俺が趙王とか、重責すぎて胃が痛いんだが!? 作:カチコミ侍ニン任にん
どうも、皆さまこんばんは! 『カチコミ侍ニン任にん』です。
今回の話は、皆さまが気になっている『裏編』の➀をちょい見せしようと思い投稿させていただきました。
本当なら今日の内に➀の裏を投稿しようと思っていたのですが、仕事が思ってた以上に忙しくて執筆に時間がなかなか取れずに予定が間に合わなくなってしまいました。
ただこれ以上投稿出来ない期間が延びると、いざ投稿しても作品の存在自体忘れ去られそうで不安になり、未完成ですが出来ている部分だけでも出そうと思い投稿させていただきました次第です。ハイ。
前書きが長くなり申し訳ありません。それでは本編(未完成)の方へどうぞ!
予告 ➀ 裏
現趙王である『趙奎』の妾である冥(趙姫)は、彼の豪華な寝室にて目を覚ました。
冥がその場にいるのは、昨夜の趙奎の夜伽の相手をしていたためだ。その証拠に、今冥の身体と彼女が横なっているベッドのあちこちには、昨夜の情事の痕がいたる所に見られる。それだけでも、昨夜の情事がどれほど激しいものであったかが容易に想像できるであろう。
そして目を覚ました冥は、寝起き直後のため意識がボーっとしていたが、それも時が経つにつれてハッキリとしていき昨日の出来事についても思い出す。
趙奎との夜を思い出して再び身体が熱くなるのを感じたが、日を超えて楽しんでいたこともあり身体が上手く動かないことで、これ以上は流石にまずいと理解して理性にて湧き上がる熱を冷やしていく。そうしているとふと、自分と同じくベッドで寝たであろう趙奎がどこにいるのかが気になった冥は、目を動かして周りを見て彼を探した。
そして、案外彼は直ぐに見つかった。
なぜなら、趙奎は冥の豊満な胸に顔を押し付けつつ幸せそうに眠っていたからだ。
「ん~……」
「(全く、昨日まではあんなにカッコ良かったのに…) ふふふっ❤ 可愛いじゃないの❤」
冥は趙奎の寝顔をみて思わず笑みを浮かべると、まるで我が子を抱くかのように胸で優しく抱きしめて頭を撫で始める。普段の趙奎はクールでカッコいい所が女性の‶雌″の部分を刺激するが、現在のように睡眠時や食事中、入浴中については普段のカッコよさが鳴りを潜め、幼さ(有り体に言えば、『子供っぽさ』)が表に出てくる。普段の趙奎を知っているとそのギャップは強力であり、‶母性本能″といえる部分を刺激されて甘やかしたくなってしまうのだ。そしてそれは冥だけでなく、趙奎と関わる女性全てに当てはまることである。
「(この私が、こんな幸せな生活を出来るようになるなんて…。‶運命″ってのは、不思議なもんだねぇ)」
冥は愛する男と過ごせている今の生活の幸せを感じていると、ふとかつてのことを脳内にて思い出していった。
………
……
…
——時は遡り、紀元前262年。
当時の冥は趙国王都‶邯鄲″にて舞妓をしており、その容姿と舞の美しさから邯鄲中の男を虜にしていることから『邯鄲の宝石』又は『美姫』とまで呼ばれるほどの人気者であった。冥も舞によって大金と多くの称賛を受けれる舞妓としての仕事にやりがいを感じており、そんな中で冥の舞を見て一目惚れした『呂不韋』という大物商人と許婚となったことで、彼女はその幸福が永遠に続くものであることを微塵も疑わなかった。
——しかし、その幸福も長くは続かなかった。
最初の不運は、呂不韋がかつて趙国への人質として邯鄲に滞在していた秦国の王子‶子楚″と呂不韋が出会ってしまったこと。呂不韋という男は野心が非常に高く、邯鄲の大商人の一角程度では満足していなかった。そんな時に呂不韋は、趙への人質である子楚の存在を知った。子楚は秦国に幾人もいた王子の中でも末席かつ母親の身分もそれほど高くなかったことで、王子と言えども次代の秦王の候補にすらなかった。だが、呂不韋はそんな子楚に目を付けた。今のままでは商人としては成功していくだろうが、それ以上の存在となるのは不可能な事であった。そのため呂不韋は‶賭け″をすることにした。
その賭けというのは、『全財産を使って子楚を秦王へとし、自身は秦国の丞相になる』というものである。傍から見れば‶賭け″どころか‶溝に金を捨てる行為″としか取られかねないことを、呂不韋は本気で成そうとしていた。彼はまず子楚に取り入るために、大量の金を貢いだ。そうして子楚の懐に入ると、呂不韋は信頼を得るために彼の願いを全て叶えた。あれが食いたいと言えば用意し、これが欲しいと言われたら必ず調達して子楚に捧げた。文字通り‶何でも″与えたのだ。そう、たとえ……‶自分の女″であろうとも。
