スーパーモモイストレート!! 作:空にかかる野正レイ、野正レインボー
因数分解するわよ!」
モモイ「因数分解って何なの?
勝手に分解しないでよ!
自然のままにしておいてよっ!」
「おじさんたちの学校……アビドスは今大変なことになっていてね」
「アビドスって、あの砂漠化が進んでいる……?」
事情は知ってるようだね、とピンク色の髪を揺らしながら
あの後、ゲーム開発部の4人はこのホシノに連れられてアビドスに向かう道を歩いていた。
「アビドス高等学校は砂漠化の影響でどんどん生徒数が減っていって、もう廃校寸前だって噂が」
「大体そんな認識で合ってるよ~」
ミドリの言葉にホシノは頷いた。
アビドス自治区にある高等学校、アビドス高等学校はどんどんその規模を縮小している。
歯止めの効かない砂漠化、見切りをつけて出ていく生徒、重なる借金、増えるゲーム差……アビドスは多数の問題に直面していた。
「……ゲーム差?」
ゲーム差。
「とうとう生徒数が5人になっちゃってね。試合ができなくなっちゃったんだよ」
「あ、あの、何の話……ですか……?」
「うへへ~、野球の話に決まってるよ~」
言わずもがな野球は最低9人の選手が必要になる競技だ。
漸次的な生徒数の減少によって、とうとうアビドスの生徒数はその最低ラインを割ってしまった。
「な、何で廃校の話から野球の話に……」
「今度行われるアビドス
アビドス内で毎年開かれている地区大会だ。
「そこで優勝できないと廃校になっちゃうんだ」
優勝できなければ廃校。アニメやゲームみたいな話だ。
だが、現実に起こっているとなると。実際に直面しているとなると、面白くもなんともないだろう。
「(おぉ、新作のネタに使えるかも!)」
当の本人達以外は。
この状況で当事者を目の前にしてテンションが上がるモモイは不謹慎というかデリカシーの程度がカスだった。
「お姉ちゃん、何かシリアスな気配を感じるけど……」
「インスピレーションだよ! これこそ私が求めていた刺激……!」
「お姉ちゃん……」
無言の時間が続いた。
気付けばもう学校が目視できる距離まで歩いていた。
「ここがおじさんたちの学校、アビドス高等学校だよ」
ようこそって言った方が良いのかな、と先頭を歩いているホシノは振り返った。
「メジャーリーガーを連れて来たよ~」
「うぇぇぇええっ!?」
ホシノの大声に反応して、グラウンドにいた4人の生徒の視線がモモイに突き刺さった。
「あ、お帰りなさい、ホシノ先輩」
赤縁の眼鏡をかけた
「これがメジャーリーガー? そんな凄い
「セリカちゃん、そんなツンツンしちゃ『めっ』ですよ☆」
つんけんとした態度を取る黒髪の
知らない人達の世界に来てしまった。モモイもミドリもどう振る舞えば良いのかわからず、まごまごとしていた。特に内向的なユズは魂が消滅したかのように力無く振動していた。
矢面に立たされているモモイに銀髪のクールな少女が近寄った。モモイは震えた。
「ん、うちのチームメイトがごめん。
「うぇっ、うん。才羽モモイ、よろしく。ポジションとかは特にないんだけど……」
モモイの声に反応してノノミが会話に加わってきた。
満面の笑顔が逆にそこはかとないプレッシャーを放っている。
「
「いや、私達は野球なんて体育でしかやったことなくて……」
後方腕組ムーヴをかましていたセリカだったが、モモイの言葉に思わず叫んだ。
「はぁっ!? 素人ってこと!?」
遠くからセリカがずんずんと詰め寄る。
ミドリがモモイの身体を静かに盾にした。
「野球経験者じゃないの?」
「いや、私達はその、普段はゲームを作ってたりしてるんだけど……」
一般的に水泳部と聞けばまず水泳をする部活だろう。同様にサッカー部はサッカーをする部活だろうし、新聞部は新聞を作る部活であろう。ならばゲーム開発部という名前の部活が何をする部活なのかは類推するに易いだろう。
間違っても路上でぶつかってしまった相手と野球バトルをする部活ではない。
「ホシノ先輩を疑うわけじゃありませんが、未経験者の方を連れてきたのにはどういう意図が……?」
