、負傷者の皆さん、順番に並んでください!」

 

 アクアは早速ヒールの魔法を唱え始めた。

 傷ついた騎士たちは次々と回復していく。

 

 ――その時、洞窟の奥から見覚えのある仮面の男が現れた。

 

「ふはははっ! やはり来おったか、小僧どもよ」

「バニル⁉︎ お前、なぜここに?」

 

 俺は驚いて問いかける。

 

「商売のついでにな、ちょいと厄介な相手と遭遇してしまったわけである。“訳あって”この娘たちを守りながら戦っておった故、流石の吾輩でも手こずったわ」

 

 バニルは肩をすくめていた。

 

「手こずったって、お前が? しかもこんなに傷だらけじゃないか」

 見ると、バニルの仮面にもヒビが入り、衣服もボロボロだ。

 

「うむ、奴は強敵でな。吾輩の残機を三つも削られてしまったわ! ふははっ!」

「残機を三つも⁉︎」

 

 俺たちは驚愕した。

 バニルは高位の悪魔であり、その強さは折り紙付きだ。

 その彼がここまで追い詰められるとは――。

 

「一体、何と戦っていたんだ?」

 

 ダクネスが真剣な表情で尋ねると、バニルは仮面の奥で目を細めた。

 

「ふはは、良い質問である。奴の名は『デューン』神話に語られる、この地の大河を飲み尽くしたとされるジャイアントサンドワームである」

 

「デューン……? 聞いたことがないな」

 俺は首をかしげる。

 

「無理もない。この世界の理から外れた存在ゆえ、天国にも地獄にも入居を拒否されるほどの異形の生物であるからな」

 

 バニルの言葉に、一同は息をのんだ。

 

「そんな存在がどうしているんですか……?」

 めぐみんが不安げに尋ねる。

 

「知らぬ。だがそれは、日向にいる生命を全て喰らい尽くそうと行動しておるらしい……。おおっとそうだ、すると汝たちは幸運であったな! 夜間はやつの動きが非常に鈍い。ここまで辿り着けたのは日光が出ていないからこそ。少し時間が遅かったら、今頃、汝らはやつの腹の中にいたことだろう。そういうわけで、吾輩らはこの洞窟に避難しているのだ」

 

 バニルは淡々とそう説明した。

 

「なるほど、だから皆さんはここに……」

 めぐみんが周囲の騎士たちを見渡す。

 傷だらけの彼らは熟練者たちであろうに、そのデューンとやらの凄まじさを感じさせる。

 

「奴は地下深くから現れ、地上の生物を捕食する。その力は絶大で、下手に戦えば全滅は免れぬ」

 「そんな相手にどう立ち向かえばいいんだ?」

 

 俺は焦燥感を覚える。

 

「簡単なことだ。日の当たらない場所にいれば、奴も大抵の場合手出しはできぬ。つまり、夜間や洞窟内での移動が安全というわけである」

 

 バニルの説明に、俺たちは安堵の表情を浮かべた。

 

「でも、それでは根本的な解決にはならないな」

 ダクネスが厳しい表情で言う。

 

「その通り。しかし、吾輩にはこれ以上関与するつもりはないのでな。そろそろ地獄に帰らせてもらうとしよう」

 バニルはそう言って、ひらりと手を振った。

 

「ちょ、ちょっと待て! お前、協力してくれないのか⁉︎」

 俺は慌てて呼び止める。

「ふはは! 吾輩にも地獄での用事があるのでな。小僧ども、せいぜい頑張るがよい」

 そう言い残し、バニルはただの砂となって消えていった。

 

 「薄情な奴め……」

 俺は肩を落とす。

 だが深呼吸して気を取り直し、俺はアイリスに向き直った。

 

「アイリス、もう危険だ。今すぐ皆で帰ろう」

 

 しかし、アイリスは困ったように目を伏せた。

「それができたらいいのですが……」

 

――砂の大地が揺れ始める。

 

「『テレポート』が、ここでは使えません」

 

 

 

 

 夜明けが訪れた。

 日光が大地を照らし、砂の大地がうねりを始める。

 そして、

 

『⁉︎⁉︎ 繝上い繝。繝ォ繝ウ縺輔>縺薙≧ ⁉︎⁉︎』

 

 巨大な大きさを持つサンドワーム――デューンが地中から現れた。

 

「あっ、俺のゴーレムが⁉︎」

 デューンは勢いそのまま、俺たちの外に置いてあったゴーレムを丸呑みにした。

 その声とも言えぬ異音には、つい耳を塞いでしまう。

 そして、ズシンと巨体の沈む音が鳴り響き、砂が周囲に巻き上がる。

 デカブツは捕食したのち直ぐに、地中へと隠れてしまった。

 

 アイリスがこちらに話しかけてくる。

 

「あの生き物は、どうやら私たちの範囲内にテレポート阻害魔法をかけているようです。ですから、私たちが撤退できないのもそれに原因があります」

「そうか、じゃあアレを倒せば解決って……それが難しいんだよな」

「はい、私たちの攻撃ではほとんどが無意味でした。傷を与えれたとしても仄かなもの。ですから、お兄様たちが来てくださったことは、とても頼りになるのです」

 

 騎士たちアイリスには上級魔法使いやソードマスターが多い。

 そんな彼らの攻撃でさえ効かないとなれば……最後に残る手段は。

 

 そっと俺は、めぐみんに目配せをする。

 

 すると、紅い瞳が輝き、颯爽とポーズを取っていた。

 騎士団の人たちも「おおっ……‼︎」と感心している。

 

「我が爆裂魔法を、しかとご覧あれ!」

 

 そう、頼りになるのは、現時点でめぐみんに他ならない。

 一撃必殺の特大攻撃で敵を葬る能力があるのはこいつだけだ。

 

 だがその前に、地中に隠れているデューンを地上におびき出す必要がある。

 そのためには、

 

「カズマ。私に任せてくれ、硬さだけなら自信はある」

 

 ダクネスの鉄壁が必要不可欠だ。

 加えて、それまでの時間稼ぎと皆の回復には、

 

「ふふんっ! この女神アクア様の力を頼りたいってことね? そうでしょ!」

 

 実力だけは確かな、このアクアに任せるしかない。

 ……そして最後に、皆を安全に回収するのが……この俺だ!

