斎藤家の愚息   作:熊田ラナムカ27

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40 愚者達の黄昏

 

 

 

 何時か終わる仮初の幸せでも良かった。

 

 嘘を吐き続ける事になっても平気だった。

 

 その報いを受ける事になっても構わなかった。

 

(君が君のままで居られるなら……それだけで)

 

 あの日君がくれた温もりを忘れた日はない。

 

 あの日貰った優しさは今も胸の奥にある。

 

 だから、私は真さんに手を貸す事を決めた。

 

 自分の『役』ひたすらを演じ続けてきた。

 

 アクアや沢山の人達を裏切り欺いてきた。

 

 その選択自体に後悔は一つだってない。

 

 だってそれが出来る唯一の償いだから。

 

「どうして今更……私の前に現れたの?自分から追いていって……自分勝手だよ。ずっと傍に居るって言ってくれたのに……どうして約束を破ったの?私は君となら何処へでも行く覚悟はしてたのに………ッ!!」

 

(でも、ほんの少しだけ………疲れちゃったな)

 

 自分で言った言葉に直ぐ後悔をした。

 

 こんな醜い姿なんて見せたくなかった。

 

 けれど、どれだけ願っても時は戻ってくれない。

 

 もう零れ落ちていく涙を止める事は出来ない。

 

 自分の足元が崩れ消える感覚に襲われた。

 

 まるで溺れたかのように息が出来ない。

 

 何処を見渡しても闇ばかりで何も見えない。

 

 あの温もりが遠く彼方へと消えていく。

 

「それでも俺は今度こそ……あの約束を守りたいんだ。あかねを一人には……もうさせたくないんだ」

 

 そんな涙の海にアクアは飛び込んできた。

 

 私とアクアの視線がいつ以来か交わった。

 

 その瞳の奥で白い光が強く輝いていた。

 

 暗い海の闇の中に光がそっと差し込む。

 

「やっとあかねの本音を……聞く事が出来た。あかねが隠し続けてきた物を……ようやく見る事が出来た」

 

 アクアは私の方に向かって歩き出した。

 

 その手を伸ばして私を引き上げようとした。

 

 あの歩道橋で私を見つけてくれたみたいに。

 

「嫌だ。来ないで。あっち行って。近づかないで」

 

 私はそんなアクアを拒絶して遠ざけようとした。

 

 アクアが伸ばしてくれた手を振り払った。

 

 咄嗟に出た酷い言葉を()()言ってしまった。

 

 このまま消えて何もかも忘れてしまいたい。

 

「お前の優しさに甘えて……傍に居てやれなかった。どうしようもない嘘つきで……約束を守れなかった」

 

「さっさと帰って。私の前から居なくなって」

 

「自分の選択が正しいのか……迷ってばかりだった。自分が一体誰で何をしたいか……分からなくなった」

 

「お願いだから………私を迷わせないで」

 

 それでもアクアは私の方に歩み寄った。

 

 どれだけ拒絶されても目を逸らさなかった。

 

 何度振り払われても手を伸ばし続けた。

 

 私の心の中で次第に恐怖が沸き上がっていく。

 

 動悸が激しくなって手元が震え出した。

 

 顔はとっくに青ざめてるに違いない。

 

「もう嘘を吐かなくていい。もう自分の心を偽らなくていい。もう一人にはしない。ずっと傍に居るから」

 

 アクアは屈んで座り込んだ私に視線を合わせる。

 

 その言葉は温もりに溢れてて何処までも優しい。

 

 けれど、だからこそ、私は怖いと感じた。

 

 私はもう何も知らなかった頃の私じゃない。

 

 その手は汚れきっていて嘘に塗れている。

 

「私はもう……アクアには相応しくない………っ」

 

 隠し続けたかった本心が露わになった。

 

 私はずっとアクアに罪悪感を抱えていた。

 

 真さんやルビーちゃんを止められなかった。

 

 こんな選択しか選ぶ事が出来なかった。

 

 そんな私をアクアは強く抱きしめる。

 

「俺も一度は同じ事を考えた。こんな幸せ許されないと思った。あかねと完全に距離を取る事さえ考えた」

 

