俺、アルフリート・スロウレットは神様の計らいで失われた古代魔術を扱うことができる。
転移魔法で遠くの地へ移動したり、亜空間魔法で異空間に物を収納するなど、スローライフ御用達の魔法だ。
しかし、それは家族には内緒にしている。
その理由は単純、面倒だからだ。
この魔法のことを説明することはそれほど大変ではない。目の前で実演して見せれば済む話だ。
であれば何が面倒なのか。ズバリ、面倒事を頼まれるのが面倒なのだ。
アレを片付けろだとか、コレを取り出せだとか、アレを取ってこい、コレを知らせにいけとか。
きっと何かある度にそんなことを頼まれるに違いない。もし逆の立場なら俺だってそうするさ。
こんな魔法が使えるとバレてしまっては俺のスローライフは崩壊してしまうと言ってもいい。そうならないためにも家族には、特に弟のことを便利な道具だと思っている節のある姉には、エリノラ姉さんだけにはバレるわけにはいけない。
いけない。いけなかった、のに……
「バレちゃったよ……ホントにどうしよう……」
頭を抱えてその場に蹲る。一番バレたくない相手に自分の秘密がバレてしまった。
ここでエリノラ姉さんの反応を想像してみよう。
『へぇ、そんな便利な魔法が使えるのを黙ってたのね』
『ちょっと山まで行ってリブラ取って来なさいよ』
『エマに遊びに行くって伝えてきて』
『この木剣仕舞っといて』
『冷えたタオル出してよ』
『な、なんで俺がそんなこと……』
『『『『うるさい、できるんでしょ?さっさとやりなさいよ』』』』
「うわぁ~~!!地獄だぁ~~~!!!」
弟とは姉に逆らえない存在なのだ。きっとこれから一生こき使われるのだろう。
……よく考えると今とそれほど変わらない気も……いや、手間が減った分頻度は増すはずだ!
「とにかくなんとかしなければ……」
幸いにも姿を見られたのは一瞬だけだ。もしかしたら見間違いと思ってくれているかもしれない。
確認のためにも屋敷……じゃなくて森に転移して遠くから偵察してみよう。
エリノラ姉さんに見つかるわけにはいけないしね。
「よし……転移!」
一瞬で視界が切り替わる。ここは屋敷から少し離れた森の中だ。
少し目を凝らすと木々の隙間から屋敷が見える。このままでは何も見えないので、目に魔力を込めると……。
「あ、エリノラ姉さんだ」
廊下をすごい勢いで走り抜けるエリノラ姉さんが見えた。1階の廊下をすごい速度で駆け抜けると、階段を駆けのぼって今度は2階だ。
僕を探しているのだろうか。
……少なくともさっきのを気のせいだとは思っていないようだ。こうなれば力技で記憶を飛ばしてもらうしか……。
そういえば前もこんなことがあった気がする。あのときは確か、ドアを勢い良く開いたら運悪くエリノラ姉さんにぶつけてしまったのだったか。
なんてことを考えていると、エリノラ姉さんがシルヴィオ兄さんを見つけたようだ。本を抱えているシルヴィオ兄さんを強引に呼び止めているのが見える。
さすがにここからでは何を話しているのかわからないな。
しかたがない、ここは風魔法で音を拾ってこよう。
『──消えたのよ!アタシの目の前でいきなり!』
『ちょ、ちょっと。話が全然見えてこないんだけど』
『だから!アルがさっきまでベッドの上にいたのに、一瞬でいなくなったのよ!』
……完全にバレている。