転移した先はルーリック村……王都から西に行くと一番初めにたどり着く小さな村だ。俺が転移したのは村の入り口にある立て看板の正面だ。
看板の文字を確認すると、やっぱりルーリック村と書いてある。
「おお、ルーリック村であってた」
正直なところ、ここに来たのも1回だけだし、数分くらいしか居たことなかったから半分うろ覚えだったのだ。逆になんで覚えていたのかすら不思議に感じる。
「うおっ!びっくりした!?」
「あ、どうも」
すると隣で槍をもった男が飛び跳ねた。そうそう、前回もこんな感じで驚かれたんだっけか。その時の反応が面白かったせいで妙に記憶に残っていたのだろう。
「な、なんだお前!いつの間にこんな……って、前もこんなことがあったような……」
俺とは逆に相手の方はあまり覚えていないようだ。若そうなのにもうボケたのだろうか、かわいそうに。
「誰がぼけ老人だ!失礼なガキだな!」
「え、なんでわかったの?」
「声に出てるっつーの!……思い出した!あの時急に現れて急にいなくなったガキじゃねーか!」
「久しぶり」
手を挙げて挨拶すると、門番の男は気の抜けた顔で「お、おう」と答えた。うーん、ここまで反応がいい人は久しぶりだな。
「というか、あの時はどこ行ったんだよ。急にいなくなったから心配したんだぞ」
どうやら心配をかけてしまっていたようだ。王都の例もあって門番って怖そうなイメージがあったけど、見知らぬ子供を心配してくれるいい人だったらしい。
「あ〜……普通に歩いて帰ったけど?」
「なわけ無いだろ!」
だろうね。
だけど前回と同じく、現に俺は門番の男に気付かれずにここにいる。二度あることは三度あるとも言うし、渋々納得したようだ。
……たしか、前回はここらへんで答えにくい質問をされて逃げたんだっけか。
質問される前に目的を果たすとしよう。
そうだな、特産の食べ物の話でも聞こうか。
「俺は王都から来たんだけど、この辺の人って何食べてるの?」
「……特に普通だな。なんだ、旅人か?」
そういうことにしておこう。
「ま、そんなところ。それじゃあ近くの村はどう?」
「近くの村か……ここから北のベルモテ村は畜産が盛んだな。南に行けば海産物のラグーヌ村、西に行けばラズールとの貿易をしてるバザランディアって都市がある。ちと高いが珍しい料理もあるらしいぞ。それらと比べたらウチは南京や馬鈴薯なんかの日持ちする野菜を育てているな」
ふむふむ、ルーリック村が農耕、北のベルモテ村が畜産、南のラグーヌ村が漁業、バザランディアが貿易都市ね。こうも産業がまばらだと、貿易都市の規模も結構大きそうだ。珍しい料理とやらにも期待ができる。
コリアット村とは野菜の毛色が違うルーリック村か……チーズや牛乳、卵にお肉と美味しそうなベルモテ村もいいな、ラグーヌ村はシルフォード領とは真反対だし違う種類の魚も食べれるかもしれない。
う〜ん……
「どれがいいと思う?」
「……村の一員としてはウチの村を推したいところだが、俺は干物が好物でな、ラグーヌ村をオススメしたい。だが今の時期ならベルモテ村のヤギのチーズをパンに乗せて食えばアツアツとろとろ、冬の寒さも吹き飛んじまう。バザランディアの料理は一度だけ食べたことがあるが、アレは……忘れられない味だったな」
少し考えた後、門番の人がつらつらと説明を始める。こうも熱心に話されると口の中でよだれが溢れてくる。
反応もいいし、門番じゃなくて食レポ芸人にでもなったほうがいいんじゃないだろうか。
「だとしても金がいるだろう。坊主、お前親は──」
「あ、あそこになんかいる」
面倒くさそうな話題に変わりそうだな、話を切り上げよう。
そういって門番の人の真後ろを指さす。振り返った瞬間に転移……
「同じ手に引っかかると思うなよ」
「うげ」
……しようとしたが、門番の人は引っかかる様子もなく、しかめっ面で俺をにらんできた。
……というか、毎回門番の人っていうの疲れてきたな。
「ところで門番さんの名前は?」
「俺か?俺はカールだ」
「へえ、それじゃあ後ろの女の人の名前は?」
「え!?って、誰もいねえじゃねえか……」
カールが勢いよく振り返る。しかし、そこには村の入り口があるだけで人っこ一人いない。そして再び前を向いた時には既に俺も転移でその場から離れていた。
近くの木の陰から覗くと、「またやられた!」と大声を上げて地団太を踏んでいるカールが見える。それなりに頭は回るようだが、掠め手には弱いようだ。
それにしても中々収穫があったな。
北と南と西、そしてそれぞれで盛んな産業が知れた。ついでに子供一人でも怪しまれないストーリーが必要だということにも気付けた。
門番って商人や旅人とも会話するし、以外と知見は広いのかもしれない。今後もわからないことがあったらカールに聞きに来よう。
さて、どこの村に行こうか……