斎藤家の愚息   作:熊田ラナムカ27

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34 輝かしくも歪な世界

 

 

 

「じゃあ子役の頃に二人はあってるんだ?」

 

「小さい頃に現場でね。実質幼馴染だよね」

 

「違うわよ。ホントにルビーは小さい頃から失礼で、私が色々あって苺プロに入った時なんか………」

 

「重曹を舐める天才子役でしょ。懐かしいな」

 

「そうよ!それよ!いきなり意味不明なあだ名で呼んできたのよ!どっから重曹引っ張り出してきた!?」

 

 かなちゃんのツッコミは今日もキレが良い。

 

 動画のバズポイントとしてはバッチリだ。

 

 バラエティ番組にも出るようにだけはある。

 

「よしっ。これ位で大体の尺は稼げたかな」

 

「ちょっと待て。まだ言い足りない。私のあだ名呼びの現状について……この際だからハッキリさせたい」

 

「えー、嫌だ。先輩の小言長いし」

 

「どれもこれもアンタのせいでしょ!?いい加減あだ名を付けるの止めろ!キャラが渋滞してるのよ!!」

 

「キャラが濃いのは良い事だと思うけどな」

 

「お笑い芸人呼ばわりされて喜ぶ奴が居るか!!」

 

 ちなみに本人は番組出演を最後まで嫌がっていた。

 

 理由はについては言わずもがな肝心のオファー内容が、コメディアン枠としての番組出演だったからだ。 

 

 うちの動画を見たとある某プロデューサーが、レギュラーにすれば番組の人気が出ると確信したらしい。

 

 実際その番組は今や大人気のタイトルの一つ。

 

 かなちゃん自身も番組で注目を集めた事によって、役者としての仕事が増えたのだから一石二鳥だ。

 

 それに伴い『B小町』全体の仕事も増えに増えて、こっちとしてもバズの材料に困る事はなかった。

 

 流石は我らがセンターだと褒めてあげたい。

 

 下手に触れると地雷踏むから直接言わないけど。

 

「芸人だろうがなんだろうが売れるならいいじゃん。使えるものは使った方が良くない?勿体なくない?」

 

『B小町』の躍進を支えるもう一人の立役者。

 

 ルビーちゃんもこの半年で雰囲気が変わった。

 

 何というか………少しクレバーになった。

 

 何処かダークな気配をいつも纏っている。

 

 その変化にファンも少なからず気付いてる。

 

 この前のライブでも確実に応援が増えてた。

 

 キッカケさえあればブレイクするに違いない。

 

 下手をすればセンターの座を食い合う勢いで。

 

「ルビーがあんな事を言うなんて……意外だったわ」

 

「ちょっと前まであんな事を言う子じゃなかったのにね。汚い大人の世界に染まり始めちゃったのかな?」

 

「遅かれ早かれでしょ。個人差だってあるし。あっ、すいません。コーヒーとデザートお願いします」

 

「ちょっ、待っ、デザートも食べるの!?」

 

「せっかくの奢りなんだから当たり前でしょ」

 

「こっちのお財布事情ギリギリなんだけど………」

 

 撮影を終えてミヤコさんとスケジュールを確認した後、私とかなちゃんは一緒にご飯を食べに行った。

 

 ルビーちゃんは誘ってみたけど結局来なかった。

 

 ここ最近は忙しそうでずっとそんな感じだ。

 

「ルビーには何か特別なものがあった。元があのルックスだし大手でデビューしてたらとっくに売れてた。思想が才能に追い付いたってのはあるのかも」

 

「ファン人気も気づけば私より高くなっちゃたしね。これでも頑張って活動してきたつもりなんだけどな」

 

「アンタの頑張りは皆知ってる。この短期間でチャンネル登録者数が増えたのはMEMちょが居たから。自分で自分を下げるようなこと………言わないでよ」

 

「あのかなちゃんが……私の前でいきなりデレた!?念の為に確認するけど……これ夢じゃないよね!?」

 

「店裏で引っ叩かれたいのなら今直ぐにでも引っ叩いてあげる。私のこと………そんな風に思ってたのか」

 

 かなちゃんはジト目でこっちを睨んだ。

 

 あまりに意外な言葉でついつい口が滑った。

 

 子供の成長を間近で見た時の親の気分だ。

 

