斉藤家の愚息   作:熊田ラナムカ27

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 今回推奨BGM。『からくりサーカス』。

『BUMP OF CHICKEN』さんより『月虹』。
 
 またも『からくりサーカス』ですが、許して。
 
 どの曲も本当に大好きです。
 
 今度こそ、本当にラストです。
 
 


59 最果ての星を目指して

 

 どんな物語にも終わりがある。

 

 ハッピーエンドにしろ、バッドエンドにしろ。

 

 でも、此処は現実で、ノンフィクションの世界だ。

 

 食って、働いて、寝て、生きる限り。

 

 終わりなんてものは、そう簡単に来ない。

 

 その繰り返しが、どれだけクソでも。

 

 まぁ要するに、アレで全部丸く収まる訳が無い。

 

「この馬鹿っ!!クズっ!!考え無しのアホっ!!」

 

「考え無しのアホはお前だ。いい加減、叩くの止めろ。地味に痛てぇ。何時までアクアは泣いてんだ」

 

「……泣いてねぇし。黙ってルビーに叩かれてろ」

  

「泣いてんだろ。お前もそろそろ泣き虫を直せ。というか、ルビー。そろそろ本気で止めろ。普通に痛いから。悪かったから。どうせ叩くなら肩か背中にしろ」

 

「このクズ義兄っ!!やっぱ反省してない!!」 

 

「反省はしてる。お前の相手が疲れるだけだ」 

 

 尚もルビーは、俺の事を叩き続けた。

 

 怪我人にこの仕打ちとは、クズの才能がある。

 

 そんな俺達を見て、アクアは泣いていた。

  

 本人は違うと言っているが、やっぱり泣いてる。

 

 表情も隠せないまま、医者をやれるのか怪しい。

 

 その医者志望に、今回助けられた訳なのだが。

 

「ルビー、一旦落ち着いて。気持ちは分かるけど」

 

「この馬鹿息子には、俺達が灸を据える。だから、こんな事はしなくていい。というか、やるだけ無駄だ」

 

「俺を少しは労る気とか無い訳?」

 

「いいや、全く。寧ろこれでも抑えてる方よ」

 

「説教が終わり次第、溜まってた仕事を、片っ端からやらせるから腹くくれ。自分の後始末ぐらい自分でつけろ。面倒事を全部、こっちに丸投げしやがって」

 

「これが俗に言うDVか。嫌だ嫌だ」

 

「正当な権利と制裁よ。あとついでに水回り全般の掃除を帰ったらよろしく。家と事務所の両方ね。一応言っておくけど、今のアンタに拒否権は無いから」

 

 ミヤコはそう言って、暗黒微笑を浮かべた。

 

 こうもキレたミヤコは、初めて見た気がする。

 

 グラサンはというと、パソコンを机に置いた。

 

 怪我人に仕事を、冗談抜きでやらせるつもりだ。

 

 苺プロもブラック企業の仲間入りをしたらしい。

 

 死ぬ気で帰ってきたのに、それはないだろう。

 

 入院期間ぐらいは休んでもいいだろうに。

 

(あー、ほんと。世界ってやっぱりクソだわ)

 

 俺が目覚めて有馬と話し、数日が経った。

 

 体調は安定し、首元の痛みも引いた。

 

 そんな俺を待ち受けていたのは謝罪行脚。

 

 もとい、見舞いに来た奴等への怒られ行脚。

 

 どいつもこいつも、俺を心配し過ぎだ。

 

 野暮用を済ませるだけだと、言っておいたのに。

 

「真さん、元気になって良かったよ。でも、私、言いたい事が山程あるんだよね。アクアとルビーちゃんを泣かせた事については特に。そもそも殺人犯と食事するってどんな神経してるの?そりゃあ犯人をステージから引き離して、私達に居場所を知らせる意図はあったのかもだけど、リスクが高過ぎるよね?あとアクアにあんな姿晒して、PTSDがもし再発したらどうする気だったの?医療知識があって、助けを求める相手を身近な人で選ぶなら、私でもアクアを呼ぶけどさ。そうだとしても、アレはないでしょ。人の心が本当に無いね。あとはまぁ、私はどうでもいいんだけど、かなちゃんがあのまま壊れてたら、どう責任を取る気だったの?私はね。私は良いんだよ。煙たい相手が居なくなるし。でも、ファンの皆は悲しむだろうし───」

