斎藤家の愚息   作:熊田ラナムカ27

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22 命を懸けるからこそ

 

 

 

  

 原稿と向き合いペンを動かす。

 

 栄養ドリンクの残骸がばかり増えていく。

 

 どれだけ寝ていないのか最早分からない。

 

 けど、やらなきゃいけない仕事は沢山ある。

 

 それも私にしか出来ない仕事ばかり。

 

 全ては担当が使えないせいだ。

 

 良い人材は大御所にばかり送られる。

 

 そうは言ってもクオリティは下げられない。

 

 妥協をしたら私の作品は終わりだ。

 

 体に鞭打ってペンを動かし続ける。

 

 そんな時に扉が開く音がした。

 

 そういえば今日は客人が来る日だ。

 

 ラインの内容は詳しく見てなかったけど。

 

「アビ子先生、おじゃまするわよー」

 

「先生、どうぞ。適当なところに───」

 

「どうもお邪魔します。先日ぶりですね」

 

「────ッ!??!」

 

 吉祥寺先生はともかく全く聞き慣れない声を聞き、私は全身の毛を逆立たせて机の下に潜った。

 

 先生と一緒に泥棒が入ってきたのかもしれない。

 

 そういえば最近強盗事件が相次いでると聞いた。

 

 通報しようにもスマホは机の上だ。

 

 私も先生もこのままだと危ない。

  

 書き残した作品もまだ沢山あるのに………ッ!!

 

「あの、ちょっと?大丈夫ですか?」

 

 不審者(?)の声が机の上からした。

 

 雰囲気からして何となく穏やか声だ。

 

 でも、やっぱり安心出来ない。

 

 私を騙そうとしているのかもしれない。

 

 机の下に転がっていた定規を手に持つ。

 

「ふ、ふ、不審者、か、か、覚悟…………ッ!!」

  

 そのまま不審者(?)に飛び掛かった。

 

「おっと。えっ、何?これどういう状況?」

 

 しかし、私の一撃は軽く躱された。

 

 攻撃と呼ぶにはあまりにも遅すぎた。

 

 こんな事ならもっと運動しておけば良かった。

 

 うちの子の真似なんかするんじゃなかった。

 

 吉祥寺先生に私は受け止められる。

 

「あんた……何やってんのよ。ライン本当に見た?」

 

「せ、先生……へ、部屋に、ふ、不審者が………」

 

「不審者でも変質者でもありません。斎藤真です」

 

「不審者って……あんたねぇ………」

 

 先生の呆れ顔で私はようやくハッとなった。

 

 恐怖と後ろめたさで恐る恐る顔を後ろに向けた。

 

 そこに居たのは苺プロの斎藤さんだった。

 

 何処となく気まずい雰囲気が流れる。

 

 いっそのことその場で泣き出してしまいたかった。

 

「アビ子先生……最後にちゃんと寝たのはいつ?」

 

「2……3ゕ月前くらい………?」

 

「それ死ぬわよ。もっとリアルに言うなら難病リタイアコース。もっと酷い場合だったら一生精神科行き。その兆候がついさっき出てたみたいだし」

 

「大変申し訳ございませんでした………」

 

「俺は気にしてませんから。それぐらいで」

 

 不審者勘違い騒動から数分後。

 

 私と先生は机でペンを動かしていた。

 

 先生はガチギレ一歩手前だ。

 

 こんな事ならラインをちゃんと見とけば良かった。

 

 斎藤さんも来るって知っておけば良かった。

 

 定規なんて持ち出さなければ良かった。

 

 しかも、現在進行系で………

 

「これはゴミ。これは資料。これもゴミ。これは……洗濯機行きだな。栄養ドリンク以外の食材は………」

 

 この家の家事全般を斎藤さんに任せていた。

 

 汚部屋が片付き、洗濯籠が空になっていく。

 

 冷蔵庫の中身まで綺麗になっていく。

 

 先生によると斎藤さんはこの為に来たらしい。

 

 先生との会話から私の状況を察したとのこと。

 

 私の仕事の応援を先生に頼んだのも彼らしい。

  

 あまりに申し訳なさ過ぎて死にたい。

 

 しかも、こないだ偉そうな事を言ったばかり。

 

 ………あっ、駄目だ。色々と積みまくってる。

 

 今直ぐ自分の家から逃げ出したかった。

 

