今ガチが始まってから数週間。
何でこんな事をしているのだろうと、自問自答した事もあったがそれなりに上手くやっている。
しばらく番組を共に撮影をして打ち解けてきて、各々のキャラクターが見えてきた。
前にUNOをした時なんかは………
「よしっ!貰った!これで俺の勝ち───」
「残念だったな。ここでドロー4だ」
「悪い。俺もだ」
「ごめんね。私も」
「何でだよ!?俺の手札がぁぁぁ!!」
残り手札2枚でドロー4を出したところ、手痛い反撃を喰らってノブユキが逆転負け。
裏表のない良いリアクションをしたりとか。
はたまた、カラオケ大会を催した時は………
「流石にバンドマンってだけあって上手いね。結構自信あったんだけどな」
「自分で作ったやつで上手くないって言われたら立つ瀬ないからね。面目を保てたようで良かったよ」
「ならばこっちは変化球で対抗だ。ちょっと待ってろ。伝説のスーパーアイドル。マリンちゃんを急いで召喚してくる。アクア、ちょっとこっちに来い」
「行かねーよ。誰がマリンちゃんだ。そんなこと言うなら伝説の男殺し。マコちゃんを急遽召喚するぞ」
「誰がマコちゃんだ。やれるもんならやってみろ」
「さらっと衝撃的な事実流れたよね?2人って女装経験あるの?」
普段目立たないケンゴがその歌唱力を披露。
その爆発力で皆から称賛されたりとか。
今日の撮影では………
「…………私、もう『今ガチ』辞めたい」
『えぇっ!?』
夕暮れの校舎を舞台にして、鷲見がそんな事を言いだした。
ファッションモデルの涙というだけあってその破壊力は凄まじい。
「おっ、そうか。辞めるとは実に残念だ。まぁ無理はいかんしな」
「いや、そこは止めろよ!どう見ても止める流れだろ!!」
「だって個人の意見は尊重しないといけないとだし」
「正論だけど今は尊重しなくていいから!何で君はよく分からないところで毎度捻くれるのかな!?」
「それが俺の性分だし」
ただし、あのクズに対して効果は無かった。
「最近ね。学校の男子とかが揶揄ってくるんだ。お前こういう男が好きなんだーとか」
「そういう男って基本モテねーから気にしない方が良いぞ。あいつ等が言う言葉の8割は僻みだ」
「なんて偏見……容赦ないな。絶妙にフォローも入れてるから止めにくいし………」
「外道だ」
「ケンゴ、少し手を貸せ。さっさとこいつを追い出すぞ。話が一向に進まん」
俺とケンゴの2人掛かりでクズを連れて行き、廊下に放り出してドアの鍵を閉める。
「自分の「好き」って気持ちを皆にみせるって……こんなに怖い事ないよ。始めるまで全然わかってなかった。大勢の人に注目されるって良い事ばかりじゃない………」
「メムも自分のチャンネルでバカやってるから………分かる。皆、私のことバカだと思って……まぁ実際バカなんだけどぉ」
MEMちょがその辛さをより際立たせ、場の雰囲気をより盛り上げる。
こういった演出作りはMEMちょの得意分野だ。
「ほ………本当に辞めちゃうの?」
「俺がいつでも話聞くからさ!ゆきが辞めるなら俺もやめるからな!」
「ノブ君………」
「そんな事言わないで続けようぜ!」
「私は………」
真っ直ぐなノブユキに魅せられたかのように、鷲見は言葉を詰まらせる。
本当にこの子はそういう動きが上手い。
こんな感じで各々がキャラと個性を出しつつ、立ち位置を確立して番組を回しつつあった。
「なんだなんだ。俺が見てない間にいい雰囲気になってるな。もしかして恋でもしたか?」
なおクズはあまりにいつも通りだった。
「そ、そんなんじゃないよ!か、揶揄わないでよ!!」
「こいつ……どうやって中に………」
「ドアの鍵は閉めていても窓の鍵はガラ空きだ。防犯上の意識がまだまだのようだな」
「犯罪者の思考だ」
