斎藤家の愚息   作:熊田ラナムカ27

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30 下される宣告

 

 

 

「ママ。久しぶり。元気してた?」

 

 線香の煙が風邪に吹かれて舞った。

 

 お墓には星野と刻まれている。

 

 最近の出来事を一方的に報告する。

 

 これが私の月一での恒例行事だ。

 

 お墓周りは相変わらず綺麗なままだ。

 

 社長とミヤコさんが手入れをしているのだろう。

 

 今日は見慣れないお菓子も置かれている。

 

 もしかしたらその時に供えたのかもしれない。

 

「でね。今度宮崎にロケ行くんだよ。懐かしいよね。私達が生まれて以来ずっと東京だったし」

 

 宮崎には沢山の思い出がある。

 

 嬉しかった思い出も悲しかった思い出も全て。

 

 その思いを一言で表すのは難しい。

 

「あとね。お兄ちゃん最近明るくなったんだ。次は一緒に来れるかも。真の奴はいつも通りかな。いつも通りとことん真っ直ぐというか捻くれてるというか」

 

 私はどうでも良いことを話し続けた。

 

 何となくだけどママを感じられた気がした。

 

 もう会えてなくても見守ってくれてる。

 

 そう思えるだけで力が湧いてくる気がした。

 

 しばらくするとカラスの鳴き声がした。

 

 すっかり空は赤く染まっていた。

  

 私は立ち上がって軽く膝を叩く。

 

「じゃあね、ママ。また来るね」

 

 誰も居ないけどお墓に手を振った。

 

 これも、いつもの事だった。

 

 けれど、今日は何だかカラスが多い。

 

 周りの木々に何羽も止まっている。

 

 まるでこっちを見ているようだ。

 

 そんな事に気を取られたからだろう。

 

 すれ違った男の人と肩がぶつかる。

 

「あっ、ごめんなさい。よそ見してました」

 

「大丈夫ですよ。帰り道に気をつけて」

 

 男の人はそう言うと去って行った。

 

 あの人も誰かのお墓参りだろうか。

 

 大きな花束が手には握られている。

 

「アクアと真にちょっと似てたかも」

 

 その後ろ姿はアクアとよく似ていた。

 

 髪色なんてまるっきり同じ。

 

 一方で纏う気配は真とそっくり。

 

 居るのか居ないのか少し曖昧だった。

 

 初対面の人に失礼な気もするけど。

 

「まぁいっか。早く帰ろっと」

 

 それ以上深くは考えなかった

 

 気づけば記憶も薄れていった。

 

 僅かに抱いた寒気も含めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

 

 先日ようやくヒムラさんから歌が届いた。

 

 時間が掛かっただけあって流石の出来だった。

 

 そんなこんなで今日は旅行の当日。

 

 宮崎に行くメンバーはルビー達のB小町組。

 

 俺とミヤコのマネージャー組。

 

 アクアと黒川のバカップル組となっている。

 

 仕事が忙しいらしくグラサンは留守番だ。

 

 ゆっくり温泉に浸かりたいと嘆いていた。

 

 ミヤコに反比例してオッサン感が年々増してる。

 

「みんなでの旅行楽しみだね」

 

「あかねお姉ちゃん。部屋は一緒にしよ」

 

「お前等随分と仲良くなったよな」

 

「ずっとお姉ちゃん欲しかったから甘えたくて」

 

「アクア見てたらお姉ちゃんやりたくなっちゃって」

 

「互いの利害が一致した訳か。別に止めないけど」 

 

 目を輝かせてルビーは勢いよく飛びついた。

 

 少し恥ずかしがりつつ黒川はそれを受け止める。

 

 暇な時間が増えより話すようになった結果だ。

 

 どうも変なところで意気投合したらしい。

 

 だからといって嫁認定は流石に早過ぎだ。

 

 こういうのは順序を踏んでからやるべきだ。

 

「お姉ちゃん……お嫁さん……結婚………」

 

「うちの馬鹿が………本当にスマン」

 

「毎度のことながら………切れ味あるよね」

 

 そうでもしないと哀れな被害者が出る。

 

 治りかけた心がグリグリと抉られる。

 

 ソファーの上で有馬は体育座りをした。

 

 俺とMEMちょは肩を叩き有馬を慰めた。

 

 これでも短期間でかなり持ち直した。

 

 少なくとも倒れることはなくなった。

 

 吐血する頻度も前と比べかなり減った。

 

 だが、それでもやっぱり駄目だった。

 

