※注意
あかねの所属する事務所について間違いがあると指摘を多数貰ったので一部の内容を変更しました。
よく見返したら原作に事務所名あるじゃん……。
早く小説も読まなきゃ(汗)
普段はがらんとしている会議室に何人もの人間が集まり、それぞれが各々の策略を巡らせる。
今回集まった人間達の多くは事務所の代表取締役若しくはその補佐を務める重役に値する人間ばかりで、空気は重く何処までも張り詰めていた。
会議室に入って僕は司会の席に座る。
「インターネットテレビ局『ドットTV!』所属。今ガチの総プロデューサーを務めている鏑木勝也です。この度は劇団ララライ所属の黒川あかねさん自殺未遂に端を発する緊急対策会議にお集まり頂き、大変お忙しい中ありがとうございます。本会議は話数も少なくなりつつある今ガチの行方を左右するものと同時に、番組に参加している各事務所のタレントの今後を左右するものある事はご承知の通りです。番組全体が批判の目を受けつつある今、本会議の結果によって番組が無事終われることを切に願います」
僕の挨拶を皮切りに見えない攻防戦が始まった。
誰が今回の責任を取り誰が最大の利潤を得るか。
醜い醜い大人達の
あかねちゃんが所属するライトスタッフプロモーションの社長が初めに動く。
「まず初めに弊社の対応の不十分によってこの様な事態を招いてしまった事を深く謝罪します。どのような意見も受けるつもりである所存です」
初動としては無難な選択だ。
頑なに謝罪を拒んでいてはより責められる。
ゆきちゃんが所属する事務所の社長が次に動く。
「ならばこの際なので言わせてもらいますが、御社の黒川あかねさんに対する扱いは不適切と言わざるを得ません。明らかに比率のおかしい給与体系や今ガチ参加にあたっての説明の不足。特に後者は御社内だけの問題でないのは明らかです。現にゆきは傷を作り仕事を一つ失った。恋愛リアリティーショーがどのようなリスクを持つかについて強く教育していれば、せめて事態を簡単に出来たはず」
仕事を失ったとはよく言う。
日程が多少ずれ込んだだけで、仕事全体への影響は殆ど無かったというのに。
けれど、弱い手札を強く見せるのも立ち回りだ。
「黒川さんは現在どのように?メンタルケアは勿論としてSNSへの火消しは必須でしょう。彼女の心情を加味した上でも」
「それについては心配ないでしょう。彼女のSNSへの批判の動きは苺プロの法務部が動いたのもあって、少しずつ沈静化しつつあると聞く。何か起爆剤さえあれば残りの批判も一掃できるかと」
「おお、それは良かった。これで黒川さんも安心だ。彼女の苺プロへの移籍の判断は適切だったらしい」
ケンゴ君が所属する事務所とノブユキ君が所属する事務所の横の繋がりはとても強い。
事前に何を言うか示し合いをしてきたのだろう。
そうでなければ今の発言は出来ない。
これにライトプロ社長は無言で拳を握る。
「斎藤社長はご子息達が番組に参加しているとの事でしたね。あなた個人としてはどのようなお考えを?」
「そうですね。まず前提として大人には子供を守る義務があります。それを怠った罪というのは………とても深い。時に消せない途方もない痛みを本人と周囲に負わせるからです。それを理解した上で状況を打破するにはやはり当事者達に動いてもらうのが一番かと」
「資料にある黒川さんのイメージアップを目的とした自作動画の公式SNSへの投稿ですか。随分と面白いものを考えたようですね」
「黒川さんの為だと意気込んでいました」
MEMちょが業務提携しているFARMの社長の言葉に斎藤社長は誇らしそうにする
分かる者からすれば分かる事だが、この会議は初めからあかねちゃんの自殺を未遂で留め、法務部を動かし炎上の沈静化に尽力し、事態の最終的な落とし所を提示した斎藤社長に流れがある。
そして責められているのはやはりライトプロ。
仕込みと根回しの差がここで出ている。
「これを行えば事態を好転できるかもしれません。ですが、動画制作を行うにあたっては収録データを外に流すという、業界においてのタブーを犯さなくてはいけません。別の手段を我々が用意するべきでは?」
ライトプロ社長は尚も反論する。
というか反論せざるを得ない。