子楚も邯鄲に住んでいたため、その邯鄲にて有名である『美姫』の異名を持つ美人な舞姫の存在を知っていた。そして、それが自身にすり寄って来ている呂不韋の許婚であることも知っていた。普通であればそんなことを頼むはずがないのだが、子楚は呂不韋に何でも与えてもらうことに慣れてしまい、‶言えば呂不韋はどんなモノでも与えてくれる″というのが『当たり前』のこととなっていたのだ。そのため子楚は何の遠慮もなく呂不韋に命じた。『お前の女を寄こせ』と。流石の呂不韋もその命令には、直ぐに返事をすることが出来なかった。呂不韋は本気で冥のことを愛していたためだ。
しかし、呂不韋は最終的には子楚へ冥を捧げた。呂不韋は一度賭けを行ったら、たとえどうなろうと途中で止めることをしない者であったからだ。そして何よりも、『丞相へなる』という野望と冥を天秤にかけたら僅かではあるもののそちらの方に傾いたため、断腸の思いではあるが愛する女を主へと捧げたのだ。
ただし、捧げられた冥からしては堪ったものでない。愛している男から、『お主はこれから子楚様を愛するのだ』と言われた冥の心中は、察して余りある。その時に冥は絶望してしまった。『これまでの幸せは全て幻だったのだ』と。
普通の女であれば自殺を選んでもおかしくない精神状態であったが、冥はそれを選ばなかった。愛する男に捨てられ、よく知りもしない男に抱かれても、涙を流して絶望はしつつも受け入れた。それが自分が選んでしまった道なのだと、無理矢理納得させた。
そうして月日が経つと、冥は子楚の子どもを妊娠した。子楚は冥の心境を察することなく、ただただ‶美姫″と自分の間に子どもが出来たことを喜んだ。そして呂不韋はというと、神妙な面持ちでただ『おめでとうございます』と、ありきたりな言葉で妊娠を祝福した。
そうして更に時が経ち、ついに冥と子楚の子供が誕生した。冥にとっては好きでもなかった男との子供のため、妊娠中は腹の中にいる自身の子を愛せる自信がなかったが、いざ出産してみると不思議なことに僅かながらに母性というものを感じていた。そして自分の娘に実際に触れたことで、それは完全に芽生えた。それにより絶望に支配されていた冥の心に、僅かながら光が灯った。
『碌な人生ではなかったが、せめてこの子だけは幸せにしよう』と。端くれとはいえ子楚は王子ではあるため、普通の町娘よりかは裕福に暮らすことが出来る。そのため冥はこの子は自分のようにならないように、幸せにしてみせると心に決めた。過去は消えやしないが、忘れることは出来る。せめてこれからは、娘の幸せを目指して生きて行こうと冥は覚悟を決めていた。
——しかし、冥がそんな覚悟をしてから僅か1年後の紀元前260年。再び冥の元へ、災いが降りかかった。
紀元前260年。
その年は趙人にとって、度し難き‶ある出来事″が起った『悪夢の年』と言えた。
紀元前262年頃から『秦国』と『趙国』は、韓の領土であった『上党』という地を巡って、『長平』の地にて戦争をしていた。『攻める』秦軍の総大将は【秦六将】筆頭格の『白起大将軍』であり、対して『守る』趙軍の総大将は【三大天】筆頭格の『廉頗大将軍』であった。この2名が総大将となっているだけでも、この戦が両国にとってどれほど重要なものであるかが伺える。『廉頗大将軍』は討って出ることは危険と判断し籠城戦を選択。そしてそれが分かった『白起大将軍』は攻城戦を仕掛けたが、廉頗の守りは硬くそれを突破することが出来ずにいた。そのため戦は自然と長期戦となり、2年の時が経っても決着がついていなかった。
だがその膠着も、ある出来事により一気に流れ出した。その出来事というのは、当時の趙王が総大将を名将廉頗から血気盛んな若将(じゃくしょう)『趙括(ちょうかつ)』に変更する王命を出してしまったことだ。そして新たな総大将となった趙括は全軍を率いて秦軍へと特攻を仕掛けたが、それは白起によって読まれていたため伏兵に遭い趙括は討たれてしまうこととなった。総大将が討たれたとなれば兵士たちに戦う気力が出るわけもなく、趙軍は40万人もの投降兵を出すこととなった。
