リコリコ・オブザ・アーカイブ   作:n番煎じ

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千束 #1 D.U.シラトリ区近隣公園

『連邦生徒会長が失踪してから今日で…………依然として各自地区の犯罪発生件数は爆発的な増加を見せており……連邦生徒会への不満が……』

 

 うぅ……。と、千束は瞼を貫くさんさんとした直射日光に呻いた。

 たきなと買い出しへ向かった帰り、少し遠回りをして公園のベンチでコーヒーを飲みつつ雑談していたはずがいつのまにか寝落ちしてしまっていたようだ。

 

『……機関……を設立すると発表し………………声が多く上がっています』

 

「んん……ん〜〜!!」

 

 グッと体を伸ばし、目を開ける。眠る前のコーヒーが効いたのか、すっきりとした目覚めである。

 

「も〜、起こしてくれてよかったのに。それともたきなも寝ちゃって———あれ?」

 

 先ほど……眠りに落ちるまでは隣にいたはずのたきながいなかった。前、後ろ、上、下、右、左……どこを向いても人っこ一人いない。よくよく考えたら買い出しの袋も一緒になくなっている。千束の脳内CPUが弾き出した結論は『爆睡している間に先に帰られた』であった。

 

 ファーストリコリスとてうら若き乙女なのだ。こんな公園で一人お昼寝なぞしようものなら何があるかわからない。表面上こそ平和ということに保っているのは自分たちなのだ。実際にところこうしてのほほんと眠りこけられる治安かどうか怪しいのはを彼女こそよく理解していた。

 

「こういうとこドライなんだから……リコリコに帰ったら覚えとけ〜?」

 

 メールで先に文句の一つでもたれてやろうとスマートフォンを取り出す。ロックを解除してスイスイと画面を操作していくが、どうにも接続が悪い。

 

「うーん……公園の真ん中だからかなぁ?」

 

 周囲を確認しつつ、歩道と案内板に沿って出口へと向かう。

 その途中、ふと気づく。

 

「……あれ、ここってこんなに広かったっけ」

 

 彼女が一休みに選んだ場所はせいぜいブランコと滑り台ぐらいしかないこぢんまりとした街の公園のはずだ。間違っても、国立公園よろしく広大な土地を持つ場所ではなかった。

 誘拐、拉致……嫌な単語が頭の中を駆け抜けていく。

 いや、それらであれば持ち物の没収や手足の拘束、人に見つからない場所へ閉じ込めるなどの状況で目を覚ますはずだ。

 自分が被害にあっていないとしても、たきなは無事であるという保証はない。むしろ状況的にはたきなだけさらわれ千束は公園から公園に輸送されたというのが一番しっくりくる状況だ。

 実際のところ、どうなのだろうか。先に帰って、連絡の途絶えた自分を探してくれているだろうか?それとも、どこか知らない場所で助けを待っているのだろうか?

 

 長々とと続いた小道を抜け、大きな道路に出る。千束の視界を覆い尽くしたのは案の定慣れ親しんだ錦糸町ではなかった。壁面にガラスを多用したビルが多く立ち並ぶ近未来チックな街並み。二足歩行の犬やロボットが鞄を抱えて歩いたり車を運転したりと忙しなく働いている。そして極め付けは頭の上に天使の輪のような浮かべた中高生たち……しかも、平然と銃を携帯している。

 アサルトライフル、サブマシンガン、スナイパーライフル、ショットガン……およそ現代日本ではお目にかかれない銃の博覧会が開かれていた。いや、銃所持が合法の国でもこんな光景は見られないだろうが。

 

「ちょ、ちょいちょい……どーなってんのこれ……」

 

『連邦捜査部“シャーレ”に着任した先生への取材はまだ叶っておらず、人柄や素性は未だ謎に包まれています。以上、クロノスがお昼のニュースをお届けしました』

 

「えぇ……えぇ……?えええええええええーーーーーーーーーーっ?!

 

 世界観があまりにも渋滞しすぎている。猿の惑星なのか、近未来SFなのか、美少女世紀末なのか。千束も流石の情報量に、『もはや何が起きてもツッコむまい』と早々に思考を停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題(しばらくして)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば、以前似たような夢を見たことがある。*1

 もっとも、その時の世界観はこんなにも渋滞しておらずあくまでゾンビパニックものだったが。たきなと一緒に車に乗ってDAに向かう道中飲んだコーヒーがすごく美味しかったし、クルミはあっという間に街を火の海に変えた。

 

———もし、あのまま二人でどこか遠くへ向かっていたらあの夢はどうなっていたのだろうか、と千束はよく考える。物資が切れて二人仲良くゾンビになるか、あるいはゾンビのいない場所で二人きりで生きていくか。夢のたらればの話をしても仕方がないのは間違いないが、これだけはどうにも頭にこびりついて離れなかった。

 

 この夢のどこかでたきなに出会えたら。今度こそ夢の果てを見に行けるだろうか。

 

 そこまで思い至り、千束は頭をぶんぶんと振った。兎にも角にも今は行動、とりわけ情報収集が必要だ。

 さっきの中高生たちがスマホを使ったりしているのを見るに電波はある。テレビ放送もこれと言って切羽詰まっている様子もなかったし、彼女らが銃を携帯しているのはありふれた光景なのだろう。千束と目が合っても特段敵意があるわけでもなさそうだったがすぎょっとするような顔をしてそそくさと立ち去っていった。

 

 パッと見ただけでわかる彼女らとの違いがある。そしてそれは避けられるに足るものらしい。早急に把握して怪しまれないよう改善する必要があるだろう。

 人混みに溶け込めるようデザインされたリコリスの制服。彼岸花を思わせる赤いファースト・リコリスの証は特段どこもおかしそうな箇所はない。鞄、髪……あと彼女らと違うところといえば、頭の上の輪っかと銃の携帯ぐらいだろうか。

 無論、千束の頭の上に輪っかは———あった。ベッタベタな白い天使の輪。となるとここは夢でなく死後の世界の可能性が急浮上してきた。

 

 ともあれ、やることは変わらない。ひとまずは食料と今晩の寝床と身の安全を確保しなければならないのだ。背後には広大な公園、とあらば向かうべくは都市部へ。そう行動目標を定めた千束はシラトリ区へと足を進めるのだった。

*1
スピンオフ リコリコ・オブザデッド




続くかもしれません
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