今回の件で事務所の信用はガタ落ち。
看板役者が他事務所に移籍。
このままだと自らの立場すら怪しい。
何か結果を出さなければ本当に終わりだ。
だが、それを斎藤社長は許さない。
「保険として我々でも何か別の手段を用意する事には私も賛成です。ですが、それはあくまで保険であって代替案ではない。本来我々大人が真っ先に果たすべき責任を彼等は自らで果たそうとしている。それを取り上げるというのは不義理に他ならない。彼等は守るべき子供であると同時に全員が私達と同じプロだ。義理を果たすのは当然の義務かと」
その言葉にライトプロ社長は反論出来なかった。
ここに勝負は完全に決した。
以降の会議は斎藤社長主導で行われ、各事務所は動画制作に必要となる収録データのアクア君達への貸し出しを全面的に許可した。
投稿した動画を取り下げる権利は総プロデューサである僕にあるが、それはあくまで形式的なもの。
余程過激なものでない限りは取り下げる事はない。
全て彼の思惑通りになった。
(一昨日事務所に来るや否や会議を開いて欲しいって直談判した時は何事かと思ったけど、どうやら感情的になっていた訳じゃなかったらしい。勝てると分かっていたから勝負を仕掛けた。恐ろしい限りだ)
思わず背筋が少し寒くなる。
これで粗削りなのだから末恐ろしい。
こうなる事を予見して事件が起きる少し前から、各事務所に根回しと交渉を行い、対ライトプロという構図を着実に作り上げて責任を全て押し付けた。
その上で僕を敵に回さないようギリギリのタイミングを測りつつ、移籍という形での実質的なあかねちゃんの保護を行う事で貸しを作り黙らせた。
一歩間違えれば取り返しのつかない綱渡りだと理解した上で、狂気的とも取れる執念で真君はその機会をただ静かに待ち続けたのだ。
つくづく消せるうちに消したいと思う。
それと同じくらいには増々気に入った。
「只今を持ちまして本会議を終了します。皆様大変お疲れでしょう。気を付けてお帰り下さい」
こうして彼が仕掛けた
ライトスタッフプロモーションへの動画制作にあたって発生する責任の押し付け。
苺プロダクションの利潤の獲得を持って。
彼の笑い声が聞こえてくるかのようだった。
「グラサンのお陰で制作に必要な素材は全て揃った。流石に社長やってるだけはあるな。まぁここまで仕込んでおいて失敗したら大恥ものだが」
『ライトプロに真っ向から喧嘩を売る真似を俺にさせやがって。建前的として苺プロは黒川を救った大恩人だが、見方を変えれば稼ぎ頭をどさくさに紛れて奪った火事場泥棒だ。一生恨まれる事になるだろうよ』
「だが建前が邪魔して動けない。というか今回の件で看板役者と信頼を失ってそれどころじゃない。黒川への負い目もあってライトプロは何も出来ないと断言出来る。今後の仕事に支障はないだろうよ。こればっかりは賭けてもいい」
『俺個人が恨まれてる問題は残っているがな』
「知るかよ。自分で何とかしろ」
『この馬鹿息子め』
スマホ越しにグラサンは悪態をついた。
そんなものなど痛くも痒くもない。
『だが、俺は未だに意外で仕方がないよ。自分事しか考えないお前が誰かの為に動くなんて。どういう風の吹き回しだ?』
「黒川の為に動いた訳じゃない。全ては俺の為だ。グラサンだって知ってるだろ。俺がこの世で最も嫌いなものは神の存在そのもの。2番目に嫌いなものは神気取りで好き放題する連中だって」
あまりに激しい感情で口調が歪む。
「奴等は全て知っていると物知り顔をして……散々人を嘲り笑い安全圏から傍観し、その誰が消えれば自分達は悪くないと当然のように善人面をする。俺みたいなクズにすら劣る外道だ。そんな連中はさっさと表舞台を去るか、死なない程度に死ぬ痛みを受けて
汚らわしいとばかりにそう吐き捨てた。
きっと鬼気迫る顔をしているに違いない。
それほどまでに俺の内心は荒れていた。
『だからうちの法務部を動かして火種を撒き続ける連中には訴えると脅し、番組サイドからは責任問題があると収録データのほぼ全てを分捕って立場を無くさせ、ライトプロに全ての責任を押し付けさせたのか。つくづく容赦ない』
「褒めるなよ」
