転移して田舎でスローライフをおくれない   作:やません

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10 奥の手

「……シールド」

 

 いつもの数倍の魔力を込めて、シールドを複数枚作り出す。これなら一撃で壊れることはないだろう。

 

 エリノラに反抗した今、俺が考える勝利条件は3つだ。

 

 一つ目はエリノラに諦めさせること。

 俺が本気を出せば手に負えない、と思い知らせる。そうすればそう簡単に強硬手段は取らなくなるだろうし、ある程度の防波堤にもなるだろう。

 

 二つ目はエリノラを戦闘不能にさせること。

 これは一つ目の条件よりも少し物騒だが、勝利条件が明確だ。短時間でケリがつく。

 ただし、後日リベンジを仕掛けられるなど、デメリットも予想される。

 

 そして三つ目──

 

「っ!」

 

 エリノラの姿がぶれたと思った次の瞬間、シールドにヒビが入る。流している魔力を通じて、ビリビリとした手ごたえが伝わってきた。

 

「……固いわね」

 

 シールドの向こうには、煙を上げた木剣を振りぬいたエリノラがいた。攻撃の初動に咄嗟に反応できなかったが、あらかじめシールドとシールドの間に隙間を作ることで攻撃を誘導させることができた。

 

 エリノラなら最初の一撃で仕留めようとしてくることは予想できた。つまり、先ほどの一撃が最高速度と考えていいだろう。

 まだ手札は残していそうだが、十分対応できる。このまま諦めるまで待つこともできるが……

 

「まあ、いつまでも守ってるつもりはないんだけどね」

 

 火魔法と水魔法を同時に発動し、シールドの外側に熱湯の球を浮かべる。温度は実に200℃、水圧を上げることで100℃を越えた熱湯を用意できる。

 グツグツと煮えたぎるこれらの水球だが、もちろん、こんなものをかぶれば火傷じゃ済まない。必ずよけるか、斬り飛ばす必要がある。

 

 狙いは高圧高温の水球による火傷ではなく、これによる誘導。エリノラの最高速を出させないようにするための魔法だ。

 最高速に反応できないのなら、出させなければいい。至極単純なことだ。

 

「こんなもの……あつっ!」

 

 エリノラが試しに近くの水球を切り裂き、魔力の供給が絶たれた感覚。素早い判断だが、実はそれもトラップだ。

 水球の水圧を高めている魔力を切ってしまえば、水を覆っていた無属性の圧力も切れてしまう。

 

 切り飛ばせば爆発する熱湯爆弾……といっても、飛沫となって空気中にさらされれば、水温は急激に下がる。冬の気温だから、肌にあたるのは7、80℃くらいだろう。

 

 それでも当たれば熱いし、運が悪ければ大量の熱湯を浴びることとなる。おいそれと近付けまい。

 予想通りエリノラの動きが止まる。

 

 なんだ、思ったより大したことなかったな。

 危険な三つ目の方法を取らなくて良さそうだ。

 

「あれ、大丈夫?そこまで熱くしたつもりはなかったんだけど……この程度で根をあげるなら降参した方がいいよ?」

「……相変わらず魔法使いの戦いってねちっこくて嫌いね。どうしてそんなに性格が悪くなったのから」

「遠いところも攻撃できて便利だよ。よかったら使えば?」

「あとで酷いわよ」

「できるものなら、ね?」

 

 いつもなら出ないような煽りがスルスルと溢れてくる。単純なエリノラなら怒ってすぐ──

 

「うわっ!?」

 

 いきなり自分のとなりのシールドが割れた。遅れて、エリノラとシールドを繋ぐ直線上の水球が割れる。

 エリノラはその場から動いていないが、すでに振りぬいた姿勢だ。まさか──

 

 今度は反対側のシールドが割れる。そして遅れて壊される水球……

 

「硬いせいで曲がるわね……」

「も、もしかして……」

「あら、魔法を使わなくても届いたわね。アルも使う?」

 

