不良漫画の世界に転生したら、貞操逆転してたうえ全員女の子になってた   作:音塚雪見

2 / 36
おもしれー男……

 私立柴方高校。

 このあたりでも有名なヤンキー校である。

 校門を前にして、一人の少女がほくそ笑んだ。

 

 

 ――ここから、私の覇道が始まるってわけだ。

 

 

 高校デビューに合わせて染めた茶髪を、颯爽と風になびかせる。

 妙義(みょうぎ)(みなと)、十五歳の春。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっち想定外だワ……」

 

 

 湊は肩を小さくしていた。

 意気揚々と入学式に乗り込んだはいいものの、周りには不良しかいないのだ。

 

 

 やはり大和撫子――この世界においては「益荒男(ますらお)」に相当する――らしく振る舞おうと、彼女は中学の頃から突っ張っていた。

 

 

 内心は少々ビビりだったが、その頃は無敵だった。

 周りにはナヨナヨとした女しかおらず、学校の顔のような立場にもいたのだ。

 

 

 きっと柴方高校(シバコー)でもやっていける、と確信するのに時間はいらなかった。

 

 

 ――間違ってたかもしれねェ……。

 

 

 湊は嘆息する。

 

 

 入学式といえば厳かな雰囲気を伴うものだが、なぜかタバコの煙が充満していた。教員達も注意をしない。

 生徒らは校長の話も聞かずに歓談にふけっている。

 なかには喧嘩をおっ始める者すらいた。

 

 

 ますます彼女の肩は小さくなる。

 

 

 調子に乗っていたのかもしれない。

 自分でも不良のトップになれるのだと。

 分不相応な願いを抱いてしまった。

 

 

 湊は悲しげに鼻をすすりながら、入学式を耐え忍んでいく……。

 

 

     ◇

 

 

 張り出されたプリントをもとに、自分の教室へたどり着いた。

 そっと様子をうかがってみる。

 

 

「ギャハハハ! それでさァ――」

「マジィ? (バラ)しちまおうよソイツ――」

「昨日兄ちゃんの単車(バイク)転がしてさァ――」

 

 

「うわぁ……」

 

 

 湊は天を仰いだ。

 天井にはタバコの煤が付着している。

 視点を戻した。

 

 

 入学式はテンションが上っていたのかと思ったが、教室に戻っても不良は不良である。ファッションヤンキーな湊としては、認めたくない事実だ。

 

 

 影を薄くしながら足を進める。

 バレませんようにと。

 

 

 運のいいことに無事自分の席に到着した彼女は、息を吐きながら鞄を机に置いた。

 

 

 ――やっていけっかなァ。

 

 

 未来は暗い。

 そんなとき、担任らしき女性が入ってきた。

 

 

「うーす。担任の牛伏(うしぶせ)(まこと)だ。どーせお前らの小さな脳味噌じゃ覚えらんねェから覚えなくていいぞ」

 

 

 生徒が生徒なら教師も教師だ。

 牛伏は教壇に登ると、適当に黒板を叩く。

 

 

「んじゃ自己紹介しろ」

 

 

 彼女は眼鏡を指で押し上げると、一番から順に簡単な名乗りを上げさせた。

 

 

 ――どうすっかなァ……。

 

 

 湊は悩む。

 ここは女らしく格好いいことを言おうか。

 例えば「自分天下取るんで、よろしく」など。

 

 

 駄目だ、死んでしまう。

 ちょうど同じような発言をした不良が、周りの奴らにボコボコにされているのを見て、湊は考えを改めた。

 

 

「えっと……」

 

 

 思考に溺れていた耳に、不思議(・・・)な声が染みる。

 

 

 発言者を眺めてみると男子だ。

 柴方高校には珍しい。

 例に漏れず金髪でヤンキーっぽいが。

 

 

高群(たかむれ)拓馬(たくま)です。よろしく」

 

 

 意外にもクールな言動であった。

 彼は静かに腰を下ろす。

 