 あの日と同じで心さえも温かくなった。

 

 私は遂に泣き出して力が抜けてしまった。

 

 そのせいで手元からメモリが滑り落ちる。

 

「もっと早くに言うべきだった。俺には夢がある。何時か外科医になって少しでも多くの人を助けたい。もっと役者として活躍して監督に賞を取らせたい。世話になった人達に恩を返したい。病める時も健やかなる時もあかねの傍に居たい。この言葉に……嘘はない」

 

 アクアは落ちて行くメモリに目を向けない。

 

 あの日と同じように私を真っ直ぐ見つめていた。

 

 永遠に続く夢なんてこの世には存在しない。

 

 どれほど思い焦がれようと終わりは来る。

 

 どれだけ美しい花も何時かは枯れる。

 

「それがアクアの隠し事?欲張り過ぎない?」

 

「自分でも自覚してる。子供染みた夢だって」

 

「アクアにとって復讐は………それでいいの?」

 

「もういいんだ。もっと大切な物を見つけた」

 

 けれど、花はただ枯れるだけじゃない。

 

 新たな花を咲かせる為に花は種を残す。

 

 終わりと始まりを繰り返して何度でも咲く。

 

 優しさの種がある限り本当の終わりはない

 

「そっか。そうなんだ。じゃあ……仲直りだね」

 

 私とアクアはあの日みたいにキスをした。

 

 互いの手を握ってその存在を確かめ合った。

 

 涙の海はいつの間にか消えて光が満ち溢れる。

 

 私達は本当の意味でようやく仲直りをした。

 

 あの息苦しさを感じる事はもうない。

 

 それからどれぐらいの時間が経っただろう。

 

 私達はベンチに座ってしばらく無言だった。

 

 お互いに何を言えばいいか分からなかった。

 

 少し冷静になって言葉をどうにか慎重に選ぶ。

 

「えっと、その、結婚の話だけど……もう少し待ってくれるかな。私もアクアもまだ未成年だし、お仕事もあるし、学生婚って手もあるけど心の準備が───」

 

「俺にも言った責任はあるが……一旦落ち着け。いくら何でも……気が早過ぎる。俺が大学を卒業して医者になるまで……とりあえずその話は保留にしてくれ」

 

 私は全身真っ赤になって手で顔を覆った。

 

 アクアは頭を押さえつつ溜息をついた。

 

 自分で言った言葉にまたも後悔をした。

 

 半年前の自分の頬を全力で引っ叩きたい。

 

『何も変わらないよ。私はずっとアクアくんの傍に居る。病める時も健やかなる時もアクアくんと一緒に居る。アクアくんを愛してその帰りをずっと待ってる』

 

『俺には夢がある。何時か外科医になって少しでも多くの人を助けたい。もっと役者として活躍して監督に賞を取らせたい。世話になった人達に恩を返したい。病める時も健やかなる時もあかねの傍に居たい

 

 どう思い返しても告白の言葉とその返事だ。

 

 実際そんな気持ちで言ったけどそうじゃない。

 

 これはこれで悪くないけどほんのちょっと違う。

 

(どうせならアクア()()……告白して欲しかった)

 

 何というか段階を踏み外して早まった気がする。

 

 基礎を通り越して突然応用をやってる気分だ。

 

 喜びと後悔と羞恥心が混ざって考えが纏まらない。

 

「アクアが仮に留年せず医大に入って卒業したとして……次に告白のチャンスがあるとしたら約7年後。その時は絶対同じ轍は踏まない。アクア()()必ず告白させる。その為に色々と準備しないと。アクアって女たらしで割とヘタレだし……このままだと同じ事になる可能性が高い。それがもし成功したら……次は結婚?住む場所はアクアに合わせた方がいいよね。あっ、そうだ。アクアは子供欲しいのかな?もしそうなら子供は何人ぐらい───」

 

「だから落ち着けって言ったろ。ヘタレとか女たらしとか聞こえたけど……さっきから何を言ってるんだ」

 

 私はアクアに軽く頭を小突かれて頭を押さえた。

 

 つい気が動転して心の声が駄々洩れだった。

 