ケンゴとMEMちょは思いっきりドン引きして、鷲見はあからさまに赤面した。
ガムテープで拘束しとけばよかったと思う。
「ゆきに変な事を言うな!嫌がってんだろ!」
「手を出されたくなければしっかり守る事だよ
「鬼畜だ」「クズだ」「知ってた」
三者三様の気持ちを俺達が言う一方で、立ちはだかるようにノブユキは鷲見の前に立つ。
「言われずともゆきは俺が守る。何を言われてもな」
「ほぉ。中々にいい啖呵を切るじゃないか。それでこそ
「だからさ、あんま気にすんなよ。誰に何言われたって、お前はお前なんだから。いざとなったら俺も付いてる!」
「う、嬉しいけど、そ、そういう事じゃないから!し、しかも
「やっぱ恋じゃねーか」
ゆきの宣言をラストシーンに今日の撮影は終了。
後日。その回は無事放送された。
放送された回についてのネット記事が上がり、SNSは大量のコメントで溢れた。
その主な内容はというと、揶揄われて赤面した鷲見の姿と、それに寄り添うノブユキの紳士っぷり。
あとは真の鬼畜外道クズっぷりについて。
「あー、もう、最悪!学校で余計揶揄われた!凄く生暖かい視線をあちこちから向けられたし………」
「俺もめっちゃ言われた」
「俺のクズぷっりが世界に知れ渡ったようで満足だ。ネットでの反響も中々だし……何より視聴者急増!!俺のギャラもこれでたんまりだ………」
極めて普通な反応をした2人は他のメンバーに慰められ、極めてクズな反応をした真はゲス顔を浮かべ、ボーナス分のギャラについて計算を始めた。
やっぱりあいつは碌な事をしない。
「それで結局……大丈夫なの?番組辞めるって言ってたけど………」
「あー、それ?どちらにしろ辞められないしょ。契約も残ってるし」
「えっ、じゃあ演技って事?」
黒川は聞き返す。
「いやいや……黒川さんみたく女優じゃないし、私に演技なんて出来ないよ。ちょっと自分の気持ちを膨らませて話してるだけ。学校でイジられて悲しかったのはホントだし、辞めたいって思った事もホント。だって収録朝一でやるんだもん。あたし眠くて眠くて。まぁ……代わりに生暖かい視線を送られるとは思ってなかったけど………」
「悪意は籠ってないんだけどな」
「うちのクズが本当にすまん」
絶対に謝らないクズの代わりに俺は頭を下げた。
こいつを番組に連れてきた俺にも責任はある。
「みんな凄いな。それに比べて私なんか全然で………」
暗い面持ちであかねは落ち込んだ様子を見せる。
それぞれが立ち位置を確立しつつある一方で、黒川だけは自分の立ち位置を見つけられずにいた。
本人の性格が番組に合っていないというのもあるのかもしれない。
手帳とペンをいつも携帯しているのがいい証拠だ。
台本が無く即興的な動きが多いこの番組において、考えて動くタイプはどうしても後手に回ってしまう。
彼女はどうも真面目過ぎる。
「どうすれば相手を容赦なく弄れるのかだって?面白い事聞くな。まず意識する事としては人の心を捨てて────」
「止めろ。一度ペンを置け。こいつのアドバイスだけは絶対に聞くな。碌な事がない。一生後悔するぞ」
一先ずこのクズのアドバイスを聞こうとするのだけは本当に止めて欲しい。
「こうなったら飯だ!飯!上手い飯食って悪い事を忘れよう!それがいい!」
「賛成!賛成!私も沢山食べたい!」
「今日はもう上がりだしな。何処行く?」
「メッさんが焼き肉奢ってくれるって」
「言ってないよぉ!?」
当初こそ周囲を搔き乱すキャラであったMEMちょだが、最近では不憫枠に片足を突っ込みつつある。
MEMちょが誰かを絡むタイミングを見計らって、MEMちょごと容赦なくクズが揶揄い尽くすからだ。
本人が美味しい立ち位置だと公言しているからいいが……クズにとって推しの扱いはそれでいいのか?