普通であれば、投降兵への対応はだいたいが『金品や人質との交換に利用する』か『国へと連れて帰り下僕(奴隷)とする』かの2択である。しかし、この時の秦軍総大将『白起』は、上記に述べた2つ以外の凄まじい決断を下した。
その決断というのが……投降した40万人もの兵を全員『生き埋め』としてしまったのである。無論これには理由があり、それは『40万もの投降兵を養うだけの糧食がないこと』と『連行時の反乱の危険』があったことで、白起はそのような命令を下したのだ。
——しかし、そんなことを知らない趙の民にとっては、普通であれば投降兵に手を出さないという暗黙の了解を破ったばかりか全員を『生き埋め』にした白起は鬼畜以外の何者でもなかった。そして、秦軍により40万もの民を皆殺しされた趙人は、秦人に対して並々ならぬ憎悪を抱くことになった。
————そう、‶全秦人″に対して。
そしてそれは、邯鄲にて人質となっている‶王族″の一員である子楚とその家族であろうと例外ではなかった。
一応人質という扱いであり、秦とは一時的とは言え休戦ということとなっているため、趙国は次の戦争の火種を点けれない。そのため朝廷から市民に対して子楚たちに手を出すことは固く禁じられたことで、子楚たちは趙人からの暴力には晒されなかった。しかし、今までと環境が一変したのは言うまでもない。子楚と冥、政はほとんど軟禁状態となり、仮に街へと出れても趙人から怒りと憎しみの籠った目線を向けられ、関わりのあった者たちも呂不韋を除いて全員が離れて行った。特に趙人でありながら憎き秦の王族を産んだ冥は、殊更憎悪の矛先となっていた。
だがそれでも冥は耐えた。辛いことには変わりないが、実際に被害を受けたわけではない。後もう少し耐えれば、家族で秦へと渡り幸せな生活を出来ると信じて耐えていたのだ。
……しかし、冥の願いとは裏腹に、尚も災いは彼らに降りかかった。
『長平の戦い』から2年後の紀元前258年。
何と『秦国』が再び『趙国』へと侵攻を始めたのだ。‶子楚″とその家族が未だ『趙国』に人質として滞在しているのに、『秦国』は『趙国』へと再び矛を向けたのだ。
さて、ここで子楚らの現状について改めて確認しよう。子楚たちはこの2年の間、呪詛の言葉を聞いたり殺意や憎しみの視線に晒されることはあっても、実際に被害を受けることはなかった。
その理由は、『趙国』がこれ以上の人的被害が出ることを恐れたためである。趙国の民たちは『長平の戦い』における‶虐殺″により『秦国』に対する士気が非常に高くなっているため、仮に再び『秦国』と戦争をすることになってもそう簡単に負けることはないと言えた。しかし、40万もの民が一斉に失って国力が著しく下がってしまったという事実は、何ら変わらない。敵国が『秦国』だけであれば『長平の戦い』の後すぐにでも戦争を仕掛けたであろうが、敵国は『秦』だけでなく他にも5つの国が存在している。それらが仕掛けて来た時のためにも兵力を割かねばならぬため、『秦国』へ復讐戦をしている余裕がないのだ。それ以外にも、虐殺された40万の内半数以上が徴兵された農夫などの民兵であったことで、趙国内の食料生産量が減ってしまい戦争どころではなかったことも挙げられる。
そうした理由があり、『趙国』は戦争の火種を作らぬために子楚たち家族に手を出すことはなかった。
しかし、そんな中『秦国』が『趙国』へと戦争を仕掛けてしまった。これまで『趙国』は自国のために戦争をしていなかったが、相手の方から仕掛けて来て戦争が‶回避できない″となったのであれば、『戦争の火種』を作らないようにしなくても良くなった。
つまり、これまで‶したくても出来なかった事″をしても問題がなくなったのである。それ即ち、子楚ら『秦人』に対して『長平の意趣返し』をしても何ら問題がなくなったということだ。
秦との戦争が起きたという情報が民たちの間に流れるや否や、民たちは趙国内に存在している秦人へと復讐を開始した。秦人であれば老若男女問わず全員捕らえられ、衆人環視の中苛烈な暴力を加えられた。
ある者はトンカチや木材などの鈍器で頭をカチ割られ、またある者は包丁などの刃物でめった刺しとされ、またまたある者は生きたまま焼かれたり皮を剥がされたりと、想像を絶する惨たらしい復讐により秦人はどんどん死んでいった。
