スーパーモモイストレート!!   作:空にかかる野正レイ、野正レインボー

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お前らユウカのことロリコンとか言ってるけど、ノアとかアリスとか普通に可愛いし、コユキだって小動物系で愛くるしいルックスしてる。
ていうか、モモイですら実際に見たら愛嬌があって可愛いよ。
ユズなんか引きこもりの色気ムンムンだし、ミドリも絵が上手い。



3球目 初めての練習試合

「い、いきなり試合……」

「うぅ、私も緊張してきたかも」

「アリスのHPとMPは満タンです!」

「だ、大丈夫……皆で一緒に、頑張ろ」

 

 ミレニアムの運動場の一角を借りて、練習試合が行われようとしていた。

 ミレニアム・アビドス連合に加わったモモイ達の最初の仕事は、ミレニアムのチームと練習試合を組んでくることだった。

 

「アビドスの人達と打ち合わせとか練習とか一回もしてないけど……」

 

 練習試合とはいえ、いきなりの試合。特にモモイはピッチャーだ。試合作り(ゲームメイク)にダイレクトに関わるポジションなだけあって、ミドリ達よりも緊張の度合いは高かった。

 ちなみに練習試合はミレニアムの生徒らに親しまれているアリスが取って来た。

 

「それじゃあスタメン発表するよ~」

 

 ホシノの周りに円陣を組むように集まる。

 スターティングメンバー……最初に試合に出る選手の発表だ。もっとも、人数ギリギリなので出場は確定しているのだが。

 アビドスの5人は腰を落として前屈みになっていた。中央のホシノは紙を片手に持ちながら、モモイ達の方を見ている。何となくモモイ達も従って腰を落とした。

 読み上げるその瞬間、ホシノの纏う雰囲気が変わる。今までののんびりとした口調が消え、早口になる。

 

「1番 遊撃手(ショート) 砂狼」

 

「ん」

 

「2番 一塁手(ファースト) 十六夜」

 

「はい☆」

 

「3番 右翼手(ライト) 天童」

 

「アリスの職業(ジョブ)はライトです!」

 

「4番 中堅手(センター) 小鳥遊

 5番 三塁手(サード) 黒見」

 

「オーケー!」

 

「6番 投手(ピッチャー) 才羽モモイ」

 

「うんっ」

 

「7番 左翼手(レフト) 才羽ミドリ」

 

「は、はいっ」

 

「8番 捕手(キャッチャー) 花岡」

 

「……が、頑張ろう」

 

「9番 二塁手(セカンド) 奥空」

 

「はい」

 

 読み終わるといつものホシノに戻っていた。間延びした独特な声で語る。

 

「久し振りの9人揃っての試合、楽しんでこ~!」

「おー!」

 

 全員で掛け声を上げると、円陣を解除してそれぞれ用意を始めた。

 バックネット裏に行ったホシノを見送っていたモモイは肩を叩かれて振り返る。

 

「緊張してます?」

「えっと……」

「ノノミです。十六夜ノノミ」

「してる……かな。初めての試合だし、ピッチャーだし」

 

 大丈夫ですよ、とノノミは笑いかけた。

 

「どうしようもなくなっても、キャッチャーのミットだけは見ていてくださいね」

 

 そう言ってノノミは自分の左手を指差した。

 

「そこにはずっと、モモイちゃんの味方がいます」

「キャッチャーのミット……うん、わかった! ありがとう、ノノミ!」

 

 キャッチャーをしっかりと見る。

 一見単純で当たり前のことに思えるが、これができなくなる投手は意外と多い。試合特有の緊張の中では、何が起こるかわからないのだ。

 力強く頷いたモモイはふと思い付いた疑問をノノミにぶつけた。

 

「ミットって言ってたけど、グローブと何か違うの?」

「キャッチャーのミットは他の野手(プレイヤー)のグローブとは形が違うんですよ。ピッチャーから投げられるボールを取りやすいように」

 

 あ、と喋りながらノノミが気付いた。

 

「そういえばユズちゃんも普通の野手用グローブ使ってましたね……」

「どうするの?」

「私のを貸しますから大丈夫です」

 

 私のを貸す。

 ということはノノミはキャッチャーをやったことがあるということだろう。

 