 

 見た目とは裏腹な振る舞いに、むしろ興味が惹かれた。

 

 

 そしてどうやら周囲の人間もそのようで、揃いも揃ってギラついた視線を、拓馬に向けて投射している。

 

 

 思わず呆けてしまっていた湊は、自分の番が訪れたことに気が付かなかった。

 

 

「……えっ!? あ、私?」

 

 

 慌てて立ち上がり、

 

 

「妙義湊ッス。えーと……シクヨロ!」

 

 

 完全に失敗したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妙義湊が肩を落としながら歩いていると、コンビニが視界に入った。

 特に買いたい物があるわけでもないが、自然と足がそちらに向かう。

 

 

「入る学校(ガッコ)間違えたかも……」

 

 

 ガラケーで時間を確認しつつ、ペットボトルを手に取った。

 

 

「あ、セッターも」

「はい」

 

 

 店員が会計をしているとき、背後のタバコが目に入り注文する。

 最初はファッションで吸っていただけだった。

 しかし、最近では普通に吸えるようになったのだ。

 

 

 ――まァ、別に好きじゃないケド……。

 

 

 ポケットに突っ込んだそれを弄りつつ、さて家に帰ろうとしたとき。

 

 

「ん?」

 

 

 何か声が聞こえた。

 しかも、知っている声が。

 

 

 湊は眉をしかめ、そちらに歩いていく。

 

 

「よぉ兄ちゃん」

「そのカッコ、柴方高校(シバコー)の生徒っしょ」

「ちょっと遊ばない?」

「いやぁ……遠慮しときます」

 

 

「んん?」

 

 

 あれはたしか……高群拓馬だ。

 同じクラスにいた珍しい男子。

 どうやら絡まれている様子である。

 

 

 可哀想になァ、と立ち去ろうとしたところで、湊の脳内に電流が走った。これはもしや、男子と付き合える機会(チャンス)なのでは……!?

 

 

 彼女は踵を返し四人の下へ向かう。

 

 

 三人組が腕を伸ばそうとしていたところに、割って入った。

 

 

「あ、ダイジョブそ?」

「ありがとう……ございます?」

 

 

 拓馬は不思議そうに首を傾げて、それでも感謝の言葉を述べた。

 一見飄々(ひょうひょう)とした湊であるが、実際は心臓がバクバクとうるさい限りである。

 

 

 ――ヤベェー! また喧嘩売っちまったァ(・・・・・・・・・・・)!?

 

 

 彼女は即断即決の鬼だった。

 言い換えると考えなしの馬鹿。

 三人組は苛立たしげに距離を詰めてくる。

 

 

「邪魔すんなよ」

「アタシらはこれからお楽しみの時間なんだからサ」

「そーそー。正義漢チャンは引っ込んでろっての」

 

 

 もはや、やるしかない。

 

 

 湊が腕を構えた数秒後。

 

 

「なんだコイツ弱っちいゾ!?」

「全然強くねェじゃん!!」

「ちったぁ抵抗してみろや!!」

「ひぇーすみませぇんっ!?」

 

 

 ずいぶんと情けない場面が展開されていた。

 背中を丸めて蹴りを受ける湊。

 抵抗する気力はなさそうだ。

 

 

 ファッションヤンキーである妙義湊は、生まれてこの方本気(マジ)で喧嘩をしたことがなかった。

 おかげで連戦連敗。

 挙げた黒星は数知れず、いまだ勝利を知らぬ敗北者である。

 

 

「誰かー! 喧嘩でーす!」

「はっ!? ちょ、おい、行くぞ!」

「クソがッ!!」

「覚えてろよ!!」

 

 

 しかし拓馬が声を上げたことで、三人組は逃げ去っていった。

 

 

 

「……えーと、ダイジョブそ?」

「………………」

 

 

 先程助けに入ったのとは真逆の立場になっている。

 湊は恥ずかしそうに、

 

 