 

「MEMちょ。アレどうにか出来ると思う?」

 

「うん、無理。私は諦めた。私だって、マコたんに色々怒るつもりだったけど、あかねのアレを見てたら、全部冷めた。自分より怒ってる人を見ると冷静になるって、ほんとだね」

 

「それはそうと止めはしないのな。知ってたけど」

 

「ちょっと。人の話ちゃんと聞いてる?」

 

 黒いオーラを纏い、あかねは笑みを浮かべた。

 

 病室の体感温度が一気に10度下がる。

 

 MEMちょは、巻き込まれまいと一歩引く。

 

 俺なんかより、絵面がずっと悪役だ。

   

 やはり此奴を、怒らせるべきじゃなかった。

 

 前世合わせても、一番怖いかもしれない。

 

 凍てつく波動的なものが、既に出てる。

 

 神木なんかより、あかねの方が百億倍怖い。

 

「おい。いい加減放れろ。無駄に暑苦しい」

 

「姫川さん。気持ちは分かりますけど、それぐらいにしましょ。もうかれこれ、10分はこうしてますし」

 

「……良かった。ちゃんと生きてる」

 

「この通りピンピンしてるから、マジで退け。5秒以内に離れないと、眼鏡を叩き割る。純粋にキモい」

 

「……こんな眼鏡、幾らでもくれてやる」

 

「キショい!!要らねぇよ!!この不審者がぁ!!」

 

「ひ、姫川さん!?眼鏡が割れた!!」

 

 姫川は来て早々、俺に抱きついた。

 

 涙やら鼻水やら、垂れ流しにして。

 

 一緒に来たメルトの目も気にせず。

 

 この時点で、全力で殴りたかった。

 

 けれど、俺は耐えた。何せ事情が事情だ。

 

 ひたすら耐えて、耐えて、耐え続けて。

 

 その結果、姫川にアッパーをかました。

 

 誰に何を言われようと、俺は悪くない。

 

「あぁ……本当に、良かった」

 

 しかし、姫川はそれでも嬉しそうだった。

 

 何なら頬まで、赤く染まってるように見えた。

 

 ウザさを超えて、恐怖が全身を襲った。

 

 何時から此奴は、ドMに転職したのだろう?

 

 ちなみにメルトも、普通にドン引きしていた。

 

 これが月9ドラマ俳優だとか、世も末だ。

 

 くれぐれも、こんなのを参考にしないで欲しい。

 

 いっそ殺した方が、良かった気がする。

 

「私は知ってたけどね。真君はこの程度じゃ死なないって。底意地の悪さと無駄なしぶとさが取り柄だし」

 

「フリル……それ、ほんまに褒めとるん?」

 

「よく分かってるな。この程度じゃ俺は死なん。正解の褒美に、百万真ポイントをお前にくれてやる」

 

「よしっ。やった。ポイント交換で写真を一枚」

 

「褒めとる判定に、それ入るんや。そんでもって、よう分からん、謎コミュニケーションを二人でしとる」

 

 フリルは他の奴等と比べ、何時も通りだった。

 

 心配させないで欲しいと、苦言は言っていたが。

 

 寿はそんな俺達に、色々言いたげだった。

 

 俺が、起こりうるもしもの為、自分で作った番組の天の声の席を、寿に託したのだと思ったのだろう。

 

 それは大きな勘違いだ。思い込みに過ぎない。

 

 元々やれる人材が居ないから、自分でやっていただけだし、任せられると判断したから託しただけだ。

 

 そもそも俺は、表立って動く人間じゃない。

 

 裏でコソコソやる方が性に合ってる。

 

 そう言ってやると、寿は酷く安心していた。

 

 この数週間、僅かに罪悪感があったらしい。

 

 気にせず、踏ん反り返っていれば良いのに。

 

 何はともあれ、色んな人達が見舞いに来た。

 

 アビ子先生。吉祥寺先生。雷田さん。GOAさん。五反田監督。吉住さん。漆原さん。ソニックステージの社長。『今ガチ』の面々。などなど、とにかく沢山。

 

 俺はひたすら頭を下げ、怒られ続けた。

 