 どう頑張っても吹っ切れなかった。

 

 こういう自体があまりに多過ぎた。

 

「どうしてこんな仕打ち………私頑張ってるよね?」

 

「超頑張ってるよ。有馬ちゃん何も悪くないから」 

 

「あの馬鹿共が全部悪い。お前はよくやってるよ」

 

「そっか………悪くないんだ。今日もかな頑張る」

 

 有馬はソファーからどうにか立ち上がった。 

 

 しかし、目に見えてボロボロで即死寸前だ。

 

 スペランカー並のHPしか残っていない。

 

「うちの人間関係………色々と複雑よね」

 

「ミヤコさんも………その様子だと察してたんだね」

 

「こうも分かりやすかったら………そりゃあな」

 

 この惨事をミヤコは生暖かい目で見た。

 

 干渉こそしないが思うところがあるらしい。

 

 どうしてこうなったかは誰にもわからない。

 

「それじゃあ飛行機でレッツラゴー!」

 

「うるせぇよ。機内で騒いでんじゃねぇ」

 

「落ち着けって。他の客に迷惑だ」

 

 東京から宮崎の空港まで数時間程度。

 

 そこからレンタカーを借りて更に数時間。

 

 昼過ぎ頃になってようやく目的地に到着した。

 

 幾つもの神話が眠るという高千穂の地に。

 

「いらっしゃい高千穂へ!私は映像Dのアネモネって言います」

 

「アネモネ!」

 

「MEMちょおひさー!」

 

 まず出迎えてくれたのはアネモネさんだった。

 

 MEMちょの友人であり映像クリエイター。

 

 今回のMV撮影を格安で引き受けた人物。

 

「どうも初めまして。苺プロダクションのマネージャ、斎藤真です。お会い出来て大変光栄です」

 

「こっちこそ初めまして。MEMちょから話は聞いてるよ。あの子に告白して胸キュンさせたんだって?」 

 

「胸キュンだなんてそんな。私は全力を尽くしただけです。MEMちょが喜んでくれたなら何よりですが」

 

 つまりは邪神(ゴミ)よりも遥かに位が高い人物。

 

 あんな邪神(ゴミ)と比較するのもおこがましい。

 

 邪神(ゴミ)の伝説やら武勇伝なんてどうでもいい。

  

 そんなものより崇めるべき相手が目の前に居る。

 

 俺は今できる最大限の礼節を持って挨拶をした。

 

 これだけで高千穂の地に来た甲斐があった。

 

「よく分からんけど………なんか腹立つ」

 

「凄く罰当たりなことを………考えてそう」

 

「仲良くならないで下さい。そいつはクズです」

 

「てめぇ等少し黙ってろ。山に埋めるぞゴラァ」

 

「お忙しいのにお出迎えありがとうございます」

 

「いえいえ!こんな田舎に来て頂いてるので!」

 

 そんな至福のひと時はやはり邪魔された。

 

 案の定後ろの馬鹿共が邪魔をしてきた。

 

 そのせいもありいつの間にか仕事の話になった。

 

 これでは距離を詰めようにも詰められない

 

 俺は思わず般若の顔で馬鹿共を睨んだ。

 

 せっかくのチャンスを台無しにしやがって。

 

「町並み面白いでしょ。結構気にいってるんだ」

 

「どうしてここに会社を構えたんですか?」

 

「ウチは元々エフェクト中心の会社だからってのもあるけど、自然が好きだからってのが一番の理由かな」

 

「空気良いですもんね。山に囲まれて」

 

「大きい神社も沢山あるパワースポット的な場所も多いんだ。芸能の神様も祀られてて名前は確か………」

  

天鈿女命(アマノウズメノミコト)。荒立神社で祀られてる女神だ」

 

 アネモネさんの案内で俺達は市街を軽く回った。

 

 古き良き絵に描いたような田舎の風景。

 

 自然と人が共生し空気も何処か澄んでいる。

 

 生まれも育ちも東京の俺にはとても新鮮だ。

 

 邪神(ゴミ)の話が無ければもっと素晴らしい。

 

「あっ知ってる?日本神話とか興味ある?」

 

「ええ………多少は。詳しくはないですけど」

 

「歌や芸能の女神様でね。芸能界の人も東京から参拝に来るワケさ。縁起も良いから商談にも困らない」

 

「えー参拝行こ!アンタは一人でお留守番ね!」

 

「言われずとも行かねぇよ。それ以前に仕事だろ」

 