「それなら何でノノミがキャッチャーじゃなかったんだろ。多分、素人の私達よりノノミの方が上手いよね」

「バッテリー……投手と捕手の間には"信頼"がないといけません」

「しんらい……?」

「それがなければ、いくら凄い投手と捕手でも大したプレイはできませんからね☆」

 

 仲間に背を預ける投手の前に座る唯一の味方。それが捕手だ。

 チームで唯一、野手の方を向く捕手から一番近い味方は投手だ。

 お互いに互い全てを預けられる信頼関係がなければ、良いピッチングは成立しない。精神的な面でもそうだし、実際のプレイ的な側面でも、バッテリー間での指示(サイン)の食い違いは勝敗に直結する。

 上手いキャッチャーと組むよりも、信頼のあるキャッチャーと組んだ方が良いバッテリーになることだってある。ノノミはそう考えている。

 

「それに」

 

 ノノミにはある確信があった。

 素人が何となくでやれないポジションランキング1位が捕手だ。そもそも初めたての素人では、普通のストレートの捕球すら難しいのだ。それに加えて捕手の目の前には打者がいる。当たらないとわかっていても、想像以上に打者の振るバットは怖いし視界も隠される。

 捕球のスペシャリストでなければ務まらない守備位置(ポジション)が捕手なのだ。

 

 先日の一打席勝負。2球目は外角(アウトサイド)への若干スライダー気味に変化する(ムービング)ボールだった。そして、3球目を受ける前にユズは一歩だけ内角よりに構えていた。

 

「(最後のボールは内角高めのストレート。もし、意図してのことだとしたら……)」

 

 それにアップ時のキャッチボールでも、ユズは明らかな暴投以外では一度も落球していない。

 それがどれほど()()なことか、キャッチャーをやっていたノノミだからこそ気付いたのかもしれない。

 

「ユズちゃんは私よりも良いキャッチャーだと思いますよ☆」

 

 バックネット裏に行っていたホシノが戻ってきた。

 腕を大きく振って叫んだ。

 

「先攻だよ~!」

「おー!」

 

 ホシノが先攻を告げるとセリカらが何やら気合の入った声で返事をした。

 事あるごとに掛け声を上げるんだなぁ、とミドリは思った。

 

「先攻……最初に攻撃ということはバッティングからですね!」

 

 先攻。いわゆる"表"。

 野球はターン制のバトルだ。最初にバッティングをする方を表の攻撃、逆を裏の攻撃と言う。

 それこそ素早さ順に行動するターン制対戦RPGなどを思い浮かべてみればわかるだろう。

 

「じゃあ、整列しよっか」

「サイドビューですね!」

 

 ベンチ前に一同が整列。軽く腰を落として備えている。向こう側のベンチ前に並ぶ対戦相手も同じようにしている。モモイもとりあえず真似をしておいた。

 審判ロボットがコールをした。

 

「ぞっ!」

 

 ホシノがよく分からない言葉を発したかと思うと、アビドスの面々と対戦相手のミレニアムの人達が走り出した。向かう先はホームベースと審判ロボットの前。モモイ達も慌てて走った。

 

『これより、ミレニアムサイエンススクール野球部とミレニアム・アビドス連合チームの対戦を行います。礼!』

 

 さぁ、試合開始(プレイボール)だ。

 

 


 

 

『1回の表、ミレニアム・アビドス連合チームの攻撃は、1番、ショート、砂狼さん。ショート、砂狼さん』

 

 打席に入るシロコを見ながらモモイはミドリに話しかける。

 

「わざわざアナウンスまで用意しなくても良いのに……」

「仕方ないよ。アリスの頼みだってことで放送部は気合いが入ってるんだし」

 

 試合前に自分の名前も呼ばれてビックリしたのはご愛敬。

 

「向こうのピッチャーの方をよく見ておくと良いですよ」

 

 アヤネがモモイにアドバイスをする。

 何せ初めてかつぶっつけ本番だ。相手は同じミレニアムの生徒で練習試合と言えど、あまり恥ずかしいプレイはしたくない。しっかり予習をしておこう。

 

「ピッチャーはマウンド上のプレートに右足を付けて投げます」

 