 ありとあらゆる説教を、受けまくった。

 

 芸能界で関わった人達、ほぼ全員に。

 

 この流れで、説教らしい説教をしなかったのは、フリルと板野さん、鏑木さんぐらいのものだろう。

 

 とはいえ、板野さんは取材交渉の為、鏑木さんは今後の立ち回りの打ち合わせの為、来ただけだが。

 

 仕事の話の方が、よっぽど気楽だ。

 

 かなの奴は、見舞いになど来なかった。

 

 見舞いの暇が無いほど、忙しいらしい。

 

 以前にも増して、仕事に精を出してる。

 

 まぁ、そっちの方が健全で正しい判断だ。

 

 あれ以上泣かれたら、堪ったもんじゃない。

 

「そういや、かなちゃんに真君の事を聞いたら顔真っ赤になったんだけど、何かあった?面白いこと?」

 

「あったは、あったが、口止めされてる。でもな。俺は推しのお願いに弱い。どうしてもなら言うかもな」

 

「それ、殆ど言いたがってるもんやん」

 

「それで、それで。一体何があったの?」

 

「フリルのお願いだったら、仕方ないな。特別に暴露してやる。有馬の奴が、実は中二臭い一人語り──」

 

「ごらぁクズ!!何を言おうとしてんだ!?」

 

「ちっ、クソが。空気も読めねぇのか」

 

「というか、いつの間に来たの?」

 

 それはそうと、何度か殴り込みには来たが。

 

「君には何もかも呆れるばかりだよ。今度こそ星の海に還ったと思ったのに。それをまたも拒絶して、こちら側に帰って来るんだもの。自らの死を大抵は彼処で受け入れ、消滅するというのに。それに加え、魂が欠けたまま強固になってる。まるで意味が分からない」

 

「何わけ分らねぇ戯言を言ってんだ、黒羽。さっさと宮崎に帰って、ママのミルクでも飲んでろ。さもなくば、頭の病院にでも行って、生涯隔離されてろ」

 

「立場と礼節を、一度死んでも弁えないようだね」

 

 俺が屋上で風を感じていると、黒羽が来た。

 

 何時もながら、ふらっと現れやがる。

 

 けれど、その顔はやや困惑気味だ。

 

 理由は分からないが、自然と気分が良くなる。

 

 此奴の思い通りに、誰が動いてやるものか。

 

 神如きが、人間様を舐めるな。

 

「痛みも過去も後悔も、全部抱えて、しぶとく生きるのが人間だ。生憎俺は、何一つ手放す気も、捨てる気も無い。2度目の人生なんてあろうがなかろうが、自分の足で立って前に行ける。そういう生き物だ」

 

「それは一部の強い人間の思考だ。皆が皆、君のような強固な魂を持っている訳じゃない。現に彼は、自らの欲だけを満たそうとする、壊れた魂にまで堕ちた。だったら、運命(かみ)に身を委ねた方が楽じゃないか」

 

「俺が強い人間?これまで何を見てやがった。惚れた人間も、未来を願う人間も救えやしない。ちっぽけで弱い人間だ。前世から何一つ変わってない。……いいや、違うな。今の俺には彼奴等が居る。ちっぽけな自分さえも騙して、一流の悪役(じぶん)を演じられた。強いか弱いかなんて関係ない。全部、彼奴が教えてくれた」

 

 病院の屋上に、強い風が吹き込んだ。

 

 何処か心地よく、背中を押される風だ。

 

 俺は何も言わず、自らの掌を見つめた。

 

 何処か遠い場所で、何かを掴んだ気がする。

 

 でも、それが何だったかは、覚えてない。

 

 それでも確かに、掴んだ気はする。

 

 だったら、これからの人生、迷いはしない。

 

 遠い昔に見た、主人公(あいつ)の背中。

 

 あの日に見た、星のような輝き。

 

 それを追い続ける、人生なのだから。

 

「人を何も分かってない……か。まぁ確かに、君の言う通りかもね。人の愚かしさは、神の理解を遥かに超える。でも、だからこそ、人は愛を抱く。自らの心の空白を埋める為、時に自分で自分を壊してしまう程。それこそ不完全たる人が、希望(ひかり)へと至る唯一の道だから。こんな馬鹿げた事……理解出来ない訳だよ」

