斎藤家の愚息   作:熊田ラナムカ27

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 ※注意
 
 前半部分はかなりの病み展開です。
 
 書いていてかなりの苦痛でした。
 
 用法用量を守っての閲覧をお願いします。
 
 それと皆様のお陰でランキングに掲載されました。
 
 沢山の応援を頂き、本当にありがとうございます。
 
 それでは、本編をどうぞ。
 
 


12 人を舐めるな

  

 

 

 

 もっと頑張らなきゃ。

 

 もっと爪痕を残さなきゃ。

 

 どうしてこんなに……不甲斐ないんだろう。

 

『最近あかねの出てるリアリティショーが人気出てるっていうから観てみたらなんだこれは!?総出演時間10分もいってねぇんじゃないか!?チャンスだって言うのにこれっぽっちも目立ってない!!マネージャーのお前がしっかり指導しなくてどうする!?苺プロのマネージャーは撮影と本職のどっちもこなしてるぞ!!』

 

『ですが社長……あかねも十分頑張ってて………』

 

『頑張るだけじゃ金にならないんだよ!』

 

 私のせいでマネージャーが責められた。

 

 他の演者達は………結果を残しているのに。

 

 私だけが………何も残せていない。

 

『うん!今日ガチ見てるよ〜。ゆきちゃん可愛くって好き!あかねは空気だから好き嫌いとかない』

 

「………頑張らないと」

 

 そんな言葉を吐いて今日も私は現場に行く。

 

 何をしたいのかも………分からないまま。

 

「ノブくん……こっちで一緒に………」

 

「ああいいよ?」

 

「あかねちゃん責めてるねー」 

 

 真面目に努力してれば報われる。

 

 今までだってそうだった。

 

 ただ……努力が足りてないだけなんだ。

 

 ………そのはずなんだ。

 

 目立つ為にはどうすればいい………?

 

『そりゃゆきからノブを奪う悪女ムーブだよ。これが出来たらキャラが立つし間違いなく目立てる。もちろんこれは指示じゃない。でもこういうの出来る子が売れるんだよねぇ』

 

 頑張らないと………!

 

「随分と最近は責める事が増えたみたいだが急にどうした?本気でノブの事が好きになったか?それともそういう気分になったか?」

 

 撮影の合間や終わりに、真さんはそこそこの頻度で話し掛けに来るようになった。

 

 下らない話から恋愛相談まで。

 

 私の事………心配してるのかな?

 

「そういう訳じゃないんですけど……こうすれば目立てるかなって思って。柄に合ってないのは自覚してるんですけど………」

 

「柄でもない事なんてやるもんじゃないと俺は思うがな。自分に嘘をついてやった事なんて何も残りやしない。………気づけばいつか虚しくなる」 

 

「まるで経験したみたいな言い方ですね。そう思った事が実際にあるんですか?」

 

「ああ……あったよ。死ぬ程な」

 

 その言葉の真意は私には分からない。

 

 けれど、私の事を心配しているのはよく分かった。

 

 とても嬉しかった。

 

「じゃーん!色々盛ってみました!可愛いでしょ!」

 

「凄い!私じゃこんなに上手く出来ないのに!」

 

「後で教えて上げるね!」 

 

 MEMさんは気分転換も兼ねて、バズる写真やその撮り方について色々と教えてくれた。

 

 ゆきちゃんがそれに混ざる事がそこそこもあって………変な写真も沢山撮った。

 

 とても楽しかった。

 

「黒川、喉渇いてないか?お茶いるか?」

 

「ううん。大丈夫。ついさっき飲んだから」

 

「そっか。ならいい」 

 

 アクアくんはよく分からない。

 

 私に気を使ってくれてるのは分かるけど、他の2人と比べて少し距離を取ったような態度をしていた。

 

 まるで何かを怖がっているみたいに。

 

 けれど、何も言わずに傍に居てくれた。

 

 とても心地よかった。

 

 不甲斐ない自分を少しは好きに────

 

『そういや居たわこんな子。あかねだっけ?』

 

『あかね別に居てもいなくても同じじゃない?』

 

『あかねOUTでいいから男新メン増やして〜〜』

 

 ………いいや、駄目だ。

 

 こんな私じゃ……まだ駄目なんだ。

 

 もっと頑張らないと………!