 場所が場所だったら多分抱きついてる。

 

「どんな経緯であれ経験がある人間は基本強い。そういう奴は自分の強みと勝ち方を知ってる。芸歴1年のMEMちょが人気でどうしても劣るのは当然よ。自分の持つ強みはともかく勝ち方を知らないんだもの」

 

 神妙な面持ちでかなちゃんはおもむろに語った。

 

 確かに今の今まで上手く()()()()()()()という部分は少なからずどうしてもあったのかもしれない。

 

 旧『B小町』が4年以上掛けようやく進んだ道を、私達は1()()という早過ぎるスピードで歩いた。

 

 始まりのJIFでのライブといい、異様な完成度を誇るMVといい、幾つもの段階を通り越している。

 

 ユーチューバーとしての歴があるとはいえ、私自身今持つ実力をいつの間にか過大評価してしていた。

 

 ムリして人気になる必要なんて何処にもないのに。

 

「此処まで来れたのは全員に才能と運があったから。でも、ここから先に行くならこの2つだけじゃ生きていけない。決して揺るがない背骨(バックボーン)を作る時間が絶対に必要。下手に行き急げば自分の才能に潰される」

 

「妙に実感が籠った言葉だね。小さい頃から芸能界に居るだけはあるよ。………焦りは禁物ってやつだね」

 

「そういう意味じゃルビーは異質。歪とも言えるかもしれない。あの子は不幸にも此処に来るまで成功の経験しかしてきてない。失敗の経験が少な過ぎる。ある日突然変な気起こして………拗らせないといいけど」

 

 かなちゃんは苦い顔して頭を強く抑えた。

 

 自分の黒歴史が脳内再生されたに違いない。

 

 多分だけど概ねマコたん関連な気がする。

 

「そういやマコたんは最近会ってないけど元気にしてるのかな?インターン先の仕事が忙しいとかでライブを直接観に来る機会も減っちゃったし」

 

「あの薄情者はどうだっていいわよ。いつもみたいに悪巧みしてるに決まってる。どうせなら痛い目みろ」

 

「もしかして………またマコたんと喧嘩した?」

 

「彼奴が全部悪いのよ!休業した理由を一切喋ろうとしないんだもの!口に出せない配慮をわざわざして!ライン送ってやったら数週間ブロックするし!」

 

(これに関しては……かなちゃんも半分位は悪いよ。心配なのはまぁ分かるけど……メッセージ送り過ぎ。どっからどう見ても……行動が面倒臭い彼女だよ)

 

 そんな言葉を喉奥にしまい込んで遠い目をした。

 

 例のラインを見れば見るほど胃が痛くなった。

 

 相変わらず喧嘩の内容がどっちもどっちだ。

 

 いつもは両方大人なのに揃うと子供っぽくなる。

 

「腹が立ってどうにかなりそう。お酒飲みたい」

 

「未成年が飲める訳ないでしょ。ましてアイドルがお酒だなんてツーアウトだよ。多方面に怒られるよ」

 

「じゃあ代わりに彼奴の顔面を一発殴りたい」

 

「警察沙汰でスリーアウト。今日はこの辺で帰るよ。後でゆっくりお水飲もうね。お勘定お願いします」 

 

「せめて一言ぐらい………言わせなさいよ馬鹿」

 

 かなちゃんは酔ったかのように机に項垂れた。

 

 こうして見ると何処にでも居る普通の女の子だ。

 

 テレビで目にする芸能人とはとても思えない。

 

 マコたんやルビーちゃんも考えてみるとそうだ。

 

 勘違いしそうになるけど皆まだまだ子供だ。

 

 芸能界にはあまり多くの才能が集まる。

 

 だから自然とそこに居る人間の成長も早い。

 

 急激な成長はその歪さで時に亀裂を作る。

 

 子供と大人の境目を曖昧にするほどに。

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

 

「はーい!リポーターのルビーでーす!本日は中継でお送りしまーす!」

 

『もういいって俺の妹出すの。コイツの顔見るの家で十分ですって』

 

 テレビデビューをしてから1週間が過ぎた。

 

 今のところ滑り出しとしては順調そのもの。

 

 上畑さんのアドバイスが遺憾なく生きてる。

  

『まずは現場で結果を残さない事には何も始まらない。番組内で自身のキャラクターを示す事が大事だ』

 