 

「何一人でポエムってんだ。見てて痛いぞ。お前、本当に病気なんだな。主に頭が。紹介状貰って来いよ」

 

うっさいな。ぶっ殺すよ?一応言っておくけど、君は未だイレギュラーだ。君も知っての通り、その魂はこの世界に元々無かったし、元々の流れも君が大きく変えた。本来なら強制的に消されている。君の存在は私の目溢しあってこそ。敬っても足りないぐらいだ」

 

「ふざけんな。そもそも俺を、この世界に転生させやがったのはお前だろ。今は満足してるが、それはそれだ。事実上の残業をさせやがって。傍観なんぞしてないで仕事しろ、無能。これだから邪神は嫌いなんだ」

 

「私にとっても、君の転生は想定外だ。そもそも神だって、色々大変なんだ。一人の人間を贔屓する訳にはいかないし、輪廻の流れを乱す魂を監視しなければならない。しかも近頃は、死者を蘇らせる外法を使う人間が現れたものだから、直接出向いて、将来的にその方法を抹消しなければいけないし。よりにもよって、その外法で引き寄せられた魂が、あの2人だし──」

 

「知らねぇよ。人手でも神手でも増やせ」

 

「それが出来たら、苦労してない」

 

 黒羽は大きく溜息をつき、肩を落とした。

 

 彼奴の周りの鴉が同情的に鳴く。

 

 もしかすると、あれは部下なのだろうか。

 

 前世の俺と同じ、ブラック臭を感じる。

 

 というか、色々マズい話を聞いた気がする。

 

 世界の根幹に関わりそうな事をサラッと。

 

 あの2人の転生も訳ありらしい。

 

 そんなもの興味ないし、関わりたくないが。

 

 全力で今の内容を脳内から抹消する。

 

「それはそうと、お前はどうして俺を助けた。俺がそのイレギュラーなら、消えた方が楽だったはずだ」

 

「……何のことだい?知らないな」

 

「惚けんじゃねぇ。俺に嘘は通用しない。確かに俺は、生き残る為の手を可能な限り打った。役に立たなかったが防刃チョッキにしろ、アクア達に居場所を知らせる為の時間稼ぎにしろ。だが、後者は正直、上手く行くと思ってなかった。広範囲を動けば、SNS経由で居場所を発見されやすくなる。だが、それは不確定要素が多い。実際、彼奴等も俺の発見に手間取った」

 

 それでも、彼奴等はギリギリで間に合った。

 

 何もかもが終わった、ちょうどその頃に。

 

 そして俺は、アクアと黒川に命を救われた。

 

 過去のトラウマを、まるで払拭するように。

 

 偶然で片付けるには、出来過ぎてる。

 

「お前は宮崎で鴉を使って、ルビーを雨宮五郎の所まで導いた。大方、今回もそのやり口だろ。人間焦れば焦る程、直感的なものに縋るからな。だからこそ、余計分からん。お前はずっと傍観者だったクセに」

 

 俺は静かに黒羽を睨んだ。

 

 此奴は今まで、何もしなかった。

 

 寧ろ余計な事しかしなかった。

 

 俺の願いも、アイの願いも叶えなかった。

 

 泣いてる子供の助けを無視した。

 

 なのに何故か、今回は動いた。

 

 まるで全てが、最善に転がるように。

 

 その思考はこれっぽちも理解出来ない。

 

「君は前に言ったね。私が傍観者だと。その通りだ。私は傍観者であって観客ですらない。人生という舞台に決して立てない存在。舞台装置(システム)のようなものだ」

 

 そんな俺に黒羽は静かに答えた。

 

 表面上こそ笑っているが、笑っていない。

 

 その目はさっきまでと違い無機質だ。

 

 人の形をした機械のように見える。

 

「神というのも案外不便でね。人に干渉する際は、大きな制約で縛られ、流れの行く末を知りながらも、その流れを見る事しか出来ない。そういう流れを本人が望んだなら尚更ね。君が嫌悪するのも当然だよ。そういう存在だもの。助けたい相手も、助けられない」

 

 黒羽の語る内容は、半分も理解出来ない。

 

 俺が人である以上、当然だろう。

 

 けれど、その口調は少し悲し気だ。

 

 もしもの可能性を、見たかのようだ。

 