 

「あかね最近焦ってる?真君達が色々と気を回してるみたいだから。放送も終盤だし気持ちは分かるけど」

 

「別にそんなんじゃ……。私はどうにか目立って……結果を残したいだけ………」

 

「そっ……でもそうはさせないよ。私は私が一番目立つように戦う。悪く思わないでね」

 

 ゆきちゃんとはなんでこんなに違うんだろう。

 

 ゆきちゃんより目立たなきゃ。

 

 頑張って戦わなきゃ……。

 

 私に期待してくれてる人の為にも………。

 

「ケン!ラブラドール好きって言ってたよね!あっちにデカいラブラドール居た!」

 

「えっマジ!?」 

 

 また……何も出来ないまま?

 

 どうすればいい………?

 

『今求められているものはよりカゲキなもの』

 

「行こう!」

 

「やめてよ!!そうやって男に簡単に引っ付いて、やり口に品がない……!」

 

 ゆきちゃんを振り払うように強引に腕を振るった。

 

 こうすれば……いいんだよね………?

 

「いったん撮影止めます!誰か救急箱持って来て!」

 

 周囲の声に反応してハッとなる。

 

 数秒遅れて何が起きたのかをようやく理解した。

 

 腕を振るった際、爪のネイルストーンが運悪く顔を掠め、ゆきちゃんの頬にひっかき傷を作ったのだ。

 

 その証拠に自身の手には血がこべりついていた。

 

 ライバル以前に友達を傷つけるなんて……私はなんて事をしたんだろう。

 

「しっかりしろ。まずは深呼吸だ。一旦落ち着け」

 

「そうだよ。大丈夫だから」

 

 真さんとMEMさんが何か言ってるが………上手く聞き取る事が出来ない。

 

 声が、耳が、視界が、思考が、何もかもが………震えて上手く動かない。

 

「わた……そんなつも……ちが…わたっ…………!」

 

「あかね!」

 

 誰かの声をようやく聞き取る事が出来た。

 

 誰かが私の事を抱きしめた。

 

 その相手は誰でもない………ゆきちゃんだった。

 

「大丈夫だから!2人も言ってるけど落ち着いて!分かってる………焦っちゃたんだよね。知ってるよ。あかねが努力家なの」

 

 こうやって誰かに肯定されたのは久しぶりだった。

 

「だから言ったろ。柄でもない事はやるもんじゃないって。無理なんかするもんじゃねーよ」

 

「可愛い顔が台無しだよ?早く涙拭きな」

 

「ほら。ハンカチ」

 

 真さんに頭を軽く叩かれ、MEMさんには慰められ、アクアくんからはハンカチを貸して貰った。

 

 本当に………敵わない。

 

「あかねは私の事嫌い?」

 

「嫌いじゃない。強くて優しくて……好き………」

 

「私も努力家で一生懸命なあかねの事好き。だから怒んないよ」

 

「ほんと?」

 

「カメラ回ってないんだから、今演技しても仕方ないでしょ」

 

 本当に………温かいな。

 

 この時の私はこれで話が終わりだと思っていた。 

 

 これが演技の世界じゃない事を忘れていた。

 

 後日。あの日撮影した内容が放送された。

 

『性格悪いことやってるに決まってる』 

 

『は?黒川あかねうざい』

 

『黒川あかね屑過ぎて草』

 

『今ガチにお前はいらない。マジで早く消えろ』

 

 ネットは私を許さなかった。

 

 やっぱり……と思った。

 

「どうすればいいのかな。悪い事をしたんだから………謝らないとだよね」

 

 ちゃんと謝れば許してもらえると思った。

 

 だから考えて考えて謝罪の投稿をした。

 

 それが合図だった。

 

