斎藤家の愚息   作:熊田ラナムカ27

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2 転生者達の邂逅と小さな復讐

 

 

 

 

 ここまでのあらすじ。

 

 俺は三十路間近の某ブラック企業に勤める社畜。

 

 いつもの如く目の前に置かれた白き巨塔(仕事の山)と戦っていた俺は、20連勤徹夜による疲労で頭がおかしくなっていた。

 

 仕事をするのに夢中になっていた俺は、摂取していたMons〇erのカフェイン量の計算をしくじり、その結果そのまま会社でお亡くなりになってしまった。

 

 ようやく死ねた安堵していたのも束の間、目を覚ますと俺は見知らぬ男と女の子供として転生し、納得もしていないのに斎藤真としての第二の人生が強制的にスタートする事になった。

 

(この転生を仕掛けたと思われる邪神については絶対許さん)

 

 自分がいた世界と転生した世界が似ているようで違う事に驚きつつも、母ことミヤコによる赤ちゃんプレイをどうにか乗り越え、父ことグラサンを揶揄いつつ、俺は2歳を目前となるまで成長。

 

 何だかんだで平穏な人生を送っていた………はずだった。

 

 しかし、そんな平穏を壊すように、グラサンが取締役を務める株式会社苺プロダクションの稼ぎ頭こと星野アイが妊娠し、あろうことかその子供を反対を押し切って出産すると言い出したのだ!!

 

 そしてその時、俺は重大な事実に気づいてしまう。

 

 俺の転生した世界が『推しの子』という漫画の世界であり、件の星野アイがいつか死ぬという事実を。

 

 稼ぎ頭である星野アイが死ねば最後……苺プロダクションは考えるまでも無く倒産の危機!!

 

 そしてグラサンの息子であり苺プロダクションの御曹司である俺の第二の人生も……このままではついで感覚にジ・エンド!!

 

 そんな衝撃的な事実を知る事になった俺は………たった今!!

 

「んぎゃ!んぎゃ!んぎゃ!」 

 

「ばぶっ!ばぶっ!ばぶっ!」

 

 ………無事産まれてアイの家に来た双子に、何故か足を蹴られ叩かれ続けていた。

 

 なお、このあらすじは俺の現実逃避を目的としたものであり、今後二度とやろうとは思わん。

 

 思い返せば思い返すほど碌な思い出が無さ過ぎて……冗談抜きで泣きそうになってきた。

 

 あと、お前等はいい加減俺の足を攻撃するのを止めろ。

 

 非力な赤ん坊の力とはいえ、脛を重点的に長時間叩かれるのは結構にキツイ。

 

 こいつ等、俺が赤ん坊相手に手を出せない事を分かって上でやってるんじゃないだろうな?

 

「アクア、ルビー。真お兄ちゃんを苛めるのは駄目だよ。遊んで欲しいならもっと可愛い顔をしなきゃ」

 

 どうする事も出来ずただ無を感じていると、後ろからやって来たアイが2人を抱っこした。

 

 俺に対しては可愛げが全くないくせに、この2人はアイが来ると途端に猫を被る。

 

 アクアとルビーという名前をあだ名だと思った奴もいるかもしれないが、なんとこれは2人の本名。

 

 男の子の方が星野愛久愛海(アクアマリン)

 

 女の子の方が星野瑠美衣(ルビー)

 

 見事なまでのダブルキラキラネーム。

 

 これを初めて聞いた時、俺は思わず大爆笑した。

 

 嫌がらせ目的で提案したキラキラネーム案をアイは驚いた事に本気で採用したらしく、2人の名前を考えるのを手伝ってくれてありがとうと言っていた。

 

 これには流石の俺も………少しこそばゆかった。

 

 まぁ、それはそれとして、まさかのキラキラネーム案を冗談抜きで採用するというアイのセンスは予想外だったし、斜め上を行き過ぎて驚きも出て来ず、本人のいないところで2度目の大爆笑はしたが。