 慟哭と諦めの感情すら感じる。

 

「でも、君は私に名前をくれた。仮とはいえ、人として、舞台に上がる権利を与えた。人は名を得た時、魂を得るからね。君達の場合、前世と今世の魂と名を持つ事で、苦労しただろうけど。だからこそ、ほんの少し、干渉出来たのさ。その流れを、誰一人として望んでなかったしね。あとはまぁ、借りを返しただけさ」

 

 そして黒羽は軽く息を吐き、街の方角を見た。

 

 その方角の先にあるのは苺プロだ。

 

 人の人生というのは、つくづく因果らしい。

 

 よりによって、最初に与えた相手が此奴とは。

 

 しかも、それで救われるとはより複雑だ。

 

 この話は今日限りで終わらせる事にする。

 

 どんな顔をすればいいか分からない。

 

「じゃあ、これで貸し借りは無しだ。宮崎にでも空の上にでも、とっと帰れ。金輪際、関わりたくない」

 

「それは無理な相談だよ。私には君達を見守る義務がある。あの2人は元より、イレギュラーたる君については特にね。そういう事だから、また今度、正式に苺プロに入るよ。子役部門の募集があったしね」

 

「ふざけんな!!てめぇなんぞ入れて堪るか!!」

 

「残念ながらそういう運命だ。諦めなよ」

 

「そんな運命、俺が変えてやるわクソがァ!!」

 

 そんなこんなで、俺は無事に退院した。

 

 最後の最後で、最悪の爆弾を喰らったが。

 

 これだから邪神は嫌いだ。どうか災いよあれ。

 

 それから時が経ち、色々あった。

 

 まずは映画『15年の嘘』の公式上映。

 

 俺の事件を受け、実際に上映するか揉めていたそうだが、鏑木さんが一先ず保留にしていたらしい。

 

 病院での打ち合わせ通り、俺を文字通りの生きた広告塔として前面に出す事で、各関係者を説得し、結果として、公開された映画は大ヒットを果たした。

 

 俺のニュースが、頻繁に流れてたから当然だ。

 

 板野さんにも、記事をたっぷり書いてもらったし。

 

 ついでに言うと、広告費もかなり浮いた。

 

 収益の発表が楽しみで仕方ない。

 

「しかしまぁ、案の定、稼げた稼げた」

 

「合法的な炎上商法は最高ですね」

 

「こらこら。そういう事は大声で言わない」

 

「否定はしねぇのかよ。拝金主義者共め」

 

 映画は年間動員数4位を最終的に記録。

 

 一人のアイドルの、人間としての生き様を描いた作品として、五反田監督は初の監督賞を受賞した。

 

 本人曰く、脚本を作ったのはアクアだとか、俺の広告ありきだとか、授賞式直前になっても、色々ぼやいていたが、こっちも商売なので黙っていて欲しい。

 

 文句があるなら、アクアとでも賞を取れ。

 

 次に、神木輝の判決が下った。

 

 本人は取り調べで、否定も肯定も、何一つ問いかけに応じず、結果として無期懲役が言い渡された。

 

 俺への犯行と、新野冬子の供述が決定打となった。

 

 とはいえ、その事に誰も興味が無い。

 

 精々グラサンが、新野冬子の面会に行くぐらいだ。

 

 俺自身、取り調べの過程で聞いただけ。

 

 好きの反対は、嫌いではなく無関心。

 

 彼奴の持っていた会社も、俺を含めた関係者によって株を買い叩かれ、その社名を変えて吸収された。

 

 全てを奪ってきた男は、全てを奪われた。

 

 彼奴に残ったのは、(いのち)の重みだけ。

 

 死ぬ事さえも、臆病な彼奴には出来ない。

 

 その重みに押し潰され続けるのみだ。

 

 それこそ、魂が朽ち果てるまで。

 

「彼奴さ。拘留中に精神をかなり病んだらしい。刑務所に移ってからも、しょっちゅう幻覚を見るんだと。そんでもって、その幻覚に怒鳴りつけたり、謝ったりしてるんだってよ。馬鹿な奴だよな。そんなに後悔するぐらいなら、役者でも続けていれば良かったのに」

 

 けれど、彼奴にも興味を持つ奴はまだ居た。

 