 ピッチャーが投げるところは盛り上がった土(マウンド)と呼ばれる。他の場所とは違い、軽く山になっている。その分の高低差が生まれるため、通常のキャッチボールなどとは感覚が変わってくる。

 マウンドの頂点には白い長方形の板(プレート)がある。ピッチャーはそこに足を付けて投げないといけない。

 

『ストライク!』

 

 初球。

 外角のストレートをシロコは様子見。

 

「あんまり速くないわね」

「90キロぐらいかな~」

「モモイの方がレベルが上です!」

「あ、アリス!?」

 

 ミレニアム野球部の最初に投げる人(先発)は1年生だ。

 横合いから見ている本人はわかっていないがモモイの方が球は速い。

 

「とりあえずストライク先行……ストライクを早めに取ることはとても大事です」

「……投げる球がなくなる、から?」

 

 ユズの回答にアヤネは頷いた。

 4回ボール球を投げてしまうと、四球(フォアボール)となり、1塁に走者(ランナー)が出てしまう。

 

『ボール!』

 

 現在のカウントは1ストライク、3ボールの1-3。あと1球ボールを投げてしまうとフォアボールだ。

 

「じゃあ、今の状況だと次はストライクを投げないといけないってことだね!」

「そうですけど、簡単にそれをやると……」

 

───カキーン!

 

 安易にストライクを取りに来た緩いボールをシロコのバットが捉えた。

 打球は右方向、ライトの頭を越えた。内野に送球される頃にはもうシロコは3塁の上。

 三塁打(スリーベースヒット)だ。

 

「す、すごい……!」

 

『2番、ファースト、十六夜さん。ファースト、十六夜さん』

 

 ノーアウト3塁。

 いきなりのチャンスだ。

 

「たった1球甘いボールを投げただけでこうなるなんて……」

「ランナーが出たからって、絶対に焦っちゃダメよ」

 

 セリカが顎でグラウンドを指した。

 

「メンタルはいつも正常に保っていないと……」

「いないと?」

「ああなるわ」

 

 グラウンドを見ると、ミレニアムのピッチャーは1球もストライクが入らずノノミにフォアボールを出していた。フォアボールやデッドボール……四死球はバッターが無条件に一塁に進んでしまう。

 

「厳しいコース……いわゆるストライクゾーンの端っこの打たれにくいところに投げるのは、当然難しいんです。だから、打たれまいと厳しいコースを狙いすぎると、今度はストライクすら入らなくなってしまうんです」

「じゃあ、どうすれば良いの……?」

「厳しいコースに投げるんです」

「それができないって話じゃなくて!?」

 

 打たれない球を投げることが大事なのだ。

 それができれば苦労はしない案件だった。

 

『3番、ライト、天童さん。ライト、天童さん』

 

「あっ、アリスの打つ番だよ」

 

 ノーアウトランナー1ー3塁。

 アリスの初打席は先制のチャンスで回ってきた。

 ミレニアムの生徒らに親しまれているアリスの打席に場が沸いた。

 

「アリスちゃんだー」

「かわい~」

「I was born to meet you.」

 

「アリスが勝負を仕掛けます!」

 

 ペコリと一礼して打席に入った。

 ミレニアムの守備位置(シフト)は定位置より少し前。

 初球がクイックモーションで投げられた。

 真ん中高め。アリスの反応は遅い。

 

「(よし、まずは1ストライ───)」

 

 ストライクを確信したキャッチャーの前を何かが通り抜けた。

 目にも映らない速さでバットが振り抜かれる。

 

「!? しょ、ショート!」

 

 とんでもない速度の直飛球(ライナー)がショートの頭を越えた。

 ショートの頭、左中間。クリーンヒットだ。

 そう思ったのも束の間。

 左中間に向かったライナーはその高度を落とすことなく、外野のフェンスを越えた。

 外野フェンスの後ろの地面をえぐりながらボールが消えていった。

 

「ナイスバッティングだね~」

「アリスー!」

「先制点だよ、アリス!」

「はい! Just AL-1Sです!」

「それはちょっと意味が違う……」

 

 スリーランホームランで一挙3点を獲得。ペチペチとハイタッチを交わして盛り上がるベンチ。

 一方で、グラウンドは騒然としていた。

 