 これはこれで大事だけどまだ先の話だ。

 

 もっとやるべき事が今の私達にはある。

 

「じゃあ改めて聞くけど……このデータを手にしてアクアはどうする気?復讐は終わったんじゃないの?」

 

 私はメモリを見せつつアクアに尋ねてみた。

 

 その言葉にアクアは黙って少し考え込んだ。

 

 瞳の奥で色々な感情が揺らぎ揺れている。

 

「俺の復讐は……確かに終わった。今はもう幸せになっていいとも思ってる。けど、その責任が消えた訳じゃない。姫川も前に言ってたけど……親が犯した事の清算は付けなきゃいけない。どんな手段を使ってでも犯した罪は償わせなきゃいけない。そうでもしないと本当の意味で……全員が前に進む事は出来ないから」

 

 アクアは重い言葉をゆっくり静かに語った。

 

 その決心が覆らないであろう事は明白だ。

 

 どれだけ否定しても血の因果はとても深い。

 

 余りに残酷で時に人生さえも歪めてしまう。

 

 その重責をアクアは背負う事を覚悟していた。

 

「じゃあアクアは……上畑志貴って人知ってる?」

 

「ルビーが休日の度に会ってる男………ってところまでは。詳しい経歴とか素性は知らない。個人的に信用出来ない奴だとは思ってるけどそいつが一体───」

 

「そんな男……この世に()()()()()の。上畑志貴って名前は経歴や素性を隠すための……()()でしかない」

 

 だから、そんなアクアを見て私も覚悟を決めた。

 

 これまで隠していた真実をゆっくりと話し出した。

 

 その言葉の一つ一つが震えているのを感じる。

 

「私と真さんは真犯人について調べる過程で……その事実に気付いた。その事実を加味した上で更に調べ続けて……最も恐れてた真実にまで私達は辿り着いた」

 

 ダウンロードしてたデータを私は読み込んだ。

 

 するとスマホの画面には一枚の画像が表示される。

 

 その画像を見るや否やアクアは無表情になった。

 

 これまであった点と点が結びついたに違いない。

 

「この男こそが全ての始まり。この男の存在がルビーちゃんにとっての『()()』を……真さんが演じる事を決定づけた。私はその選択を……止められなかった」

  

 あの選択から1年近くの長い時間が過ぎた

 

 私達はこれまでそれぞれの『役』を演じてきた。

 

 仮面を被り道化となる事で機会を伺い続けた。

 

 全てを捨て全てを守る選択を真さんはした。

 

 自ら被った仮面の外し方を忘れてしまう程に。

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

 

 俺は宮崎旅行から帰って直ぐ行動を起こした。

 

 真犯人に関するデータがあると思われるララライのアーカイブを……黒川と協力して調べる事に()()()

 

 こんな事に黒川を巻き込むつもりは毛頭なかった。

 

 データだけ渡して貰って一人で調べる予定だった。

 

 しかし、件のデータを黒川は渡そうとしなかった。

 

 それどころか協力すると言って聞かなかった。

 

 こっちの事情を知ってるだけに直ぐ察したらしい。

 

 そんでもって調べに協力させてもらえないなら、MEMちょに悪評を吹き込むと脅してきやがった。

 

 それは俺の十八番であり専売特許だというのに。

 

 アクアが見たらショックで言葉を無くしそうだ。

 

 あの頃の幼気な黒川あかねはもう居ないらしい。

 

 何はともあれ俺の想定より調べは順調に進んだ。

 

 黒川の分析力は俺の想定を遥かに上回っていた。

 

 ぶっちゃけ俺は居ても居なくても変わらない。

 

「アクアと姫川さんは異母兄弟で、その父親がアイさんを殺した真犯人なのは確定的。ララライに昔所属していたであろう事から、演技力はおそらく相当なもの。間接的とはいえ殺人に関与したにも関わらず、今の今までボロを出していないのはそれも関係してる。アイさんを刺殺したストーカーは事件当時白い薔薇を持っていた。真犯人はアイさんに対して歪んだ信仰を───」

 

 そんでもって引き込めてつくづく運が良かった。

 