『謝れば済むと思ってんの?お前見つけたらぶん殴ってやる。でも謝るから許してね』

 

『何で息してるの?』

  

『消えろブス』

 

『ゆきちゃんが可哀想すぎる。死んで謝罪しろ』

 

 頑張っていればいつかどうにかなると思っていた。

 

 真面目にやっていればどうにかなると思っていた。

 

 それなのに……どうにもならなかった。

 

 暗闇の中に溺れていくような気がした。

 

 初めて……何も頑張りたくないと思った。

 

「あかね?大丈夫?顔色悪いわよ」

 

「大丈夫」

 

「学校休む?」

 

「大丈夫。行く」

 

 本当は学校なんて行きたくなかった。

 

 でも、家に居たら昨夜に見たコメントを思い出してしまいそうで嫌だった。

 

 嘘をついた。

 

 お母さんのご飯を戻してしまった。

 

「あかねの見た?」

 

「ヤバくない?いつかやると思ってた。」

  

「なんかいつも仕事があるからーとか芸能人ぶってさー」

 

「いちいちマウント取らねーと気が済まないのかって」

 

「マジ性格悪いし」

 

「自分はアンタ達とは違うからみたいな空気出してくるよねー」

 

「今頃囲いの男共に慰めてもらってるんでしょ」

 

「ありそー」

 

 私の陰口でクラスメート達は盛り上がっていた。

 

 何かを言われるのが怖くて教室に入れなかった。

 

 私はまた逃げ出した。

 

「あかね……最近元気ないけどどうかしたの?仕事で何かあったの?」

 

『母親がちゃんと教育しないからこういうカス女が生まれる負の連鎖じゃんw』

 

「とりあえず今は何もツイートはしない方がいいかもな。今は何を言っても燃料を与えるだけだから。慎重に行こう。何か言う時は相談して」

 

『事務所のリスク教育がゴミカス』

 

『マネージャーは何やってんだ。無能かよ』

 

 私が逃げている間に家族やマネージャー、事務所までもが批判の目で見られるようになった。

 

 更新された番組の内容を確認する気力も消えた。

 

 その頃には大体察しがついていた。

 

 番組が注目される限り炎上は終わらない。

 

 これからの芸能生活にこの問題が付き纏う事も。

 

「そういえば、何も食べてないや………」

 

 ずっと心配してくれてるみんなに簡単なラインだけして、私は夜食を買いにコンビニに行った。

 

 その夜は台風が来ていて凄い雨風だった。

 

 帰り道の歩道橋で強い風に煽られ転んでしまった。

 

 壊れた傘と買ったものが散乱する。

 

「疲れた」

 

 私の口からそんな言葉が零れた。

 

 歩道橋の手すりによじ登ろうとする。

 

 けれど、手が震えて上手く登れない。

 

「ああ、そっか。生きたいって思っているんだ。みんなにまた会いたいって……思ってるんだ」

 

 でも、苦しい。息が出来ない。

 

 生きたいはずなのに……全部投げ出したくなる。

 

 矛盾した感情で押し潰されそうになる。

 

「誰か助けて………!」

 

 本当に小さな悲鳴が口から零れた。

 

 私の悲鳴を聞いてくれる人なんて誰もいない。

 

 そんな声もあっという間に掻き消されて────

 

「いたぞ!いたぞ!見つけたぞ!走れ!!」

 

 歩道橋の下から誰かの声がした。

 

 その声に驚いて私は尻餅をつきそうになった。

 

 そんな私を誰か受け止めてくれる。

 

「落ち着け。俺は敵じゃない。頼むから落ち着いてくれ」

 

「アクア……くん………?」

 

 私を受け止めてくれたのはアクアくんだった。

 

 階段を登って真さんもこっちに向かってくる。

 

 力が抜けてアクアくんに抱きついてしまった。

 

 また会えた事が嬉しくて泣き出してしまった。

 

「あ……ありがとう………」

 

 それでも、感謝だけは言えた。

 

 本当に………温かくて優しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

  

