斎藤家の愚息   作:熊田ラナムカ27

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29 惚れた腫れた以前に

 

 

 

 舞台が千秋楽を迎えてしばらく経った。

 

 その日の朝、暗い時間帯に私は早起きした。

 

 今日は私にとってとても特別な日。

 

 アクアくんが初めてデートに誘ってくれた日だ

 

 どの服を着ていくかいつも以上に迷ってしまう。

 

「この服は王道だけど特別感ないよね。かと言ってこっちは着飾り過ぎ。雑誌の服は好みに合わない。アクアくんの服の好みを……もっと調べとけば良かった」

 

 アクアくんとのデートは初めてじゃない。

 

 今までだってそれっぽい事は沢山してきた。

 

 お仕事とはいえ色んな所に行った。

 

 でも、それでもなんだかそわそわしてしまう。

 

 改まってデートと言われると、どうしても。

 

「おっ、来たか。時間ぴったりだな」

 

「もっと早く来るつもりだったけど寝坊しちゃって」

 

「別にいいよ。俺も今来たところだし」

 

 私がカフェに行くとアクアくんが店の前に居た。

 

 いつも通りの慣れたような雰囲気。

 

 しかし、よく見ると手が少し悴んでいる。

 

 待ちきれないのか早く来ていたらしい。

 

 どうやら私と考えてる事は同じだったようだ。

  

 今日という日をずっと楽しみにしていた。

 

 店に入って私達は限定のパフェを頼んだ。

 

 前に雑誌で見て気になってたやつだ。

 

 これでもかと桃が沢山乗っている。

 

 舞台の合間に話したのを覚えてたらしい。

 

 初っ端から彼氏スキルが高い。

 

「はいチーズ。これでいいか?」

 

「写真はいいけど掛け声がおじさんみたい

 

「えっ………今の子は言わないのか?」

 

「アクアくんも言っちゃえば今の子だけどね」

 

 私の言葉にアクアくんは謎にショックを受けた。

 

 いつもと違ってカッコいいというより可愛い。

 

 自分に子供が出来たらこんな感じなのかも。

 

 せっかくのパフェも先に食べさせたくなる。

 

 私はスプーンを差し出した。

 

「ほら、アクアくん。あーんして」

 

「いや、だから……子供扱いは………」

 

「嫌なの?私が食べさせてあげるのは嫌?」

 

「………そうは言ってない。食べればいいんだろ」

 

 アクアくんは呆れつつもそれを食べた。

 

 何度か頷いて味わっている。

 

 何とも愛らしくて凄く可愛い。

 

「………うん、美味しい。ありがとう」

 

「どういたしまして。もう一口いる?」

 

「俺はもういい。あかねもそろそろ自分で食べろ」

 

「いいよ、いいよ。アクアくんがもっと食べて」

 

「お前さっきから………変な目になってるぞ」

 

 アクアくんはスプーンを奪った。

 

 取り返そうとしても一向に返してくれない。

 

 急に意地悪になって全然可愛くない。

 

 私は思わずむくれて頬を膨らませた。

 

 口を効かないとばかりにそっぽを向く。

 

「アクアくんのばーか。簡単には許してあげない」

 

「なんで怒ってんだよ。何もやってないだろ」

 

 これは所謂痴話喧嘩というやつだろう。

 

 アクアくんと喧嘩なんて初めてのことだ。

  

 変な意地を張らなければと少し後悔した

 

 どう謝るべきかで内心おろおろしてしまう。

 

 そんな私にアクアくんはスプーンを差し出す。

 

「なら、これでお相子だ。お前も食べろ。一人で食べるには勿体ない。ずっと楽しみにしてたんだろ」

 

 桃とクリームの甘い香りが鼻をよぎった。

 

 焦りと後悔がほんの少し揺らぐ。

 

 ついつい我慢できなくて一口食べた。

 

 期待を遥かに上回るほど美味しい。

 

「どうだ?美味しいか?」

 

「………美味しいです。ありがとうございます」

 

「そうかよ。どういたしまして」

 

 こうして痴話喧嘩はあっさり終わった。

 

 余裕たっぷりのアクアくんには勝てなかった。

 

 可愛いもいいけどカッコイイもやっぱりいい。

 

「アクアくんは宮崎旅行どうする?」

 