『褒める要素が一切ねぇ。言いたい事はまだまだ沢山あるが……今回の件は俺としても思うところが無かった訳じゃない。黒川の事務所での扱いを知った時から何とかしてやりたいとは思っていた。それが出来ただけ良しとしよう』
「ありがとよ。父さん」
『都合のいい時だけ父親扱いしやがって全く』
スマホ越しにグラサンは苦笑いした。
俺と話す時はいつもこんな感じだ。
『黒川のイメージアップについては俺からどうする事も出来ない。動画の制作についてはアクアに一任してるんだったな。そっちは大丈夫なのか?』
「アクアなら目を血走らせて眠そうにしながら動画を作ってる。けどまぁ多分大丈夫だ。俺達だけでやってる訳じゃないし」
グラサンもこれには安心した。
俺はMEMちょの部屋を覗き込む。
「あー違う違う!そこで長尺の方が素人が頑張って作った感が出るって!」
「ここで俺の曲でしょ!」
「バーンって感じで行こうぜ!」
「うっるせぇな………」
そこそこ楽しそうにやっていた。
「という訳だからグラサンの仕事はここまでだ。後はアクアと黒川がどうにかする。精々結果を気長に待ってろ。少なくとも悪い結果にはならない」
『言われずともそうさせてもらう。今回の事は一つ貸しだ。その仕事が終わったらアクアと一緒にミヤコを手伝え。ルビー達に大きな仕事が控えている』
「その分のボーナスはちゃんと寄越せよ」
『お前の働き次第だ。しっかりとやれ』
グラサンからの電話が切れた。
俺は差し入れを持って部屋に入る。
「アイス買ってきたぞお前等。アクアに休憩入れさせろ。ここで倒れでもしたら溜まったもんじゃねぇ。代金は割り勘な」
「そこは奢りじゃないんかい。けど喜んでもらう」
「ハーゲンの新作もある。選ぶセンスいいな」
「俺にも一つ寄越せ………」
「てめぇは仮眠が先だ馬鹿。大人しく寝てろ」
ブラック企業出身として過度な労働は許さない。
俺はアクアをソファーに放り投げた。
アクアはものの3秒で寝た。
起きた頃にはアイスは一つも残っていなかった。
アクアは静かにキレた。
「ほら監督。エンコード終わったよ。投稿しちゃうからね」
「差し入れを結局一度も食えなかったぐらいで拗ねるんじゃねぇよ。そんなに食いたきゃ自分で買え」
「拗ねてなんかない。疲れただけだ。それにしても良いスペックマシン使ってるな」
「本職がユーチューバーなので」
「いつも動画見てます」
「応援ありがと」
推し活をする者として当然の行動だ。
本当にいつも楽しく動画を見ている。
今後も実直に頑張って欲しい。
「どん位伸びるかな?最低でも5000は行って欲しいよねぇ」
「プロが撮った素材を使ったからそれ位はイケるはず。バズになるかは運次第かな。気合い入れて作ったものほど意外と伸びなかったりするからねぇ………」
そういう事はネットだと結構ある。
「まぁやるだけやったんだ!さぁショーダウンと行こうぜ!」
「ディレクターを脅して脅して素材を搾り取って作ったんだ。成功するに決まってる」
「何もやってねぇ奴とクズが何か言ってるよ」
「どっちも事実なのが酷いね」
「真に関しては脅し方がヤクザのやり口だったし」
「ディレクター涙目だったもんね」
「褒めるなよ」
『褒めてない』
そんな事を言い合いながら動画を投稿した。
全員がRT数に注目する。
投稿して数秒程で数字は600を超えた。
「イケる!!これイケるきたぁあああ!!」
MEMちょは真っ先に反応してはしゃいだ。
推しのはしゃぐ姿を見れるとは実に運が良い。
何なら写真に収めたい。
「まずは前祝いだ。黒川と合流して飯食いに行くぞ。今日は特別に俺と黒川ついでにMEMちょの奢りだ。有り難く恵みを受け取れ」
「クズが飯を奢る?明日世界が滅ぶのか」
「滅ばねーよ。滅んだらやった事の意味ねーだろ」
確かに俺が誰かに飯を奢るだなんて、前世含めて片手で数えられるぐらいの珍しい事ではある。
前世だと奢る相手も金も時間も無かったが。
「ちょっと待って!何で私も奢る側になってる訳!?あかねちゃんはこないだOKしてたけど私関係ないよね!?みんなに焼き肉奢ったばっかりだし!!」
「俺はそこにいなかったから実質ノーカンだ。約束とはいえ推しに奢ってもらうチャンスを不意にした訳だからな。という訳で奢りの分の代金の半分は頼んだ。年長者としての誇りをかけて」