『キャラクター?お兄ちゃんみたいなやつ?』

 

『彼は『毒舌クール』というキャラを前に出している。誰かが頓珍漢なことを言った時に話をフればバッサリと切ってくれる。そんな空気を周りに周知させておけばいい。君はユーチューブに動画を上げてたね。そのキャラを参考にしたらいいんじゃないかな?』

 

 そんな話を聞いてなるほどと思わず感心した。

 

 実際先輩は番組レギュラーの座をそれで得ていた。

 

 結局のところ視聴者が見たいのは馬鹿な道化。

 

 それさえ分かってしまえば後は簡単だった。

 

 盛りに持った馬鹿エピソードを用意すればいい。

 

『ルビーはしっかりしてそうやけど、最近失敗した事とかはある?』

 

「失敗………?そんなの全然ないですけど………こないだ家が火事になりかけちゃった事はあります!」

 

『えっ!?なんで!?』

  

「友達が石鹸づくりにハマってるのを聞いて、やりたいなーと思ってハンドソープを鍋で焼いたんですよ」

 

『言ってる事やばいじゃん。お前バカやなぁ』

 

『お前と同じ遺伝子持ってる事実が結構キツイ』

 

 スタジオの反応は今日も良好で絶好調。

 

 十分な程の視聴率を稼ぐことが出来た。

 

 あと実行出来てない事といえばADへの気遣い。

 

 ADはいつかDになる可能性がある人物だ。

 

 仲良くなる為にまずは話し掛けてみよう。

 

 少し長い休憩時間を使ってADらしき人物を探す。

 

「おいっ!機材の調整まだ終わってないのか!?」

 

「マイク関連の方が上手く行ってなくて………」

 

「遅いんだよ!俺がやる!使えない奴ばっかだ!」

 

「すみません………すみません………」

 

 そんな最中に突然の修羅場と偶然遭遇した。

 

 弱々しい人が眼鏡の人に大目玉喰らっていた。

 

 多分だけど理不尽な理由で怒られている。

 

「どうもお疲れ様です。良ければお茶どうぞ」

 

「あっ、すいません。ありがとうございます。機材の調整が終わり次第出るのでもう少し待って下さい」

 

「いえいえ。気にしてないから大丈夫です。それよりお仕事大変そうですね。体の方は大丈夫ですか?」

 

「今日は人手が足りなくて多少キツイけど大丈夫だよ。少し前と比べたら職場環境もマシになったし」

 

「へー………そうですか。全然そうには見えないですけどね。ついさっきも怒鳴られてたみたいですし」

 

 この番組を担当しているADの一人。

 

 吉住さんは私の言葉に全力で苦笑いした。

 

 ほぼ初対面の相手にかなり失礼な事を言った。

 

 けど、そのお陰で存在した緊張は無事に晴れた。

 

 持ち前のお馬鹿キャラが此処でも生きたらしい。

 

「うちの班はピりついてる真っ最中でね。此処には居ない僕以外のもう一人のADと漆原Dの二人が対立してるんだ。正確には対立してるというより……彼のことを漆原Dが一方的に目の敵にしてるだけだけど……」

 

 吉住さんは諸々の事情を何となく話した。

 

 事の発端は数日前のディレクター達の会議。

 

 上からの評価が分かりやすく出る場で起きた。

 

 例のADがCAD候補として名が上がったらしい。

 

「CADってのはチーフアシスタントディレクターの略なんだけど……班に居るAD達をまとめ、ディレクターの補佐としてより深く番組制作をする仕事なんだ。現場内における事実上のナンバーツーと言ってもいい」

 

「難しい話はよく分からないんですけど………そんな役職の候補に上がるって事は凄い事なんですよね?」

 

「凄いなんてものじゃないよ。異例の大出世だよ。此処以外の現場でのAD経験があるといっても彼は業界に入って数ヶ月しか経ってない。少なくとも1年以上掛かる道を半分以下の期間で駆け上がったんだから」

 

 吉住さんは何処か自慢げにそう語った。

   

 例のADさんとの仲は聞く限り良好らしい。

 

 どんな人物なのか直接会いたくなった。

 

「けど、それがどうして対立に繋がるんですか?普通なら吉住さんみたいに祝福するような事ですよね?」

 