 

 

 

 

 俺は何処までいっても人間だ。

 

 全知全能の神でもないしなろうとも思えない。

 

 だから、黒川が苦しむのを見ているしかなかった。

 

 本当に愚かなただの人間だ。

 

「全員このままグループ通話の回線を可能な限り維持しろ。リアルタイムで情報は共有できた方がいい。熊野と森本は学校をあたれ。鷲見は事務所とマネージャー。俺と真は黒川の家の周辺。MEMはSNSを使って目撃情報の確保を頼む」

 

「僅かでも情報を見つけたら直ぐに伝えろ。黒川に直接会って馬鹿やらかすのを防ぐぞ。いいな?」

 

 だが、俺にだって意地はある。

 

 俺は俺のやりたいようにやる。

 

 人の運命を神頼みにさせて堪るか。

 

 俺とアクアはバイクに乗り込む。

 

『直接会うのはわかったけど……あかねが飯買いに行くって言っただけで、過剰に反応し過ぎなんじゃないか?もう家に帰ってるかもだし。心配なのは俺も同じだけどさ』

 

『俺達とゆき、メッさんはまだ室内だからいいけど、真とアクアが探す場所って全部外だろ?台風来てるし危ないぞ』

 

『そうだよ!やっぱり私もそっちに────』

  

「男が決まった事にギャーギャー言ってんじゃねぇよ熊野。てめぇはてめぇの心配だけしてろ」

 

「あと真と違ってMEMはバイク持ってないから……」

 

「外で動くには速さと小回りがないので戦力外です

 

『ぐふぇ!刺さる正論!!』

 

 MEMちょがスマホ越しに吐血する音がした。

 

 もはや一発芸と化してる。

 

「これがもし俺の勘違いなら俺が恥をかくだけで済む。森本の言う通り全て思い過ごしかもしれない。だからやりたくないって奴がいたら……即刻抜けて貰って構わない。俺は責めないし誰にも責めさせない」

 

 俺が頼んだ今までの発言に強制力はない。

 

 俺が黒川が限界だと決めつけて動こうとしているだけの………自己満足でしかない。

 

 ギャラは出ない。そのくせにやる事は面倒。

 

 その上に確証もない。しかも台風は来てる。

 

 はっきり言ってクソみたいな仕事だ。

 

 だが、本当に間違えちゃいけない選択肢を間違えたら、それは一生の後悔になる。

 

 死んでも永劫その後悔は残り続ける。

 

 そんな終わり方は二度と御免だ。

 

「でもな。俺は例え一人でも黒川に直接会う。会っていつも通りの下らない話をする。とっくの昔にそう決めたからな」

 

 だから、俺は自分にだけは絶対に嘘をつかない。

 

『私………やるよ。何であかねちゃんは……相談してくれないんだろうってずっと思ってた。友達なのに。だから会って一言文句言うよ。心配させんなって』

 

 少し考えながらも鷲見はそう言った。

 

 その言葉には決意が宿っていた。

 

『ああ言ったけど、抜けるなんて最初から思ってないから勘違いしないで欲しい。もし思い過ごしなら……それでいいもんな』

 

『代わりに後で飯奢りな』

  

『わ、私も頑張るよ。一人だけ自宅だけど………』

 

『いつまで落ち込んでんだよ』

 

 スマホ越しに笑いが起こった。

 

 俺とアクアは顔を見合わせる。

 

 本当に……お人好しの馬鹿ばっかだ。

 

 表舞台の人間達は……俺には眩し過ぎる。

 

 斯くして俺達はそれぞれ黒川の目撃情報を集めた。

 

 可能性の低かった学校はやはりハズレ。

 

 事務所とマネージャーもハズレ。

 

 俺達がまず向かった自宅もハズレ。

 

 当たりを引いたのはMEMちょだった。

 

『あったよ!コンビニにいたっていう書き込みがあった!複数上がってるから信憑性も高いはず!』 

 