「今のところは行くつもりだ。俺達の慰安旅行も一応は兼ねてるしな。あかねはどうする?」

 

「年末年始は毎年家族で海外行ってるけど、今回は断ってそっちに行くつもり。国内旅行は新鮮だし」

 

「前から思ってたけど………育ち良いよな」

 

 何気ない雑談をしていると話は宮崎旅行に移った。 

 

 MEMちょ発案でB小町はまた今度PVを撮る。

 

 どうも知り合いが宮崎に居るらしい。

 

「私仕事で修学旅行も行けなかったし同世代が皆でーって旅行は一度も行った事無いから結構楽しみ」

 

「俺も一度宮崎には行きたかったから、丁度良かった。気持ちの整理をあっちで改めてしたかったんだ」

 

「アクアくんは宮崎に縁があるの?」

 

「俺とルビーの生まれた場所なんだよ。あっちでの記憶はほぼゼロに近いけどな。お礼参りってやつだ」

 

「あっちは神社関係多いもんね」

 

「真の奴がアレルギー起こすくらいだしな」

 

「神って言葉をやたら嫌ってるもんね」

 

 先日の騒動は本当にビックリした。

 

 真さんのキャラが完全に崩壊していた。

 

 あんな取り乱した姿は初めて見た。

 

「神の居る街だと!?嫌だ!!旅行全力反対!!」

 

「どうして嫌なのさ。自然いっぱい良い場所だよ」

 

「自然はともかく神アレルギーなんだよ!!」

 

「なんだその新種のアレルギー」

 

「ごめんね。昔からあんな感じなの。慣れて」

 

「神よ滅びよ!!神に災いよあれ!!」 

 

 一部の人から怒られそうな言葉を連呼していた。

 

 神社に近づこうとするだけで蕁麻疹が出るらしい。

 

 それでも旅行に行こうとする執念には感心する。

 

 推しの為なら命を賭けてる感がマジである。

 

 みんなは呆れてたけど気持ちは正直分かる。

 

 私が同じ立場なら多分同じことをしている。

 

「クズはいいんだよ。殺しても死ななそうだし」

 

「次の日にはケロッと蘇ってそうだよね」

 

「彼奴を寿命以外で殺すのは無理な気がする」

 

「病気で死ぬ可能性はあるんじゃない?」

 

「馬鹿は病気にも風邪にもならないだろ」

 

 アクアくんの評価は散々だった。

 

 フォローしようにも説得力があるから困る。

 

 いつもながら互いに扱いが雑だ。

 

「この後はどうするの?」

 

「あかねの好きなように選んでいい」

 

「じゃあアクセサリ見に行ってもいい?」

 

「なら近くの店だと………ここだな」

 

 その後のアクアくんのデートプランは凄かった。

 

 次に向かったお店は徒歩3分の本当に近場。

 

 周辺にはアパレルショップも幾つかある穴場だ。

 

 時々アドバイスもくれるから全く退屈しない。

 

 いつもながら支払いはさせてくれなかったり、当然のように車道側を歩いたり気遣いも完璧だ。

 

 極めつけは老舗のお寿司屋さんでの食事だ。

 

 美味しいのは勿論だけどお腹に調度良い。

 

 パフェを食べた後の食事にはピッタリだ。

 

 私のプランにはない大人っぽさがある。

 

 既に鷲掴みの乙女心がキュキュンする。

 

「いくら何でも手慣れ過ぎてない?」

 

「そうか?別に気のせいだろ」

 

「金持ってるアラサー業界人のそれだよ?」

 

「芸能事務所社長の所で生まれ育ってるわけだし」

 

「条件全く真さん達と同じでしょ」

 

「それと同じ内容を前に彼奴等と話した」

 

 アクアくんは飄々と私の言葉を躱した。

 

 最近は素を出すようになったけど出し過ぎだ。

 

 女たらしとは聞いてたけど比喩抜きだった。

 

 普通の女の子は簡単に転がされるに決まってる。

 

 浮気はともかく新たな恋敵が増えそうで怖い。

 

 私にとっての恋敵はかなちゃんだけで十分だ。

 

 これ以上の恋敵は増えて欲しくない。

 

「なんだかんだで夕方か。早かったな」

 

「誤魔化した………この女たらし」

 