「……今日ね。斎藤くんがアクアくん達と家に来たって言ったじゃない。そのタイミングで色々と話してみたんだけど改めて思ったわ。あの人達は信頼出来る」 

 

 ペンを動かしながら先生は言った。

 

 斎藤さんは買い出しで家を出ていた。

 

 私は無表情でペンを動かし続ける。

 

「信頼出来るって………先生もあの脚本は見たでしょ。キモいし、センスがゼロだし、駄目なところばっか。何よりうちの子達はあんな馬鹿じゃ………」

 

「私もそれは思ったわ。原作とキャラの印象全然違うし、ダサいなって思う部分も結構あったし。あとメルトくんに『キザミ』を任せるのは個人的に………」

 

「最後のはただの恨みですよね………?」

 

「うん。そうよ。一話目の悪夢がまだね」

 

 先生の瞳の奥には黒い炎が燃えていた。

 

 ……けど、そうなってしまうのも無理もない。

 

 先生は一度『今日あま』を汚された。

 

 一話目を見た時の先生の落胆顔は忘れられない。

 

 自分の書いた『今日あま』はもっと面白い。

 

 あんなのは『今日あま』なんかじゃない。

 

 魂を削って作った『今日あま』を馬鹿にするな。

 

 そんな気持ちを先生は押し殺していた。

 

 私と違って器用な人だから。

 

「あんただって本当はとっくに分かってるでしょ?メディアミックスは他人との共同制作。ある程度は相手を信頼して任せでもしないとやってられない」

 

「でも、先生のドラマの時みたいになったら………」 

 

「あっちだって良い仕事をしたいのは同じ。そうじゃなかったらあんたの意見なんて無視して進めてる。わざわざ自宅訪問して人の家なんか掃除しないでしょ。このままだと過労死するってあんたを心配してたし」 

 

「いくら何でも斎藤さんハイスペック過ぎませんか?イケメンで、陽キャで、察し良くて、家事も出来て、しかも優しいって……何処の漫画の主人公ですか?」

 

「初恋なら諦めなさい。斎藤くん恋愛興味ないから」

 

「あっ……そうなんだ………」

 

 私の恋は約3分で終わりを告げた。

 

 恋って儚いものなんだなってしみじみと思った。

 

 そんな思いも肥やしにしてペンを動かす。

 

 原稿を描き上げた時にはもう明るくなっていた。

 

 斎藤さんの姿はいつの間にか消えていた。

 

 ポストを漁ってみると部屋の鍵が入っている。

 

 私達が集中したタイミングで帰ったらしい。

 

「どうにか終わったわね。お腹減ってる?」

 

「はい……減ってます。ペコペコです」

 

「斎藤くんがおにぎり用意してくれたみたいだから一緒に食べましょ。今お茶入れるわね」

 

 綺麗に整頓されたリビングに私は座る。

 

 数時間前の面影は何処にもない。

 

 私はお皿の上のおにぎりを口にする。

 

 具が入ってないシンプルな塩むすびだ。

 

「それで脚本の話なんだけど………」

 

「無理です。私は先生みたいに丸投げできません。自分の作品は自分で守ります。何があろうと絶対に」

 

「……やっぱり説得は無理か」

 

「……でも、どうにか歩み寄りたいとは思ってます。最高の脚本を作ってうちの子を舞台の上で輝かせたいです。どうすれば上手く出来ますか?」

 

 先生は少し意外そうな顔だった。

 

 私だって……とっくに分かってた。

 

 あの人達も真剣に仕事をしてるんだって。

 

 愛を持ってうちの子達に触れてくれてるんだって。

 

 二話目からの先生の顔は嬉しそうだった。

 

 私をあんな風に笑って舞台を見たい。

 

 相手を一度くらい信じてみたい。

 

 だからこそ、何かを期待して約束をしたのだ。

 

「そうね。これは『刀鬼』役のアクアくんからの提案なんだけどGOAさんが脚本を担当した舞台を見てみたら?本気で脚本を書くなら参考になるだろうし」

 

「………わかりました。今日早速行ってみます」

 

「それと何度も言うけど早くアシスタントを雇いなさい。このままだと冗談抜きでリタイアどころか過労死コースだから。あと部屋の掃除も時々しなさいね」

 

「大変お世話になりました………」

 

 自分から相手に歩み寄ってみる。

 

 考えてみれば私にとって初めての試みだ。

 

 それなのに不思議と不安はない。

 