 

「よし、作戦は決まったな。ダクネスが、敵の意識を惹きつけてる間に、影からめぐみんが爆裂魔法の準備をする。アクアはその二人のフォローだ。そして、準備出来次第に、俺がお前らのことを回収していく。そうしよう」

 

 作戦は決まった。

 戦いが始まる――。

 

 

 その結果。

「――『エクス・プロージョン』っ‼︎――」

 

 腹に響くような轟音が木霊し、デューンの脇っぱらに爆裂魔法が炸裂した。

 ダクネスは『デコイ』の影響でデューンに吹き飛ばされたが、アクアの支援魔法もあってか上手く、時間を稼いでいた。

 

 そして、先ほどのアレ。

 俺がダクネスとアクアの二人を回収している間に、めぐみんが特大の一発をかました。

 ちなみに、ちゃっかりアイリスも作戦に参加して時間稼ぎをしていたりする。

 

「す、すごい」

 

 それは誰の声だったろうか。

 爆裂魔法の影響で砂の大地には大きなへこみができており、デューンの身体はそれをもろに受けたのか半分以上に吹き飛ばされていた。

 

 

「お、終わったのか……?」

 

 誰もが勝ちを確信して、抱き合っていた。

 デューンの身体は砂の大地に埋もれるように沈み込んでいき……。

 

――砂の大地が大きく震える。

 

「う、嘘だろ?」

 

 それは誰の声だったろうか。

 あまりにも残酷な現実が、地中から“複数”這い出てきた。

 

「…………」

 

 そのまま仲間を捕食する、その悍ましい姿。

 皆を絶望させるには十分な事実であった。

 

 

 再び夜になり、洞窟内は静寂に包まれている。

 だがその空気には、疲労と不安が色濃く漂っていた。

 騎士団員たちの表情は沈み、アイリスもやや元気を失っているように見える。

 

 俺はそんな彼らを見渡しながら、大げさに胸を張って言い放った。

 

「えーっ、つまり。アレは俺たちの手に負える存在ではないという結論に至りました」

 

 どよめきが広がる。

 特に、騎士たちの中からは「おしまいだぁ……」という呟きや視線が向けられる。

 

「うん、アレは無理だな。倒したところで次々と湧いてくるなら、根本的な解決にならないし。……正直、さっさと逃げるのが得策だろ」

 

 俺の率直すぎる意見に、またしても沈黙が走る。

 その時、一人の若い騎士が小さな声で呟いた。

 

「それじゃあ……もう帰れないってことか……」

 

 彼の言葉に、周囲の空気がさらに重たくなる。

 しかし、そこで俺は指をピンと立てて言い放った。

 

「いやいや、諦めるのはまだ早い! 希望はここにある!」

 その言葉に全員が俺の方を注目する。

 

「希望とは……何か手があるのですか?」

 アイリスが不安そうに問いかけてくる。

 

 俺はニヤリと笑い、全員を見渡しながら答えた。

 

「俺に妙案があるんだよ」

「妙案?」

「そうだ。もう一度ゴーレムを作る。ただし、今度はただのゴーレムじゃない」

 

 俺は誇らしげに続けた。

 

「これまで作ってきた中でも最大級の超巨大ゴーレムだ! 俺たち全員を乗せて、こんな砂漠地帯をぶっ飛ばして脱出するだけのパワーを持ったやつを作る!」

 

 騎士団員の中からざわめきが起きる。

 

「そ、それは確かに素晴らしい案ですが、そんな魔力が今あるのでしょうか?」

「大丈夫! 俺たちには『最強の資源』があるから!」

 

 俺が堂々とそう言うと、めぐみんが「あっ」と声を漏らした。

 その視線が向かう先――そこには、飯をもしゃもしゃと食べているアクアがいた。

 

「そうだ、俺たちには『世界最高級の人間マナタイト』がいるじゃないか!」

 

 すると視線に気づいたアクアが「何よそれ」と頬を膨らませて俺を睨みつける。

「ちょっと待ちなさいよ! 私は女神よ? 女神をこんな雑な方法で扱うなんて、信仰心に欠けてるんじゃないの!?」

「お前の信者になった覚えはないわ!」

 

 アクアが文句を言う間に、俺は容赦なく『ドレインタッチ』で魔力を吸い取る。

 

「ちょっと待って! やっぱり納得いかないんですけどー!」

「うるさい! 俺たちが生き残るためだ! 我慢しろ!」

 

 魔力が満タンになったところで、俺は地面に手をかざし、心の中で祈るように呟いた。

「いける、俺ならできる……!」

 

そして――。

「『クリエイト・アースゴーレム』!」

 

 大地が轟音を立てて揺れ始める。

 大量の土と岩が渦巻き、次第に巨大な四つ足が形作られる。

 

 やがて完成したゴーレムは圧倒的なスケールだった。

 高さは普通のゴーレムの数倍、背中には広いデッキスペースがあり、全員がゆったり乗れるだけの容量を誇っている。

 言うなれば、ミニデストロイヤーといったところ。

 

「おお……!」

その光景を目の当たりにした騎士団員たちは感嘆の声を上げた。

 

「これが、サトウ・カズマ殿の力……!」

「いや、半分くらいアクアの魔力だからな。まあ褒めるならそっちを――」

「私の魔力なら当然の結果よね!」

「調子乗んな!」

 

 そんな小競り合いを挟みながらも、全員が急いでゴーレムの背中に乗り込む。

 アイリスが俺に目を輝かせながら言った。

 

「お兄様、すごいです……! これなら、必ずみんなで脱出できます!」

「だからいったろ? 俺に任せとけって! さあ、全員乗ったな?」

 

 俺はゴーレムに向かって指示を出した。

 

「行け! 全速力で魔王城を目指せ!」

 

 ゴーレムが力強い一歩を踏み出すと、大地が揺れ、砂塵が舞い上がる。

 その雄姿を背に、俺たちは前を見据えた。

 

 だが、その時――地面が再び震え始めた。

 

「おいおい、嘘だろ……今はまだ夜だぞ⁉︎」

 俺たちの脱出劇は、ここから始まる――。

 

 

 ゴーレムの背中で、俺たちは必死に砂漠を駆け抜けていた。

 

「カズマさん、このままだと追いつかれるわ!」

 アクアが焦った声で叫ぶ。

 