ちなみにその被害を一番受けているのは俺だ。
本当に勘弁して欲しい。
「知ってるよ。最近登録者数増えてウハウハなんでしょ?」
「事務所の取り分5:5なんでしょ?」
「まじですか!」
「推しの奢りで焼肉………!」
「どんな楽しみ方しようとしてんだ」
けれど、焼き肉は惹かれるものがある。
「うち8:2……勿論私が2………。羨ましいなぁ………」
「ちょっと待て。流石にそれはおかしい。黒川に対する割合が低すぎる。本当にその割合なのか?嘘だろ」
MEMちょの懐事情に反応した黒川の発言について、真は心底驚いた様子で思わず聞き返した。
本職がマネージャーというだけあってこいつの金勘定は本当に凄まじい。
単に守銭奴というのもあるが。
「そんなに低いんですか?」
「ギャラの配分は事務所の懐事情にもよるが……余程のやらかしでもしない限り、基本7:3と5:5の割合を下回る事も上回る事もない。それが事務所側の利益を確保しつつ、タレントの生活とモチベーションを維持できる最低限のラインだからだ。アクアのギャラについてもこれに則ってきっかりと決めている。お前等のギャラの割合は?」
「俺のとこは7:3」
「私のところも同じ」
「俺はのとこは6:4だな」
「そ、そうなんだ………」
役者の中にはギャラによる報酬が二の次で、仕事での達成感が1番の報酬だと考えている奴が結構いる。
暗黒時代ど真ん中で売れなかった時期の有馬のギャラですら7:3を下回った事は無いと聞いている。
黒川はその筆頭だったらしい。
「お前みたいなタレントの仕事は最高のパフォーマンスをするのが仕事。俺みたいな裏方の仕事はタレントに相応の対価を支払うのが仕事。事務所とタレントは利害関係の上で結び付いている。対価報酬の中でも金についての話は絶対に譲るな。これを譲ったら信頼関係そのものが根本から破綻する。よく覚えておけ」
「なんかこう見ると真君って本当にマネージャーなんだね。いつもタレント張りの反応するから忘れてた」
「一応こいつある監督から何回かオファー受けた事はあるんだよ。でも興味ないって理由で毎度断ってて」
「それって私みたいな仕事が欲しい人間からしたら羨まし過ぎる案件なんですけど!?一回くらい受ければいいのに!!」
「見るのはともかく演技とかそういうのは昔から興味ねーんだよ。そもそもこの番組にも来るつもりなかったしな。俺には裏方が性に合ってる」
「これまた随分頑固な………」
だからこそ全く尊敬出来ない代わりに、真はいざという時に頼りになる。
嘘だらけの芸能界で自分を貫ける人間は数少ない。
もしも真がタレントとして芸能界入りしていたらと考えると………偶に激しく恐ろしくなる。
きっと今以上に手のつけようがなかっただろう。
「……心配してくれてありがとう。けど……大丈夫。今は……もっと頑張らないとだから」
黒川は明らかに無理した笑顔を作った。
これでは何を言っても無駄だ。
真もそれは分かっているようで、何か言いたげではあるもののそれ以上は何も言わない。
「まぁまぁ、そういうのも含めて焼き肉で悩みを吹っ飛ばそうぜ。それでどうなんです?奢りの件?」
「ここで奢らないと年長者の名折れですよ」
「ぐはぁ!?何気ない年下からの言葉が突き刺さって心を抉られる!!」
年長者という単語に何故かMEMちょは吐血した。
「俺達も少し出しますから勘弁してください。アクア達もそれでいいだろ?………あっ、真は今日駄目か」
「悪い。誘いは凄く魅力的だが日曜は家族と飯食う約束なんだ。俺はまたの機会に頼む。その代わりに金は置いていってやるからよ。哀れな子羊一匹をも導けない推しに代わり恵みと施しを与えよう……アーメン」
「ぐべらぁ!いいよぉ!いいよぉ!私が全額出すよぉ!私の負けだよぉ!完敗です!!」
「「「ゴチになりまーす」」」
哀れな犠牲がありつつも俺達は焼き肉に行った。
いいお値段をしている綺麗な焼き肉店で、人数も相まって本格的にMEMちょの懐事情が心配だ。
それはそうとタンが上手い。
「アクアさん。カイノミ焼けましたよ。どーぞ」
「自分の分は自分で焼くから気にするなよ。黒川さんさっきから全然食べてないだろ」
「いえっ!自分精進の身なので!こういう場では絶対トングを手放さないって決めてるんです。最初は良く焦がして怒られましたが、今では上手に焼けるようになったんです」