「なにあれ……ヤバ……」

「かわい~ショートライナーかと思ったら、スタンドインしてた」

「Unbelievable! Is Aris "GOD"!?」

「否! アリスちゃんは神にあらず!」

「ダイヤモンドを回るその姿!」

「その姿まさに……?」

「まさに……?」

「現代のウィリアム・テルなり!!」

 

 かわいいはせいぎ。

 過言か? いや、至言だ。

 アリスが打った打球は、本来ならドン引きされる程の常軌を逸した打球だった。が、かわいいの前に全ての常識は破壊された。

 見える世界は実在と嘘の境界でしかなく、常識などという些事は、かわいいの前には無力でしかない。

 

「こういう楽しそうなところは良いですよね☆」

「ん、弱いけど」

 

 ミレニアム野球部はキヴォトスでも群を抜いて弱いチームである。

 入学したての1年生がエースで4番。さらに、その4番の打率が0割8分であることからもそれは明らかだろう。

 しかし、チームの雰囲気は良好なようだった。

 

 ホームランの後で制球が乱れたのか、ホシノの打席はストレートのフォアボール。続くセリカの打席でホシノの盗塁が二つ決まり、ランナーは三塁。

 ネクストバッターサークル……次のバッターが待機するところでしゃがみながら、モモイはセリカの打席を食い入るように見つめていた。

 

「だっせい!」

 

『ストライクツー!』

 

「セリカちゃ~ん、ボールよく見て~」

 

「ストレートのくせに遅すぎんのよ!」

 

 続く球を思いっきり引っ張って、三遊間を割る一塁打(シングルヒット)。三塁走者のホシノが悠々と生還して4ー0。

 なおもノーアウトランナー1塁。

 モモイの打順だ。

 

「(ピッチャーよりもバッターの方が早く来ちゃった……どうしよう、どうすれば良いのか分かんないよ!)」

 

 あれよあれよと考えている間に初球が放られていた。

 

『ボール!』

 

 ()()

 それが初打席初球の感想だった。

 

「(はやっ! これが()()()()……!? 嘘だっ!)」

 

 実際に打席に立ってみないとわからないことは多い。

 ストライクボールの見極めの難易度もそのひとつ。

 バッターボックスに立って見るボールは外から見るよりも格段に速い。

 特にスイングの遅い者ほど、早いタイミングで身体を動かさないといけないため、初心者が正確に選球をするのはかなりの難易度なのだ。

 

「(確かストライクゾーンは……上下は胸から膝までで、左右はホームベースの上……)」

 

 チラリと地面の五角形(ホームベース)を見る。

 

「(わかんないけどっ!?)」

 

 縦がどのぐらいなのかは辛うじてまだ判断できそうな気がする。ただ、横の間隔についてはあの一瞬で判別できる気がしなかった。

 しかし、打者が構えている限りピッチャーは待ってくれない。

 第二球が投げられた。

 

『ストライク!』

 

「完全に振り遅れた……!」

 

 ヘロヘロなスイングはボールがミットに収まってから振られたのかというレベルの振り遅れ。

 

「(とりあえずまずは当てよう。話はそれからだよね)」

 

 バットに当てること。

 モモイが最初に立てた目標は三振しないことだった。

 

『ファウル!』

 

「ッ! 当たった!」

 

 バットの先っぽに当たった打球は一塁側へ転がっていった。ファウルボールだ。

 ひとまず当てることはできたが、カウントは2-1。

 あとストライク1個で三振。

 追い込まれた。

 

「(うん、"力積"だよね)」

 

 しかし、投手有利のカウントとは裏腹にモモイの思考は冷静だった。

 

「(一塁の方に転がったってことは……)」

 

 忘れられがちではあるが、モモイはミレニアムサイエンススクールに所属している理系である。

 物理も当然、履修している。

 そんなモモイだから気付いた。

 バッティングは力積を考えれば良い、と。

 

「(バットのスイングの軌道を考えるんだ。

 振り始めはボールに対して『→〇 /』の形。

 この状態で当たるとボールが受け流されて一塁側に飛んでいくんだよね。

 いわゆる、振り遅れたってやつ)」

 

