転移して田舎でスローライフをおくれない   作:やません

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17 ロール職人

 転移を繰り返していると、遠くに村が見えてきた。住宅の数はコリアット村と比べると少なく、人口も100人いるくらいだろうか。

 風に乗って独特な香りが流れてくる。前世でも子供の頃に遠足で嗅いだことのある匂いだ。

 そう、これは──

 

「モー」

「おー」

 

 匂いの持ち主が俺を見下ろしてくる。身長は俺の2倍以上あり、ものすごい威圧感を放っている。その口からはみ出している牧草が、ムッシャムッシャと音を立てて飲み込まれていった。口の隙間からなんとも言えないかぐわしい香りがしてくる。

 

 そう、牛だ。

 俺が選んだのは北のベルモテ村だった。

 

 コリアット村でも牛は飼っていたが、あそこの気候は畜産向けではなく、村人たちも家畜の専門家ではない。

 それに対してこのベルモテ村は十数代前から続く畜産の村。年中を通して暖かく、冬が来ないため牧畜に向いている土地だ。

 家畜は牛だけではなく豚や羊、ヤギ、鶏に鴨、馬など様々な種類が育てられており、それぞれの家畜にとって最適な環境が用意されている。人口こそ少ないが、家畜の数はその数倍はいるとのことだ。

 

「昔に屋敷の本で見たことがあったけど、実際に来てみると思った以上に広いな……」

 

 至近距離から見た牛の迫力もそうだが、もっとすごいのがその広大な牧草地だ。転移の際に上から見下ろしたが、視界の端から端まで牧草地が広がっている。見たところ整備もされているようなので、これだけの牧草を食べる家畜がいるのだろう。

 

「ん?あれは……」

 

 牛から視線を外すと、目に入ったのが牧草ロールの山だ。直径1メートル弱のロールがきれいに2段に積まれており、陽の光を浴びて黄金色に光っている。

 これは……非常に寝心地がよさそうだ。

 

 俺がベルモテ村を選んだ理由には搾りたての牛乳や作り立てのチーズ、産みたて卵、新鮮なお肉を食べてみたいというのもあったが、一番の理由はこの牧草ロールだ。

 ほどよく乾燥した牧草によって生み出されるナチュラルな寝心地。その芯は固く、表面は空気を含むことで柔らかさを産んでいる。上に寝っ転がっても通気性の良さは変わらず、まるで自然界の極上のベッドのような体験を与えてくれるはずだ。

 

 気が付くと俺は牧草ロールのところまで来ていた。無意識で引き寄せられていたのだろう、とんでもない魅力だ。

 

「まだ寝足りなかったし、ここらで二度寝でもするか」

「……おい」

「お~、この触り心地は癖になりそうだな。ゴワゴワしていて、それでいてやわらかい……」

「聞いてんのか、コラ」

「やっぱり寝るならてっぺんかな?陽の光で程よく温められてて気持ちよさそうだし、さっそく一休み……」

「話を聞けーー!!!」

「……もう、うるさいなぁ」

 

 さっそく至福の二度寝を堪能しようとしたところで、大声で呼び止められる。振り向くと畑のフォークを持った男の子が怖い顔をして立っていた。

 

「フラフラとロールに近づいてきたと思ったら何も言わずに登り始めるし……大丈夫か、お前?」

「ちょっと朝の二度寝にしゃれこもうかと」

「もう昼だぞ」

 

 言われて見上げると、確かに太陽が頭の上に来ている。どうやら寝過ごしてしまったようだ。

 いつもはメイドに起こされていたけど、今日は自力で起きたからな……こうなっては仕方がない。

 

「じゃあ昼寝にしよう」

「かわんねーじゃねえか」

 

 なにをいうんだ。朝の二度寝と昼寝とじゃ満足度の方向性が全く違うのがわからないのだろうか。

 こんなやつは放っておいて、さっさと寝てしまおう。

 

「って、うおお!?ゆ、揺れる!」

「おらおらおら!さっさと降りろ!」

「わ、わかった。おりるよ……」

 

 気を取り直して再び寝転がろうとすると、ロールに蹴りが入れられた。ただ詰まれただけのロールの山に耐震構造などあるはずもなく、ワサワサと音を立てて左右に揺れる。落ちるほどではないが、これじゃあ眠れないだろう。

 仕方なしにロールから飛び降りる。

 

 さて、上からだと顔しか見えなかった男の子を観察する。

 金髪でやせ型、肌はうすくこげ茶色に焼けている。顔には濃いめのそばかすがついており、眉にはしわが寄っている。年は僕と同じか1つ上くらいだろう。

 勝手な偏見だが、見た目からはトールのクソガキとエリックのひねくれ者を足して2で割ったような底意地の悪さが感じられる。

 

「で、なにか用?」

「初対面でふてぶてしいな……仕事の邪魔だからどけって言ってんだよ。最初から言ってただろ?」

「ごめん聞いてなかったかも。それで仕事っていうのは……」

 

 男の子が顎で指し示す方を見る。ロールの向こう側には乾燥された牧草が一面に広がっていた。

 

「乾燥させた牧草をこうやって大きなロールにするんだ、明日には雨が降るし、今日中に巻いておく必要がある」

 

 そういうと男の子は近くの巻きかけのロールを転がし始める。次第にロールは大きくなっていき、端まで転がすと他のロールと同じ大きさまで成長した。

 そのまま縄で縛り、ロールを押して戻ってくる。そうか、このロールはこいつが作っていたのか。

 なかなかのベッドメイキングだとほめたいくらいだ。

 

「これの繰り返しだ。最初の巻き始めは軽くても段々重くなってくるし、押すだけじゃなくてひっくり返すような動きも必要だから腰にくる。それに途中で牧草が崩れないように丁寧にする必要があるし、その下のまだ生きている牧草を傷つけないようにしないといけない」

「へ~、大変そうだね。頑張って」

「お前も手伝うんだよ」

 

 そういってロールを転がすのに使っていた畑のフォークをずい、と前に出される。

 

「ロールの上で寝たいんだろ?それなら手伝うのが通りだ」

「え~……」

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