「それならいいけどさ、最近あんま元気ないだろ?真の言葉を真似るようじゃないけど無理すんなよ」
「あ、ありがとうございます。アクアさんと真さんって………本当に仲良いんですね。私……一人っ子だから羨ましいな」
「仲良くないって」
何でみんな俺達が仲良いと勘違いするのだろう。
いくら考えてみてもよく分からない。
俺が言っている間にも黒川はカルビをよそった。
本当に真面目でいい子なんだと思う。
彼女の悩みも……どうにかなればいいのだけれど。
「はー……焼肉とは豪勢ですね。可愛い子達を眺めながら食う肉はさぞ美味しかったんでしょうねぇ」
「いや、ただの付き合いだし」
「嘘だ!顔から堪能感があふれ出てるもん!」
「出てねぇよ?」
「目を見て話せ!!」
打ち上げが終わって家に帰ると、俺はルビーに詰められて正座をさせられた。
実際若い体で食う脂っこい食べ物は美味い。
………けどまぁ、言われてもしょうがない。
「日曜は皆でご飯食べる日って約束じゃん。番組始まってからずっとそうだ。真ですら約束はちゃんと守ってるのに………守ってないのお兄ちゃんだけだよ!」
「………悪い。でも……本当に付き合いもあるから」
「だとしても約束を破るのは良くないよな。許してもらうにはそれ相応に対価を支払って貰わないと」
「そうだ!そうだ!何か寄越せ!」
言い返してやりたいが何も言い返せない。
ガチ恋が始まってから真の珍しい気遣いかまけて、ルビーをややほったらかしにしているのは事実だ。
こっちもそれなりに負い目はある。
何か寄越せというのはこいつ等の願望だと思うが。
「………また今度みんなで寿司でも食べに行こう。ミヤコや社長も連れてな。それでいいだろ?」
「ちなみに回るやつですか?回らないやつですか?」
「………回らないやつでいい」
「ならばよし!」
「よくやったルビー。アクアの奢りで回らない寿司とは………嘸かし美味いに決まってる」
「何言ってんだ。お前は俺と一緒に出す側だ。そんでもって割り勘な」
「何でだよ。そこは全部出せよ」
何はともあれルビーは機嫌を直し、ルンルン気分でソファーに座った。
我が妹ながら現金なやつだ。
「それで結局皆マジで恋愛してるの?話聞いてるとそんな感じしないからどうなのかなって」
せめてもと思って皿洗いをしていると、ルビーがそんな事を聞いてきた。
何だかんだで全話見ているらしい。
「スタンスはまちまちだな。半分くらいはそこそこに楽しんでるけど、もう半分はそこまでって感じ。全員が仲良いのは本当だけど」
「それは何となく分かるかな。お兄ちゃんと真は?」
「する訳ないだろ。仕事だぞ」
「周りを揶揄っている立場が一番気楽で楽しいんだよ。そもそも恋愛興味ねーし」
「冷めてるなー………」
そんな感想を言っているが所詮そんなものである。
というか、中身三十路間近のおっさんが高校生相手にガチで恋愛していたらそれはそれでヤバい。
「恋愛リアリティショーは今まで見たこと無かったから不勉強でさ。いろいろ偏見から入ったワケなんだけどリアルを売りにするだけはある。想像してたよりやらせが少ない。そして思ったよりも各々の人間性をそのまま映す構成になってる」
「………まぁその通りだな。だからこそのリスクがあまりにも高い。これを初めて考えた奴はいい性格をしてる。正直こればっかりは好きになれない」
「2人とも暗い顔してどうしたの?考えごと?やらせが少ないのは良い事じゃない?リスクって?」
「把握してなきゃ命に関わるって事だ。それを果たして言い聞かしているのやら。………ちょっと野暮用だ。俺は部屋に戻る」
スマホを片手に真はリビングを出て行った。
あいつも黒川が危うい事にはとっくに気づいてる。
だからこそ慎重に動くつもりなのだ。
「何かよく分かんないな。観てる側だとそっちの事情もよく伝わってこないし」
「だからこそ何だよ。あいつが言ってるリスクってのは。嘘は身を守る最大の手段でもあるからさ。杞憂だといいけど」
社長達がやや難色を示した理由もそれだ。
相手が鏑木Pでなかったら俺も断っていた。
何事もない事を祈らずにはいられない。
そうこうしている間にも時間だけは過ぎ、季節は春から夏へと流れていった。
