スーパーモモイストレート!! 作:空にかかる野正レイ、野正レインボー
「野球バトルだオラァッ!!!」
「う、うわぁぁあああん!!」
ミレニアム郊外。
ゲーム開発部の
「こいオラァッ!」
モモイは右手に握る
左手の茶色いグローブが重い。
「うっ、本当に私が投げるの……?」
グローブを構えるユズまでの距離はそこそこある。
まず、そこまでボールがノーバウンドで届くかどうかすらわからない。
「おら! 早く投げろオラァ! ピッチクロック導入してやろうかオラァッ!!」
「う、うぅ……」
威嚇してくる不良生徒から目を逸らすようにグローブの中に視線を落とした。
「……ど、どうしてこんなことに……」
モモイの脳裏にこれまでの出来事をがフラッシュバックする。
新作ゲームのアイデアが思い付かなかったこと。
そのためインスピレーションを求めていたこと。
ヒントになるかもとミレニアムの郊外に遠出してみたこと。
そこで考え事をしながら歩いていたら、誰かとぶつかってしまったこと。
そして、口論の末にぶつかってしまった相手達との野球バトルに発展したこと。
「……うん? 何で野球をやることに……?」
「早くしろってんだよオラァッ!」
「ひぇっ!」
野球バトル。
ピッチャーのボールを受ける
ピッチャーの後ろに守る内野手、さらにその後ろを守る外野手が一人ずつ。
守備側は打者全員と1回ずつ対戦する。
対戦が一通り終わったら攻守を
ストライクやボール……いわゆる
簡単なルールだ。簡易版野球といったところだろう。
「来いやオラァ……!」
「もうどうなっても知らないんだからっ!」
半ばヤケになってモモイは投球モーションに入った。
野球なんて体育の授業でしかしたことがない。
素人特有の何となくイメージで腕を振り上げる。
左足を上げて踏み出すと同時に体重移動。
しなやかな右腕が、唸りを上げた。
───スパン!
『ストライク!』
「……あ?」
最初は見逃し。
指から
「ど真ん中じゃんよ!」
「おいおいおい~! 様子見なんていらねぇだろ~?」
「安定思考ぽよ! ゲームなら初球◯は付かないタイプぽよ!」
打席の外から不良生徒達が野次を飛ばす。
彼女らは今打席に立っている打者と一緒に歩いていた友人たちだ。
ちょうどモモイ達ゲーム開発部と不良生徒らの人数が同じだったのも、野球バトルが発生した理由だ。
無我夢中でモモイは第二球を投げた。
「えいっ!」
「はやっ───」
反応が遅れた。
不良生徒がバットを振り出すが、もう遅い。
『ストライクツー!』
「舐めプじゃんよ!」
「おいおいおい~! 三振したら特製獄炎ドーナツ奢りな~!」
「ハーフスイングでスイング判定なんて一番ダサいぽよ! 中庸な選択を好む者は野球においては敗北者にしかなれないぽよ!」
打席にも入っていない外からの野次に不良生徒は舌打ちをした。
「(クソがオラァ……こいつ、トーシロの割には速ぇ球投げんじゃねぇかオラァ……)」
「な、何回投げれば良いの?」
「スリーストライクまでだよ、お姉ちゃん!」
「(さっきはちっと油断したがオラァ……速ぇと分かってんなら早く振りゃあ良いだけだろオラァ……!)」
「よし、行くよっ」
ざっ。
モモイが足を踏み出した。
不良生徒は速球を打つ時のタイミングで構えた。
「オラァッ!」
『ストライクスリー! バッターアウト!』
「……クソがッ!!」
高めで三振。
速球に
「カッコ悪いじゃんよ」
「おいおいおい~! 奢り確定な~!」
「あんな対して
「は? 速くねぇって……」
何かを言いかけた不良生徒だったが、話す間も無く次の生徒が打席に入った。
「……モモイ、次も三振、取ろう」
「ここでセーブしますか、モモイ?」
「お姉ちゃん、凄い!」
「よ、よ~し!」
第一打者を三球三振に抑えて喜ぶゲーム開発部の面々。
しかし、そんなモモイ達を打席の生徒は鼻で笑う。
「さっさとケリを付けてやるじゃんよ」
「えいっ」
『ストライク!』
「……あれ」
『ストライクツー!』
「意外と速いじゃ───」
『ストライクスリー! バッターアウト!』
二者連続三球三振。
投げた本人なのに、一番困惑しながらモモイがガッツポーズ。
「う、うぉおおお!? 何かいける!」
「モモイにこんなスキルツリーがあったなんて……」
「ほ、本当にお姉ちゃん……?」
何が起こったのか。打席を離れながら三振に終わった打席を振り返る。
最初に打席に入った生徒が近付いてきた。
「あれは……」
「反応が遅れるんだよオラァ……!」
「それじゃんよ!」
反応が遅れる。
「おいおいおい~! あの雑魚二人を抑えたからって調子に乗るな~!」