「ぐふぁ!またこの展開!?」
涙目のMEMちょに全員が大笑いした。
揶揄っていて本当に面白い。
その日の飯は最終的に回転寿司になった。
それなりに安くお祝い感もあるからだ。
推しの財布事情を気遣わないほど俺は鬼畜でない。
何より奢る金は安い方がいい。
「ほらどうした?そろそろ負けを認めたらどうだ?」
「くっ……まだまだ………」
「真君とあかねちゃんはさっきから何やってるの?」
「あかねが頑なに受け渡しに専念しようとするから、真が周囲を寿司で囲って食わせようとしてるらしい。実際圧が凄いから効果は出てる」
「新手の儀式かよ」
何故か飯の席で俺と黒川の戦いが始まった。
せっかくの寿司を食おうとしないのが悪い。
そして俺は戦いに勝った。
決まり手は禁じ手である大トロの注文だ。
勝利の余韻で食う寿司はとても美味かった。
黒川はそれはもう悔しそうに寿司を食べた。
それを見た他のメンバーは呆れ返った。
一方のアクアは俺達を無視して黙々と食べ続けた。
誰よりも食っていたと思う。
つくづく抜け目のない奴である。
そして動画は24時間後に9万RTを達成。
黒川のイメージを変革すると同時に『今ガチ』の人気を決定付けるものとなった。
『今ガチメンバー仲いい………』
『ゆきもあかねバッシングは望んでないんだろうな』
『あかねが苺プロに移籍したってマジ?』
『苺プロの法務部が動いてやり過ぎた奴等が見せしめに吊るし上げられたからマジ』
『あそこのネットに対するリスク管理鬼だから敵に回したら終わり』
『事務所ぐるみであかねを守ろうとした訳か』
『真君とアクア君がそこの御曹司だしね』
『いつもあんま仲良くなさそうのにこういう時は一致団結してていい』
『主な被害者はMEMちょ』
『普段は弄ってる側だから草』
そんなコメントが波のようにSNSに送られた。
動画により炎上騒ぎは「ある程度」収束を見せた。
そういう歯切れの悪い言い方になるのは炎上に完全な解決方法は無いからだ。
これからも事あるごとに蒸し返されて、言い続ける奴は10年後も言い続けるだろう。
けど、私はもう大丈夫。
私は一人じゃないって気づけたから。
「苺プロへの移籍も完全に終わったから、次の収録から復帰する。お世話になった事務所やマネージャーさん達には悪いけど、こっちで気持ち入れ替えて頑張るって決めたから」
「そうかそうか。たんまりと稼いで恩を好きなだけ返せ。具体的には金な」
「言い方ってもんを考えろよ。全部台無しだ」
真さんの言葉にアクア君は溜息をつく。
2人は自分達が仲良くないってよく言ってるけど、根っこでは信頼し合っていて互いを頼りにしているんだと思う。
とても素敵で羨ましい関係だ。
私もいつかそんな風になりたい。
本人達に言ったら嫌そうな顔をするだろうけど。
「これからはさ。あかねもちょっとキャラ付けた方が良いんじゃない?やっぱ素の自分で出て叩かれるとダメージ大きいし」
「そうだな。何かしら演じてたらその「役」が鎧になる。素の自分を晒しても傷つくだけ。これは別にリアリティーショー限った話じゃない。社交術としても重要な概念だ」
「俺は何も演じてないけどな」
「お前は素がクズだからダメージ無いだけだ」
「マコたんメンタルお化けだからね」
実際、私もかなり迂闊だったと思う。
リアリティーショーという事で変に緊張して、自らの演技を封じてしまったのだから。
それが自分の最大の武器だというのに。
「演技は得意だし……やってみようかな。でも、どんな役を演じればいいんだろう?」
「んーアクたんはどういう女が好み?」
「なんで俺に………」
「今フリーな男キミだけだからね」
「今まで恋愛から完全に離れていたんだからいい機会だ。せっかくだからあかねの相手をしてやれ」
MEMちょとゆきちゃん、真さんに食い気味に迫られて、アクアくんは少し考え込んだ。
ここにはいない誰かをイメージする。
「太陽みたいな笑顔。完璧なパフォーマンス。まるで無敵に思える言動。吸い寄せられるような天性の瞳。それが俺が思う理想の女性像。顔が良ければ完璧だ」
「一番大切なところだな」
「うっわ2人共最悪」