「急に拗ねるなよ。機嫌直せって」

 

 私はむくれつつも夕焼けを見上げた。

 

 帰りに通った道は見覚えのある場所だった。

 

 ほんの少しだけ感傷的になってしまう。

 

「『今ガチ』から………もう半年くらい?色々あったけどあの番組楽しかったよね」

 

「ああ、楽しかった。あかねにも会う事が出来た」

 

「あれからずっと夢の中にいるみたいだよ。私の夢がご都合主義みたいにどんどん叶っていくんだもん」

 

「ご都合主義じゃない。お前が選択をしたからだ」

 

「アクアくんもでしょ。大切な選択をあの時した」

 

 私はここでアクアくんと真さんに助けられた。

 

 真さんの大声に驚いて尻餅をつきそうになった。

 

 そんな私をアクアくんは受け止めてくれた。

 

 冷え切った心と体を温めてくれた。

 

 何だかあの時の温もりが懐かしくなった。

 

 アクアくんを思わず抱きしめる。

 

「………この場所だ。君がここで私を助けてくれた」

 

「あの時は必死だった。あかねが死ぬのが怖かった」

 

「君はずっと優しいね。相変わらず温かいままだ」

 

 この温もりをもっと感じたくなる。

 

 心臓が壊れそうなくらいドキドキしている。

 

 このままおかしくなりそうになる。

 

「アクアくんとなら………Hだってやじゃないよ?」

 

「………駄目だ。俺はあかねを………大切にしたい」

 

「キスをするのも………駄目なの?」

 

「ずっと……待たせたもんな。それぐらいはいいか」

 

 私とアクアくんの顔の距離が近づく。

 

 アクアくんの青い瞳に私の姿が映り込む。

 

 そこらはもう何も考えられなかった。

 

 私と()()()だけの世界が瞬く間に広がっていった。

 

 そこにある温もりを独占したような気分になった。

 

 ほんの数秒だったのに永遠のように感じた。

 

 けれど、そんな時間は長くは続かない。

 

 唇が離れるにつれて温もりは消えていく。

 

 もっと傍に居たいと凄く恋しくなっていく。

 

 2人だけの世界が元に戻っていく。

 

「そろそろ………帰るか」

 

「うん………そうだね」

 

 その後の私達は何も喋らなかった。

 

 何を言っても恋しくなると思ったからだ。

 

 代わりに私とアクアは手を繋いだ。

 

 お互いが傍に居ること確かめ続けた。

 

 少し物足りないけど温もりを感じ続けた。

 

 これが私達の秘密の習慣になるのはまた別の話。

 

 

 

 

  

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

 

「メーデー!メーデー!また倒れたぞ!」

 

「有馬ちゃんしっかりして!気を確かに!」

 

「一線を……一線を……遂に越えた………」

 

「喋るな!考えるな!傷口が開くぞ!」

 

 私と真は有馬ちゃんを休憩室まで運んでいた。

 

 これでかれこれ二桁目の搬送だ。

 

 今回はいつも以上に………酷い惨劇だった。

 

 アクたんとあかねがこっそり恋人繋ぎして良い雰囲気になっているのを有馬ちゃんが直視してしまった。

 

 あの様子だと………最低でもキスはしている。

 

 喜ぶべきか悲しむべきか複雑な気持ちだ。

 

 とにもかくにも有馬ちゃんは致命傷だ。

 

 嫉妬に駆られて人語すら話せなくなってる。

 

「うぅぅうぅぅーっ!!あぅあぅぅあぁぁー!!」

 

「ほらっ!ハーブティーだ!お代わりもあるぞ!」

 

「はいっ!ここに胃薬もちゃんとあるからね!」

 

「どぼぢぜがいばごんなにざんごぐなのよ!!」

 

「さぁもう一杯!今は飲んで飲んで!」

 

 有馬ちゃんはハーブティーを更に飲んだ。

 

 私達の介抱も手慣れたものだ。

 

 処置までの流れが極めて迅速になった。

 

「悩める子羊よ……汝の悩みを言い給え………」

 

「ここは懺悔室か。勢いつけてぶんなぐんぞ」 

 

「ふむふむ。ハーブティーの効果は出てるな」

 

「カウンセラーが板についてきたね」

 

 マコたんは即座に嫌そうな顔をした。

 