「……いやぁ! 私の迫力にビビっちゃって、奴らソッコー逃げてったネ!!」

「違うんじゃないかな」

「いやいや私のおかげだって! 拓馬クンにはわからないかもだけど!」

「あ、名前知ってるんだ」

 

 

 その後もしばらく二人は話をし、やがて別れた。

 

 

「じゃーねー!」

「じゃあね」

 

 

 拓馬は控えめに手を振る。 

 反対に湊は子供のように大げさに振った。

 

 

 やがて自分の姿も見えなくなっただろう、という距離まで離れたとき、彼女は思い切りガッツポーズをする。

 

 

 これあるんじゃないの!?

 カレシ手に入っちゃうんじゃないの!?

 

 

 どうやら無様は記憶から削除されているようだ。

 湊はひとしきり喜びを表現したところで、「それにしても」と呟いた。

 

 

「――おもしれー男……」

 

 

     ◇

 

 

「……ナニ、拓馬クン」

「え? あぁ、いや」

 

 

 肩のあたりで切り揃えられた黒髪が、千明の傾けられた首の動きに伴って、鎖骨から滑り落ちる。

 俺は「何でもない」と呟いてパンを頬張った。

 

 

 貧弱喧嘩事件(例のアレ)から数日。

 俺達三人は、一緒にご飯を食べる程度の仲になっていた。

 相変わらず湊は敵意マシマシだが。

 

 

 バラの植えられた中庭の中心にベンチがある。

 そこに座って昼食を取っているのだ。

 

 

「やっぱ納得できねェ」

「私もだよ」

「アァン……?」

喧嘩()るか……?」

「ストップストップ」

 

 

 湊の不満に対し、千明があけすけに返す。

 勃発しそうになった戦いを仲裁し、俺はため息をついた。

 

 

 やはり不良漫画の登場人物だからか、あるいは元々の性格か。

 彼女らは非常に沸点が低いのである。

 

 

 喧嘩とか苦手だし、できる限り原作の展開には巻き込まれたくないなぁ、と俺は残りのパンを口に押し込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前世の頃からゲームは好きだ。

 時代がズレているというのもあり、この世界には手軽なゲームはない。

 だから遊ぼうと思ったら、専門の施設に行くしかないのだ。

 

 

 ゲームセンターの爆音に飲み込まれる。

 不良達がたむろしている場所を避け、面白そうな筐体を見て回った。

 

 

「……ん?」

 

 

 奥まったところに、一人の少女が座っていた。

 長い黒髪をツインテールに結い、棒付きキャンディーを舐めながらレバーを倒している。

 

 

「ぬがーっ! ナニコレ難しすぎーっ!」

 

 

 彼女は思い切り背もたれに体重をかけた。

 周りに親御さんの姿はない。

 

 

 ――大丈夫か、あれ……?

 

 

 俺は心配になったが、声をかけるほどでもなかった。

 下手するとロリコンだと勘違いされかねない。

 

 

 ちょうど少女の隣のやつが面白そうだったので、「いや気にしてないっすよ」みたいな雰囲気で椅子に腰を下ろす。

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「……じーっ」

「…………」

 

 

 なんだろう、集中できない。

 

 

 硬貨を入れてしばらくゲームで遊んでいたのだが、隣からの視線がすごくて集中できない。

 構ってほしいのだろうか。

 自分で声すら発するほどに。

 

 

 俺はプレイを終了させ、体の向きを変える。

 

 

「えっと、何か用があるの?」

「ないよ!」

「そうなんだ……」

「ただ、男の子(・・・)が遊んでるのなんて珍しいなぁって!」

 

 

 前世の感覚からすれば首を傾げたくなる言葉である。

 しかし、この世界は貞操逆転が発生中。

 彼女の言葉通り、自分の他に男性がゲームセンターにいるのを見たことがなかった。

 

 