そして趙人の復讐の矛先は、子楚と冥、娘の政にも向けられた。趙と秦が再び戦を始めたという情報が子楚たちの元に届いたその日の夜に、趙人たちは彼らの屋敷に火を放った。子楚らと女の使用人一人は呂不韋により何とか屋敷から脱出できたが、それが出来なかった使用人たちは趙人により惨たらしい最後を迎えた。呂不韋は商人の情報網により趙の民よりも先にその情報を手に入れていたため、子楚たちを邯鄲から脱出できるように準備をしていた。
しかし、先にとは言ってもそれが呂不韋の耳に入ったのは数日前であったため、準備をしていてもそれは完璧ではなかった。実際、彼は子楚らの脱出のための馬車を用意していたが、それは2人乗り用のものであった。
だが、冥にとっては構わなかった。2人乗り用とは言っても、娘の政は3歳でまだ小さいため自分の膝に乗せれば乗れなくはないし、女の使用人についても護衛の誰かの後ろに乗せてもらえば全員が脱出できる。趙国内にいる秦人や残してきた使用人たちには悪いと思いつつも、冥は自分たちがこの地獄から抜け出せることに感謝していてそれを疑っていなかった。
——だが残酷なことに、現実は冥の思っているようなことにはならなかった。
なぜなら、子楚が馬車に冥と政でなく使用人の女を乗せると、彼女らを護衛の馬の後ろにすら乗せることなく、呂不韋に命じて走り去ってしまったからだ。
子楚がそんなことをしたのには、勿論理由がある。しかしそれは、何とも下種なものであった。実は子楚たちと一緒に屋敷から脱出した使用人の女は、彼の愛人であったのだ。しかもその関係はつい最近からのモノではなく、政が産まれた年からのおよそ3年に渡って続いていたモノであった。
当時の子楚は、邯鄲にて『美姫』として有名であった冥との子供が出来たことを本当に喜んでいたし幸せを感じていた。これからは家族3人で幸せに過ごしていくと信じていた。しかし、子楚にとって幸せを感じられていたのは、ほんの少しの間であった。なぜなら、妻である冥は夫である子楚を見向きもせずに、娘の政にばかりに構っていたからだ。
ただし、それは冥のこれまでの境遇を鑑みれば、全く不自然ではない。好いた男に捨てられ、好きでもない男に抱かれて子供を孕まされたとなれば、子楚への態度は当たり前のことと言えた。むしろ自害したり、娘を連れてどこかへ消えたりしなかっただけ、子楚は感謝すべきなのだ。
しかし、当の本人である子楚はそうは思わなかった。子楚とて冥を無理矢理自身のモノにしたことで彼女から良く思われていないことは察していた。だが、好きでないとはいえ夜を共にし子供まで出来たのだから、好きでないにしても『夫』に尽くすのが‶当たり前″と思っていたからだ。そのため子楚は冥からの冷たい態度に、日に日に不満を抱くようになった。そして、最初は愛しいと思っていた政についても、自身の妻の愛情を奪う存在といつしか忌み嫌うようになっていた。
そんな風に不満しかなかった時期に子楚の傍にいたのが、屋敷を脱出した使用人の女であった。女はただ主の様子が最近おかしかったためそれを心配して傍にいただけだったが、呂不韋により自尊心が増大していた子楚からしたら、『女は自分を愛しているから心配している』と考えてしまった。そのため、丁度冥から相手にされなくて夜を寂しく一人で過ごしていたこともあり、それを発散するために子楚は女を寝室へ呼ぶと行為に及んだ。最初の内は、冥が自分に振り向いてくれるまでの遊びと思っていた子楚であったが、月日が経つに連れてだんだんと女に対して愛しさを感じ始めていた。そして女の方も、最初の頃は無理矢理抱かれたため好意を持っていなかったが、何度も子楚と夜を共にするうちに彼が寂しがっていることが分かっていって可哀そうと思うようになったことで、自分がいてあげなくてはという想いを抱くようになっていった。
そしてそれは、『長平の戦い』の‶虐殺″が起きた後からは、周りが敵塗れとなっていったことで、お互いがお互いを更に強く想うようになっていった。そうして最終的には、一月ほど前にはとうとう子楚の子供を妊娠することまでなってしまった。女が自身の子供を妊娠したことを知り、子楚はとても喜んだ。それこそ、冥が政を身籠った時以上に喜んでいた。その時から子楚の心の中には冥と政の存在はいなくなり、代わりに使用人の女とそのお腹にいる子供が彼にとっての‶愛しい家族″となっていた。
そういったことがあり、子楚は馬車に女だけを乗せて冥と政を置いて行ったのだ。