 その笑顔にゾッとする。

 おそらくだが、バトル漫画あるあるの「剣戟を飛ばす」ってやつだ。

 というか、着地点を先に攻撃してから経路上に衝撃が行くって物理的におかしいだろ。しかも威力はさっきよりも上で、シールドが一発で割られる。

 水球も連鎖的に割られるし、あの技は危険すぎる。

 

 水球は近接タイプの剣士には有利だが、遠距離には滅法弱い。なにしろ、遠く離れれば熱湯だろうが水だろうが関係ないからだ。

 その上水魔法と無属性魔法を同時使用する必要があるため、魔力操作のリソースを割かれるデメリットもある。

 

 取り敢えず、ここはシールドを増やすべきだろう。

 

「ひっ!」

 

 目の前に増やしたシールドが即座に割られる。あと少し出すのが遅ければ、想像するのも恐ろしい結果になっていたことだろう。

 

「あと少しでアルの頭を割れたのに」

「ちょっ、流石にこれは死んじゃうって!」

「それは大変ね。なら頑張りなさい、まだまだ飛んでくるわよ」

 

 その言葉に慌ててシールドを増産する。だが、シールドは作られた端からドンドンと割られていった。

 あの技クールタイムとかないのかよ!

 

 しばらくその応戦が続く。依然、俺はエリノラの攻撃を防ぎ続けるばかりだ。

 だけど、ギリギリシールドの増産スピードのほうが上回っている。これなら最悪死ぬことは……

 

「随分とさっぱりしたわね」

「……はっ!?」

 

 その言葉で自分が誘導されていたことに気が付く。いつの間にかすべての水球が割られ、自分の周りにはシールドが数枚浮かんでいるだけだ。

 まずい、エリノラ避けの水球がなくなれば、近付かれる。

 

 そう思ったのも束の間、前傾姿勢になったエリノラが初撃に劣らない速度で突っ込んできた。反射的に繰り出したシールドが一枚、二枚とドンドンと割られていく。

 

「これで、終わりよ」

 

 エリノラが木剣を振りかぶり、俺に最後の一撃を加えようとしてくる。

 ゆっくりと動く世界の中で、視界の端からものすごいスピードで近付くそれを見て、確信した。

 

(あぁ……三つ目の条件、達成か)

 

 自分の横面に迫る一撃を前に目を瞑る。このままだと、あとコンマ数秒で俺の意識は飛んでしまうだろう。

 よくて頭蓋骨骨折、悪ければ失明、最悪の場合死ぬ可能性もある──だが、それでいい。

 

 三つ目の条件は一つ目の条件と似ている。エリノラの攻撃をひたすら防ぎ、時間稼ぎすることで達成できる点だ。

 大きく騒ぎ、エリノラを挑発し、追い詰められて致命傷を誘発する。

 つまるところ、俺が死んでしまうような一撃を演出すれば良いわけだ。そうすれば……

 

 

 

 

 

 

 

「エリノラ」

 

 目を開くと、木剣は俺に触れることなく、まるで大木の枝のようにピタリと固まっていた。根本には手が優しく添えられ、完全にそのインパクトが殺されている。

 エリノラ……エリノラ姉さんを見上げる。口の端がキュッと閉められており、額には冷や汗がびっしりと浮かんでいる。その目は剣先を見つめているものの、先程までの戦意溢れる瞳はどこにもなかった。

 

 ……エリノラ姉さんと本気で戦えば、多少の怪我は免れられない。俺が回復魔法を使えることはみんな知っているし、擦り傷や打撲などの軽い傷は見逃されてしまう。

 しかし、骨折や欠損、俺が意識を失って回復魔法が使えなくなってしまうなどの怪我は別だ。自分でもどこまで治せるか分からないけど、少なくとも全治何ヶ月レベルの大怪我にはなるだろう。

 

「何か申し開きはあるかい?」

「……」

 

 まあ、そんな大怪我、ノルド父さんがいるこの館で負うはずもないんだけどね。

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