「そうなんだ。一人?」

「うんっ」

「俺が言うのも何だけどさ、こういうところは親御さんと来るのがいいと思うよ」

「ダイジョーブ! あたし、大人の女だから!」

 

 

 少女は誇らしげに胸を張る。

 大人に憧れる年齢か。

 思わず苦笑が漏れてしまった。

 

 

「あたしの名前はヤヨイ! オニーサンは!?」

「え、名前?」

「そーっ! 自己紹介は大事なんだよ!!」

 

 

 歳下を叱るように(・・・・・・・・)、彼女は飴玉を振る。

 

 

「えっと……高群拓馬だよ」

「タクマね!」

 

 

 よろしく、タクマ!

 と少女は満面の笑みを浮かべた。

 

 

 あまりに純粋な笑みに、呼び捨てだとか些細なことは気にならなくなる。

 

 

「ヤヨイ……ちゃんは、いつも一人で?」

「うん。ゲーム好きなんだ」

「俺と同じだね」

 

 

 簡単な自己紹介のあと、俺とヤヨイちゃんは一緒にゲームセンターを回ることになった。彼女が「遊ぼうよ!」と腕を引いてきたのだ。

 

 

 さすがに断るほど鬼じゃない。

 

 

 結構な時間――二時間くらいだろうか、電子の世界に熱中し、気が付くと外は暗くなっていた。

 

 

「ヤヨイちゃん」

「んぅ?」

「もう外暗いけど、親御さん心配しない?」

「だいじょーぶ!」

 

 

 俺の心配の声にも胸を張る。

 ヤヨイちゃんは大げさに、

 

 

「それに友達と約束してるんだ!」

「約束……?」

「そーっ! 十九時に集合ねって!」

「だいぶ遅いなぁ」

 

 

 この時代の小学生にしてみたら普通なのだろうか。

 感覚が違うのかもしれない。

 内心首を傾げつつ、俺は手を振った。

 

 

「そっか。じゃあ安心だね」

「安心だよ! 心配しなくてもだいじょーブイ!」

「俺は帰るけど、怖い人に話しかけられたら逃げるんだよ」

「ふふーん、あたしがやっつけちゃう(・・・・・・・)から」

「やっつけちゃ駄目だよ……」

 

 

 心残りはあるが、帰らないと親が心配する。

 この世界で育った記憶があるから、心配をかけるのは忍びないのだ。

 

 

 ヤヨイちゃんに見送られての帰り道は、転生だとか不良漫画だとかの重たい思考を、不思議と晴らしてくれた。

 

 

「なんだ、この世界も不良ばかりじゃないな」

 

 

 そりゃそうだ。

 何も全員が全員ヤンキーって訳じゃないだろう。

 ヤヨイちゃんみたいに純粋な子もいるのだ。

 

 

 そう考えると、胸の突っかかりが軽くなった。

 

 

     ◇

 

 

 夜の街に不良達が往く。

 制服から考えるに柴方高校の生徒だろうか。

 数十人の女子らはゲームセンターに入った。

 

 

 彼女らに言葉はない。

 しかし、足取りに一切の迷いもなかった。

 

 

 やがて建物の奥まった場所――ひと目の届きにくいところで、一斉に頭を下げる。

 

 

赤城(あかぎ)さんお疲れ様です!!」

「いやぁ、疲れてないよ〜」

 

 

 というか歩いてきたの君達じゃんと、少女――赤城夜宵(やよい)は笑った。その見た目にそぐわない、成熟した表情(かお)で。

 

 

「……? 赤城さん、今日はご機嫌ですね」

「そー?」

「はい。何か楽しいことでもあったんスカ?」

「うーん……」

 

 

 赤城夜宵。

 柴方高校三年(・・)

 圧倒的な強さで、ヤンキー校と名高いそこの(トップ)を張っている彼女は、数時間前のことを回想するように飴を舐めた。

 

 

「そうだねェ――面白い、男には会ったかな」

 

 

 今日も夜は更けていく。

 誰も知らないところで、粛々と。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。