15 新天地
……朝だ。
即席の土魔法で作った寝台で寝たせいで背中が痛い。寝たときは気にならなかったけど、今度はもっと柔らかくて寝心地がいいベッドを作ろう。
普段なら二度寝しているような時間だけど、こんなベッドじゃそんな気も起きないし、さっさと朝ごはんを食べてしまおう。
亜空間を確認してみる。炊き立てのご飯やパン、団子、紅茶の葉、スープ、カレー……ルンバに炒飯を作ったため、お米は少し心もとないが、どれも1か月以上は持ちそうだ。亜空間の中では時が進まないから腐らないし、お金もそれなりにあるから飢える心配はなさそうだ。
土魔法でテーブルを作り、お皿を並べ、パンとスープを盛り付け、そのまま一人モソモソと静かな食事をする。一人で朝ごはんを食べるのは随分と久しぶりな気がする。
食べた後の汚れた食器は丸ごと家の外に捨てて、土魔法を解除する。後片づけが楽ちんで非常に助かるな。
部屋の中央で以前作った全体重を預けられるイスを作り出し、コップに温めた生姜湯を入れて一息つく。
さて……………………これからどうしようかな。
まず、今の一番の目的は死なないことだ。そのためにはシルヴィオ兄さんの凶行を止める必要がある。
手っ取り早い方法だとノルド父さんあたりに訴えに出るのがあるけど、相手に頭脳派のシルヴィオ兄さんがいる限りそう上手くは行かないだろう。
たとえ転移魔法というアドバンテージを持っていたとしても、俺は一般人の域を出ない。待ち伏せされている可能性がある。
僅かでも死ぬ可能性があるのなら、その選択はできない。あんな痛い死に方を2度も味わいたくはないからね。
結局のところ、時間に任せるのが得策だ。ノルド父さんが勝手に凶行を止めてくれるかもしれないし、逆にシルヴィオ兄さんが考えを改める可能性もある。
俺はそれまで屋敷に近付かず、気ままに旅をしていればいいというわけだ。
うん。方針も決まったし、どこに旅するかの旅行計画を立てるとしよう。
現在地はスロウレット領から港町エスポートへの道のりの間くらいにあるキッカ、その近くの森に仮拠点を構えている。空間魔法が一度行ったことのある場所にしか行けない制約上、落ち着けるのはこのあたりしかない。
一応カグラやラズール、王都、あとはエリックの領にも行けないことはないが、俺の運の悪さから考えれば確実に知り合いに出会うだろう。今後のことも考えて無駄な危険は冒せない。
まあそれは置いといて、これから何をしようかという話だ。
当初の計画では根無し草のような旅に出るつもりだったが、転移魔法がある以上、旅にはならない気がする。
言ってみれば、諸国漫遊(旅路抜き)のようなものだ。
気になる国や町に転移し、飽きたら次へ……って感じになるだろう。
ま、しばらくはそうしてみよう。
とりあえず、最初にどこにいくかだけど……
「いくつか候補を上げてみよう」
まず、ミスフィリト王国。温暖で豊な土地が特徴的で、国内のどこでも同じような気候をしているから転移しても体調を崩す心配がなさそうなのがメリット。
逆に知り合いが多すぎるとか、転移をみられたら後々面倒になりやすそうなところがデメリットだ。
次にミスフィリト王国から北にあるアルドニア王国。ここのキッカで飲んだブドウジュースのブドウの原産国で、他にも海鮮豊かなエスポートなんかもある。だけどホーンベアみたいな凶悪な魔物が多いからパスかな。
あとは神聖イスタニア帝国……はよく知らないや。名前からして怖そうだしこれもパス。
そしてこの前行ったばかりのラズール。……は保留かな。魔物も砂の中に潜伏するタイプで別ベクトルで危険だし、あそこはフラっと立ち寄るくらいが一番いい。
最後に別大陸のカグラ。お米や味噌、醤油、団子と和食には困らないし、知り合いも数人程度、かなりの良物件だ。
まあ、僕の顔は西洋人風だし、カグラだと目立つかもしれないのが少しだけ難点かもしれない。
選ぶならミスフィリトかカグラのどっちかだろう。
う~ん。
「……そういえばミスフィリト王国って西の方は地味にあったかいんだよな」
ミスフィリト王国は西側でラズールとつながっているため、北や東、南と比べるとわずかに暖かい気候をしている。
西の方には知り合いもいないし、行くならそっちの方がいいかもしれない。
そういえば、初めてラズールに行ったときに一度だけ立ち寄った村があったのを覚えている。
たしか……ルーリック村だっけ?
それ以外は特に知らないし、試しに行ってみよう。
そこで他の村の情報とかを聞ければ僥倖だ。
「それじゃあ……転移!」