だがしかし、そんなことを知らない冥からしてみれば、仮にも妻と娘を捨てて‶愛人″だけを乗せて走り去った子楚は、もはや彼女からしたら‶クズ野郎″以外の何者でもなかった。
冥は子楚とその場にいながら何も言わずに彼の命令に従った呂不韋を強く恨んだが、それは長くは続かなかった。なぜなら、遠くから『子楚とその家族を探せーッ!!』という叫び声が聞こえて来たからだ。冥はもう一度子楚らが走り去っていった方向を睨むと、政を抱きかかえて叫び声が聞こえた方とは逆の方角へ走り出した。
そこから冥は、政を連れた状態で何日にも及んで趙人たちから逃げ続けた。軍人でもないただの舞妓だった冥が、娘の政という逃走において‶お荷物″と言っても過言でない存在を抱えた状態で逃げ続けられていたのは、火事場の馬鹿力とも母親の深い愛がなした奇跡とも言えた。
——だが、それも永遠には続かない。
先程も述べたように、冥は軍人でもなければ逃げ隠れが得意なわけでもない、そこらにありふれている‶ただの母親″でしかない。しかも、特別な力を発揮したのは何も冥だけではない。冥と政を探す趙人らも、長平での虐殺による‶怒りの力″によって普段からは考えられない程の力を発揮していた。日中は勿論のこと、夜間においても冥と政の2人の捜索の手は緩められることはなかった。周りが敵だらけのため、食料を調達できず碌な休息すら取れず文字通り一日中追われ続ける生活が続けば、精神では逃げようとしてもいずれ限界が来ることは明白であった。
そして、逃げ続けること7日目。とうとう冥の身体は、限界を迎えてしまった。
人通りの少ない裏道とは言え、道の真ん中に倒れていれば直ぐにでも復讐心に燃えている趙人に見つかってしまうだろう。それを頭では分かっていても、冥の身体の方は全く動かなかった。しかしそれは当然のことで、この7日間碌に眠らずに逃げ続けて食事についてもまともな物を得られず、得られたとしてもほとんどを娘の政に食べさせていたからだ。むしろ、そんな状況の中で7日間も逃げ続けられていたことは称賛に値するであろう。
冥は唯一動かせる眼を動かして、自分と同じく倒れている政を見つめた。政は冥により食事を取れていたと言っても、それはお世辞にもまともな物ではなかった。そのため、冥よりはマシというだけで、政も酷く衰弱している状態であった。7日前とは想像できないほどかけ離れた状態の娘の姿を見て、冥は心を痛めるとともにひたすらに政へと謝罪の言葉を向けた。
『……ッ(——ごめん、ごめんよ……ッ。私が産んでしまったばかりに、お前にまで、迷惑をかけて…ごめんよ……ッ)』
そんな風に心の中で思っていると、冥の耳に徐々に自分たちの元へ近づいて来る足音が聞こえて来た。
それが聞こえると同時に冥は逃げようと身体に力を入れようとしたが、彼女の意志とは裏腹に限界を迎えている身体は、それに応えようとはせずに地に伏せたままだった。それでも冥はせめて政だけは守れるようにと、だんだんと狭まっていく視界の中でも彼女に向けて必死に手を伸ばした。だが、冥の手が政に届くよりも先に彼女の視界に数人の靴が入った。それが見えた瞬間に冥は、これから自分と政が受けるであろう仕打ちを想像すると、心中にて神へと向かって苦言を呈した。
『く……ッ(神様……ッ! 理不尽じゃ、ないか……! 何で、私たち……ばかりに……ッ。こんな……ッ。おか…しい、じゃない…………ッ)』
そうやって恨み言を思いつつこれからのことに絶望していた冥であったが、いつまで経っても来ると予想していた痛みが来なかった。それを疑問に思っていると、更に奥から数人の足音が聞こえてきており、それらは冥の目の前で止まった。すると、冥の視界に綺麗な服と共に誰かの掌が入って来た。どういったことか分からずに冥は掌の主であろう人物を見るために眼を精一杯上へ向けると、そこに映ったのは後光が発生している謎の美少年の姿であった。
『————神……さ、ま………?』
そんな美少年の姿を見て冥は、無意識のうちにそう呟いていた。そうして謎の美少年の姿を見た冥の意識は、暗闇へと落ちて行った。
…はい。『➀の裏』のちょい見せは以上となります。
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それでは皆さん、さようなら!