 

(思い返してみるとあの双子に叩かれるような羽目になったのは、この辺りからだった気がする)

 

「じゃあ、全員集まったところで、今後について話し合うぞ!アイドル「アイ」は本日復帰となる!それと俺達が今みたいにどうしてもの要件があって忙しい時は、アクアとルビーの面倒は基本真に見てもらう」

 

「えっ、普通に嫌だ。こんな明らかに懐こうとしない奴等の面倒なんて誰が────ってイタッ!?ルビーお前、何すんだ!?割りと思いっきり俺の足を座布団代わりにしやがって!!」

 

「ばぶー?」

 

 わざとらしく猫を被り、ルビーは首を傾げる。

 

「赤ちゃんは好奇心旺盛で目の前にある物を直ぐに玩具にしたがるんだから仕方ないわよ。真もお兄ちゃんなんだから我慢しなさい。声も少し大きいわよ」

 

「我慢以前にこいつが猫を被ってる事実に気づけ!好奇心旺盛っていうか、今できる最大限の攻撃をしてるだけだからね、こいつ!!ちょっと、アイさん!?お宅の娘さんが俺の足を座布団代わりに────」

 

「どうしたのルビー?私の足を掴んで。あっ、そっかぁ。私わかっちゃった。ルビーは私に抱っこして欲しいんだね。甘えたがりだな」

 

「はんぎゃ」 

 

「チクショー!全く聞いてない!それとお母さん!?その子はルビーじゃなくてアクアです!仮にも自分の子供なんだから間違えないであげて!!」

 

「なんだよ。もう息ぴったりじゃねーか。心配せずとも懐かれてるよお前」

 

 俺の必死の訴えも空しく、結局俺は飯とオムツ替え以外の面倒のほぼ全てを任される事になった。

 

 あのグラサンは一体何を見て判断したんだ!?

 

 一件の流れからわかるようにあの双子は普通の赤ん坊ではなく、それ相応の考えと意志を持って行動していることは明白だ。

 

 ………何より、俺は見逃さなかった。

 

 アイがアクアを床に降ろそうとしたタイミングで、ルビーが悪い顔をして親指を立てていた事を。

 

 そして床に降ろしてもらったアクアが、それに負けないくらい悪い顔で親指を立てていた事を。

 

 ……ああ、間違いない。

 

 絶対に間違いない………。

 

 あいつ等も俺と同じ………おそらくは転生者だ。

 

 そうでなかったら赤ん坊がこんな事する訳がないし、俺はこんな散々な目に遭っていない。

 

 何よりこの世界の名前はなんたって『推しの子』。

 

 あの2人はアイの事を明らかに好きでいるようだし、アイへの接し方にも何処か気づかいのようなものが見える。

 

 つまり………

 

 星野アイ=推し。

 

 星野アイの子=推しの子。

 

 星野アイの子=推しの子=アクアとルビー。

 

 ……という方程式が成り立つのだ。

 

 転生なんてものがあるこの世界で、こんなにも役満な奴等が普通であるはずがない。

 

 俺と同じ別世界の転生者か、この世界内での転生者か、もしくはそれ以外なのかは分からないが………これだけは言える。

 

 何があろうと奴等の正体を暴き……俺にやったことに対する裁きという名の鉄槌を必ずや与えようと………!!

 

 俺を敵に回した事を……一生後悔させてやる………!!