 それは他でもない、姫川大輝。

 

 皮肉にも、神木と姫川愛梨の息子だ。

 

 誰に言われるでもなく、面会に通っている。

 

「てめぇが責任を感じる必要なんて、これっぽちも無いぞ。俺の傷も、彼奴の末路も、全部自業自得だ。それを肩代わりしようとしているなら、おこがましい」

 

 そう言って、俺は首元を指差した。

 

 こればっかりは、どうやっても消せなかった。

 

 とはいえ、俺の本職はマネージャー。

 

 タレントなら致命傷だが、俺にとっては掠り傷。

 

 ハッタリにはなれど、仕事に支障は無い。

 

 他の奴等にも、似たような事を言ってる。

 

 自分自身への戒めとしては丁度良い。

 

「そんなんじゃねぇよ。彼奴は許されないし、俺も許さない。お前には言いたい事が色々あるが、必要なさそうだからいい。……純粋に、ふと思ったんだよ。もし俺が、金田一のおっさんに面倒を見て貰わなかったら、俺も彼奴みたいになってたのかもって。だからさ、向き合いたいんだ。あんなんでも、父親だし」

 

 そんな俺に、姫川は静かに語った。

 

 なら、それ以上言う事は無い。

 

 精々、酒に付き合ってやるぐらいだ。

 

 姫川がそう選んだなら、止めやしない。

 

 神木の行く末なんて、俺は欠片も興味がない。

 

 救われようが、救われまいが勝手だ。

 

 そして最後に、『B小町』の東京ドームライブ。

 

 あの事件から半年後の開催だった。

 

 使えなかったサイリウムを、俺は握る。

 

「みんなー!!盛り上がってる!?」 

 

「最高に楽しまないと、許さないわよ!!」

 

「それじゃあ、思いっきり行くよ!!」

 

 ライブの感想については言うまでもない。

 

 何時も以上に、MEMちょが良かった。

 

 ファンとして、応援しがいがある。

 

 ルビーとかなは、及第点だろう。

 

 バックダンサーには惜しい程度だ。

 

 それなりのアイドルと呼べる。

 

「あの2人のサイリウムも持っておいて、何言ってんだ。それで推しじゃないってのは、無理があるだろ」

 

「真さんは本当に素直じゃないね」

 

「買うサイリウムを間違えただけだ」

 

 それから更に、数年が経った。

 

 本当に、本当に、色々あった。

 

 例えば、かなの『B小町』卒業。

 

 アクアの芸能活動引退。

 

 同じくMEMちょの『B小町』卒業。

 

 はたまた、n次アクア女たらし騒動。

 

 20歳記念、ピーマン体操リバイバル。

 

 大炎上(物理)、ルビーのお料理教室。

 

 限界社畜、MEMちょを救え。

 

 黒川あかね、裏ボス化計画。

 

 などなど、思い出すだけで頭が痛い。

 

 あとついでに、黒羽が苺プロに入所しやがった。

 

 4回阻止したのに、5回目で受かった。

 

 今や天才子役として超売れてる。

 

 かなの奴が複雑そうにするレベルで。

 

 彼奴の顔を、毎日テレビで見るのが辛い。

 

 どうしてこうなった。俺の平穏は何処行った。

 

「私の見送りがゼロとかどういう訳?」

 

「仕方ねぇだろ。今、絶賛真夜中だぞ。アクアは外科の研修。ルビーは生意気な後輩への指導。MEMちょはプロデューサーの勉強。黒川は映画撮影。昔と違って、皆それぞれ忙しいんだよ。お前の見送りに時間を割けるほど暇じゃねぇ。自意識過剰か」

 

「私は未来のハリウッドスターよ」

 

「それ、今は自称だろ。今回のオファーだって、メイン出演じゃないだろ。ハリウッドスター舐めんな」

 

「アンタがマシな仕事寄越さないからでしょ」

 

「自分の実力不足を棚に上げんな」

 

 俺とかなは、互いを睨み合った。

 

 何年経とうが、こればかりは変わらない。

 

 いくら売れようが、デカくなろうが関係ない。

 

 何時まで経っても、中身はガキのままだ。

 

 本当に大人になったか、かなり怪しい。

 