今日の撮影もせっかくだからと和服を着ている。
「夏だ!花火だ!時間帯的に危ないので海で泳げないのは残念だけど………スイカ割りだ!」
「待ってました!割るぞ!割るぞ!」
「せっかくのスイカが勿体ないんじゃ………」
「そこは俺達も抜かりない」
「今回はスイカの代わりにこのバルーンを割ってくよ。バルーンを割れた人からスイカを食べる感じ」
「それはそれで心臓に悪そうで嫌だな………」
真とMEMちょのコンビがいつもの如くイベントを開催し、俺達は嬉々としてそれに参加していく。
この2人の兄と姉、年長者同士の少し距離を置いた関係性も番組内でそこそこ人気だった。
一部ではMEMちょが顔の良い男に騙された上で、弄ばれているとも言われている。
俺はこの説を強く推している。
「ようやく割れた。結構固めのを用意したんだな」
「簡単に割れたら詰まんないからね」
「そこそこスリルあっただろ?」
「おーい。こっちで花火やろうぜ。ゆきも行こう」
「うん。待っててノブ君」
また、あの日を境に2人の距離は一気に縮まり、いつしかカップリング最有力候補になっていた。
このイベントに限らずとも、最近では2人で一緒にいる事も結構多い。
「こっちで大きめの花火やるからさ。良かったら一緒に見ない?2人っきりで」
「大きいのか。実は見た事ないんだよね。せっかくだから見てみようかな」
「そっか。それなら良かった。じゃあ早速」
そこに嫉妬心を見せるようにケンゴが反応し、鷲見を巡っての三角関係が始まった。
今まで和気藹々とした雰囲気が一変し、視聴者が求めていた過激なモノを演出していく。
鷲見というゲームメーカーが機能し、その小悪魔っぷりで番組を盛り上げ、その盤面を作り上げるよう真が立ち回り、上手いこと調整しつつ搔き回す。
今のガチ恋はこの二枚看板で成り立ちつつあった。
中高生を中心に人気を確実に獲得していく。
けれど、黒川はまだ目立てずにいる。
「黒川から目を離すな。今のあいつは焦りで視野が狭まりつつある。もしかすると取り返しのつかない事になるかもしれない」
撤収のタイミングでカメラが無いかを確認しながら、真は俺とMEMちょを呼び出して言った。
他のメンバーは車にいる。
「やっぱそうだよね。あかねちゃん悩んでるみたいだったもん。何かきっかけがあったら爆発するくらい」
「同性のMEMちょが言うなら間違いないな。具体的に何か出来る事はないのか?」
「精々フォローを入れるくらいだ。一応手は準備しつつあるが……あれは最終手段だ。鏑木プロデューサーにまた喧嘩を売る事になる。前は妥協点をどうにか見つけて許してもらったが……今回はそうじゃない。やり方を間違えれば今度こそ消される。何よりも────」
「黒川が絶対に頷かない……って訳か」
俺と真は共に思案顔になる。
「現状フリーなんだし、アクたんとくっつけるのは駄目?これが一番丸いとは思うんだけど」
「まぁ確かに一理ある。という訳で────」
「俺は恋愛をするつもりはないって言ってるだろ。お前等と同じで俺は番組が終わるまで安全圏でやり過ごす。こればっかりは譲れない」
「なんだこいつ。女たらしのくせに」
「兄はブラコンでありシスコン。弟はシスコンであり女たらし。兄弟揃って罪深いね」
「「こいつと番組外で兄弟扱いするな」」
「息ぴったりじゃん」
MEMちょの茶々で何とも言えない雰囲気になりつつも、俺達はどうにか切り替える。
俺達を除いた出演者達の中で、客観的に物事を見れる貴重な人物ではあるが、事あるごとに俺達を兄弟扱いするのは本当に止めて欲しい。
「何かしてやりたいのに何もしてやれない。目の前で苦しんでるのに助けてやれない。………歯痒いな」
まるで……あの日を再現しているかのようだ。
「そうだね………歯痒いね」
「………そうだな」
俺の言葉に2人は頷く。
真はあの日、何も出来る訳なかったと言った。
実際あいつの言う事はその通りで、3歳の子供が凶器を持った大人を止められた訳がない。
……けれど、それでも考えてしまう。
もっと何か出来たんじゃないかって。
もっとやれる事があったんじゃないかって。
もっと上手くやれたんじゃないかって。
その事ばかりが頭をよぎる。
俺は………自分を許せない。
そんな事を考えている俺を真は黙って見ていた。