速い球が来ると分かっているのに、振り遅れる。
『ストライクスリー! バッターアウト!』
純粋な数値での球速以上の"速さ"。
「な、何が起こってるぽよ!?」
『ストライク!』
「こんなド素人に……」
『ストライクツー!』
「全員三振なんて……」
『ストライクスリー!』
「……あり得ないぽよ!!」
それはいうなれば、天性の才能。
モモイの圧倒的なピッチングの前に、勝負を挑んだ側である不良生徒らは絶句していた。
そして当の本人。モモイはユズからの返球にすらも気付かず立ち尽くしていた。
「わたしが……これを……?」
「お姉ちゃんー!」
「うぇっ!? み、ミドリ!?」
ぼーっとしていたモモイに妹の
キャッチャーのユズと外野を守っていた
「クエストをひとつクリアしました!」
「モモイ……凄いよ!」
「わ、えへへ……それほどでも……」
今度はゲーム開発部が攻撃側だ。
「野球は0点で終わったら負けじゃねぇぞオラァ……!」
「そうじゃんよ! 得点を取った方が勝つゲームじゃんよ!」
「おいおいおい~! ここで抑えればいいだけの話なんだな~!」
「そうぽよ! こんなど素人の偶然がいつまでも続くわけがないぽよ!」
「光よ!」
快音と共にボールは外野の頭を越え、空のかなたへと消えていった。
アリスの特大ホームランだ。
「は、はは……こんなん無理じゃんよ……」
「やりました! Victoryです!」
ピッチャーのポジションにいた生徒が地面に膝を付いた。
完膚なきまでのバッティング。
ゲーム開発部の勝利だ。
「おいテメぇらオラァ!」
「うぇっ!?」
一番最初に打席に入っていた生徒がモモイに話しかける。
目が丸になりながらモモイは振り向いた。
「どこのチームだオラァ……」
「えっと……ちーむ? 私たちはゲーム開発部ってところなんだけど……」
「覚えたぞオラァッ!!」
「うぇええっ!?」
不良生徒はビシッとモモイを指差した。
「今度は必ずブッ殺してやんぞオラァッ! 覚悟しとけオラァッ!!」
「う、うわぁぁああん!」
それを言うと不良生徒はくるりと背中を向けて歩いていく。
「こ、殺すって……野球のことだよね。野球のことだよね!?」
「お姉ちゃん、どんまい」
「ミドリっ!?」
とにかく勝てて良かった。
緊張感が一気に抜ける。
「にしてもお姉ちゃんが『何かのヒントになるかもしれないから』って持ってきた
「モモイには未来が視えているのですね!」
「ふっふっふっ……我が名はモモイエピオンだよっ!」
ゲーム開発部の面々は突然の事態に困惑しながらも、無事にゲリライベントを乗り越えたのであった。
「……あれ、戻ってくる」
ユズが気付いた。
不良生徒達が戻ってきていた。まだ何かあるのだろうか。
彼女らの手には、先程まではなかった金属の棒のようなものが握られていた。
「アリスわかりました! リトライですね! PRESS 'R' TO TRY AGAINです!」
「や、野球じゃなくて、リアルファイト……かも……」
「どう見てもゲームジャンルが変わってるけど!?」
「野球の話じゃなかったみたいだね、お姉ちゃん」
ガチャ。
恐怖に震える3人を尻目にアリスが自らの武器『光の剣:スーパーノヴァ』を構えた。
身の丈程もある特注のレールガンだ。
「おいお前らオラァ……!」
「な、なにっ!?」
不良生徒が金属の棒のようなものを地面に振り下ろした。
「グラウンド整備はこっちがやっておくじゃんよ!」
「おいおいおい~! こっちから仕掛けたしお前らは帰っても良いんだな~!」
「グラウンドをいつでも使用できるものと思うのは選手の傲慢ぽよ! 管理者や責任者、引いてはグラウンド周辺の近隣住民の方々の協力なくして公共の運動場で野球はできないぽよ! そういった方々への感謝や道具を大切にする心持ちがない者はたとえ技能レベルが高くても野球選手としては論外もいいとこぽよ!」
グラウンド整備までが野球だ。
練習前の準備や、練習後の後片付けを怠る者は認められないのが野球という世界。
目と目が合ったら程度の些細なことで野球バトルを吹っ掛けてくる通り魔的存在だろうと、それは例外ではない。
「……なかなか良い肩をしてるねぇ~」
ぽかーんとグラウンド整備の様子を眺めていると、背後から声をかけられた。
青いキャップの後ろには緩やかなピンク色の髪。下にはなだらかな体型。
「おじさんと野球、やらない?」
くいっと押し上げたキャップのツバの下。
金色の瞳がまっすぐにモモイを射抜いていた。
東映特撮やKey作品でお馴染みのカス野球回を目指して