「いくら日本で頂点取っても、海外じゃ最底辺。上等じゃない。零から何時も通り、這い上がるだけよ」

 

「お前ならそう言うと思った。そうでなきゃ契約してない。そうでなくなったら、契約破棄するだけだ」

  

「私に言わせれば、アンタがドジ踏みそうで不安だけどね。あっちの狸は、きっとこっちより腹黒いわよ」

 

「誰に言ってやがる。何時通り化かすまでだ」

 

 とはいえ、それなりの役者にはなった。

 

 世界の役者達と、張り合えるぐらいには。

 

 日本の有馬かなと、仮にも称されるだけある。

 

 ならば、俺も自分の仕事をするまで。

 

 空港内にアナウンスが響いた。

 

 飛行機の出発時刻まで、もう間もなく。

 

 しばらく日本ともお別れだ。

 

 そうは言っても、感傷なんて一切ない。

 

 会いたきゃテレビ電話でどうにでもなる。

 

 正月と盆には帰る予定だし。

 

「じゃあ、そろそろ行くわよ。私の荷物を早く持ちなさい。念の為に言っておくけど、傷つけたら罰金ね」

 

「ふざけんな。てめぇはいい加減、俺限定のパワハラ癖を直せ。さもなくば、追加の給料を請求するぞ」

 

「なんで、そんなの払わなきゃいけないのよ?私の荷物を持つのはアンタの仕事でしょ?常識でしょ?私の荷物を持たせてやってるんだから、寧ろアンタが私に給料を寄越しなさいよ。1日たったの10万でいいわ」

 

「よし、分かった。帰国したら今度こそ、自己中女を訴えてやる。慰謝料を用意しとけ。そもそも、こんな量の荷物要らねぇだろ。お前は夜逃げでもする気か」

 

「未来のハリウッドスターは荷物が多いのよ」

 

 かなはサングラスを掛け直し、席を立った。

 

 この数年で、より性格が悪くなった。

 

 ついでに傲慢さも、俺限定で5割増しだ。

 

 契約する相手を完全に間違えた。

 

 こんな奴のマネージャーがよく続いてる。

 

 何度転職を考えたか分からない。

 

 他の奴に被害が及ぶよりはマシだが。

 

 性悪女には騙され慣れ───

 

『行ってらっしゃい、真君』

 

 俺が立ち上がる刹那、後ろで声がした。

 

 思わず振り返って、周囲を見渡す。

 

 けれど、そこには誰も居ない。

 

 当然だろう。何せ背後は窓ガラス。

 

 見えるのは、満天の星空だけ。

 

 嘘か真実かなど、分かりやしない。

 

 今日も綺麗に、星は輝いてる。

 

 自分勝手に、能天気に。

 

 こっちの気も知らないで。

 

「どうしたのよ?何か忘れ物した?」

 

「ああ、そうだな。大事な忘れ物だ」

 

 その言葉が届くはずはない。

 

 けれど、俺は愚かな人間だ。

 

 合理だけでは生きる事が出来ない。

 

 決して今は、そこに並び立てない。

 

 だって、そこは、生き抜いた最果て。

 

 彼奴の足跡を、超えた先にあるから。

 

 行くとしたら、土産話が必要だ。

 

 死ぬほど沢山の、下らない土産話が。

 

 それをきっと、彼奴も待ってる。

 

「行ってきます。また、何時か」

 

 俺はかなの荷物を持ち、ゲートへ向かった。

 

 飛行機は星の海へ、直ぐに飛び立つ。

 

 足を止める暇も、思い耽る時間も無い。

 

 人生は長く、短く、終わりやしない。

 

 その輝きは、今日もそこにある。

 

 そんな俺に溜息をつき、かなは付いて来た。

 

 置いていかれまいとばかりに。

 

 この調子なら、退屈はしないだろう。

 

 良い土産話が沢山出来そうだ。

 

 この世界は、命は、やっぱり眩しい。

 

 





 読了後推奨BGM。
 
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』。
 
『YOASOBI』より『祝福』。
 
『斎藤家の愚息』。これにて完結です。
 
 約1年半。お付き合い頂きありがとうございます。
 
 此処まで続いたのは、読者様方のお陰です。
 
 とはいえ、あと少しだけ続きます。
 
 どうか、蛇足とは言わないで。
 
 
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