ロールの上で昼寝しようとしたら「働かざる者寝るべからず」とでもいいたいのか、ロール作りを手伝うように言われた。
言わんとすることはわかるが、なんだか体よくつかわれているような気がする。
「ま、いっか。こういうのやってみたかったし」
「よし、それじゃああっちから巻き始めてくれ。最初の整形は済ませてるから、転がすだけでできるはずだ」
そういうと男の子は俺に畑のフォークを渡すとその場にどっかりと腰を下ろした。額の汗を腕でぬぐいながら、一息ついている。ロールを転がす作業は相当な重労働らしい。
そのまましぶしぶ指定された場所に向かうと、小さなロールが数個並んでいた。
試しに一番端っこのロールを転がすと敷かれている牧草を巻き込んで少しずつ大きくなっていく。どうやら乱暴にしないかぎりロールが崩れるといったことは起こらなさそうだ。
「これなら魔法でなんとかなるかな」
「おーい、さっさとしないと夜になるぞ~」
「今からやるから、そこに立ってると危ないよ」
「は?」
顔を上げると、ロールの進行方向に男の子が立っている。そいつに一応警告を出し、牧草にサイキックをかける。小さな牧草ロールに俺の魔力が浸透し、ゆっくりと地面を走り始める。
さっき言っていた注意点、牧草が崩れないようにするのと下の生きている牧草を巻きこまないようにするのに気を付けながらどんどんと速度を上げていく。
「え、は?うおおおぉぉぉ!あぶねぇ!」
「だから言ったじゃん」
ロールが直線上にいた男の子のところまで転がると、巻き込まれそうになったすんでの所で真横に避けた。あと少し遅ければロールケーキのイチゴのように巻かれていただろう。
なんてことをしているとロールが端まで到達した。完成品を他のロールと見比べてみるが、特に遜色はない。下の生きている牧草も引き抜かれていないし、この方法で問題なさそうだ。
そのまま近くにあった縄でロールを縛り、既存のロールの山の上に追加する。
「ま、こんなとこかな?」
「す、すげえ!あんなにきつかったロール作りが一瞬で……」
自分の仕事の出来に感心していると、男の子が興奮した様子で近づいてきた。
「形良し、幅良し、層もきれいになっていてほどける様子もない……うちの親父でもここまで綺麗にはできねぇ!最高の仕上がりだ!」
「そ、そう?」
自分が片手間に作ったものとはいえ、こうも褒められると気分がいい……いや、ちょっと待て。
男の子の表情を確認してみる。俺が作ったロールを褒めているが、同時にちらちらとこちらの様子も確認している。笑顔にもどこか嘘くささが感じられる。
これは……トールとアスモが俺の魔法を褒めて畑仕事を手伝わせようとしているときの表情にかなり似ている。
「なあ、もう一回見せてくれよ!ロールが自分で転がっていく様が忘れられなくて……いいだろ?」
そのまま縋るような表情をして頼み込んでくる。誠心誠意頼んでいるように見えるが、声音から悪意が駄々洩れだ。
あのまま気付かずに
「そういって手伝わせるつもりでしょ」
「げ……そんなわけないですよ~。俺はただ純粋に魔法の凄さに驚いただけで……いや~、もう一度見てみたいな~」
無理に笑おうとしているせいで、笑顔がひきつっている。まだ手伝わせる気なのだろうか。
俺が胡乱げな目を向けると観念したようで溜息をつき、仏頂面に戻る。
「んだよ、少しくらい手伝ってくれてもいいだろ」
「そういって少しだけって言いながら最後までやらせるつもりでしょ」
「ちっ……」
やはりこちらの方が本性なのだろう。敬いや尊びの心は一ミリたりとも持ち合わせていないようだ。
そうやって口を尖らせていると、ふと何かを思いついたようだ。そのままにやけ顔で近寄ってくる。
「なあ、今朝できたてのチーズに興味はないか?」
「……くわしく」
ただ働きをするつもりはないが、報酬があるなら話は別だ。
「今朝絞りたてのミルクで作った新鮮なチーズだ。一口食べるだけでも熟成チーズとは比べ物にならないほどの濃厚でクリーミーな味わいが口の中で広がる、それもまだ温かい状態……これは畜産に携わっているやつしか得られない特権ってやつだ」
「うむむ……」
頭の中で想像する。できたてといえばモッツアレラチーズのようなフレッシュチーズのことだろう。通常の熟成させるものとは違い、牛乳の風味が強くもちもちとした食感をしている。
そのままつまんでもいいし、カプレーゼみたいなサラダでもいい。マルゲリータやグラタンに使うのもよさそうだ。前世で食べたモッツァレラとバジルのオムレツもかなり美味しかったのを覚えている。
「……産み立て卵は?」
「いくらでも用意できる」
チーズと相性のいい卵も手に入るのだ。これは断るわけにはいかないだろう。
俺は右手を前に差し出す。その手を男の子はガッシリと握った。
「よし、交渉成立だ!」
「なにが『交渉成立だ!』よ!」
すると男の子が真横に吹っ飛ぶ。俺の動体視力では追えなかったが、男の子の頬にできた拳の跡と目の前の拳から察するに、高速のフックが繰り出されたのだろう。
俺は額に汗を滲ませながらもゆっくりと横を向く。
そこには怒りの表情を露わにさせた女の人が立っていた。
「く、クソ姉貴……」
吹き飛ばされた男の子の死に際の一言を耳にし、俺はあることを確信した。
どこの家庭でも弟は姉に勝てないのだろう、と。
オリキャラは名乗るタイミングが掴めませんね。