「分かってる! でもゴーレムの速度には限界があるんだ!」

 

 後方を振り返ると、巨大なサンドワーム――デューンが砂塵を巻き上げながら迫ってくる。その数は次第に増えているようだ。

 

「どうすれば……」

 

 俺が頭を抱えていると、アイリスが毅然とした表情で口を開いた。

 

「お兄様、私たちで時間を稼ぎます! その間にゴーレムを全力で走らせて、砂漠地帯を抜けましょう!」

「アイリス、それは危険すぎる!」

 俺は即座に反対する。

 

「でも、このままでは全員が危険です! 私たちは騎士です。民を守るのが使命です!」

 アイリスの言葉に、騎士団のメンバーも力強く頷く。

「アイリス様のお言葉、感服いたしました! 我々もお供します!」

 

 俺は彼らの決意に胸を打たれた。

 

「分かった。だが、無茶はするなよ!」

「はい、お兄様!」

 

 アイリスと騎士団はゴーレムの後方に位置し、デューンの注意を引くために魔法や弓矢で攻撃を始めた。

 

「カズマ、行こう!」

 ダクネスが俺を促す。

「よし、ゴーレム、全速力で前進だ!」

 

 ゴーレムは地響きを立てながら速度を上げる。

 俺たちは砂漠地帯を抜けるために全力で進んだ。

 

 

 アイリスたちはデューンに向かって果敢に攻撃を続けていた。

 

「『エクステリオン』! ……よし、少しは時間を稼ぎました!」

「今だ! アイリス様に続き一斉に魔法を放て!」

 騎士団のリーダーが指示を出し、彼らはそれに従いデューンに向かって各々スキルを発動させる。

 

「「「『ライトニング・ストライク』‼︎」」」

「「「『ブレード・オブ・ウィンド』‼︎」」」

「「「『ライト・オブ・セイバー』‼︎」」」

 

 数十発以上の弾幕がデューンの身体に衝突し、大きな砂埃を巻き上げる。

 その時、流石総力戦とだけあって、デューンの動きが一瞬鈍った。

 

 一方、ゴーレムは全力で岩山を越え、ようやく砂漠地帯を抜け出した。

 その瞬間、空気が変わったのを感じる。

 

「魔力の干渉が消えました! 今ならテレポートが使えます‼︎」

 

 騎士団員の一人がそう嬉しそうに叫んだ。

 俺はその言葉を聞いて、急ぎ全員にテレポートの準備をするよう伝える。

 いつもの三人に加え、アイリスと手を繋げる。

 

 そして、最後の悪あがきでこちらに向かって勢いよく飛び出してくるデューンを尻目に、

 

「いくぞ、みんな! 『テレポート』!」

「「「「「「「――『テレポート』――」」」」」」」

 

 次の瞬間、視界が一瞬白くなり――。

 

 

 

 

 俺たちは王都の中心に立っていた。

 周囲の喧騒と活気が、一気に現実感を取り戻させる。

 

「やった……成功だ!」

「ふぅー、流石の私もこれはピンチだったわね」

 俺の言葉に、アクアが安堵の息をつく。

「皆、無事で何よりだ」

 ダクネスが微笑む。

 

「お兄様、ありがとうございます!」

 アイリスが感激の面持ちで俺を見上げた。

 

 その時、王城からクレアとレインが駆け寄ってきた。

「アイリス様! ご無事で何よりです!」

「皆様、本当にありがとうございます!」

「先ほど、遠征に向かった騎士団たちが次々と帰還してきたとの報告が入りましたので! 急いでこちらまで赴いた所存であります!」

 

 彼女たちは涙を浮かべながら深々と頭を下げる。

 

「詳細は後で報告します。まずは休息を取りましょう」

 ダクネスが優しく言う。

 

「そうだな。皆、疲れているだろうし、まずは体を休めようぜ」

 俺も同意する。

 

 

 後日、王城では盛大な宴が開かれた。

 煌びやかなシャンデリアが天井から吊り下がり、豪華な装飾が施された広間には、美味しそうな料理と香り高い飲み物が所狭しと並べられている。

 楽団が奏でる優雅な音楽が、会場の雰囲気を一層引き立てていた。

 

 俺たちは丸いテーブルを囲み、各々好きな料理を取り分けている。

 目の前には、見たこともないような高級食材がずらりと並んでいた。

 

「カズマ、見てください! このお肉、まるで口の中でとろけるようです!」

 

 めぐみんが頬を紅潮させながら、美味しそうにステーキを頬張っている。

 その瞳は喜びで輝いていた。

 

「本当だな。さすが王城の料理は格別だ」

 

 俺も一口食べてみると、濃厚な肉汁が口いっぱいに広がり、思わず感嘆の声を漏らした。

 

「カズマ、今回の活躍は本当に素晴らしかったですね! カズマの起点がなければ、私たちは危機を脱することはできなかったでしょう」

 

 めぐみんがグラスを持ちながら、改めて俺を称賛する。

 

「お前らみんなの協力があってこそだよ。めぐみんの爆裂魔法も大活躍だったしな」

 めぐみんは照れくさそうに笑いながら、「ふふん、当然です!」と胸を張った。

 

「あの巨大ゴーレムについては私も褒めてもらっていいわよね!」

 

 隣でアクアが興奮気味に身を乗り出してくる。

 その手元にはすでに何杯目か分からない高級シュワシュワがあった。

 

「そうだな。アクアの魔力のおかげでもあるし、感謝してるよ。本当に助かった」

 俺が素直に感謝を述べると、アクアはさらに得意げな表情を浮かべた。

 

「もっと褒めてくれてもいいのよ? 具体的には、この女神アクア様にもっと高級シュワシュワを貢いでもらってもいいわ!」

 

 彼女はグラスを高く掲げて、満面の笑みを浮かべる。

 その姿に俺は苦笑しつつも、

 

「まあ、今回は特別だな」

「さすがカズマ、話が分かるわね!」

 

 アクアは嬉しそうにグラスを傾ける。

 その様子を見ためぐみんが、「ずるいですよ、アクアばかり!」と不満を漏らす。

 

「そうだな、めぐみんにも何か必要だよな。何がいい?」

 

 俺が尋ねると、めぐみんは一瞬考えてから、「では、超高級マナタイトをお願いします!」と目を輝かせる。

 