 

「えー、ここまで話し合った通り、俺とアイはこれから大急ぎで現場に行く。2人の面倒は基本真に任せるとはいえ、1人じゃ出来ないこともあるだろう。よって保護監督は頼んだぞミヤコ」

 

「はぁ………。まさか2回目の子育てを他の家の子でやると思ってなかったけど……前と違って多少の家事とご飯とオムツを替えるだけと考えたらマシね。真も頑張ってくれるみたいだしできるだけ頑張るわ」

 

 ミヤコは勘違いしているようだが、俺は決して協力的などではない。

 

 なし崩しにそうなったのと、2人の正体を暴く為に仕方なく引き受けた、引き受けさせられたの間違えである。

 

 よってそれなりに協力はしてやるが、本人の思惑とは違い、ミヤコにもたっぷりと働いてもらうつもりである。

 

「アイ、何度も言うようだが肝に命じろ。アイドルのお前が16歳2児の母………なんて世に知られたらアイドル生命即終了!監督責任を問われて俺の事務所も終わり!全員まとめて地獄行きだ!決してその事を忘れるなよ」 

 

「はいはい、わかってますよーだ。佐藤社長はしつこいんだから。アクアも困っちゃうよね」

 

「そっちはルビーだ。そして俺の名前は斎藤だ。いい加減覚えろクソアイドル」

 

 随分とのほほんとした様子でアイはいるが、冗談抜きでその通りである。

 

 事務所が潰れてしまえば全員行き場なんてなくなるだろうし、その場合俺は良くて施設行き、悪ければ失意の中での無理心中だとか何かしらの理由で死にかける事になるかもしれない。

 

 今はどうしようもなくて放置せざる得ないが、ただでさえ星野アイという人間は無限に近い死亡フラグを背負った巨大な爆弾なのだ。

 

 その死亡フラグを今後どうするかは後で考えるにしても、関係のないところで社会的死亡フラグを立てるのはくれぐれもやめてほしい。

 

『そうそう!ご飯といえばうちの子が───じゃなくって、子猫がね!休養中に飼い始めたんだけど────』

 

 頼むから本当にやめてくれ!!また死ぬにしても別件で死ぬのは嫌だ!!金ならグラサンがやるから余計な事だけは言わないでくれ!!

 

「とりあえず溜まってた洗濯物はこれで終わりだけど……洗濯まで手伝ってもらってよかったの?一応こっちも無理言ってる自覚はあるから、ほどほどに手を抜いちゃっていいのに」

 

「人間……時には何も考えずに……手を動かしたくなる時があるのさ………。何も考えず現実を忘れ……心を鎮めたくなる時が………」

 

「あんた本当に3歳間近の子供よね?なんでそんな悟り開いてるのよ」

 

 強いて言うならあなた方のアイドルが危なっか過ぎるからですね。

 

 1週間のうちに10回以上もアウトギリギリな発言を繰り返せばそうなりますよ。

 

 あのグラサンもぐったりとした表情だったし。

 

「あら?おかしいわね。スマホがない。ポケットに入れておいたはずなのに……何処にも見当たらない」

 

 洗濯機の中に洗濯物を全て放り込んでボタンを押した最中、ポケットを漁りながらミヤコが言った。

 

「ついさっきまであちこち回って掃除機かけてたから、その時にでもどっか置いたんじゃないか?アクアとルビーが寝ているうちに終わらせたいって、急いで掃除してたし」

 

「うそ……全然覚えてない。今日家に来ていつスマホを取り出したかすら………全く思い出せない」

 

「早めのボケが始まったか」

 

「やかましいわよ。これでもまだ20代だから」

 

 正直に言ってだいぶキツイ。

 

 事実まだ20代なのだろうし、事実シワ一つない美魔女なのだが、実の母親に若いアピールされる事ほどキツイものはない。

 

 この時の俺はだいぶドン引きしていたと思う。

 

(それにしてもあいつ等……今のところビックリするぐらい尻尾出してこないな。あれ以降それっぽい事はしてねーし……基本泣いてるか玩具で遊んでるかしてるだけのただの赤ん坊だ。そんな事はないと思うが………勘違いだったのか?)