アヤネの疑問にホシノは曖昧に笑って答えた。
「それじゃあ、勝負でもしてみよっか」
「しょう……」
「……ぶ?」
「な、なんでぇ……」
勝負。
その言葉にセリカの猫耳がピクッと動いた。
さらにホシノは続ける。
「ここにいるモモイちゃんは凄いピッチャーでね~」
「えっ!?」
「へぇ、やってやるわよ! ボッコボコにしてあげるから!」
「うわぁぁあああん!! なんでぇっ!?」
モモイは背後に目線でSOSのサイン。
「イベントバトルです! 勝ちましょう!」
「お姉ちゃんならできるようんきっと」
チャレンジ失敗。判定は無情である。
かくしてモモイとセリカの勝負が行われることになった。
勝負は一打席。
バッターのセリカはボールを外野に運べたら勝ち。
対してピッチャーのモモイは、セリカを抑えれば勝ち。
四死球は打者の勝利。
単純なルールだ。
捕手はユズ。
審判役はひとまずアヤネが務めることになった。
「な、なんでこんなことに……」
「学校の外まで飛ばす!」
「ひぇぇ……」
勝負開始の合図がなされた。 モモイは正直なところ、好戦的なセリカにビビっていた。前を見るとセリカがじぃっと見ていることに気付いた。思わず目を逸らしてしまう。
セリカはマウンドに立つモモイの様子を観察する。
「うぅ……」
「さっきみたいな感じでやれば大丈夫だよ、お姉ちゃん」
「難易度ハードのクエストです。バフを乗せていきましょう!」
「バフ……砂とか?」
「反則じゃないかな」
「("戦力"ってより"人数合わせ"にしか見えないけど……)」
マウンドの上でまごまごしている様子からは、到底野球ができるようには見えない。助っ人に来てくれただけの素人だろう。
セリカはそう結論付けた。
「い、行くよ! えいっ!」
───スパァン!
「……は?」
「す、ストライクです!」
乾いた気持ちいい音がグラウンド中に響いた。
一拍遅れてアヤネがストライクをコール。
初球は真ん中のストレートを見逃し。
「いくら実力を見るテストだといっても、初球を見逃すなんてらしくないですね、セリカちゃん」
「うへへ、本当にそれだけかなー?」
「と、いうと……?」
「見てればわかるよ」
セリカは打席を一旦離れた。
先程の一球が脳裏に焼き付いて離れない。
軽く素振りをしながら考える。
「(油断していたわけじゃない。ホシノ先輩がわざわざ連れて来た人材……でも、私がストレートに反応できなかったなんて!)」
もう一度、モモイを見た。まだ緊張が残りながらも、それでも投げる前とはモモイの顔つきはまるで違う。キッと見つめた視線はまっすぐキャッチャーであるユズに向かっている。
セリカは深呼吸をひとつしてから打席に戻った。
「来い!」
「行くよ! うりゃ!」
モモイが足を踏み出した。ぐっと反った胸に力が溜まって、一気に放出される。セリカは若干バッティングのタイミングを早めに身体を動かした。
「ファウル!」
「振り遅れた……!?」
第二球は、外側のストレートに振り遅れて一塁側へのファウルゴロ。芯も外れており、完全に振り遅れている。
「ストレートに強いセリカちゃんが押されてる……!?」
「ん、そんなに速くはなさそうだけど」
打席のセリカはファウルの時の感覚に違和感を覚えていた。
初球、反応が遅れて見逃してしまったことを踏まえ、二球目はいつもよりも気持ち早めにバッティングタイミングを取っていた。それなのに、振り遅れた。
「(芯で捉えたと思ったのに、ヘッドの方に当たった……スライダー方向に変化した……?)」
しかし、振り遅れた割に重さは感じなかった。
シロコが呟いたように、純粋な球速はそこまで速くないとセリカは考える。
恐らく球速以上にモモイのボールを速い感じているのだ。
「だとしても、わかってんなら遅れないようにするだけよ!」
バットを一回転させて、気合いを入れなおした。
今度こそは打つ。
セリカの気迫でヘイローが震えた。
ユズが座り直した。
「三振に抑えてやる。行くよっ!」
「今度こそッ!」
指先から
白球は、一直線にキャッチャーの元へ向かう。
「(思った以上に伸び───)」