「分かった。約束するよ」

 俺が頷くと、めぐみんは嬉しそうに微笑んだ。

 

「カズマ、私も新しい鎧が欲しいのだが……」

 ダクネスが遠慮がちに口を挟む。

 

「もちろんだ。みんな本当によく頑張ってくれたからな」

 俺は快く承諾する。

 その時、ふと背後から小さな声が聞こえた。

 

「お兄様……」

 

 振り向くと、アイリスが可愛らしいドレスに身を包んで立っていた。

 その頬はわずかに紅潮している。

 

「アイリス、どうしたんだ?」

 

 俺が声を掛けると、彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。

 

「お兄様、本当にありがとうございました」

 

 アイリスが近寄ってきて、満面の笑みで感謝の言葉を述べる。

 その瞳には、信頼と喜びが溢れていた。

 

「アイリスもよく頑張ったな。流石俺の妹だよ」

 

 俺は彼女の頭を軽く撫でた。

 その瞬間、アイリスは嬉しそうに目を細める。

 

「ふふ、お兄様ったら。でも、お兄様がいてくれたから、私は勇気を持てました」

「俺自身は大したことはしてないさ。でも、アイリスが無事で本当に良かったよ」

 

 俺がそう言うと、彼女は「はい!」と元気よく答えた。

 

「アイリス様、お話中失礼いたします」

 

 クレアとレインが近づいてきた。

 二人とも上品なドレスに身を包み、美しく着飾っている。

 

「カズマ殿、改めて感謝申し上げます。アイリス様を無事にお連れ帰りいただき、本当にありがとうございました」

 クレアが深々と頭を下げる。

 

「いや、俺だけの力じゃないさ。仲間たち騎士たち皆のおかげだよ」

 俺が答えると、レインも微笑みながら言葉を添えた。

 

「皆様のご活躍は王国中で語り継がれることでしょう」

「それは大げさだよ。でも、そう言ってもらえると……少し恥ずかしいな」

 

 その時、王様が壇上に立ち、静かに手を挙げた。

 会場が一瞬にして静まり返る。

 

「本日は、我が娘アイリスを無事に連れ帰ってくれたサトウ・カズマ殿とその仲間たちに、心からの感謝を捧げたい。彼らの勇敢な行動と団結力は、我が国にとって誇りである」

 

 王様の言葉に、会場から大きな拍手が湧き起こる。

 俺たちは照れくさそうにしながらも、その場で一礼した。

 

「これからも、彼らの活躍を期待している。乾杯!」

 王様がグラスを掲げると、全員がそれに続いた。

 

 

「「「乾杯!」」」

 

 

 

 

ξ

 

 

 

 

 それからしばらくして。

 俺はアイリス救出による、たっぷりの報酬を王様から貰ってからは、いつも通りと言えば通常営業に戻り、アクセルにある自分たちの屋敷で、ぐーたらと惰眠を貪っていた。

 

 そんな日の夜。

 俺は、サキュバスの夢サービスを待っていた。

 そして、夢の中で目を開けると……そこには、紅い瞳と金髪の髪、葡萄の飾りを身に付けた美人なお姉さんが立っていた。

 

「こんな注文したっけ?」と首をかしげる俺。

 

 しかし、これは夢だ。

 まあいい、せっかくだから楽しもうと、「いたずらしちゃうぞー!」と、その美人なお姉さんに向かって手を伸ばした。

 

 しかし、その瞬間――彼女は驚くほど素早く、俺の手を取って、あっという間に俺は仰向けに制圧されてしまった。

 

「え、これ夢ですよね?」と困惑する俺。

 すると、美人なお姉さんは微笑みながら、

 

「“おじいちゃん“たら、本当に元気ですね!」

 

 おじいちゃん? 一瞬、俺は言葉の意味が理解できずに固まる。

 

 だが、よく見ると彼女の面影にはどこか懐かしさがあった。

 めぐみんの雰囲気と、アイリスの面影。

 いやいや、こんな美人なお姉さんに俺は会ったことがないぞ。

 

「あの……誰?」

 と尋ねる俺に、彼女はいたずらが成功したような顔を浮かべると、

 

「私は、カズマおじいちゃんの孫です!」

 

 俺の孫? そんなバカな。

 そんな要望書をサキュバスに提出した覚えはない。

 なら、この夢は一体……」

 

「夢なんかじゃ、ないですよ!」

 

 

 翌朝早く、俺は皆を屋敷のリビングに集めた。

 アクア、めぐみん、ダクネス、全員が揃っている。

 

「それで、この子は一体誰なのかしら?」

 

 とアクアが不思議そうに尋ねる。

 俺の隣には、昨夜出会った美人なお姉さんが立っていた。

 

「皆さん、初めまして。私は未来から来ました。カズマおじいちゃんの孫です」

「「「ええっ⁉︎」」」

 

 一同は驚きの声を上げた。

 

「孫って、カズマ。そうなのか?」

 ダクネスが目を丸くする。

「いやまさか、俺にもさっぱりわからない」

 俺は困惑を隠せない。

 

 彼女は微笑んで説明を続けた。

 

「私は、大魔法使いこめっこ様の弟子です。師匠から、人類滅亡の予言を受けました。それで、未然に防ぐためにこめっこ様の大魔法で未来から過去へとやって来たのです」

 

 めぐみんが驚いた表情を見せる。

「うちの妹が大魔法使い⁉︎ 納得いきませんよ、それは‼︎ 私こそが世界最高の魔法使いではないのですか!」

 

 いや突っ込むところはそこじゃないだろう。

 とはいえ、すると彼女は申し訳なさそうに言う。

 

「めぐみんさんは、『大魔王』と呼ばれています」

 

 めぐみんは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐににやりと笑う。

「ふふん、それは素晴らしい称号ですね! それならこの私も認めましょう‼︎」

 

 次に、アクアが興味津々に前のめりになる。

 

「ねえねえ、未来の私はどうなっているのかしら?」

 

 すると彼女は困ったように微笑んで答える。

 

「それは禁則事項なので、お話できません」

「えーケチ。少しくらいいいじゃないの、私は女神よ?」

「だめです」

 

 いやいや、お前ら。

 突っ込むところが違うだろ!