 

 洗濯も終わり、リビングに戻ろうとしている最中、俺はふとそんな事を思った。

 

 ここ1週間、あいつ等の正体を暴こうと隙を見て観察してはいたのだが、初日と違いこれまでの双子の行動はまるで普通の赤ん坊そのもの。

 

 俺を攻撃する事も無ければ、悪い顔もしておらず、まるでこの前の事が幻だったかのよう。

 

 このままだと俺が人知れずただの痛い人みたいになってしまうから………非常に困る。

 

 かといって3歳未満児である俺があいつ等を見張る為にこれ以上の事なんて出来る訳がないし、幼児を尋問して無理矢理吐かせようなんて事は多方面に怒られるから無理だ。

 

 正直八方ふさがり感はある。

 

「おっと、こんなとこにあったのか、ミヤコのスマホ。見当たらないって騒ぐから何事かと思えば、こんな棚の奥に置いてあっただなんて。また随分とベタな」

 

 冷蔵庫からお茶を一本取り出して飲んでいると、アイのグッズが置かれた棚の上にスマホが置かれているのを見つけた。

 

 とりあえず回収して後でミヤコに渡そうとスマホを手に取るが、ついうっかりして置かれていたキーホルダー付きの兎のぬいぐるみを誤って床に落としてしまった。

 

 何やっているんだと溜息をつきながら、俺は落ちたぬいぐるみを元の場所に────

 

「おぎゃー!!おぎゃー!!おぎゃー!!おんぎゃあ!!おんぎゃあ!!」

 

「な、な、なんだ!?急に泣き出して!?め、飯はついさっき食べて、オムツも変えたばっかりだろ?い、一体どうした?まさか漏らしたのか!?」

 

 俺がぬいぐるみを手にした途端、双子のうちルビーが突然大声で泣き出して、その場で大暴れしだした。

 

 ついさっきまで静かだっただけにあたふたし、ぬいぐるみを元の場所に戻す事しか出来なかった。

 

 泣き声を聞きつけて遅れてリビング入ってきたミヤコがルビーは抱き抱え、しばらく子守り歌を歌ってようやく静かになった。

 

 つい先程のぬいぐるみを思わず振り返って見る。

 

(………まさか、俺がアイのグッズを落としたから、ルビーは泣き出して暴れたのか?そういやアイが出てる番組を双子がじっくりと見てる話はアイとミヤコから聞いてはいたが、俺はその様子を一回も見た事なかったな)

 

 ここ1週間双子を観察したといったものの、24時間全部の時間をずっと一緒にいた訳じゃない。

 

 アイが家に帰ったタイミングでお暇する事が殆どだし、アイがミヤコとママ友の会話をしたいからと、俺がグラサンと一足先に家に帰る事もあった。

 

 おそらく彼奴等は俺が自分達の正体を探ろうとしているのを早々に察知し、今まで以上に猫を被って普通の赤ん坊を演じ、ボロを出さないように俺がいる場ではアイについて触れる事を避けたに違いない。

 

 何という危機感知能力。

 

 何という演技力。

 

 何という対応の早さ。

 

 見た目が赤ん坊だからと無意識的に侮っていたが、奴等も曲がりなりにも転生者なのだ。

 

 正直舐めていた。

 

 あと一歩で俺も騙されるところだった。

 

(だが、お前達がアイの奴隷(ファン)であり、偶然とはいえアイのグッズを傷付けられた事に動揺して、擬態が解いてしまった事が運の尽きよ………!!)

 

(お前達がアイの奴隷(ファン)だとわかった以上……こっちにだって考えがある………!!)

 

「………おい。真の奴、明らかに幼児がしちゃいけないゲス顔してるけど……大丈夫なのか?こいつが恐怖の大魔王の生まれ変わりって言われても、今の俺なら納得しそうなんだが…………」

 

「き、きっと大丈夫よ…………多分」

 

 そんなこんなで翌日。

 

 いつも通りグラサンに連れられて仕事に向かうアイと入れ代わりで、ミヤコと共に午後の当たりまで普通にアクアとルビーの面倒をみた。

 

 しかし、改めてこうして見ると、仮にも大人(?)が赤ん坊の演技をしているというのは中々に滑稽であり、双子の演技力も相まって尚更笑いが飛び出てきそうになる。

 