「……ナイスボール、モモイ」
セリカのバットが空を切った。
「す、ストライクスリー! バッターアウトです!」
モモイがガッツポーズを上げた。
「よぅし!」
勝負はモモイが三球三振で制した。
対戦を終えたセリカは自身の打席をフィードバックしていた。
最後の球に振り遅れた理由を探る。
「球持ちが良いわね」
悔しそうな表情をしたセリカにノノミが同意した。
「正解です☆」
出所が見えにくい。
モモイの先天的な身体の柔軟性。力一杯投げようと限界まで身体にタメを作ろうとするフォーム。
そこから生まれたのは、鞭のようにしなる腕が限界まで身体の後ろに隠れる『出所の見えにくい』投球フォーム。
「リリース位置も回転も毎回バラバラです」
「二球目、完全に捕らえたと思ったのにスライダー気味に外された。天然モノのカットボール……!」
柔軟な手首。握力が弱い非力な身体でより良いボールを投げるために、手首のスナップが通常の人より強くなっている。そこから繰り出されるのは、回転数の多い直球。
「(でも最後の球……あの球は……)」
投手をやれる程の肩の強さ。
天性の柔軟性から繰り出される出所の見えにくいフォームと回転数の多いストレート。
まさしく、センスの塊であった。
「アリスは技名を付けるべきだと提案します」
「確かに! 私って凄いから……」
「お姉ちゃん、調子に乗りすぎだよ。テストだから手加減してくれたんだよ」
「……そんな風には見えなかったけど」
わいわいと盛り上がるゲーム開発部を眺めながら、ホシノはひとり不敵に笑う。
「メジャーリーガーどころか、世界一の投手になれるよ……モモイちゃんなら、ね」
「キヴォトスクンポケットR2!?!!?!?」
アビドスのグラウンドにモモイの大声が響いた。
「お姉ちゃん、声が大きいよ」
「だって! だって! キヴォトスクンポケットR2だよ!? R2!!」
キヴォトスクンポケット。
キヴォトス全土で大人気の野球ゲームの定番『実況キヴォトスプロ野球』の携帯ゲーム機版。
ゲームジャンルは『野球バラエティ』。ストーリーモードであるサクセスに気合が入りすぎていることで一躍有名になったゲームだ。ギャルゲーよろしくの彼女攻略、全体的にハード難易度、ブラックなネタまで取り入れた無法な面白さ、全ての要素が綿密に繋がる精巧なシナリオ、超能力者や裏組織、果ては宇宙冒険にホラーまで多種多様すぎる変幻自在のストーリー。そして、それら全てを最終的に野球で解決する熱い(?)展開。まさに『野球バラエティ』としか言いようがない唯一無二のゲームだ。
長らく続編が出ておらず、シリーズのファンは亡霊のように新作を求め続けている。
「R2だよ! 続編だよ!? まだ発表されてないよね!? 何で!!?」
「アビドス杯の主催はカイザーコーポレーション……『キヴォポケ』の開発元の『ONAMI』は最近カイザーグループに買収されたから……」
「う、うぉおおおおお!!」
「モモイがスーパーハイテンション状態に……! 攻撃力2倍、被ダメージ半減!」
どうやらアビドス杯の優勝の副賞にキヴォポケの初回限定版が付いてくるらしい。
「ゲーマーとして……いや、キヴォポケのファンとしてこれは絶対に逃せない!」
激しく燃え上がるモモイを半眼で見ながらミドリはふと首を傾げた。
「あれ、でも何でまだ発表されていない優勝景品のことを……?」
「おじさんにちょっとコネがあってね~」
「思いっきり
「うへへ~」
無茶苦茶不正だった。
しかし、公式発表よりも先に情報を掴んでいたからこそ、ホシノはモモイ達を捕まえることができたのだろう。発表後ならモモイは自力で大会への出場を検討していたことは想像に難くない。
「で、どうかな? おじさんたちと一緒に優勝を目指してみない?」
「やるよっ!」
「ミレニアム・アビドス連合チームの完成ですね!」
モモイの即答。
こういう迷いのないところははモモイの長所でもあり、短所でもある。
モモイは指を鳴らした。
「うん、よし! 次回作は野球バラエティで決まりだよ!」
「お姉ちゃんって馬鹿だよね」
「直球!?」