「ダブルルッキズムの権化出たな」
とても抽象的だけどやけに具体的。
「つーかそれってアイの事だろ。お前ほんと好きな。ファンにもほどがあるだろ」
「彼女は俺にとって永遠の推しだ」
「アイってB小町のアイ?アクたんってそういう子タイプなんだ。実は私もファンなんだよね」
「あーこういう系か。メンクイだね」
ゆきちゃんがその画像を見せてきた。
確か昔死んじゃったアイドルの人だ。
私にとっての先輩にもあたる。
何となく形は作れてきた。
「アクアくんの好みの女の子やってみるね」
「やれやれー!」
「アクアを落とせー!」
「何ならそのまま婿にしろー!」
「五月蠅いぞそこの3人。特に最後黙れ」
真さん達はそれは楽しそうに囃し立てた。
アクアくんは出来る訳ないと言いたげだ。
何処まで煽ってくれる。
頑張ろ。
私の為に頑張って動画を作ってくれた。
真さんと嵐の中私を探しに来てくれた。
うれしかったな。恩返しないと。
絶対に演じてみせて喜ばせてみせる。
私は図書館で資料を集めた。
「特徴はやっぱりあの瞳………自信から来るもの?だとしたら承認欲求は満たされている。友人関係は薄そう。でも、異性関係は何かあるだろうな。家庭環境は良い?いや、この人格形成は劣悪な方向かな?」
考察をメモして壁に貼り付ける。
次々と壁がメモで埋まっていく。
「愛情の抱き方に何かしらのバイアス有り。秘密主義と暴露欲求。破天荒な言動に反し完璧主義者。無頓着さと過度な執着。ファッションはやや無頓着。金銭感覚が節制傾向。視力は良い。聴覚と嗅覚が過敏。歩き方が大股。発達障害の傾向。教育レベルは低め。箸の持ち方が少しいびつ。思春期の段階で性交渉があった子特有のバランスの悪さ。15歳あたりから破滅行動に改善が見られる。良い出会いがあったのかな?もしかしたら隠し子がいるのかも。だとしたら色んな感情のラインに整合性が取れる。けど、そうなると隠し子を身ごもった年齢が16歳辺りだから考え過ぎかな。あっ、びっくり。その隠し子の年も16歳辺りだ。もし本当にいたら芸能界にいるかも」
自らの解釈を深めて私の中のアイ像を確立させる。
有り得ない考察や勝手な設定を含めて。
もし有り得たらあまりに狂気的だ。
「アクアくんはアイさんと面識がある。それも複数。斎藤家の親戚筋にあたるって言っていたからそれこそ家族ぐるみで。真さんとルビーちゃんも同様。初の接触は最低でも昔出た映画で共演した1歳の頃。アクア君の人格形成にはアイさんの死が深く関わっている。異性への関心が低いのはそれも関係してる。アクアくんにとってアイさんは最高の異性であると同時に精神的支柱。………そんなアイさんを失った時、アクアくんはどんな気持ちだったのかな?きっと精神疾患レベルのダメージを負ったに違いない。なのに精神疾患者特有の症状は見られていない。カウンセリングにはちゃんと行ったみたいだね。何より……真さんがアクアくんに何かをした。それが新たな精神的支柱になって彼を支えた。やっぱり仲良いんだね」
考察の域はアクアくんにも及んだ。
その過程で彼の心情も少し分かって心が痛んだ。
けど、それと同時に少し安心した。
真さんがアクアくんをアクアくんのままでいさせてくれた事が分かったから。
アクアくんが私にやった事みたいに。
真さんがかなちゃんにやった事みたいに。
兄弟揃って同じ事をしてくれたんだ。
これでお揃いだね。
「アイさんにとって真さんは自らの家族のような存在。真さんにとってはともかく、アイさんにとってはそれほどまでに距離が近かった。何かシンパシーを感じていた?何かを羨んでいた?彼女に何かしらの影響を与えた事は確実。ただし真さんの人格形成にはあまり関わっていない。社長やその妻が性格上特異的な教育を受けさせたとは思えない。産まれた時からこの性格?まるで生まれ変わりをしたみたい。その捻くれた性格の根幹にあるのは自己防衛。何かから自分を守っている?いいや、脱線し過ぎだ。今はアイさんの考察が優先。好きな男のタイプは────」
私のアイさんに対する研究は朝まで続いた。
今なら人格そのものすらコピー出来る気がする。
その証拠に白い星を宿した瞳を再現出来た。
アクアくん喜んでくれるといいな。