 近くのスーパーにいると思っていた俺達は即引き返し、MEMちょの指示に従ってコンビニに向かった。

 

 その途中のルート上で渋滞に捕まり、歩道橋のあたりで足止めを食らう事になったが、それが幸運にも黒川を見つける事に繋がった。

 

 どうにかギリギリで間に合った。

 

「俺達が来なかったらどうするつもりだったんだ……馬鹿野郎が。誰かに相談くらいしろ。抱え込むな」 

 

「うっ……あっ………」

 

 返事が出来ないほど黒川は疲弊していた。

 

「まずは屋内に移動するぞ。このままだと全員風邪ひく。下に停めた俺のバイクも回収しないと────」

 

「ちょっと君達!危ないでしょあんな所に!何してんのさ!」 

 

「………遂にクズが刑務所行きか」 

 

「行かねーよ。もしそうならお前も道連れだ」

 

 駆けつけた警察官に俺達は保護され、事情聴取の為にも警察署に連れて行かれた。

 

 俺とアクアの聴取は比較的早く終わったが、黒川の聴取はというとかなり長引いている。

 

 本人が泣き続けてそれどころじゃないからだろう。

 

 溜め込むよりはずっと健康的だが。

 

「全部がお前の筋書き通りになったな。これで黒川は一先ず大丈夫だと言っていい。持ち直すにはもう少しばかり時間が掛かるが」

 

 廊下に置かれた椅子に座ってアクアは言った。

 

 ああ、そうだ。全部上手くいった。

 

 彼奴等も安堵していたし、黒川はいつか立ち直る。

 

 全ては………計画通り。

 

「これで番組そのものが打ち切りになって……ギャラが消える心配は完全に消えた。棚から牡丹餅とばかりにメンバー全員に最大級の媚も売れた。色々あったが全てプラスだ。苦労した甲斐があるってもんだ」

 

「大層な演説してまで動いた理由はやっぱりそれか。黒川本人と彼奴等には絶対に言うなよ」

 

「言う訳ないだろ。媚を売った意味がなくなる」

 

「お前って本当にクズだよな」

 

「褒めるなよ」

 

「褒めてない」

 

 アクアは害虫を見る目で俺のことを見た。

 

 だが、その程度知った事じゃない。

 

 如何なる状況でも利益は追求してなんぼだ。

 

「それはそうと良かったな。気になってた相手をその手で助けられて。これですっかり白馬の王子様だ」 

 

 俺は茶化すように言った

  

「誰が白馬の王子だ。気になってなんか────」 

 

「だが誰よりもお前が黒川を気に掛けてた。誰よりも心配していた。それは事実だ。人の気持ちなんて俺には一生分からんが………それくらい見てればわかる」 

 

 俺の言葉にアクアは黙った。

 

 本人が気づかない程の無意識下ではあるが、俺の見立てだとアクアは黒川をアイに重ねていた。

 

 消えそうになっていく黒川の姿に、無力感に打ちひしがれた自分の過去を連想したのだろう。

 

 だからアクアは失う事に怯えながらも傍にいた。

 

 誰よりも気に掛けて心配した。

 

 俺とMEMちょにメンタルケアまで頼んだ。

 

 未来に進む為の………大きな一歩をした。

 

「………まぁ、無事で良かったとは思うよ」

 

 それが妙に嬉しかった。

 

「呼ばれた時は色々覚悟してたけど、よくやったわアクアに真。誇らしいわよ。他人に興味なさそうなあんた達だったけどちゃんと見てたのね」

 

「共演者として当然の仕事をしただけだ」

 

「別にそんなんじゃない………」

 

「2人揃って素直じゃないわね」

 

 連絡を受けて来たミヤコは俺達の頭を撫でた。

 

 仮にも高校生相手にやる事ではないと思う。

 

 しばらくすると黒川の聴取が終わり、同じタイミングで他のメンバーもようやく到着した。

 

 鷲見は会って直ぐに黒川の頬を叩いた。

 

「このば………!なんでこ…しんぱいさせて………!なんでもよぉ!相談してよぉ!」

 