言葉の上ならミドリの直球もまた鋭いのであった。
「おじさんたちが優勝しないといけない理由?」
「……教えてくれると、嬉しい……です」
モモイ達がアビドスの面々と自己紹介を兼ねた雑談をしている。その後ろで後方腕組みムーヴをしていたホシノにユズが問いかけた。
「今のアビドスには約9億の借金があって、おじさんがドラフト1位指名を受けたらその借金を返せる。それだけだよ」
アマチュアがプロ入りするには、プロの球団からこのドラフトで指名を受けなければならない。
毎年機体の新人達がここでプロ入りし、それよりも遥かに多くの人達がここで指名されずに夢を断たれる。
各球団が欲しい選手を1位から順番に指名していく。当然、上位指名の方が球団からの期待度も契約金も高い。
特に「こいつは何としてでも手に入れたい」というレベルの人材は、ドラフト会議の一番最初に名前を挙げられ"ドラフト1位"と呼ばれる。
ホシノが狙っているのがそれだ。
「で、でもドラフト1位だからってルーキーが9億の契約なんて……」
「うん、当然不可能だよ~。それでも最高金額なら1億。二年目以降に入ればもっと高い年俸をもらうことだってできる」
ドラフト1位レベルの人材……ドラフト1位候補は当然、各球団で競合になる。それも上限金額の1億が付くほどの選手なら尚更。
しかし、1億での契約が見込める選手なら大会でのチーム成績はほとんど関係ないはずだ。
「カイザーからお誘いがあってね。契約を結んだんだ」
「契約……?」
「
「そ、それって……」
言葉が出なかった。とんでもないギャンブル契約である。それが意味するところはつまり、それほどまでにホシノが規格外ということだ。
しかし、ユズの関心はそこではなかった。それならなぜアビドス杯で優勝しなければいけないのかという疑問が残る。確実にホシノを獲得したいのなら、大会での成績は低い方が良いはず。
「向こうさんも一枚板じゃないってことだねぇ~」
ホシノをスカウトしたのはカイザーグループの球団である『アビドス カイザーオアシーズ』の監督。
しかし、『アビドス カイザーオアシーズ』の首脳陣とカイザーグループ全体の統括をしている理事長の間には確執があるらしい。
停滞的な思考を持つカイザーグループの理事長は、これまで実力をセーブしていたため大会での実績のないホシノをドラフト1位で獲得することに抵抗があるようだった。
「だから、最後に口実を作る」
アビドス杯はちょうどいいのだ。
カイザーグループの傘下であるONAMI主催。情報は簡単にコントロールできる。他自治区のライバル企業にかぎつけられるのは遅くなる。それでいてドラフト1位で取るための分かりやすい功績も作れる。
「で、でも、何でわざわざミレニアムの私達を……?」
「アビドスに人がいないからだよ~」
大会参加申請後のメンバー入れ替えは認められない。そして、スパイ行為などの対策として、正式な手続きを踏まなければ学区内の別の学校の生徒をメンバーに加えることはできない。
「連合チームなら面倒な手続きを踏む必要がないからねぇ」
部員数が9人に満たないチームは、同じく部員数の足りていないチームと連合チームを組むことができる。
「……ユズちゃん、このことはみんなには内緒だよ~」
「は、はい……」
想像以上に長い時間話していたようだ。アビドスの面々全員と自己紹介を終えたモモイがユズとホシノの方にやってきていた。
「何を話してたの?」
「外は大変だって話……」
「ふーん」
モモイはくるりと身体の向きを変えてホシノに向かい合った。
「改めてよろしく。才羽モモイだよっ」
「こちらこそよろしくねぇ。おじさんは小鳥遊ホシノだよ~」
「うんっ、よろしく!」
ホシノと握手をするモモイの横でユズは囁いた。
「この人、3年生」
「うぇええっ!?」
ミレニアム・アビドス連合チーム、誕生の瞬間であった。
セリカ(右投右打)
ポジション:三塁手
弾道:1
ミート:F
パワー:D
走力:D
守備力:E
肩力:C
三振 チャンス△ エラー ムラっ気 パワーヒッター 初球○ 体当たり 強振多用