 バットの軌道は手首(グリップ)が先に出る『/』の形から、ボールに対して垂直に向かう『l』を通って、最終的に『\』の軌道になる。バットがボールの軌道に対して垂直になるのが一番運動量の効率が良い。理論上は、バットにボールが当たるインパクトの瞬間に『→〇l』となれば良いのだ。

 

『ファウル!』

 

 次の球はキャッチャーの頭を越えてバックネットにぶつかるファウル。

 

「(タイミングは合ってたはず。バットもボールも丸いから、バットの上に当たるとこうなっちゃうんだ。これも力積)」

 

 ファウルの感覚がまだ手に残っている。芯に当たっていなかったため、手に衝撃が返ってきていた。

 痛みと裏腹に思考は加速していく。

 

「(下から振るん(アッパースイング)じゃダメだ。バットは重いんだから、上から振り下ろした方が振るスピードは速いに決まっている。でも本当に振り下ろすんじゃ飛距離が出ない。理想はボールとバットがまっすぐぶつかる水平な(レベル)スイング。当たる瞬間は水平に、それまでは振り下ろす。そうすれば最短ルートでボールに当てら(ミート)れる!)」

 

 思考が終了する。

 最適化されたフォームになる。

 足がピッチャーに向かってまっすぐ開いた。

 今までよりも肘が高い位置に向かう。

 グリップを握る右手と左手がくっついた。

 バットを右肩に乗せる。

 リラックスした出で立ちでモモイは投球を待つ。

 

「ん、構えが変わった。自然なフォーム……!」

 

 ピッチャーがボールを投げた。

 

「(遠く(外角)っ! 振り下ろして、最短距離でぶつける(インパクト)!)」

 

 腰が回転し力が生まれる。

 柔らかな手首は返ることなく、インパクトの瞬間を待った。

 

───キィン!

 

 コンパクトなスイングが外角の球を捉えた。

 打球がセカンドの頭を越える。ライトへのクリーンヒットだ。

 タイムリーヒット。1点が追加されてスコアは5ー0。

 

「よしっ!」

 

 塁上でモモイはガッツポーズをした。

 ベンチでモモイの打席を見ていたホシノ以外の面子は驚愕していた。

 

「モモイさん、バッティングセンスもあるんですね」

「打席の中でフォームを修正した。しかもたった4球で初心者があそこまで綺麗なフォームに……」

「モモイちゃん恐ろしいですね☆」

「うへへ~、おじさん言ったでしょ?」

 

 "メジャーリーガーを連れてきたよってね"。

 実際に見ると、モモイの才能はホシノの想像を超えていた。

 圧倒的すぎる才能を前に高ぶる気持ちを抑える。

 一塁上で固まっているモモイをホシノは真剣な眼差しで見ていた。

 

「ん、そういえばランナーコーチがいない」

「あ」

 

 しばしの沈黙。

 

「まぁ、良いんじゃない~?」

 

 リードの概念を知らないモモイが内野ゴロで併殺(ゲッツー)を喰らうのを見ながら、ホシノはランナーコーチの存在を抹消した。

 

 


 

 

 5-0。

 1回表が終了した時点でのスコアだ。

 ミレニアム・アビドス連合チームが初回から、大きなリードを付けた形となった。

 

『1回の裏。守りますミレニアム・アビドス連合チームの守備を紹介します』

 

 モモイは踏み荒らされたマウンドの上に立った。

 ダイヤモンドの中央。

 後ろでは味方が守備についている。

 前には捕手防具(プロテクター)を着用したユズと審判ロボット(アンパイア)

 横を見ると、ミレニアム野球部がベンチの中で何やら話している。

 その外には暇を持て余している様子の生徒が数人いた。

 全員が自分を見ているかに感じる。

 四方八方、あらゆる方向から音が聞こえる。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 まるで世界が自分を中心に回っているみたいだった。

 

『ピッチャー、才羽モモイさん』

 

 自分の名前が呼ばれてビックリする。

 どうも今日中に慣れることはできなそうだった。

 

「あと1球!」

 

 投球練習が終わる。

 

「(距離は昨日までと変わってないはずなのに……キャッチャーまで凄く"遠く"感じる)」

 

 正直、こんな数球でマウンドの角度、掘り起こされた土の感触、プレートの無機質な感じ、試合特有のプレッシャーに慣れることはできなかった。

 まだ頭の中を不安が占めている。

 