 俺の言葉に有馬は即座にげんなりした。

 

 今回のMV撮影は2本撮りでスケジュールはキツイ。

 

 俺やバカップル組と違ってB小町組は忙しい。

 

 うかうか観光をしている暇はないのだ。

 

「げぇぇ………そんな。行きたかったのに………」

 

「撮影終われば行けるだろ。楽しみにとっておけ」

 

「みんな頑張ってね。私達はそろそろでここで」

 

「そういやマコたんはどうするの?ホテル待機?」

 

「せっかくだから近くの山で川釣りしてくる」

 

「通りで荷物多いと思った。怪我には気をつけてね」

 

 連行される有馬を横目に俺達は二手に別れた。

 

 俺とアクアと黒川の3人は駅前に向かう。

 

 騒がしかった周囲が一気に静かになった。

 

 どれだけ喧騒の中に居るかが改めてわかる。

 

「お前等はこの後どうする?何処を回る気だ?」

 

「有名どころを幾つか回るつもり。あとはアクアのオススメの所。少し街外れにあって景色が綺麗みたい」

 

「神の名前やら神社の名前といいやたら詳しいな」

 

「俺の知り合いがずっと昔に………住んでいたんだ」

 

 アクアはそれ以上何も言わず遠くを見つめた。

 

 その様子から前世の話をしていると直ぐに察した。

 

 前世の自分が住んでいたなら詳しいのも納得だ。

 

(そういや此処に着いてからルビーが静かだったな) 

 

 アクア達と別れバスに乗っているとふと思った。

 

 飛行機や道中の様子とは少しかけ離れていた。

 

 今思えば何かを懐かしんでいるようにも見える。

 

 遠き日の思い出を振り返っているようだった。

 

(ルビーの前世も………此処出身の訳ないよな)

 

 俺達は互いに前世をこれまで詮索しなかった。

 

 過去は過去として今を生きてきたつもりだ。

 

 だが、あの2人の前世は此処にある可能性が高い。

 

 そしてアイは此処にある病院で2人を産んだ。

 

 これは本当にただの偶然なのだろうか?

 

 この2つに繋がりはないと考えていいのか?

 

 今仕事で此処に来ていることはただの偶然か?

 

 何者かが裏で動いているんじゃないのか?

 

 イレギュラーで歪んだ物語を元に戻す為に。

 

(考えるだけ無駄だ。アクアみたいな中二病キャラでもないんだろ。昔は昔で今は今だ。釣りに集中しろ)

 

 俺は自分にそう言い聞かせて椅子を組み立てた。

 

 前世からのんびり静かにするのが好きだった。

 

 静寂とは一種の平穏であり俺の求めるものだ。

 

 グラサンと釣りに行くのも純粋に好きだからだ。

 

 山派か海派かと問われたら俺はこう答える。

 

 静かな山の川辺で釣りをするのが好きだと。

 

 それはそれとしていつか海釣りもしてみたい。

 

「流石に釣り堀とは違うな……早々に食い付かない。ここは我慢だ……焦るなよ。心を無にして冷静にだ」

 

 釣り糸を垂してしばらくの時間が経った。

 

 時期が冬なだけあってウキが一向に動かない。

 

 俺はそれでも静かに淡々とその時を待った。

 

 心を無にして自然と一体となり気配を殺した。

 

「………来た。来たぞ。遂に来たっ!!」 

 

 そしてウキがようやく一瞬動いた。

 

 俺は力を込めて釣り糸を引き寄せた。

 

 短くも長い戦いの末に釣り上げた一匹。

 

 俺は心の奥底でガッツポーズをした。

 

 これだから釣りというものを止められない。

 

「こんなところで一人かい?寂しくないの?」 

 

 そんな事を考えていると水を差された。

 

 見覚えのない子供が俺のことを見ている。

 

 静寂と感動を邪魔され俺は少し不機嫌になった。

 

 顔に出ないよう注意しながら適当に遇らう。

 

「お嬢ちゃん。釣りっていうのそれそれが違う楽しみ方をするもんだ。ワイワイするのもいいが静かにやるのもいい。俺は静かに楽しむタイプだ。悪いこと言わないから親御さんのところに帰れ。怪我する前にな」

 

 これで子供はビビって逃げ出すと思った。

 

 今まで邪魔してきた奴等はどうにかなった。

 

 しかし、黒い服を着た子供は逃げなかった。

 

 軽く周囲を見渡してみても親御さんは居ない。

 

「どうしたの?何もしないの?手は出さないの?」

 

