転移して田舎でスローライフをおくれない   作:やません

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4 ムキヴィオ兄さん

 時刻は昼を少し過ぎた頃。昼食後の怒涛のアクシデントを迎えた俺は、山奥の拠点でエリノラ姉さんを騙すための新しい魔法を開発していた。

 タイムリミットは夕食が始まる少し前……5時間以内にはエリノラ姉さんの目を誤魔化せる出来の身代わりを作れるようになる必要がある。

 

「土魔法で身代わりを作るとして……とりあえず色と形は必要だよな」

 

 形は土魔法で、色は最近アクアリウム作りで集めていた色付きの粘土を表面に這わせれば再現可能だろう。

 

 試しに土魔法を発動してみる。目の前で地面が盛り上がり、僕と同じ高さになったところで人の形に圧縮していく。頭や手足などのパーツを先に作り、続いて顔や指や髪の毛などを作りこむ。

 ……目元をもう少しキリッとさせるか。

 

「こんなもんかな」

 

 10秒もすれば土台の完成だ。土でできているせいか、髪の毛がツンツンしていて、なんだか威圧感がある。

 

 次は色付けだ。

 亜空間から色付き粘土を取り出すと、魔力をなじませて表面を這わせる。厚さを均一にし、粘土同士が混ざらないように注意する。目玉に茶色のガラス玉を埋め込めば完成だ。

 

「おぉ……俺だ……」

 

 土台作りより時間はかかったものの、問題なく色付けできた。そこには毎朝鏡の中で見る自分の姿そっくりの土人形が立っており、今にも動き出しそうに見える。

 これならエリノラ姉さんを騙せるだろうか……?

 

 ……いや、これじゃあまだ足りないな。多分気配だとか、そういう目に見えない何かが足りない気がする。

 

「う~ん、気配ってどうやって再現すればいいんだろう」

 

 簡単に思いつくものでいえば、生き物の呼吸や心臓の音、あとは殺気だろうか。そのあたり、エリノラ姉さんなら詳しそうだが本人に聞くわけにもいかない。

 どうしよう、ここまで順調だったのにいきなり躓いた。

 

 ああだろうか、こうだろうか。と悩んでいたが、いまいち解決策が浮かばない。

 そういえば、昔人形でエリノラ姉さんに襲いかかったときに、「悪意を感じた」みたいな理由で切り捨てられたな。

 あの時の感覚か……

 

「とりあえず動かしてみよう。生き物っぽさが出て気配が再現できるかもしれないし」

 

 そう思い立った俺は土製アルフリート……土フリートに魔力を込める。予め関節部分は可動性を持たせておいたので、土や粘土にヒビが入ることなく土フリートは右手を上げた。

 そのまま左手、右足と動かす。目の前で飛んだり跳ねたり飛行したりする自分そっくりの土フリートを見ていると、本来の目的を忘れてしまいそうだ。

 

 感覚としては人形遊びをしている感じだが……グレゴールが見たらどんな反応をするだろうか。

 人間サイズのゲコ太……の上にのる大男グレゴール。

 多分、想像もつかないほど喜ぶと思う。

 

「……他にもいくつか作ってみるか」

 

 なんとなく創作意欲が湧いてきたので、他の土人形も作ってみることにする。

 さて、まずは誰を作ろうか。

 作るなら見慣れている家族から作りたいが……。

 

「よし!それじゃあ、いでよ!シルヴィオ兄さん!」

 

 地面に手を付き、頭の中で自分の兄を思い浮かべながら魔力を込めると、目の前の土が隆起し、段々と人の形を成していく。

 身長はエリノラ姉さんよりも低めで……顔はエリノラ姉さんよりも小顔で……肩幅はエリノラ姉さんよりも小さめで……

 

 

 

 

 

「……どうしてこうなった」

 

 僕の目の前には土製シルヴィオ兄さん……土ヴィオ兄さんが立っていた。

 しかし、その腕はゴリラのように太く、肩はヒグマのよう。身長はゆうに3mに達し、太ももは生ハムの原木のように厚く、表面がテラテラと光っている。

 そのくせに顔だけは見たものにやすらぎを与えるいつもどおりのシルヴィオ兄さんだ。

 

 おそらく、想像の中のエリノラ姉さんと比較しながら作ったせいだろう。このシルヴィオ兄さん……ムキヴィオ兄さんならルンバにも負けを譲らない気概を感じる。

 よく見てみると、肩のあたりから蜃気楼のような熱気が発せられているような……

 

「こ、これが……気配……?」

 

 多分違う。

 

 

 

 

 

「ふう、結構作ったな」

 

 あれからエリノラ姉さん、ノルド父さん、エルナ母さん、サーラ、ムキミーナ、メル、ムキトロ、スーパームキムキ・ルンバ、チビトール、アスモ軍団、エマ姉様、シーラさん、グレゴール ride on ゲコ太……と土人形を作り続けた。

 そして今ではそれぞれの土人形が思い思いに動いている。

 

 あと、その上で判明したことがある。

 エリノラ姉さんは素振りをしている時、サーラは箒を掃いている時、シーラさんはお団子(土製)を食べている時に気配を感じるようになったのだ。

 逆にノルド父さんが踊ったり、メルが逆立ちしたり、エマ姉様がチビトールを雪の中に埋めている時なんかは気配を感じなくなった。

 おそらくだが、俺が土人形を動かす時にその人が普段するような行動でない場合、イメージ通りに動かせないせいで気配まで再現できないのだろう。

 

 なんとも面倒な性質だが、つまるところそれさえ守れば土人形は俺の身代わりとして使えるわけだ。

 

「この力さえあれば……俺のスローライフは一生安泰だ……!」

 

 俺がニヤリと笑うと、目の前の土フリートもニヤリと笑った。

 ……さすがに自分で作った土人形に乗っ取られる、みたいなことは起こらないよね?

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