 こうもっと、人類滅亡とかそこら辺のところを聞くべきだろうが。

 

 ダクネスの番になり、するとようやく、俺の聞きたいことを質問してくれた。

 

「その……まず名前を教えてはくれないだろうか?」

「あっ、そうでしたね。うっかりしてました。私の名前は『アストリア』、カズマおじいちゃんたちの未来からきた孫です!」

 

 俺の……孫。

 呆然とする俺をよそに、ダクネスが代わりにアストリアに問う。 

 

「その、人類滅亡とかいっていたが……それはどういうことなのだ?」

 

 すると、アストリアは手を叩いてから真剣な表情を浮かべると、

「そうです! それを言いに来たのです。 私たちは今の時代のうちに、“デューン”を倒さなければいけないのです‼︎」

 

 デューン?

 その言葉を聞いた俺は、再起動して、自分の孫を名乗る存在に聞く。

 

「……それなら、この前戦ったやつだけど。それと人類滅亡に何の関係があるんだ?」

 

 するとアストリアは懐から結晶を取り出すと、それを掲げ、映像を空中に出現させた。

 

 そこには、荒れ果てた土地、人数の少ないボロボロの集落、そして燃え盛る王都が映っていた。

 周囲には数多くのデューンがうねっており、地上は彼らに支配されている。

 

「も、もしかして。これが俺たちの未来の世界なのか……?」

 

 冷や汗をかく。

 こんな悲惨な未来が待っているなど信じたくない。

 その映像はあまりにも残酷だった。

 だが、

 

「いえ、違いますよ? これはこめっこ様の開発した、並行世界を映す玩具です」

「お、おもちゃ?」

「はい。これは“もしデューンを今のうちに倒さなかったら”の仮想的なものです」

 

 ……俺の心配を返せ!

 

「ですので、皆さんにはデューンを全て討伐していただきたいのです」

 

 するとめぐみんが、

「私たちも以前そのデューンとやらと戦いましたが……私の爆裂魔法でさえギリギリ倒し切るのが関の山でしたよ? 全部なんて高級マナタイトがいくらあっても足りません」

 

 そう不安げに言った。

 するとアストリアは誇らしげな顔になり、こう言った。

 

「そのために私がはるばる未来から訪れたのです! こめっこ様に、『デューンを倒して来い』と言われて来たのですから、もちろん攻略法くらいは教えられますよ」

 

 よ、よかったあ……。

 何も無策に人類滅亡を眺めることにならずに済みそうなのは安心だ。

 

「それで、その攻略法ってのは?」

「はい! おじいちゃん、今からそれをお伝えします!」

 

 未来から来た孫は、得意げな顔で、話を続ける。

 

「いいですか。もしかしたら既に知っているかもしれませんが、デューンの弱点は“月光”です。夜の時間帯の彼らは、動きをとても鈍くします。何故かというと、あの巨大な怪物たちは、月の光が直接身体に触れると弱体化し、やがて砂と化して消滅してしまうからです」

 

 そこで俺は質問を挟む。

 

「でも、夜の時間帯でも俺たちは襲われたぞ?」

 するとアストリアは、

「それはですね、普通の月光では十分な力が届いていないからなのです」

 

「つまりですね、人類滅亡を回避するためには、魔力で月の力を増幅させて、全てのデューンを一気に焼き払う必要があるのです」

 

 うーむ、俺は急展開に驚きつつも、月光を利用する方法を考える。

 だがもちろん、ただの冒険者である俺にはその方法が思いつかない。

 

「大丈夫ですよ、おじいちゃん。古代の書物に記されていた秘密の魔法……月光の増幅魔法を、私は覚えさせられてきました! 後は、膨大な魔力があれば十分です」

 

 ……膨大な魔力。

 ちらっと後ろの方を振り向くと、そこにはアクアとめぐみんの姿が。

 

「嫌よ、私はもうあんな非人道的なことをされたくないの」

 

 抗議する視線を送ってくるアクア。

 となると、めぐみんか。

 

「はい、そうです。この魔法を使うためにはめぐみんさんの力が必要となります。そしてアクアさんですが……このデューン討伐には、アクアさんの力が必要不可欠です」

「わ、わたし⁉︎ でも魔力は吸い取られるなんて経験、もうしたくないんですけど……」

 

 不安げな様子のアクア、だが。

 

「いえ、大丈夫です。アクアさんにお願いすることは単純。その水の女神としての力を大いに振る舞ってもらう……つまり、呼び水の役割です」

「よびみず……?」

 

 話を続けるアストリア。

「そして、ダクネスさんですが。苦労をかけます。ダクネスさんには、囮の役割を果たしてもらう必要があります」

「任せろ、それは慣れている」

 

 そして最後に……。

 

「おじいちゃんは、私と一緒に作業です。皆さんが戦う前に、魔法陣を完成してもらいます」

「え、魔法陣? 俺、そんなのやったことないんだけど」

「問題ありません、この“宝石”があります」

 

 アストリアが懐から取り出した宝石。

 それは七色に輝く不思議なものだった。

 これに一体何の効果が?

 

「これは、こめっこ様の開発なされた、月光の魔法の発動のために必要な、魔法陣を作り出す石ころ。おじいちゃんには、これを夜間に置いてきてもらうだけなので安全です」

 

 悲報、俺の仕事は石ころ作業。

 何だか残念な様子を見せる俺に、アストリアは苦笑しつつも、話をまとめる。

 

「と、いうわけで。皆さんの協力でこの作戦は成り立ちます」

「わかりました! それで……決行日はいつで?」

 

 めぐみんの自信満々の様子に、アストリアは微笑んで、

 

「――今夜です」

 

 

 

 

 夜の砂漠はとても寒かった。

 魔王城にテレポートし、以前トラウマになったデューンの大地へ俺たちはいた。

 

「はあ、なんで俺だけがこんな目に」

 

 そんな中に俺は一人、ゴーレムを操縦しながら広大な砂漠の中に点々と、その魔法陣用の宝石を等間隔に配置していた。

 今頃、アクアたち待機組は準備運動という名の女子会を開いていることだろう。

 これ、男のつらいところね。

 

 

 そして暫くが経ち、ようやく指定された場所の一周を終えて、宝石配置を完了させた俺は、皆のいるところに戻る。

 

「おーい、アクア! めぐみん! ダクネス! それにアストリア! 終わったぞー‼︎」

 

 するとそこでは、俺を除いた四人がやはりといっていいか、女子会を開いていた。

 