「ごめん………」

 

 黒川と鷲見は共に泣き出した。

 

 後ろで熊野と森本が笑いMEMちょがドヤ顔をした。

 

 後で飯を奢る約束を俺は思い出した。

 

 その時は黒川にも払わせる事にしよう。

 

「全員一段落したから状況を整理するぞ。黒川の今後についてだ」

 

「あかね。お前はこれからどうしたい?」

 

「どうって………」

 

「このまま番組を降りるって選択肢もあるって事だ。契約云々で面倒事になったら任せろ。仮にも俺は苺プロダクションの御曹司だからな。契約ぐらいなら無理矢理もみ消せる。その場合は貸しって事で」

 

「親の目の前でそれを言うか。馬鹿息子」

 

「完全に悪役のセリフだ………」

 

 黒川以外のメンバーはドン引きした。

 

 アクアとミヤコに至っては呆れ返ってる。

 

「………私、もっと有名な女優になって、これからも演技を続ける為に頑張ってきた。皆にもいっぱい助けてもらって……でもこんな事になっちゃって………」

 

「あかね………」

 

「怖いけど……すごく怖いけど…………続ける。このまま辞めたくない」

 

 黒川の決意はとても固かった。

 

「それならプランAをプランBに変更だ。という訳で後の説明はグラサンに任せる」

 

「グラサン?」

 

「誰がグラサンだ。社長と呼べ社長と」

 

 熊野が疑問符を浮かべていると、ついさっきまで警察署の奥で話をしていたグラサンがやって来た。

 

 社長というワードと本人の登場に、アクア以外のメンバー全員は大きく驚いた。

 

 MEMちょに関しては言葉を失っていた。

 

「黒川さん初めまして。俺は株式会社苺プロダクションで代表取締役している斎藤壱護だ。うちのアクアとそこの馬鹿が世話になってるからな。まずは礼を言わせてくれ」

 

「い、いえ。お世話になってるのは私なので………」

 

「今日起こった事については心中察する。だが、これだけは勘違いしないで欲しい。決してこれは君の責任じゃない。この事態を防げなかった番組側と事務所……俺達大人に全ての責任がある」

 

「そんな!私がもっと上手くやっていれば………」

 

「抱え込むなって言ってるだろ。最後まで話を聞け」

 

 アクアにツッコまれて黒川は黙りこくった。

 

 まるで飼い主に叱られた子犬だ。

 

「その上で社長としてある提案をする。君がこれに頷けば状況を好転できるかもしれない」

 

 ────よければ苺プロに来ないか?

 

 グラサンの言葉に今度は全員が言葉を失った。

 

 夜が明けて台風が去った翌日。

 

 グラサンが警察署に待機していた記者へリークした情報がネットを通じて世間に流れた。

 

 SNSはその情報で溢れかえった。

 

 界隈で様々な議論が巻き起こっていく。

 

「話は聞いてたけど本当にやる気なのね……アンタ達。褒めた私が馬鹿だったわ」

 

「種は撒いた。目は芽吹いた。実りも良い。ここまで来て収穫をしない訳ねーだろ。事務所も番組サイドもネットの奴等も神気取りで散々好き放題にやったんだ。全員まとめて見物料をたっぷりと払わせてやる」

 

「その対応するのは私なんだけど」

 

「高めの限定アイス買って来るから許してくれ」

 

「ルビーやあかねちゃん達の分も買って来るように」

 

 ミヤコに2人揃って軽く小突かれた。

 

 俺とアクアは家を出る。

 

「ここからは別行動だ。表仕事は任せるぞ共犯者(アクア)

 

「上手く行くか分からないが本当のリアリティーショーを見せてやる。裏仕事は任せるぞ共犯者(まこと)

 

「ああ、任せろ。マネージャーの本領発揮だ」

 

 それぞれが反対方向に向かった。

 

 バイクを運転しつつナビを確認する。

 

 目指すは鏑木プロデューサーの事務所だ。

 

 

 

 

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