 俺は面倒なクソガキだと察して溜息をついた。

 

 大人が子供に手を出せないのを理解している。

 

 何事にも正論を持ち出して嫌われるタイプだ。

 

 一人でこんなところに居る理由も何となく察した。

 

 どうせ友達が一人も居ないからに違いない。

 

「何も喋らないの?だんまりを決め込む気?」

 

 俺は少し憐れに思いつつ針に餌を付けた。

 

 こんな奴に付き合うだけ人生と時間の無駄だ。

 

 こういう奴と喋っても神経が逆立つ一方だ。

 

 生理的に受け付けない一番嫌いなタイプだ。

 

 何より俺は聖人でも何でもない一般人だ。

 

 性格の改善は親と社会の教育に一任する。

 

 不要な面倒事を抱え込む趣味はない。

 

「お兄ちゃんって詰まらない人だね」

 

 クソガキは表情を変えず隣に座った。

 

 こちらを興味深そうに観察している。

 

 どうしてこうなった。平穏は何処に行った。

 

 親御さんの教育はどうなっている。

 

「じゃあ代わりに僕が話すね。昔話の時間だ」

 

 調子に乗ったクソガキは自分から話し出した。

 

 迷子通報するかどうか本気で迷った。

 

 だが、こんな事で呼び出される警察も憐れだ。

 

 仕方ないから付き合ってる事にする。

 

「昔々あるところに一人の男の子が居ました。男の子は親の顔も知りません。捨て子だったからです」

 

 冒頭部分だけ聞いて直ぐに後悔した。

 

 昔ながらの趣味が悪い昔話だ。

 

 こういう話を聞くと気分が悪くなる。

 

「何年経っても迎えに来ないので男の子は自分が孤独だと気付きました。男の子は諦めを知りました。それから男の子は寝る間も惜しんで勉強を始めました。偉い金持ちになって周囲を見返そうと考えたからです」

 

 帰ろうか迷っていると心が静まり返った。

 

 前世の俺が静かに騒ぎ始めた。

 

 そんな俺を見て子供は話を続ける。

 

「男の子の努力は次第に実りました。あと一歩で夢が叶うところまで辿り着いたのです。しかし、それを疎ましく思う人間が居ました。孤独にも関わらず努力を続け周囲とも仲が良い男の子を妬んでいたのです」

  

『底辺の掃き溜めが調子に乗るな!!』

 

『親も金も何もないガリ勉め!!』

 

『大学なんかに行けると思うな!!』

 

 存在しないはずの古傷が疼いた。

 

 動悸が激しくなって苦しくなる。

 

「彼等はとてもお金持ちでした。誰も彼等には逆らえなかったのです。次第に男の子は孤立していきました。しかし、それでも努力を続けました。こんな自分でも報われる日が来ると信じていたからです」

 

 俺はずっと独りで希望(ひかり)を求め戦い続けた。

 

 誰も自分を助けてくれないなら自分で這い上がる。

 

 そう決めてから諦めてから無我夢中に戦った。

 

「でも、報われる日なんて来なかったのです。そんな男の子を妬んだ彼等は罪を擦り付けました。男の子を詐欺師に仕立て上げたのです。この嘘を誰も暴けませんでした。男の子は何もかもを奪われました」

 

 だが、世界に希望(ひかり)はなく暗闇(ぜつぼう)のままだった。

 

 孤立した俺を庇う奴は誰も居なかった。

 

 俺は虚偽の詐欺罪で捕まり少年院に入れられた。

 

 大学になんて行ける筈もなかった。

 

「男の子は気付きました。正直者は馬鹿を見る。世界は嘘で塗れている。信じられるものは何もないと」

 

 だから、俺は自分に嘘をつき始めた。

 

 全てを奪った嘘に何度も吐き気がした。

 

 自分の事が嫌いになって行くのを感じた。

 

 それでも生きる為に嘘は必要だった。

 

 嘘が無ければ自分すら守れなかった。

 

「オオカミ少年は多くの人を騙し続けました。相手を騙すことで生きていると思いたかったのです。けど、その心はもう壊れていました。直す事も出来ませんでした。オオカミ少年は生きながら死んでいたのです」

 

 俺はどうにか就職して働いた。

 

 ブラック企業でも働けるだけマシだった。

 

 自分を偽って相手を騙して自分を偽る。

 

 相手を騙して自分を偽り相手を騙す。

 

 その繰り返しを何年もした。

 

 次第に俺は嘘を見抜けるようになった。

 