 この2人の前世が一体どんなものであったのかは興味ないが、アイへの異常な懐きっぷりからして、両方とも根っからのマザコンもしくはドルオタなのはほぼ確定。

 

 ならばその化けの皮を剝がすにはそこを刺激するのが一番であり、番組が始まるこの時間帯がベストだ。

 

 薄ら笑いをどうにか隠しながら、俺はテレビのリモコンを操作して移っていた番組を切り替える。

 

『皆さんこんばんは。夜のニュースのお時間です。今日起きた出来事を振り返って行く訳なのですが………今日は特別ゲストをお呼びしています。今月のシングルオリコンで初めての1位を達成した、B小町の皆さんです!』

 

『はーい!どうもこんばんわ!まずはセンターの星野アイです!皆さん今日はよろしくね!』

 

「ばぶっ!?ばぶっ!ばぶっ!!」

 

「!?!??!」

 

 突然のアイの登場に案の定ルビーは食いつき、前屈みで腕を振りながらテレビをまじまじと見た。

 

 片割れのアクアは驚きながらもまだ冷静であり、慌ただしそうにテレビとルビーを交互に見た。

 

 俺に正体がバレないか不安でたまらないらしい。

 

(このテレビ出演はグラサンが昨日無理矢理ねじ込んだもの!急遽決まったものだからネットにはこの情報は一切出ていない!どれだけ擬態能力が高いのお前達でも、心構えもしないまま、突然の推しの登場を見たとなれば化けの皮を保てまい!!)

 

 俺の策略だと気づいたアクアは、心底悔しそうにこちらを見るがもう遅い。

 

 お前達が今のに僅かながらでも反応した以上、もう勝負は決まったも同然だ。

 

 ここで一気に畳み掛ける!!

 

「ミヤコ。一つ提案なんだけど、また今度やるB小町のミニライブにこの2人を連れていって上げられないかな?こんなにも一生懸命自分の母親を応援しているんだから、1度くらい罰は当たらないだろ?駄目かな?」

 

「ばぶっ!?」

 

「!??!」

 

 俺のこの提案にルビーとアクアはあからさまに反応した。

 

 ミヤコは少し困ったような顔で考える素振りをする。

 

「連れて行くって行っても2人は赤ん坊よ?関係者枠で無理矢理入れない事はないけど、壱護がそれを許すとは思えないわ。リスクが高すぎるもの」

 

「いいや、2人がアイの子供ってバレる事は絶対ないよ。まさか人気急上昇中のアイドル、それも16歳に子供がいるなんて誰も思わないだろうし、ライブに夢中になったファンが赤ん坊に目を向けるとは考えにくい。俺の髪色が金髪なのも相まってミヤコの子供としか思われないよ。間違いない」

 

「けど、もしもの事があったら怒られるのは私だし………」

 

 悩ましそうにミヤコは頭を捻るが、断言したっていい。

 

 この提案をミヤコは必ず飲む。

 

 俺がこの世界に転生して2年間が経ちわかった事であるが、親それも特に母親は、自分の子供に対しては驚くほど甘い。

 

 俺を捨てた前世の母親のように、全員がそうではないのだろうが、長い時間を共に過ごす事により義務感とは違う別の感情が芽生え、可能な限り願いを叶えてあげたいと願うようになるらしい。

 

 現に俺が1歳と少しで流暢に喋りだしたのに不気味がらず、寧ろ天才として大喜びしたのがいい例だ。

 

 何度も言うように全母親がそうでないのは理解している。

 

 だが、俺の母親、ミヤコに関しては、驚くほどそれが当てはまるのだ。

 

「無理を言ってるのわかってるよ。けど……どうしても2人に喜んで欲しいんだ。………駄目かな、母さん?」

 

「…………ッ!!そ、そうね。もしもの事が……起きなければいいのよね。壱護にバレたら怒られるかもだけど……バレなきゃいいのよね。いつもお願いなんかしない真の頼みだし………お母さん頑張ってみようかしら」