 此処まで来ると頼りになる以前に色々とアレだ。

 

 時代が時代なら名探偵もしくは巨大組織の女帝。

 

 さもなくば歴史的大犯罪者になっていただろう。

 

 何があろうと黒川だけは絶対敵に回したくない。

 

 とりあえず後者じゃなくて……本当に良かった。

 

 飼い主(アクア)には今後も手綱を離さずにいてもらいたい。

 

「時間的にいい頃合いだ。そろそろ終わりにしよう。明日も仕事だってのに遅くまで付き合わせてすまん」

 

『別にいいよ。昔のララライに居た人達の演技が見れて勉強にもなってるし……アクアの為ならこれぐらいやって当然。まぁ色々あって……今は気まずいけど』

 

(あのヘタレ女たらし……気の利いた一言でも言ってさっさとより戻せよ。何が悲しくて身内の彼女の恋愛相談を繰り返しやらなきゃならないんだ。こちとら恋愛経験ゼロな上に中身三十路のおっさんだってのに)

 

 そんなこんなで調べを始めてから2週間経った。

 

 量が量だけに時間は掛かったが大体目星は付いた。

 

 何らかの細工がデータにされてないかも確認済み。

 

 あと少しで残るデータも全て調べる事が出来る。

 

(やっと此処までたどり着いた。アイを殺した真犯人の顔を……ようやく拝める。あの事件に関わった証拠が見からない以上、法理的に真犯人を裁く事は現状難しいが……名前さえ分かれば十分だ。これでいざとなれば真犯人を誰にも悟られる事なく消す事が出来る)

 

 俺はそんな事を考えつつ小さく息を吐いた。

 

 我ながら何とも歪んだ事を考えてるとは思う。

 

 本来アクアにあれこれ言える立場じゃない。

 

 俺は聖人でも何でもないごく普通の人間だ。

 

 言われたらその分だけ言い返すし、殴られたらその分だけ殴り返すし、復讐の全てを否定する気もない。

 

 俺が復讐に興味にない理由は単に面倒だからだ。

 

 何の得にもならないと分かりきってるからだ。

 

 それ以上でもなければそれ以下でもない。

 

(あくまでそういう手を使うのは最終手段。自分から罪を被る義理はない。だが、もしも、その必要があるとしたなら……その時は何ら躊躇しない。あの頃のように奪われる前に……奴から何もかもを奪うだけだ)

 

 俺は黒川との電話を終え自分の部屋を出た。

 

 その足取りは泥に取られたように少し重い。

 

 自らの感情が抜け落ちるのを嫌でも感じた。

 

 この感覚はどうやっても好きになれない。

 

(俺と黒川は少し似ている。彼奴も必要とあればそういう手を躊躇わず使える。だから曲がりなりにこれまで協力し合う事が出来た。だが、俺と彼奴の根っこの部分は全く違う。彼奴はまだ引き返せる。俺には彼奴を突き放す責任がある。例え恨まれる事になっても)

 

 この2週間、黒川には随分と助けられた。

 

 彼奴の助けなしに此処まで来れなかった。

 

 その覚悟も思いも確かに見る事が出来た。

 

 あの日の言葉に、嘘は一つも無かった。

 

 彼奴をこっち側に居させる理由はもうない。

 

「ただいま。お腹へった。今日のご飯なに?」

 

 それからしばらく経って俺がキッチンで夕食を作っていると、ルビーが玄関の扉を開けて帰ってきた。

 

 今日は日曜日で皆で集まって飯を食べる日だが、ミヤコの帰りが仕事で遅いので代わりに俺が作った。

  

 自分で言うのはあれだが料理はそれなりに上手い。 

  

「今日の晩飯は麻婆豆腐だ。挽肉と豆腐が特売で安かったからな。あとはもやしのナムルとわかめスープ。冷蔵庫と棚の奥に材料が眠ってたから実質無料。一人当たりの材料費はたったの200円。我ながら完璧だ」

 

「やりきった感出してるけど毎度毎度セコいね。材料費なんて聞いてないし興味ないから。美味しいけど」

 