「ねえ、アストリアちゃん。カズマさんって未来ではどんな感じなの?」

 とアクアが興味津々に尋ねる。

 

 アストリアは少し困ったように笑みを浮かべる。

 

「えっと、おじいちゃんは相変わらず元気ですよ。いろいろと新しいビジネスを始めたりして、周りを驚かせています」

「へえ、カズマさんがビジネスねえ。でもどうせまた楽して稼ごうとしてるんでしょ?」

 

 とアクアが呆れたように言う。

 めぐみんも頷く。

 

「そうですね。カズマは何かと楽をする方法を探すのが得意ですから」

 

 ダクネスは微笑みながら口を開く。

 

「でも、あの男はなんだかんだ言って頼りになるところもある。危険な時には必ず助けてくれたからな」

 

 アストリアはその言葉に深く頷く。

 

「はい、おじいちゃんは本当に皆さんのことを大切に思っています。特にめぐみんさんとは――あっいえ、今のはやっぱりなしで」

「な、なんですかそれは! もっと詳しく教えてくださいよ!」

 

 めぐみんが顔を赤らめながら食いつく。

 

「ごめんなさい、それは禁則事項です。でも、とても仲が良いことは確かですよ」

 

 アクアが不満げに口を尖らせる。

「また禁則事項? 全然面白くないわね。でもまあ、カズマさんのことだから大体想像はつくけど……ってカズマさん、いつからいたのかしら?」

「随分前からいたわ!」

 

 すると皆は顔を背け、ごほんとアクアが咳払いをする。

 

「あら、カズマさんが戻ってきたみたいね。さて、私たちも準備を始めましょうか」

「ええ、デューンを一気に片付けて、さっさと帰って休みたいですからね」

「ああ、皆で力を合わせて未来を守ろう」

「ありがとうございます。おじいちゃんと皆さんなら、きっと成功します」

 

 ……なんか納得いかない!

 

 

 夜空にはまだ月が高く昇り、星々が煌めいている。

 静寂に包まれた砂漠の大地に、俺たちは緊張感を漂わせながら立っていた。

 

 アストリアが前に出て、静かに口を開く。

 

「皆さん、これから作戦を開始します。ご準備はよろしいですか?」

 彼女の目は真剣そのもので、その言葉に全員が頷いた。

 

「えー、アクアさん。ではよろしくお願いいたします」

 アストリアがアクアに視線を向ける。

「まっかせない!」

 アクアは自信満々に胸を張り、杖を高く掲げた。

 

 

「――『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!――」

 

 

 次の瞬間、信じられないほどの大量の水が天空から降り注ぎ、砂漠を一瞬にして洪水のように覆い尽くした。

 

「すごい……」

 

 アストリアが驚きの声を漏らす。

 その目は、アクアの魔法の威力に圧倒されていた。

 

 砂漠の地面にはそれら水がみるみる、吸われていき……。

 

 だが、その時だった。

 足元から微かな振動が伝わってくる。

 

――砂の大地が揺れる。

 

「来たぞ!」

 

 俺は周囲を見渡し、警戒を強める。

 すると、地面が大きく隆起し、無数の巨大なデューンが地中から姿を現した。

 

『⁉︎⁉︎ 縺ャ繧上≠縺ゅs逍イ繧後◆繧ゅ♀縺翫♀縺翫♀縺翫s ⁉︎⁉︎』

『⁉︎⁉︎ 逍イ繧後◆窶ヲ莉頑律縺吶▲縺偵∴縺阪▽縺九▲縺溘だ ⁉︎⁉︎』

『⁉︎⁉︎ 霎槭a縺溘¥縺ェ繧翫∪縺吶h縺会ス樣Κ豢サ ⁉︎⁉︎』

『⁉︎⁉︎ 繝薙?繝ォ!繝薙?繝ォ! ⁉︎⁉︎』

『⁉︎⁉︎ 蜀キ縺医※繧九°? ⁉︎⁉︎』

『⁉︎⁉︎ 螟ァ荳亥、ォ縺」縺吶h縲√ヰ縺」縺。繧翫ヲ縺医※縺セ縺吶h ⁉︎⁉︎』

 

 不気味な咆哮が夜空に響き渡る。

 デューンらは水に濡れた砂を嫌がるように身をよじらせ、苦しそうに頭をもたげている。

 

「狙い通りね! 私の魔法でちょいちょいのちょいよ!」

 

 アクアが笑みを浮かべる。

 そう、アクアの役割はデューンを誘き出すための呼び水だったのだ。

 

「よし、次は私の番だ!」

 ダクネスが大剣を構え、一歩前に出る。

 

「来い!『デコイ』!」

 

 ダクネスがスキルを発動すると、デューンたちの目が一斉にダクネスに向けられる。

 奴らは獲物を見つけたかのように巨大な口を開き、彼女に向かって突進してきた。

 

「ダクネス、無理するなよ!」

 俺が叫ぶが、彼女は振り返らずに笑みを浮かべる。

 

「大丈夫だカズマ! これが私の役目だからな!」

 

 デューンたちは次々とダクネスを追いかけていく。

 その背後で俺は弓矢を構え、狙いを定める。

 

「ぬっ『狙撃』っ!」

 矢がデューンの一体の口内に突き刺さる。

「さらに! 『ティンダー』!」

 先頭にいたデューンの口内が爆発した、

 

『⁉︎⁉︎ 繝後ぇ繝ウ?√?繝?シ√?繝?シ ⁉︎⁉︎』

 

 どしんと、その勢いで倒れたやつは、後続を道連れにして大地に衝突する。

 つまり、俺がやったことは、ダイナマイトを奴の口で爆ぜさせることだった。

 

「よし、これで少しは時間が稼げた!」

 

 俺は息をつきながら、遠くで待機しているめぐみんとアストリアの方を見る。

 二人は月が最も高く昇る瞬間を待ちながら、魔法の準備を進めていた。

 

「おいアストリア! あとどのくらいかかりそうだ⁉︎」

 

 俺が声を張り上げると、アストリアは焦りながら答える。

 

「あと数分で魔法の構築が完了します! どうかそれまで持ち堪えてくだださい!」

「しょうがねーなー!」

 

 俺は再び矢を番え、デューンたちに向けて放つ。

 しかし、彼らの数は一向に減らない。

 

「カズマ! デューンが増えてきているわ!」

 

 アクアが警告する。

 アクアはすでに魔力をほぼ使い果たし、息を切らしている。

 

「おいアクア! 今すぐダクネスと一緒に避難してくれ! 俺に策がある!」

「わかったわ! 『パワード』‼︎」

 

 俺の指示に従って、アクアが自分に身体能力向上魔法をかけ、囮のダクネスをおんぶして安全圏まで避難した。

 それを確認してから俺は……!