 

「本当!?ありがとう、母さん!!」

 

「そ、そんな、お礼なんて、言うことの程じゃないわよ。……それにしてもお母さんか。そんなこと、初めて言われたわね」 

 

 何処か惚けた様子のミヤコを無事落とした俺は振り返り、成り行きを見守っていたアクアとルビーに、言葉を発さず口を動かしてこう伝えた。

 

『俺がここまでの事をしてやったんだ。絶対に逃げるんじゃねーぞ』 

 

 ようやく俺の意図を察したルビーは顔を青くし、してやられたとアクアは頭を押さえた。

 

 散々俺をおちょくった罰だ。ざまぁみろ。

 

 その後、とても上機嫌なミヤコが風呂掃除もやると風呂場に行ったタイミングで、俺は改めて双子と向き合った。

 

 こいつ等がアイの奴隷(ファン)であり、俺がアイのライブという眉唾物のブツを人質ならぬ物質に握ってる以上、もう何処にも逃げ場がない。

 

 こいつ等がしらを切ったとしてもアイのライブを取り上げてしまえば精神的ダメージを与える事ができ、仮に俺がライブに行けなくなったとしてもノー問題。

 

 何故なら俺はアイの奴隷(ファン)ではないのだから。

 

「わ………我は天の使いである。貴様の狼藉……これ以上見過ごす訳には────」

 

「そういうのいいから。さっさと本題はいるぞ時間の無駄だ。中二病ごっこなら別でやってくれ」

 

「慎め低俗な存在め。我はアマテラスの化身────」

 

「あっ、いいんだな?神嫌いの俺にそんな話を持ち出して。俺がその気になれば、お前達が楽しみにしてるライブ行きを無かった事に出来る訳だが」

 

「「このクズッ!!」」

 

「そう褒めるな。照れるじゃないか」

 

「「褒めてない!!」

 

 双子は俺の事を頻り睨んでいるが、この程度全く怖くない。

 

 取引先に散々怒られ、責任はそっちにあるのに怒鳴り散らかす糞上司と比べたら、こんな睨み顔なんて足元にも及ばない。

 

「そう邪険にするな。俺はお前達と同じ転生者だ。色々あって死んで、気付いたらこの姿になっていたんだ」

 

「…………!!………そうか。どうりで俺達を疑り深く探ってると思ったよ。それなら最初から………いや、言えるわけないな。お互い前世を持っていただなんて、知る訳ないんだから」

 

「話が早くて助かる」

 

「じゃあ、あんたの性根の悪さは生まれつきってこと?こんなのが自分の息子だなんて………ミヤコさん可哀想ね」

 

「前世持ちのくせに赤ちゃんプレイを楽しんでる奴には言われたくない。客観的に見てだいぶキモいぞ」

 

「娘の私がママのおっぱいを吸うのは自然の摂理なんですけど。与えられた当然の権利なんですけど」

 

「すまん。擁護できない」

 

 アクアの方は比較的穏健派のドルオタのようだが、ルビーの方は過激思想持ちの強火なドルオタのようだ。

 

 合法的におっぱいを味わえるとか考えてそうだし、一生守ろうとかふざけた考えを持っているに違いない。

 

 こいつの考えを理解する事は一生ないだろう。

 

 というか理解したくない。

 

「まず初めに聞いておきたいんだが………『推しの子』って、お前達は聞いた事はあるか?聞いた事がなくても別にいいんだが……一応念の為な」

 

 ルビーのトリップが終わったタイミングで、俺は最も聞きたかった質問をした。

 

 アイの死亡フラグについて、知っていれば儲けものなのだが。

 

「そんなの初めて聞いたな。ある意味だと俺達が推しの子ではあるが」

 

「そんなの全然知らない。あっ、もしかして私達が羨ましい?そりゃそうだよね。何てったって私達はママの子供なんだから」

 