『プレイ!』

 

 とうとう始まる。

 始まってしまった。

 相手の1番バッターが一礼をして右打席に入った。

 白球を握る右手に無意識のうちに力が籠る。

 モモイは今までにアドバイスされたことを必死に思い出していた。

 

「まずは……」

 

 腕を振り上げて(ワインドアップ)から左足を高く上げる。

 左足が地面に着き、体重移動。

 ぐっと反った胸から力が放出される。

 

捕手(ユズ)を見ること!」

 

『ストライク!』

 

 放たれた球はストライクゾーンの真ん中へ。

 投げる前はあんなに遠く感じたのに、捕球した時の音は思っていたよりずっとよく聞こえた。

 

「……モモイ、ナイスボール」  

 

「うんっ!」

 

 返球を両手で受け取る。

 しっかりとプレートを目視して投球モーションに入った。

 もう周囲のことは視界に映っていない。

 周囲を飛び交う雑音(ノイズ)も、耳に入らない。

 

「キャッチャーだけ!」

 

『ストライクツー!』

 

「見るっ!!」

 

『ストライクスリー! バッターアウト!』

 

 バットが空を切る。

 乾いた音が心地良い。

 巻き上がる砂埃の一粒すらも見えた気がする。

 

「やった!」

 

 モモイが空に両手を突き上げた。

 

 


 

 

 5回裏。

 スコアは30ー0でミレニアム・アビドス連合チームの大量リード。

 この回を凌げばコールドゲーム……試合終了だ。

 ツーアウトながらフォアボールで出塁を許してランナーは1塁。

 

『4番、ピッチャー……』

 

「はぁ、はっ……あと、一人!」

 

 疲れた身体にもう一度気合を入れる。

 本日何度目かもわからないプレートの感触を足で確かめた。

 

「……ふしっ!」

 

 投げたボールはまっすぐストライクゾーンへ。コースは左バッターのインサイド。

 しかし、フルスイングしたバットにそのストレートは打ち抜かれる。

 打球がもの凄い速度で視界から消えていく。

 

「っ! 打たれた……!」

 

 低い弾道の強烈な打球は一二塁間を抜けた。

 

「やった!」

「かわいく回れ~」

「We're winner! Let's go to Los Angeles!」

 

 一塁走者が二塁を蹴った。

 打球は右翼手のアリスが捕球。

 三塁に向けて送球体制に入ろうとする。

 

「アリスちゃん、一塁(こっち)です!」

 

「!」

 

 三塁側に向いていた身体を無理矢理ターン。

 

「目標を確認……行きます!

 

 ライトからレーザービームのような返球が返ってきた。一塁手のノノミは何とか両手で送球をキャッチ。ほとんど同時にバッターランナーがベースを踏んだ。

 

『……アウト!』

 

 果たして判定はアウトだった。

 

「ぅっしゃ!」

 

 モモイがマウンド上で飛び跳ねた。

 

「バトルに勝利しました!」

 

 試合終了。

 ミレニアム・アビドス連合チームは見事、初陣を勝利で飾ることになった。

 ホームベース前で礼をしてベンチに戻る。

 

『御覧のように30-0で、ミレニアム・アビドス連合チームが勝ちました』

 

「お疲れ様~」

「お姉ちゃん、ナイスピッチング!」

「えへへ……」

 

 ベンチで全員からモモイはもみくちゃにされる。

 誉め言葉の洪水にモモイは溺れて有頂天。

 疲れもあったが、それ以上に気分は最高だった。

 後片付けも終えて今日のところはこれで解散。

 

「……なぁんて甘いことは考えていませんよね☆」

「…………え」

 

 試合終了までが試合である。

 しかし、試合終了というのは"練習再開"の合図でもある。

 試合だけしてそれでおしまい、というのはあり得ないのだ。それでは何のための練習試合かもわからない。

 とどのつまり。

 

「反省会の時間です☆」

 

 後に述懐するに「試合よりも試合後のミーティングの方が3倍は疲れる」とのことだった。

 恐るべしデータ野球である。




球速は現実世界の高校野球から大体-10キロぐらいの感覚でやってます。

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