 あれほど憎んだ嘘に塗れたからだ。

 

 それに気づいた時にはもう手遅れ。

 

 早く死にたい死ぬべきだと思い始めた。

 

「それからオオカミ少年は自ら命を絶ちました。最後まで自分を偽り続けて死にました。こうして彼は静寂という平穏(しあわせ)を手に入れたのです。めでたしめでたし」

 

 殴り掛かるのを必死に我慢した。

 

 前世の俺は殺せと叫び声を上げていた。

 

 釣り竿はとっくに地面に転がっていた。

 

 俺の平穏(しあわせ)は目の前の()に壊された。

 

 自らの瞳が闇で覆われていく。

 

 自らの真実から目を背けられない。

 

「怖い顔だね。昔話は好きじゃなかった?」

 

「俺は今しか見ない主義だ。過去は所詮過去だ」

 

「驚いたよ。これでも手を出さないんだ」

 

 これは確かに俺自身なのだろう。

 

 醜く醜悪な存在に成り果てた過去。

 

 これは真実であり変わらない。

 

 だが、今の俺は斎藤真だ。

 

 あの時の亡霊だった俺じゃない。

 

 前世の俺を自らの内側に追いやった。

 

 自らの瞳に光が戻ってくる。

 

「君は強い人間だ。君は最後まで揺るがない」

 

「上から目線はいい加減にしろ。警察に通報する」

 

「けど、君はやっぱり欠けてる。壊れたままだ」

 

 クソガキの口をガムテープで塞ぐことにした。

 

 それぐらいは警察も許してくれるだろう。

 

 俺は即座にガムテープを取り出した。

 

 だが、その時奇妙な事が起こった。

 

 周囲のカラスが俺に襲い掛かった。

 

 ガムテープが奪われ引っ搔き傷が出来た。

 

 俺は必死の思いで足元の釣り竿で応戦した。

 

 振り払うので精一杯で子供に近づけない。

 

「かつてルシファーは神に戦いを挑んだ。その果てに敗北し悪魔の姿に変えられた。君は彼によく似てる」

 

 何を言ってるのかまるで分からなかった。

 

 カラス達を子供が操っているのは確かだ。

 

 子供は帰り道を悠然と進んで行った。

 

 カラスが邪魔で追うことが出来ない。

  

「運命力は神の力と言っていい。どんなイレギュラーも最後には排除する。人は決して運命(かみ)には勝てない」

 

 俺はようやく子供の正体を理解した。

 

 この18年間憎み続けた不俱戴天の仇。

 

 こいつは何らかの形で邪神に関係している。

 

「人の選択を決めるのは人だけだ。お前程度が自惚れてんじゃねぇ。運命(かみ)なんてものは俺が壊し尽くす」 

 

「ルシファーにでもなったつもりかい?正しい運命が受け入れないのかい?また死ぬことになるかもよ?」

 

「気取ってんじゃねぇよ中二病。精々調子に乗ってイキってろ。カラス以外の友達がいないボッチ女が」

 

 俺は殴れない代わりとばかりに中指を立てた。

 

 クソガキの表情が初めて揺らぎキレている。

 

 やっぱりアイツはボッチで間違いなかった。

 

 有馬以下の性格の奴に友達がいる訳ない。

 

 いくら何でも比べるのすらおこがましい。

 

 どちらも別ベクトル方向で最底辺だ。

 

「僕を怒らせると後悔するよ。まぁ何もせずとも……運命はもう決まってる。君は再び誤った選択をする。これは決して揺るがない。彼女がそれを願う限りね

 

 クソガキの言葉が突然冷たくなった。

 

 金縛りにあったかのように動けなくなった。

 

 俺が混乱しているとクソガキは消えた。

 

 周囲に居たカラス達も飛び去って行く。

 

 まるで現実とは思えなかった。

 

 だが、今の出来事は全て現実だった。

 

 壊れた釣り竿と全身の傷跡が証明してる。

 

 邪神はこの世界に………存在していた

 

 俺は鬱憤晴らしに石を川に投げ込んだ。

 

 ついでに釣った魚もカラスに奪われた。

 

「彼女って………誰だよ何だよクソが」

 

 クソガキの言葉に皆目見当が付かなかった。

  

 俺は焦燥感に駆られつつ荷物を片付けた。

 

 今はそうするしかなかった。

 

 すっかり空は赤く染まりつつあった。

 

 あったはずの静寂も平穏も此処にはもうない。

 

 

 

 

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