 いいように使われてると思ったのだろう。

 

 誰に言われずとも自分から助けるクセに。

 

「それでやっぱり駄目か?吹っ切れないか?」 

 

「無理!毎日のように複雑な気持ちだもの!」 

 

「そうだよね。まだ1ヶ月も経ってない訳だし」 

 

「今は苦しいだろうが………いつかは青春の1ページになるはずだ。馬鹿過ぎる青春の………1ページに」 

 

「安全圏から言いやがって!上から物を言うな!」

 

「有馬ちゃんまずは落ち着いて。深呼吸しようね」

 

 有馬ちゃんは深呼吸してハーブティーを飲んだ。

 

 しかし、荒ぶる感情は抑えられなかった。

 

 いくらハーブティーでも限界はある。

 

 そもそもハーブティーでどうにかなるだけ凄い。

 

「実際これ………どうにかならないのかしら?」

 

「こればっかりはな。時間を掛けるしかない」 

 

「何時になるのよ………別れる気配もゼロだし」

 

「その期待は流石に無謀だろ。仮に叶っても碌な結果にはならない。アクアにとってもお前にとってもな」

 

「わかってるわよ………ただ言ってみただけ」 

 

 有馬ちゃんは机に突っ伏して項垂れた。

 

 マコたんはドライだけど毎回確信を突いている。

 

 今のアクたんにとってあかねは心の支えだ。

 

 それが失われようものならきっと壊れてしまう。

 

 有馬ちゃんだってそれぐらいはわかってる。

 

 でも、それだけ本気で好きだったのだろう。

 

 いや、無理だと分かっても今でも好きなんだ。

 

 そうでなかったらこんなに悩まない。

 

 不器用で口が少し悪いけど優しい子だ。

 

「ここで悩んでいるだけもあれだしさ。宮崎旅行の荷物も買いたいしみんなでお出かけでもしない?」

 

 私はマコたんみたいに頭は良くない。

 

 けど、これでも人生経験はあるつもりだ。

 

 こういう時は気晴らしをするに限る。

 

 そうはいっても恋愛未経験の身だけど。

 

「まぁ確かにその通りだな。ここでうだうだ言っても何も始まらない。多少の気分転換にはなるだろ」

 

「まぁ………旅行品を幾つか買い足したかったところだしいっか。今日分の仕事はもう終わってるし」

 

「決まりだね。じゃあ何処行く?」

 

「大型ショッピングセンター。移動は電車で」

 

「丸の内のデパート。移動は個人タクシーで」

 

「うんうん。見事に2人とも意見バラバラだね」

 

 マコたんと有馬ちゃんは互いを睨んだ。

 

 金銭感覚が致命的に合っていない。

 

 どっちもお金持ちなのになんでだろう?

 

 片方はせこい庶民、片方は嫌な成金の思考だ。

 

 足して2で割るぐらいが丁度いいと思う。

 

 そんなこんなで私達はデパートに来た。

 

 最終的にじゃんけんで勝った有馬ちゃんが決めた。

 

 マコたんは悔しがり有馬ちゃんはそれを煽った。

 

 ここまで来ると普通に仲良いと思う。

 

「どっちのマフラーが良いと思う?白か赤か」

 

「赤は服に合わせにくいし………白だと屋外の撮影で直ぐに汚れるだろ。無難にベージュとかはどうだ?」

 

「それはちょっと………私の好みじゃないし」

 

 買い物中の2人の距離はやたら近かった。

 

 マコたんはビビるくらい荷物を持たされていた。

 

 有馬ちゃんは慣れたように荷物を持たせていた。

 

 ここまで来ると仲良いどころか普通にあれだ。

 

 あの2人って………お互い嫌いじゃなかったっけ?

 

 どうしてやたら………距離が近いんだろう?