 私は残った塩むすびを口に入れる。

 

 ほんの少しだけ塩気が強い気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

 

 

 例の約束の期日当日。

 

 俺と雷田さんは劇場のスタッフルームに居た。

 

 雷田さんは仕切りに部屋をウロウロしている。

 

 鮫島先生の様子が心配で仕方ないらしい。

 

「公演に来てたアビ子先生を呼んだはいいけど、本当にこの答えでいいの?不機嫌になるんじゃない?」

 

「これが我々が出せるベストな答えです。鮫島先生も満足してくれるはずです。だから自信を持って堂々と椅子に座ってて下さい。上手くやってみせますよ」

 

「そういえば噂で聞いたんだけど……アビ子先生の家をほぼ深夜に突然訪問したってほんと?他に何か先生に失礼な事とかやってないよね?」

 

「………掃除と洗濯、仕事終わりの食事の準備を」

 

「うーん……それは失礼にあたるのかな?」

 

 雷田さんが頭を抱えるが仕方のない事だ。

 

 鮫島先生が社畜体質なのが悪い。 

 

 俺だって自宅訪問なんてするつもりはなかった。

 

 説得に行くのは吉祥寺先生だけの予定だった。

 

 その為に吉祥寺先生の家をわざわざ訪ねたのだ。

 

 しかし、話の流れで鮫島先生がアシスタントを全員クビにしたと聞いて、俺の歯車が全て狂いだした。

 

 吉祥寺先生から更に話を詳しく聞き、アクア達をほっぽり出して応援を頼み込み、深夜一歩手前にも関わらず鮫島先生の家を訪問した時にはもう手遅れ。

 

 俺は過去の自分と鮫島先生を重ねていた。

 

 そして部屋の惨状を見て勝手に誓った。

 

 この人を俺のように過労死させまいと。

 

 それで気づけば家政夫の真似事をしていた。 

 

 あの時の俺の記憶は正直殆どない。

 

 前世の俺が暴走していた事だけは覚えている。

  

 ミヤコには帰宅後にかなりキツく怒られた。

 

 仮にも高校生が深夜帰りとか笑い話にもならない。

 

 あの時の俺は何もかもがおかしかった。

 

 アクアの生暖かい目が一番キツかった。

 

「あっ、どうも。昨日はありがとうございます」

 

「いえいえ。どうかあまり気にせずに」

 

「先生に来ていただけて大変恐縮です」

 

 そうこうしていると鮫島先生が部屋に来た。

 

 昨夜の黒歴史に蓋をして顔を取り繕う。

 

 やましいことはしていないが気持ちの問題だ。

 

「まず単刀直入に言います。新しい脚本はまだ完成していません。大変申し訳ありません。期待に添えない結果となりました」

 

 俺は深々と頭を下げた。

 

 雷田さんも続いて頭を下げる。

 

「そうですか。なら、私が脚本を………」

 

「その上で失礼ながら聞きます。今日鮫島先生に見てもらった舞台はGOAさんが脚本を担当したものです。あの脚本を超えるものを……あなたは書けますか?」

 

 ここまでは全てプラン通り。

 

 ここから先はプランにおける最もの難所だ。

 

 鮫島先生の機嫌を保ちつつ現状を理解させる。

 

 これが俺にとって良い脚本を作る上での絶対条件。

 

 だが、それにはまず相手を挑発する必要がある。

 

 客観的に物事を見て貰うにはこれしかない。

 

 機嫌を保つという事にはあまり程遠い。

 

 現に雷田さんは緊張で息を殆ど止めている。

 

「書きます。書いてみせます。勉強は必要ですが」

 

 鮫島先生の反応は予想より冷静だ。

 

 そして意外にもある程度は現状を理解している。

 

 何か心境の変化があったのかもしれない。

 

「そんな時間はありません。最高の舞台を作り上げるには直ぐにでも書いてもらう必要があります。役者達とこの劇場にある装置を活かし切った脚本を」

 

「……具体的に期間はどれぐらいありますか?」

 

「そ、そうですね。役者たちの練習の時間も考えて、掛かっても2日か、3日で仕上げて欲しいです。既にスケジュールにかなりの遅れが出てるので………」

 

「いくら何でも……流石に無茶です」

 

「無茶を言ってるのは承知しています。ですが、私達にも100人以上の仕事を守る責任があります。その責任を果たすだけの覚悟は済ませているつもりです。もう一度だけ聞きます。本当に書く事が出来ますか?」

