ゆっくりやっていきます。
1 見つかっちゃった
ポコポコポコ……
季節は冬。火の玉で温められた部屋の中で寛ぎながら、俺は断続的に奏でられる泡の音を楽しんでいた。
先日作った空気が出る魔導具を水槽に沈みただけのなんちゃってアクアリウムだが、俺はこれが存外気に入っている。
作った当日は魔導具だけのシンプルな物だったが、このインテリアのカスタマイズ性に気付いてからは夢中になった。
水面に花を浮かべたり、砂利や透明な石を底に敷いたり。土魔法で作ったパイプで泡を分散したり、小さな家の小物を作ったり。
今では三軒並んだ家の煙突から小さな泡がモクモクと上がっている。
魔力の大きさや波長を変えると泡の大きさや密度も変わってくるし、かれこれ10日間も眺めているが、一向に飽きる気配がないな。
……というのは冗談で、少しだけ飽きていたりする。
「なんかないかなぁ……」
ベッドに寝転び、生まれては消えていく泡を眺め続ける。こうしているだけで時間が過ぎていくのだから、不思議なものだ。
次はどのようにカスタマイズしようか……無属性のライトで小さなイルミネーションでも作ってみようかな?それとも、もっとカラフルなデコレーションを……
ポコポコポコ……
……いや、見た目以外をいじってみるのはどうだろうか?
最近は水槽に物を浮かべたり沈めたり、見た目を華やかにさせていたが、それ以外は特にカスタマイズできていない。
それにずっとアクアリウムを眺めている、というのも結構疲れるものだ。どうせなら目を閉じた状態で楽しめる要素のカスタマイズをしたい。
となれば、改造できるのは音か香りだろう。香りは……難しそうだな。
逆に音であればいくらか想像できる。泡が当たると音がなる機構とか、水車を泡で回してオルゴールを鳴らすとか……
「……うん、なかなかいいんじゃないかな」
そう言えば、こちらの世界に来てからオルゴールなんかは見たことがない気がする。音楽自体も、王都のパーティー会場や劇場くらいでしか聞いたことがない。
音楽は音楽家を呼ぶもの、という考えが根底にあり、音楽を記録するという考えがあまりないのかもしれない。
「なら、オルゴールとかレコードプレイヤーとか作っちゃおうか」
オルゴールの構造は見たまんまだし、レコードプレイヤーの仕組みも簡単だ。音の震えがレコードの溝として記録され、その溝をなぞれば音が出る。少し時間を掛ければ自分でも簡単なものなら作れるだろう。
それに、一度自分で作ってしまえば試作品をトリエラに渡して、後は流れに任せればいい。そうすれば大陸中の音楽が俺のもとに……
頭の中でサクセスストーリーを考える。まずはローガンやエルマンあたりにオルゴールを試作してもらう。それと並行してレコードプレイヤーとレコードの開発だ。レコードプレイヤーにはコマ作りで使った回る魔道具が活用できるだろう。
一か月後にはトリエラが来るはず。その時に施策品を渡してしまおう。
懸念点としては……オルゴールの楽譜部分やレコードに記録する音楽かな。楽譜をローガンに任せるわけにはいかないし、音楽についてはうちの領地内に適任がいるかどうか……
あ、あとはアクアリウム用のオルゴールも作らないと……
「ああ、夢が広がるなあ」
そうと決まれば早速行動だ。まずはローガンにオルゴールを作ってもらう。
あ、ついでにレコードの素材についても相談してみよう。原材料は塩ビだが、ある程度の固さと柔らかさがあれば大丈夫だろう。
最悪ガラスでも作れるはずだ。前世の漫画で読んだことがある。
体を起こして伸びをする。ずっと同じポーズをしてたから体がこってしょうがない。
思う存分伸びをし、もう一度ベッドに倒れてから英気を養うと、頭の中で村をイメージする。
普段は屋敷の外に出てから転移するけど、今は父さんも母さんも村の視察に出てるし、面倒くさいからこのまま転移しちゃおう。
転移する場所はローガンの小屋の裏だ。
それじゃあ……
「アル!稽古するわよ!」
「っ!?」
魔力を高めた瞬間、部屋のドアが音を立てて開く。顔を出したのは木剣を肩に担いだ我らが姉、エリノラ姉さんだ。
ヤバイと思ったときにはもう遅い。高められた魔力は俺を包み、空間に干渉して……
「あちゃ~……」
目を開くとそこは村のはずれ。ローガンの小屋の裏だ。
エリノラ姉さん、バッチリ目があってたよな~……
「……どうしよう」
俺はただそこに立ち尽くすだけだった。