「申し訳ないがそこは興味ない。俺はアイドルに興味がある訳でもなければ、アイのファンでもないしな」

 

「はぁ死ねよ?ママの才能と美を理解しない類人猿が。どうせ前世でしょーもない死に方したんでしょ?今直ぐ殺してあげようか?」

 

「落ち着けルビー。こいつを殺すのはアイの素晴らしさを刷り込んだ後だ。アイの素晴らしさを理解するのが遅かったと、後悔させてから殺すんだ。それが世の為、人の為、アイの為だ」

 

 前言撤回。

 

 両方とも過激思想持ちの強火なドルオタだった。

 

 赤ん坊が出しちゃいけない声色をしてやがる。

 

 だが、これでわかった。

 

 少なくともこの2人はアイの死亡フラグについて、全く知らない。

 

 もし知っていたら過激思想持ちの2人の事だ。

 

 何が何でも行動を起こしていただろう。

 

 しかし、そう考えると、アイの死亡フラグを2人に伝える事はやはり出来ない。

 

 そもそも戯言だと言って信じてくれるとは思えないし、アイのファンではないと言っただけでこの始末だ。

 

 冗談抜きで俺が始末されかねない。

 

 ……これで全て振り出しだ。

 

「念の為に聞くけど約束は守ってくれるのよね?アイのライブに私達を連れて行くって約束!!破ったら許さないからね!!」

 

「そうだ。これは俺も譲れない」

 

 そんな俺の思惑も知らず、2人はライブ、ライブと騒ぎ出した。

 

 なんかしゃくに触るから行かせたくなくなるが、仮にも一度約束してしまったのだ。

 

 破るわけにはいかない。

 

「安心しろ。約束は守る。ただし、お前達は前世のようなドルオタとしてではなく、ミヤコの子供、俺の弟と妹としてライブに行くんだ。もし面倒事を起こせばアイとミヤコ、ついでにグラサン。何よりも俺に迷惑がかかる。絶対に面倒事は起こすなよ。いいな?」

 

「俺達を何だと思っているんだ?純然たるアイの奴隷(ファン)だぞ?推しに迷惑を掛ける訳ないだろう」

 

「あんたみたいなクズとは出来が違うのよ。あと名目上なのはわかっているけど、あんたの妹になった覚えはないから。そんなの死んでも御免」

 

「心配せずともこんなドルオタの弟と妹を持った覚えはない。俺としても御免だ。けど、そうだな。俺とお前達の今の立場的は、圧倒的に俺が上で、圧倒的お前達が下ってわけだ。よし決めた。お前達が本当にアイのライブに行きたいのであれば………(こうべ)を垂れて(つくば)え。そして平伏しろ。つまりは土下座だな」

 

「お前……本当にクズだな…………」

 

「だから褒めるなよ。照れるじゃないか」

 

「「褒めてない」」

 

 こうして俺は俺とは別の転生者達との邂逅を果たした。

 

 今回の件を抜きにしても年齢的にも、アイの事務所の御曹司という立場からしても、こいつ等は俺に基本逆らう事は出来まい。

 

 実質的に部下が出来たも同然という訳だ。

 

 中々に実りがある復讐劇だった。

 

 そしてライブ当日。

 

「「バブ!!バブゥ!!バブッ!!バブッ!!バブウゥ!!」」

 

「なんだあの赤ん坊!?オタ芸打ってるぞ!!」

 

「乳児とは思えないキレだ!!」

 

「えっ、何これ凄い!?けど、滅茶苦茶目立ってる!?こんなの絶対壱護にバレる!!」

 

「お前等何やってんだ!?!?」

 

 双子はライブではしゃぎ倒し、俺とミヤコはグラサンに超怒られた。

 

 やっぱりあんな部下はいらない。

 

 それとこの日を境にアイの仕事が何故か激増した。

 

 これに関しては最後まで理由が謎だ。

 

 

  

 

 

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