 

 鮫島先生は少し怯えたような顔をした。

 

 いくら意識してもこの圧だけは隠せない。

 

 鮫島先生に脚本を任せて大失敗した時。

 

 総責任者の雷田さんのクビが飛ぶだけならいい。

 

 だが、現実は容赦なく俺達を襲う。

 

 今回の仕事に関わった全員の評価が下がるだろう。

 

 演劇の仕事が二度と来ない奴も出るかもしれない。

 

 評価が下がるとは命が削り取られるのと同じ。

 

 役者も裏方も命を懸けて仕事をしている。

 

 これは仕事であって遊びではないのだ。

 

「無理です。そんな責任………私には背負えません」

 

 鮫島先生もそれをようやく理解した。

 

 脚本を手掛けるという事への重みを。

 

 雷田さんはようやく息を吐いた。

 

「………でも、私にも譲れないものはあります。原作者として妥協はしたくありません。少しでも妥協をするようであればうちの子達は任せられません」

 

 それでも鮫島先生はその一点は譲らなかった。

 

 この人とも俺達と同じで命を懸けている。

 

 この人も遊びで仕事をしている訳ではない。

 

 だからこそ敬意は払わなくてはならない。

 

「先生の意見はご尤もです。先生の権利は現に法律で守られています。我々が何と言おうと先生の許可なしに舞台は出来ません。何より私は先生との約束を決して違えるつもりはありません」

 

 俺は鮫島先生の目を真っ直ぐ見る。

 

「先生がどうしたいか何なりと言って下さい。舞台を成功させる為であれば可能な限り力を貸します」

 

 精一杯の誠意を鮫島先生にぶつけた。

 

 部屋が少しの間しんと静まり返った。

 

 プランの難所は越えこちらの意志も提示した。

 

 あとは鮫島先生次第だ。

 

「GOAさんと直接会話しながら修正指示を出させてください。日時については出来る限り早く」

 

「わかりました。今日中に手配します」

 

 こうして話は無事にまとまった。

 

 鮫島先生が帰って俺と雷田さんは力を抜く。

 

 ようやく仕事の重みから解放された。

 

「一時はどうなるかと思ったけどどうにかなっちゃうものだね。君の言うプラン通りに話が落ち着いたし」

 

「自分で書けないと理解さえさせればどう動くかは予想出来ます。GOAさんに話は既に通してありますからそこも問題なしです。原作者の意見も欲しいと本人も昨日辺りに言ってましたし」

 

「……何処まで先を読んでるのよ君は」

 

「偶々上手く噛み合っただけですよ」

 

 鮫島先生が求める理解者に俺はなれない。

 

 だが、そんな存在が居ると思わせる事は出来る。

 

 丁度良く鮫島先生もこちらに歩み寄ろうとした。

 

 そうなれば思考の誘導は容易い。

 

 嘘とハッタリは俺の十八番だ。

 

「鮫島先生とGOAさんの仲が余計に仲悪くなる可能性は、スケジュール的に余裕がないのでスルーするとして、そういえば修正作業になんで俺まで呼ばれたんでしょう?俺にやれる事は特に無いはずです」

 

「あー、それね。どうしてだろうね?」

 

 俺の言葉に雷田さんは遠くを見る。

 

 鮫島先生は修正指示の際に俺の在席を求めた。

 

 とりあえず頷いたはいいが意図が分からない。

 

 何より雷田さんが言葉を濁しているのが気になる。

 

 ……嫌な予感がするが気の所為だと思いたい。

 

 そんな事を考えていると夜になった。

 

 パソコン越しで鮫島先生やGOAさん達と対面する。

 

「既に話してある通り、クラウド上のテキストデータをリアルタイムで共有。それをこの場で修正していく。これがプロデューサーとして許可できるギリギリのライン。あとはお二人にお任せします」

 

 脚本の修正作業が始まった。

 

 GOAさんと鮫島先生が会話をする。

 

 2人とも流石の集中具合で熱が入っている。

 

 今のところ恐れていた仲違いも起こしていない。

 

 鮫島先生のマネージャーも少し安心した様子だ。

 

 余計に俺の立ち位置がよく分からない。

 

「ココとココはカットして良いです。その代わりにこういう台詞を足します」

 

「それやると大分原作の展開から離れませんか?」

 