 でも、今は現場の事情を知る方が優先だ。

 

 例のADさんと会う機会がいずれあるはずだ。

 

 どんな人物か知るのはその時でも遅くない。

 

「普通なら………きっとそうなんだろうね。でも、この業界における普通は……そんな単純じゃないんだ」

 

 吉住さんは打って変わって暗い顔をした。

 

 その目は光を失い鈍く歪んでいる。

  

 何処か疲れ切ったオーラを纏っている。

 

「この業界で誰かが出世するって事は……誰かが零落するってこと。他の現場に飛ばされるだけだったらならまだしも……実質的に首を切られる可能性も十分にある。誰かの幸せを……あまり喜べない世界なんだ」

 

 テレビ業界の予算は全盛期の半分以下しかない。

 

 そのしわ寄せは最終的に現場に降りてくる。

 

 取り分(パイ)は減るばかりで増えることは決してない。

 

 そんな取り分(パイ)の平等な分け方は至って簡単だ。

 

 取り分(パイ)を得る人間を可能な限り減らせばいい。

 

 誰かの不幸が誰かにとっての幸せに変わる。

 

「漆原Dは元々キー局の社員だったんだけど……色々問題を起こして今の現場に来た。どうにかして結果を出さないと……スネに傷がある漆原Dには後がない」

 

 そう語る吉住さんの表情は複雑そうだった。

 

 雰囲気からして二人の仲はあまり良くない。

 

 それどころか恨み言を言ってもおかしくない。

 

 それにも関わらずこの人はそうしなかった。

 

(吉住さんは………きっと良い人なんだろうね)

 

 この人は誰かを見捨てられるような人間じゃない。

 

 良い意味でも悪い意味でも人が良過ぎる。

 

 この芸能界で生き残るには力が足りない。

 

『テレビ業界において不道徳さと面白さは表裏一体。清濁併せ飲める人間しか勝ち残れない。何かもを騙せる才能を持つものこそが……全てを得るんだ。これはタレントでも裏方の人間でも同じ。人を利用し取り込めてこそ一流のタレントだ。よく覚えておくといい』

 

 上畑さんは少し前にそんな事を私に教えた。

 

 その時はピンと来なかったけど今なら分かる。

 

 この世界で生き残るにはそうするしかない。

 

 それが正しいと信じて自分を騙すしかない。

 

 輝く表舞台とは対照的に裏側は真っ黒だ。

 

 この世界の闇の深さは計り知れない。

 

「ごめん……色々と話し過ぎた。こういうのって……あまり話しちゃ駄目な内容なんだ。ここまで聞いてもらって悪いんだけど………忘れてもらえないかな?」

 

 ハッとなって吉住さんは焦ったような顔をした。

 

 今の話は芸能科の闇の部分を含み過ぎている。

 

 内部の情報を外に漏らすだなんてプロ失格だ。

 

 話す相手が相手なら炎上動画を作られている。

 

「大丈夫ですよ。誰にも言いません。今の話は私と吉住さんだけの秘密です。今後も仲良くしたいですし」

 

 吉住さんは私の言葉に安堵の息を吐いた。

 

 今のである程度は仲良くなれたはずだ。

 

 いつかこの繋がりはきっと役に立つ。

 

(この調子で………もっと頑張ろう)

 

 カメラの前で私は満面の笑みを張り付けた。

 

 誰もが求める偶像を演じてみせた。

 

 子供の自分を捨て大人の自分になってみせる。

 

(私のやってる事は………何も間違ってない)

 

 そんな言葉を自分自身に言い聞かせた。 

 

 ジワリジワリと伝わる痛みを無視した。

 

 降り積もる嘘の重みを肌身で感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

 

 俺の時代は残業なんて当たり前だった。

 

 それに比べ今の時代は配慮の言葉ばかりだ。

 

 自分の考え方が古いのは分かり切ってる。

 

 それでも身に染みた生き方は変えられない。

 

 このやり方で妻やガキを食わせてやるしかない。

 

 彼奴等の幸せの為なら幾らでも泥を被る。

 

 自分の行く道がそう長くないものだとしても。

 

「次の深堀コーナーは『コスプレイヤー』の取材だ!今流行ってる東京グレー……だったかのコスプレだ」

 

