「1週間外出禁止!!!」
ノルド父さんにこってりと絞られたエリノラ姉さんに課された罰は、殺されかけた身としてはあまりにも軽く感じる罰だった。当のエリノラ姉さんはこの世の終わりとでも言いたそうな顔だったが。
ノルド父さん曰く、あまり長い間稽古をサボると将来に響くことや、俺が煽った点も悪かったこと。なにより、俺が本気を出せば防げる攻撃だったことも減刑の理由なんだそうだ。
ちなみに、俺が本気を出せば~というのもある意味事実で、全方位に魔法を放出するといった手を使えばできなくもない。エリノラ姉さんもそれくらいなら防げることは知っていたし、あの時ノルド父さんが視界の端に映らなかったらそうしていたつもりだ。
すべてお見通しか。う~ん、なんだかいたずらがバレた気分だ。
エルナ母さんはというと、俺が窓から飛び出したあたりで興味を失ってお茶を飲んでいたらしい。なんでも、室内ならともかく屋外で俺が負けるわけがないし、俺がエリノラ姉さんに怪我を負わせるはずがない、とのことだ。
嬉しいんだか、寂しいんだか、複雑な気持ちだ。
シルヴィオ兄さんは喧嘩に気付くや否や、うちのメイドたちを避難させていたそうだ。ノルド父さんが喧嘩を止めたときも真っ先に俺に怪我がないかどうか心配して駆け寄ってくれていた。
次からはシルヴィオ兄様と呼ぼう。
メルとバルトロは「ノルド(様)に任せとけばいいでしょ」と平常運転、サーラは少し怯えていて、ミーナは「なんか遠くでお祭りでもやってるんですかね~」と気付いていないようだった。
他のメイドたちはともかく、怯えているサーラは少し見てみたかったりもする。
結局のところ、誰も俺が怪我をするとは思ってもいなかったそうだ。怪我人なし、物損なしのごく普通な姉弟喧嘩に落ち着いたわけだ。
「それにしても、エリノラ姉さんがいない生活をがこんなにも快適だったなんて……」
現在エリノラ姉さんは魔法の勉強中。クローゼットに姉が隠れていないか確認する必要も、天井に姉が張り付いていないか見上げる必要もない。久しぶりの一人の時間が荒んだ心を癒やしてくれる。
もちろん周囲への警戒は怠らない。また同じようにシルヴィオ兄さんに転移が見つかって、シルヴィオ兄さんと戦うハメにでもなったら大変だ。
流石にシルヴィオ兄さんと戦うことはないだろうけど。
とにかく、これで当面の危機は去ったと言えるだろう。
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「──魔法を当てるだけじゃなく、相手の行動を妨害したり誘導することも考えなさい。接近戦を仕掛けるなら放射状に投げて時間差で攻撃──」
母さんが魔法戦闘の講義をしている。外出禁止なので勿論剣の稽古も禁止、そのためこの1週間で魔法の勉強を徹底してするのだそうだ。
魔法使いとの戦い方や魔法に対する対処方法なんかは面白いけど、それ以外の魔法を正確に~とか、込める魔力を~みたいな授業は全く理解できなかった。
こんな授業よりも前みたいに母さんと実践訓練を……って、その訓練ができないから授業を受けてるんだったわね。
「はぁ~~」
「……そろそろ休憩にしましょう」
思わずため息をつくと、母さんが仕方なさそうに魔法についての本を閉じた。するとサーラが動き、慣れた手つきで紅茶を淹れる。
私も羽ペンをインク壺の中に戻し、手足を投げ出して椅子に背中を預ける。いつもなら休憩の時間に外を走るとかするけれど、今はそれもできない。
館の中を走るのも怒られたばっかりだし……
そうして休憩の時間になって思い出すのはこの前のアルとの戦闘だ。
もともとは怪我しない程度に痛めつけて隠している魔法を出させる作戦だった。けど、途中から楽しくなってきたせいで少しだけ、ほんの少しだけ本気を出してしまった。
使っちゃいけない技を使って、アルの油断を突き、ようやくトドメの一撃を食らわせられる──と思ったら、アルは本気じゃなかったとかいう始末。
そのせいで父さんには外出禁止を言い渡され、母さんには「こんなんじゃひよっ子の魔法使いにも負けるわね」とまで言われてしまった。
「……チッ!」
「行儀が悪いわよ」
悔しい。勝てるだろうと思っていた弟に負けたのが悔しい。
だけど、勝ちたい。悔しさよりも勝利への渇望の方が何十倍も強かった。
そのためには対策を立てる必要がある。今回は無属性のシールドに水属性と火属性の魔法による熱湯の球、この2つだけしか使わなかった。
それ以外にも風、土、あとは……氷?も使えたはず。それぞれの魔法に合わせた対処方法を考えておかなくちゃ……
「……そういえば、アルって何属性使えるの?」
「また突然ね……火、水、風、土、無の全属性の適性があるはずよ」
「あれ、氷属性は?」
「氷属性なんてないわよ」
「???」
氷魔法が使えるのに氷属性がない?
「はぁ、そんな基礎的なところも忘れてるなんて……前に一度教えたはずよ」
「う、ごめんなさい……」
「仕方ないわね、それじゃあもう一度教えるわよ」
母さんが立ち上がり、近くの本棚から一冊の本を取り出した。