転移して田舎でスローライフをおくれない   作:やません

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5 怪しむ姉さん

 あれから土人形の生成スピードを上げる訓練を行い、日が傾き始めた頃に屋敷の近くに転移した。

 作った土人形は……まあ、山奥だし誰にも見つからないだろう。壊すのももったいない出来だし、拠点の中に仕舞っておいた。

 土人形が勝手に拠点に帰っていき、ドアを閉める様は壮観だった。とだけ伝えておこう。

 

 さて……このまま5分も歩けば屋敷に辿り着く。

 おそらくエリノラ姉さんは玄関で腕を組んで仁王立ちで僕の帰りを待っているだろう。問答無用で組み伏せられるかもしれない。

 その時に少しでも不審な行動をすれば、エリノラ姉さんに転移のことがバレてしまうかもしれない。

 

 ここは気を引き締めて、自然体でいるべきだ。

 

「ゴホン!……あ~、お腹空いたな~」

 

 とりあえず頭の中を空にし、晩御飯のことを考えることにした。

 

 

 

 

 

 やがて屋敷の門が見えてきた。冬だというのに、じんわりと浮かんでくる手汗を袖で拭い、一度深呼吸をする。

 

「……大丈夫だ。俺ならエリノラ姉さんを騙し通……俺の魔法ならエリノラ姉さんを騙し通せる!」

 

 そういえば自分が白を切ったり、演技をしたりすると決まってバレていたことを思い出し、自分の演技力ではなく自分の魔法の腕を信じることにした。

 さて、ここからが本番──

 

「──から、アルがまた変な魔法を使ったのよ!」

 

 と、突然屋敷の方から怒りを孕んだ声が聞こえてきた。

 目を凝らすと、玄関にノルド父さん、エルナ母さん、エリノラ姉さん、ムキ……ではないシルヴィオ兄さんが集まっていた。

 どうやら運悪く、ノルド父さんたちの帰宅に重なってしまったようだ。

 

「エリノラ、変な魔法だけじゃ何も伝わらないわよ」

「だからこう……体を一瞬で塵に変えるみたいな……」

「えらく物騒ね」

 

 まだエリノラ姉さんは転移魔法にたどり着いていないようだ。というか、物騒な発想だな。

 どうしよう、一度出直すか?

 ……いや、ここで決着をつけてしまおう。まだエルナ母さんも事態を把握していないみたいだし、早い段階で土人形のイメージを植え付けてしまうのが得策だ。

 

「ただいま。みんな玄関で何してるの?」

「おかえり、アル。エリノラがアルの新しい魔法の話をしてると思うんだけど……」

 

 俺の帰宅にいち早く気付いていたノルド父さんが答える。するとようやく俺が帰ってきたことに気付いたのか、エリノラ姉さんがすごい剣幕で詰め寄ってきた。

 

「アル!さっさと昼間の魔法を見せなさい!目の前で私の前から消えた方法と理由を答えるのよ!」

「えっと……今日はお昼ご飯を食べたあとはずっと山奥の拠点にいたけど……あ!」

 

 困惑した表情を見せた上で、ふと思いつく。そして少しだけ苦笑い。

 これによって、周りからは『あ~、あのことか……』と考えているように見えるだろう。

 ここまでは想定通り。ここからは腕の見せ所だ。

 

「……エリノラ姉さんには秘密にしていたけど、実は俺は双子なんだ」

「えっ!そうなの!?」

「エリノラ、何騙されてるのよ。あなたアルの出産に立ち会っていたじゃない」

「そ、そうね。ちょっと驚いただけよ……」

 

 それは騙されたというのではないだろうか。

 

「いやいや、ホントだよ。みんなに紹介するね。僕の双子の兄弟、土フリートだよ」

 

 すると僕の後ろからひょっこりと土フリートが顔を覗かせる。ノルド父さんは一瞬で何かに納得し、エルナ母さんは顔をしかめた後に感心、エリノラ姉さんとシルヴィオ兄さんは口を開けたまま固まってしまった。

 どうやらノルド父さんとエルナ母さんには正体がバレてしまっているらしいが、エリノラ姉さんとシルヴィオ兄さんにはまだバレていないようだ。

 これは……勝ったな。

 

「ほら、みんなに挨拶して」

『はじめまして、土フリート=スロウレットです。今までは離れて暮らしていたけど、今日から一緒に屋敷に住むことになりました。これからよろしくね、エリノラ姉さん、シルヴィオ兄さん』

「え、えっと……よろしくね?ツチフリート君……?」

「あ……え?よろしく?」

 

 風魔法で吹き替え……というか、自分の声をそのまま流すと本物そっくりだ。よく見ればガラス玉の目玉に気付けるけど……初見じゃ難しいかな?

 シルヴィオ兄さんは戸惑いながらも土フリートと握手してるし、エリノラ姉さんは俺の顔と土フリートを交互に見ている。

 

「あはは……それにしても凄い出来だね。土魔法かな?」

「土魔法で体を作ってサイキックでその表面に色付きの粘土、それに風魔法で声も作ってるわね。相変わらず器用なことするわ」

「あ、ばれちゃった?」

 

 エルナ母さんが解説すると、二人は同時にエルナ母さんを振り向き、もう一度土フリートを見た。

 そこでようやく気付いたのか、シルヴィオ兄さんは苦笑いを浮かべる。エリノラ姉さんはまだ口が開いたままだ。

 おいおい、女子がしていい顔じゃないよ。

 

「多分、午前中に練習していた土人形が部屋に残ったままだったんだね。独立して動かす練習をしていたから魔法を解除するのを忘れると、そのままになるんだ」

「エリノラが部屋に入った時に魔法が解けたのね。土魔法で作った土が消えたのはわかるけど、色付きの粘土はどうしたの?その場に残るならエリノラでも気づいたでしょ?」

「おもちゃ箱の中に移動する魔法の上からサイキックをしたんだよ。込めた魔力が霧散すると自動で片付けられるんだ。後片付けは面倒くさいからね」

「ふ~ん……」

 

 そう言うとエルナ母さんは自分の手の中で魔力を練り始めた。

 エルナ母さんからこう聞かれるのも予想通り。さっき試しにやってできたから、技術的には嘘は言っていない。

 

 やがて納得したのか、エルナ母さんは頷いて魔力を戻した。

 

 肝心のエリノラ姉さんはというと、未だに土フリートの顔を覗いていた。

 ……嫌な予感がする。ここは別のものに気を逸らすべきだな。

 

「今日は自分以外の土人形を作る練習をしていたんだ。ほら、みんなの分もあるよ」

 

 魔力を込めて土人形を作っていく。同時に4体の土人形が出来上がる様はなかなか見ごたえがある。

 

「これは……すごいね」

「あら、いいじゃない」

「えっと、アル?僕のだけ変なんだけど?」

「……」

 

 みんながみんな反応を見せる中、エリノラ姉さんは土ノラ姉さんをチラリと一瞥した後、また土フリートの顔を見続けた。

 

「あ、あとはサーラ達やバルトロ、ルンバに村のみんなも作れるようになったんだ」

 

 目の前でドンドンと土人形を作っていくが、エリノラ姉さんは土フリートを見続けていた。

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