 

 私は混乱して買い物どころじゃなかった。

 

 頭の中がハテナマークでいっぱいだった。

 

 いきなり宇宙に放り出された気分になった。

 

 じーっと、2人のこと思わず見つめる。

 

「私が真をどう思ってるか?クズ以外にないでしょ」

 

「ほんの少しでも特別に思ってるとかは………」

 

「アンタ………まさか真のことが気になってるの?」

 

「別にそういう訳じゃないんだけど───」

 

「やめときなさい。アイツは顔だけのクズ。根っからの守銭奴で詐欺師なの。お願いだから早まらないで」

 

「あの、だから………そうじゃないんだって」

 

 マコたんがルビーちゃんへのお土産を買いに行った隙を突き、私は思い切って有馬ちゃんに聞いてみた。

 

 けれど、返ってきた結果はこの有様だった。

 

 青ざめた有馬ちゃんに本気で心配された。

 

 あそこまで強く肩を掴まれたのは初めてだった。

 

 これでも隠してはいるけど一応年上なのに。

 

「俺が有馬をどう思ってるか?自己中女だけど」

 

「おっと………これまた似たような反応だ」

 

「俺と彼奴は所詮ただのビジネスパートナーだ」

 

「それにしてはやたら距離が近くない?」

 

「彼奴の買い物に何度も付き合わされてるからな」

  

「あははは………マコたん死んだ魚の目してる」

 

「どれだけの休日が………彼奴に潰されたことか」

 

 その勢いでマコたんにも質問してみた。

 

 その結果はさっきと殆ど同じだった。

 

 マコたんは今にも死にそうになっていた。

 

 どれだけ嫌だったのかは何となく察した。

 

 いつも振り回されているに違いない。

 

「MEMちょって前から思ってたけど恋愛関係やたら応援するよな。アイドルは基本恋愛禁止なのに」

 

「お仕事的に本当は駄目なんだろうけどさ。アイドルだって芸能人以前に一人の人間だもん。友達の恋路を応援するのは当然でしょ?合理的じゃないけどね」 

 

「今ガチの時から変わらず………お節介な推しだ」 

 

「マコたんだって私と同じじゃん。君もお節介だよ」 

 

「俺は今の今まで無理矢理付き合わされてるだけだ」

 

「じゃあもし私が恋をしたら応援してくれる?それとも好きにさせておく?怒ってファンをやめちゃう?」

 

 私は何処か試すように聞いてみた。

 

 マコたんは深く溜息をついて虚空を見上げた。

 

 何か苦悩した後にようやく言葉を吐く。

 

「やめる訳ないだろ。推しの幸せが一番だ。複雑だし散々悩むだろうが……最終的には応援するつもりだ」 

 

 そんなマコたんに私は思わず笑った。

 

 不器用で口が少し悪いけどこの子も優しい子だ。

 

 何時だって誰かの幸せを願っている。

 

 そんな君だから私は心を動かされた。

 

 惚れた腫れたとか関係なく私は君が好きだ。

 

 どんな形であれ君達には幸せになって欲しい。

 

 そう思ってしまうのはワガママなのかな。

 

「だが、そういうのは頼むから順序を踏めよ。心の準備が必要だ。下手をすれば1週間以上は寝込む。あと変な男に絡まれたら言え。何時でも相談に乗るから」

 

「マコたんは過保護だね。ファンの鑑だよ」

 

「俺にとってMEMちょは最初の推しだからな」 

 

「永遠推し宣言とは君も大概たらしだね」

 

「買いたいものは買えたし2人とも帰るわよ」

 

「うっせぇよ。推しとの会話の邪魔すんな」

   

 誰かの思いを吹っ切れるかは誰にも分からない。

 

 それでもきっと私達は前に進んでいくんだろう。

 

 いつか先にある大切な人達の幸せを信じて。

 

「しっかりしろ!何があった!?何を見たんだ!?」

 

「アクアとあかねが……キス……を………───」

 

「あ、有馬ちゃん!?い、い、意識が途切れた!?」 

 

「事務所でやるな馬鹿共!!せめて外でやれ!!」

 

 けれど、そこまで道のりは険しく困難だ

 

 今日も有馬ちゃんは吐血して倒れた。

 

 傷が塞がるまでまだまだ掛かりそうだ。

 

 こうしてカウンセリングはひっそりと続く。

 

「こうなったら傷つかない百合営業路線で………」

 

「落ち着け。早まるな。その沼に入ったらヤバい」 

 

「多様性の時代ではあるけど………一度よく考えて」 

 

 傷が塞がるまで本当にまだまだ掛かりそうだ。

 

 互いの肩を私とマコたんは叩きあった。

 

 こうして私達の戦いもひっそりと続いていく。

 

 

 

 

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