「良いんです。大事なのはキャラの柱なので」

 

「だとしたらココはこうするのとかどうです?その代わりに『つるぎ』が台詞なしで動くシーンが増えちゃうんだけど斎藤くんはいけると思う?」

 

「問題ないかと。有馬は結構動けるタイプなので」

 

「それならもうちょっと攻めても良さそうだね」

 

 しばらくすると突然雲行きが怪しくなってきた。

 

 俺にも意見が求められるようになった。

 

 時間が進むにつれてそのペースは速くなっていく。

 

「『キザミ』なんですけど台詞を削っても良いですか?ここは私の中でも一押しシーンの一つなので!」

 

「メルトは舞台経験ほぼゼロなので、削るなら『匁』の台詞でお願いします。あと剣を投げてキャッチするシーンの再現は流石に難しいかと」

 

「ココも舞台効果で済ませちゃうつもりなんだけど、新規で新しい舞台装置とか用意できたりしない?」

 

「予算的にも時間的にも無理です。このまま無茶振りするようであれば演技をする黒川にお願いします」

  

「そうだよな。今回の公演じゃ無理か」

 

 2人の勢いは最早止まることを知らない。

 

 ミュート中の雷田さんは目を逸らした。

 

 鮫島先生のマネージャーは冷や汗ダラダラだ。

 

「原作の方で新キャラを出そうと思うんですけど『刀鬼』の師匠って設定なんです!『鞘姫』の義父でもあって、いつもはクールな彼女も彼の前だと少しドジっ子になっちゃうんです!今までは中途半端に刀つるを書いてたんですけど、このキャラを出す事で流れに一石を投じます!刀つる派と刀鞘派による戦争をここで終わらせてみせます!」

 

「あのちょっと……その話はまた別日で………」

 

「もうデザインとかは決まってるんですか?」

 

「GOAさんも話に乗らないで………」

 

「はいっ!今はまだラフ画ですけど!」

 

「イケおじですか!僕こういうの好きなんです!」

 

「お願いですから話は別日にしてください」

 

 俺の立ち位置が段々と分かってきた。

 

 この立ち位置には既視感しかない。

 

「斎藤さんを呼んで正解でした。筆が凄く進みます」

 

「こっちも遠慮しなくていいよね」

 

「分かります!歯止めを考えなくていいですから!」

 

 いつも通りの暴走した奴等の火消し役だ。

 

 俺の胃がキリキリと痛み出した。

 

 雷田さんはこうなる事を分かっていたに違いない。

 

 ついさっきから壁にしか目を向けていない。

 

 鮫島先生のマネージャーに至っては空気だ。

 

 職務放棄も大概にしろよと言いたい。

 

 夜明け頃に脚本の修正作業は終わった。

 

 机の引き出しから胃薬を取り出して口にする。

 

 この独特な味にもいい加減慣れてきた。

 

「GOAさんと斎藤さんのお陰でかなり良い脚本になりました!!役者さんが演じてるシーンが目に浮かぶようです!」

 

「何というかその………お疲れ様」

 

「すいません………楽しくなっちゃって」

 

「雷田さん。また今度飯奢って下さい」

 

「はいっ。喜んで。好きなだけ食べていいから」

 

 割とガチな目で俺は雷田さんを睨んだ。

 

 ここまで軌道修正するのには本当に苦労した。

 

 俺を出そうとか言い出した時は本当にヤバかった。

 

 あと一歩で謎の新キャラが登場していた。

 

 軌道修正した脚本もかなりトガッているが。

 

「全く……とんでもない脚本が上がってきたわね。もうちょっと上手いこと出来なかった訳?」

 

「核弾頭投げられるよりはマシだろ」

 

「あんた……修正作業中に何があったのよ………」

 

 流れで出演しかけたとは口が裂けても言えない。

 

(脚本は良いとして……あとはアクアだな)

 

 脚本を見て悩むアクアを俺は見た。

 

 修正版の脚本を見て改めて思った。

 

 今回の仕事は間違いなく分岐点だ。

 

 賽は投げられもう後戻りはできない。

 

 出目次第では全てが破滅に転がる。

 

(この分岐点の鍵を握るのは………)

 

 裏方の仕事はここで終わり。

 

 あとは全て舞台の上で行われる。

 

 俺はその人物を見定めた。

 

 選択の時は確実に迫りつつある。

 

 

 

 

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