「いくぞ! 一発数千万エリスの力を思い知れ‼︎」

 

 

「――『エクス・プロージョン』‼︎――」

 

 

 爆裂魔法が炸裂し、巨大な爆風がデューンたちを飲み込む。

 炎と煙が立ち上り、辺り一面が光に包まれた。

 苦しみもがくその姿は、これで大きな時間が稼げたことを示すには十分だった。

 

『『『『『⁉︎⁉︎ 縺薙l繧ゅ≧繧上°繧薙ロ縺医↑繧「 ⁉︎⁉︎』』』』』

 

 デューンたちは苦しみ、もがき始める。

 その姿を見て、俺は急いでアクアたちの元へと走った。

 

「カズマさん、無茶するんだから!」

 アクアが怒りながらも、俺を支えてくれる。

 

「すまん、でもこれで時間は稼げたはずだ!」

「おじいちゃん! 準備ができました‼︎」

 

 遠くからアストリアの声が聞こえる。

 彼女とめぐみんが魔法陣の中央に立ち、こちらに手を大きく振っていた。

 

「カズマ、いつでもいけますよ!」

 めぐみんもそう言っている。

 

「よし、頼んだぞ!」

 俺は彼らに向かって親指を立てる。

 

――夜がふけ、月が真上に高く昇る。

 

 静寂が辺りを包み、風が一瞬止まったように感じる。

 その中で、めぐみんとアストリアが目を閉じ、深く息を吸い込む。

 

 二人は手を繋ぎ、魔力を高めていく。

 足元の魔法陣が輝きを増し、空気が震える。

 

「行きますよ、めぐみんさん!」

「ええ、アストリア!」

 

 二人の声が重なり、力強い詠唱が始まる。

 

 

「「――魔法陣『“月光崩壊(ルナティック・バースト)”』発動!――」」

 

 

 その瞬間、月光が一点に集まり、眩い光の柱となって天から降り注ぐ。

 光は砂漠全体を包み込み、まるで昼間のような明るさだ。

 デューンたちは光に触れると、苦悶の叫びを上げて身体をよじらせる。

 

『『『『『『†† 謔斐>謾ケ繧√※ ††』』』』』』

 

 彼らの体が徐々に崩れ始め、砂となって風に舞い上がっていく。

 光はしばらくの間続き、やがて静かに消えていった。

 そして――それが収まった頃には。

 

「すごい……」

 

 俺たちは言葉を失った。

 先ほどまでデューンたちが蠢いていた場所には、ただ静かな砂漠が広がっているだけだった。

 

「やりましたね、おじいちゃん!」

 

 アストリアが笑顔でこちらに駆け寄ってくる。

 その顔には疲労の色が見えるが、達成感で満ち溢れていた。

 

 

 しかし、そのときだった。

――砂塵が静まったかに見えた瞬間、地面が再び激しく揺れ始めた。

 

「まさか、まだ生き残りが……!」

 ダクネスが驚愕の表情で叫ぶ。

 

 見ると、巨大なデューンの一体が最後の力を振り絞って地中から姿を現した。

 その姿は他の個体よりも一回り大きく、明らかにこれまでの敵とは異なる威圧感を放っている。

 

「こんなのって、聞いてないわよ! ねえカズマさん‼︎」

 アクアが焦りながら後退する。

 

 めぐみんとアストリアは先ほどの強大な魔法で魔力を使い果たしている。

 今は立っているのもやっとの状態だ。

 

「くそ、もう手がないぞ……!」

 

 俺は必死に頭を回転させるが、策が思いつかない。

 デューンは巨大な口を開け、今にも俺たちを飲み込もうとしている。

 

「カズマ、逃げましょう!」

 めぐみんが弱々しく叫ぶ。

 

「でも、この距離じゃ逃げ切れない……!」

 

 絶望が胸を締め付ける。

 

 だがそのとき。

 

 

――希望が現れた。

 

 

 

 

「ふはははっ! 相変わらず窮地に立たされておるようだな、小僧!」

 

 どこからともなく聞き慣れた声が響いた。

 振り向くと、黒色のスーツをまとった仮面の男、バニルが悠然と立っていた。

 

「ば、バニル!」

 俺は驚きで思わず叫んだ。

 

「お前、どうしてここに⁉︎」

 

 俺の問いかけに、バニルは仮面の奥で不敵な笑みを浮かべているようだった。

 その目が怪しく光り、何か企んでいるように見える。

 

「未来の契約者からのお願いであるからな。仕方なく助けに来てやったのだ」

 

 俺は首をかしげる。一体何のことだ? 未来の契約者って何なんだ?

 

「細かいことは気にするな。さあ、見ておれ!」

 

 バニルはそう言い放つと、ゆっくりとデューンに向き直った。

 彼の全身からは尋常ではない魔力が溢れ出している。

 

「ちょっと、待ちなさい小汚悪魔! あんた一体何をするつもり⁉︎」

 

 アクアが警戒心を露わにして叫ぶ。

 しかし、バニルは全く気に留める様子もなく、淡々とした口調で呪文を唱え始めた。

 

 

「――『神話大戦専用・超・バニル式殺神光線』!――」

 

 

 その瞬間、黒いエネルギーがバニルの目元に集まり始めた。

 闇のように深いそのエネルギーは、見る者に底知れぬ恐怖を与える。

 

「な、なんですかこの魔力量は……!」

 

 めぐみんが息を呑む。

 彼女でさえも感じたことのない圧倒的な力がそこにはあった。

 

 エネルギーは一瞬にして凝縮され、次の瞬間。

 凄まじい速度でデューンに向かって放たれた。

 

 すると、文字通り。

 デューンがおもいっきり爆ぜた――。

 巨大な体が粉々に砕け散り、砂漠の風に乗って消えていく。

 

「な、なんだこの力は……!」

 