「もしかして………『東京ブレイド』の事ですか?」

 

「そうだ。それだ。時期的に夏コミも近いからな」

 

 吉住はわざわざ細かい事に反応しやがった。

 

 今を生きるテレビマンの象徴みたいな奴だ。

 

 時代が時代なら殴られていてもおかしくない。

 

「『東京ブレイド』のコスさせりゃ画面的にも映えるだろ。アニメの方はうちの局で放送してるし問題ないはずだ。版権関連の許諾は俺の方から取っておく」

 

「取材可能なコスプレイヤーはこっちでリサーチしておきます。別の局で撮影経験ある子なら直ぐ───」

 

「馬鹿野郎。それじゃ意味ないだろ。うちはネット番組だ。普通のコスプレイヤーじゃ話にならん。過激なトーク引き出せそうな承認欲求満たす為にエロ系のコスプレやってる奴だ。顔が良い芸人崩れでも構わん」

 

「待って下さい。リスクが高過ぎます。そういった人間は慎重に選定しないと炎上を直ぐに起こす。何より準備期間があまりに少ない。今の条件である程度の人数を集めるとなると無茶振りが流石に過ぎます」

 

 俺が吉住に説明していると斎藤が口を挟んだ。

 

 新人のクセに此奴は無駄に仕事が出来る。

 

 学生がいきなりCAD候補だなんて聞いた事がない。

 

 鏑木Pのお気に入りとはいえ此奴の力量は異常だ。

 

 これが俗に言う天才というやつなのだろう。

 

 此奴を見てると自分の数十年が無駄に思える。

 

 泥臭さと無縁の人生を送ってきたに違いない。

 

「この番組をコンセプトは地上波に出ないギリギリを攻めること。ADの仕事は無茶振りをどうにかする事だ。例えCAD候補だろうとお前の仕事は変わらん」

 

「番組コンセプトも自分の仕事も理解してます。ですが、今の時代コンプラに少しでも引っ掛かったら全て終わり。リスクヘッジは最低限でも取るべきです」

 

「立場が下の者は上の者に従うのは当然って、お前確か自分の口で言ってたよな?AD如きがディレクターに口出しするな。少しくらい自分の立場を弁えろ」

 

 大人気ないと言われようと此奴の事は嫌いだ。

 

 自分の存在を否定されてるようで気に喰わない。

 

 古いテレビマンにも意地ってものがある。

 

 無様だろうと醜かろうと任された仕事は果たす。

 

 自分の仕事を此奴なんかに邪魔されて堪るか。

 

「コ、コスプレイヤーは僕が集めるから、斎藤君は番組の段取り調整を頼むよ。それも大事な仕事の一つだ。漆原Dも………これなら問題ないですよね?」

 

 俺が思わず怒鳴ろうとすると吉住が間に入った。

 

 これ以上の揉め事は起こしたくないらしい。

  

 斎藤は何か言いたげにしつつデスクに戻った。

 

 無駄に優秀なだけあって引き際をわかってる。

 

 そんな姿を見ていると増々腹が立ってくる。

 

「俺だって………やれば出来るはずなんだ」

 

 家に帰ってエナドリを片手に編集を進めた。

 

 吉住は徹夜を止めたようだが俺には関係ない。

 

 時代が変わろうと自分の生き方は変えられない。

 

 何処まで行ってもこの世界に自由はない。

 

 下らない慣習だらけで従ってる自分も嫌になる。

 

「最後に仕事が楽しかったの………何時だったかな」

 

 俺だって昔は面白い番組を作りたいだけだった。

 

 我武者羅に突き進めば夢が叶うと思っていた。

 

 けれど、俺は結局のところ凡人だった。

 

 規制ばかり増える世間の波に抗えなかった。

 

 何かの焼き増しのエンタメしか作れなかった。

 

「くっそたれ………俺は何やってるんだ………」

 

 図体ばかりがデカくなって中身はそのまま。

 

 きっとあの頃から俺は一歩も進めてない。

 

 自分が将来どんな大人になりたかったのか。

 

 そんなものはとっくの昔に忘れてしまった。

 

 今日も俺は中身が子供のまま大人を演じた。

 

 才能を妬む嫌な大人を演じるしかなかった。

 

 この世界の歪んだ大人しか俺は知り得ない。

 

 

 

 

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