「おいコラ。人を無視してつまみ食いしてんじゃねぇ。というか食うにしてもせめて手を洗ってからにしろ。汚い手で俺の料理に触れんな。洗面所に去れ」

 

「ちょっとぐらいいいじゃん。細かいな。一々気にしてたら将来禿げるよ。いつか毛根全部絶滅するよ」

 

 その原因の一つは紛れもないお前だろ、クソが。

 

 そもそも俺は禿げないし言ってる事も細かくない。

 

 俺が文句を言おうとするとルビーは居なくなった。

 

 彼奴も彼奴で毎度の事ながら逃げ足だけは速い。

 

 こっちが親切心で社会常識教えてやってんのに。

 

「これも全てあのシスコンが甘やかすせいだ。面倒事を全部押し付けやがって。文句言いたい時に限ってまだ帰ってこねぇし。まとめて飯抜きにしてやろうか」

 

 俺は愚痴を呟きながら料理を仕上げて運んだ。

 

 大変不服だがここまではいつも通りだった。

 

 多少不穏な空気はあるものの至って平穏だった。

 

 床に落ちていたものを俺が見つけるまでは。

 

「なんだこれ?見覚えがないが……ルビーが落としたのか?彼奴が誰かの名刺を貰うなんて……珍しいな」

 

 その名刺には一人の男の名前が書いてあった。

 

 真新しい事から最近貰ったものだと分かった。

 

 それ自体に怪しい要素はこれっぽちもない。

 

(ルビーだって歴とした芸能人だ。社交辞令として名刺の一つや二つ貰って当たり前だし、アクアはともかく俺は異性関係でどうこう言うタイプじゃないし興味もない。なのにどうしてこんなにも胸騒ぎがする?) 

 

 俺は結局夕食の席でその事を聞けなかった。

 

 ルビーに落とし物を返す事が出来なかった。

 

 どういう訳か胸騒ぎが収まる事はなかった。

 

 こんな感覚を覚えたのは初めてじゃない。

 

「流石にこれは不味いよ。わざわざ変装までして」

 

「いいから黙って付いて来い。責任は俺が取る」

 

「ルビーちゃんにバレた時はどうするつもり?」

 

「その時は………アレだ。とりあえず土下座する」

 

「いくら心配だからってこれはやり過ぎ………」

 

 俺と黒川はその数日後にデータを調べ終えた。

 

 そして真犯人の素性がある程度まで分かった。

 

 しかし、俺の胸騒ぎが収まる事はなかった。

 

 それどころか根拠のない焦りが押し寄せくる。

 

 俺が休日の度に姿を消すルビーを尾行するまでに、それほど大した時間はあまり掛からなかった。

 

 ストーカー染みていると我ながら心から思う。

 

 黒川には当然ながら止められたし飽きられた。

 

 シスコンという単語を何度聞いたか分からない。

 

 それでもやるべきだと俺の直感が告げていた。

 

 ここで引いてしまったら取り返しが付かない。

 

「随分と待たせてしまったね。今日も始めようか」

 

 そんな予感は俺の事を嘲笑うように的中した。

 

 あの胸騒ぎはあの日感じたものと同じだった。

 

 それは最も恐れていた形で目の前に現れた。

 

「似てる。似ている。髪色や目の色は確かに違う。けど、あの男と似ている。まさか私達と同じで変装をしている?その素性をルビーちゃんに隠す為?警戒心を持たれない為?理由は分からないけど……絶対にそうだ。だって、あんなにも、アクアと顔つきが似てる」

 

 黒川はアイに似た光を瞳に宿してそう呟いた。 

 

 その言葉には確信と恐怖が滲み出ていた。

 

 アイが死んだあの日とまるっきり同じだった。

 

 その可能性があると知りながら守れなかった。

 

「くそったれ……そういう事かよ………ッ!!」

 

 ルビーが休日の度に会っているという上畑志貴。

 

 その男の正体は株式会社EYESの代表取締役。

 

 アクアとルビーの実の父親にして事件の真犯人。

 

 これまで探し続けてきた神木輝その人だった。

 

 何もかもが最悪一歩手前まで進行していた。

 

 

 

 

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