 俺たちはその圧倒的な光景に言葉を失った。

 まさかバニルがここまでの力を持っているとは……。

 

 そして、デューンは完全に消滅し、砂漠には再び静寂が戻った。

 風だけが静かに吹き抜けている。

 

「ふははっ! 吾輩が本気を出せばこの程度造作もないことよ」

 

 バニルが大きな声で笑いながら自慢げにそう答える。

 

「た、助かった。ありがとう、バニル。でもどうしてここに……?」

 俺はもう一度問いかける。

 

「言ったであろう? 未来の契約者からのお願いであると。まあ、これでやつとの借りは返したことになるな」

「おい! 未来の契約者って、一体誰なんだ?」

 

 さらに問い詰めようとすると、バニルはクルリと背を向けた。

 

「さあな。それよりも小僧、これからも精進するがよい」

「待てよ、バニル! お前、まだ何か隠してるだろう!」

 

 俺は一歩踏み出し、彼の背中に向かって叫んだ。

 しかし、バニルは立ち止まることなく歩き出す。

 

「ふははっ! 吾輩の視る未来では、まだまだ面白いことが起こりそうであるからな。せいぜい楽しませてもらいたいものである!」

「ちょ、ちょっと待てってば!」

 

 俺の呼び止めも虚しく、バニルの姿は砂漠の闇に溶け込むように消えていった。

 

 …………。

 

「何なのよ、あの悪魔! いいとこ取りして勝手に去っていくなんて!」

 アクアが不満げに腕を組む。

「でも、助けてくれたのは事実だ。感謝しておこう」

 ダクネスが複雑な表情で呟く。

「それにしても、未来の契約者って誰のことなんでしょう?」

 めぐみんが首をかしげる。

「さあな。だけど、今は無事にデューンを倒せたんだ。それで十分だ」

 俺は肩をすくめて答えた。

 

 

 

 

 翌朝、砂漠の夜が明け、空は淡いオレンジ色に染まっていた。

 柔らかな風が砂を撫で、昨夜の激戦を思わせぬ静けさが辺りを包み込んでいる。

 

 俺は一人、近くの高台に腰を下ろしていた。

 デューンとの戦いの疲労はまだ残っているものの、勝利の余韻と安堵感が少しずつ広がっている。

 するとそこに、目を覚ましたアストリアが微笑みながら俺に近づいてきた。

 

「おじいちゃん、本当にお疲れ様でした」

 

 彼女が感謝の言葉を口にすると、俺は寝ぼけ眼をこすりながら返事をした。

 

「いや、ほんとにな。無事に片付いてよかったよ……それにしても、こんな大冒険を朝焼けと一緒に振り返るのも悪くないもんだな」

「ええ、本当に。素晴らしい冒険でした」

 

 アストリアも隣に座り、そう静かに呟く。

 

「その、俺のことをおじいちゃんって呼ぶのはな。禁則事項なんだろうけど、こっそり教えてもらうことって出来ないか?」

「ふふっ、ダメです」

「そっかあ……」

 

 俺は項垂れて見せる。

 すると、アストリアが、

 

「でも、一つだけ確かに言えることはありますよ」

「ん? なんなんだ?」

「それはですね、おじいちゃんたちのパーティーが、未来では『伝説』と呼ばれていることです」

 

 伝説、伝説かあ……。

 それは恥ずかしいような、誇らしいような気もする。

 

「アストリア……もう帰るのか?」

「あら、バレちゃいましたか?」

「そりゃ、こんな身体から光が出てることなんて普通ないからな」

 

 てへっと、拳を頭にのせて微笑む彼女。

 俺はアストリアの微笑みを見つめた。

 

「本当に行っちゃうのか?」

 

 彼女は静かに頷いた。

「はい。私が戻らないと、未来がどうなってしまうか分かりませんから」

「そっか。でも、もう少し一緒にいてもいいんじゃないか?」

 

 俺が未練がましく言うと、アストリアはクスリと笑った。

「おじいちゃん、寂しがり屋さんですね。でも、大丈夫ですよ。私はいつでもおじいちゃんの心の中にいますから」

「なんだよ、それ。まるで別れの挨拶みたいじゃないか」

 

 そう言いながらも、俺は胸の奥が少し痛むのを感じていた。

 彼女はゆっくりと立ち上がり、朝日に照らされた砂漠を眺めた。

 

「この景色、忘れません。おじいちゃんたちと過ごした時間も、ずっと大切な思い出です」

「アストリア……」

 

 俺も立ち上がり、彼女の隣に並ぶ。

 

「未来で、また会えるのかな」

 その俺の呟きに、彼女は少し考えるように視線を遠くに向けた。

 

「きっと、また会えますよ。その時はもっと幼いでしょうが」

「楽しみにしてるよ」

 

 アストリアは俺の方を向き、真剣な表情で言った。

 

「おじいちゃん、これからも仲間たちと一緒に頑張ってください。未来はおじいちゃんたちの手にかかっていますから」

「分かってるよ。俺たちの冒険はこれからも続くからな。お前も元気でな」

 

 アストリアは嬉しそうに微笑んだ。

 

「はい。それでは、そろそろお別れです」

 彼女の体が淡い光に包まれ始める。

 

「待ってくれ、最後に一つだけ」

「何ですか?」

 

 俺は少し照れながら言った。

 

「お前が孫だってこと、俺は誇りに思うよ」

 

 その言葉に、アストリアの瞳が一瞬うるんだように見えた。

 

「ありがとうございます、おじいちゃん。それじゃあ、さようなら」

「ああ、またな」

 

 光が強まり、彼女の姿が次第に消えていく。

 最後に見えた彼女の笑顔は、とても穏やかで優しかった。

 

 

 静寂が戻り、朝の風が砂をさらさらと運んでいく。

 俺はしばらくの間、その場に立ち尽くしていた。

 

「……よし」

 

 深呼吸をして、気持ちを切り替える。

 

「さて、みんなのところに戻るか」

 

 高台から見下ろすと、仲間たちがこちらに手を振っているのが見えた。

 俺は笑顔で手を振り返し、足早に駆け出した。

 

 

 朝日に照らされた砂漠の大地を、俺は仲間たちと共に進んで――。

 

―END―

 




最後までお読みいただき、ありがとうございます

誰かに少しでも面白いと思って頂けたのなら、幸せです

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。