転移して田舎でスローライフをおくれない   作:やません

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6 魔物討伐

 土人形騒動から一夜明け、俺の元には平穏な日常が戻って……は来なかった。

 

「………………」

「………………」

 

 その理由は単純明快。さっきから僅かに空いたドアの隙間から覗いているエリノラ姉さんのせいだ。

 あの日、エリノラ姉さんが家族の間に広めた不信感はその日の内に霧散した。しかし、俺が転移する瞬間を見ていたエリノラ姉さんの不信感だけはまだ消えてはいないようだ。

 

 その結果がこれだ。このままでは折角の転移魔法や亜空間魔法が使えず、今までの便利な生活を手放すことになってしまう。

 その上、もしうっかり目の前で転移してしまおうものなら、今度こそ言い逃れができない。そのプレッシャーも地味に効いてくる。

 

 これは……即急に対応しなくては。

 

「エリノラ姉さん、そんな所にいられると気が散るし、寒いんだけど」

「!?」

 

 そう言うとエリノラ姉さんは「やばい、バレた!」とでも言わんばかりの速度で逃げていく。しかし、いつの間にか戻ってきているのでその繰り返しだ。

 どうにかならんものか……

 

 

●●●●●

 

 

「どうしたものかしら……」

 

 私はリビングでひとり、ため息をついた。

 

 昨日のことを今でも思い出す。

 昼すぎ、弟を稽古に付き合わせるために部屋を訪れると、ベッドの上にいたアルがいきなり姿を消した。

 ものすごいスピードで移動したとか、そんなやわなものじゃない。まるで時を止めた中を自由に移動したみたいに、一瞬で目の前から消えたのだ。

 

 私はその時のことを家族に伝えたが、当の本人のアルは不細工な土人形と見間違えたのだろうと言う。

 

 あんな土塊と弟を見間違えるはずがないし、あの時ベッドの上で見せた驚いた顔は、どう考えても土で再現できるようなものじゃなかった。

 

 魔物のせいじゃない、土人形でもない。だとすれば、それはアルが秘密にしている魔法のはず。

 だけど、その存在を家族は信じていない。

 

 私にしか、できない。

 

「絶対に私が暴いてみせるわ……!」

 

 ……と言ったものの、今の所何も手がかりは掴めていない。

 弟は明らかに私のことを警戒しているし、コッソリ覗こうとしてもすぐに見つかってしまう。

 

 そもそも、コソコソとするのは私の性分に合っていないのよ。本来の私のスタンスは見つかる前に叩き潰す。今まではこれで済んでいた。

 だけど今回はそれが通用しない。叩き潰してもアルが白状するとは思えないし、現場を取り押さえるためには今の私では能力不足、父さんなら気配を完全に消せるけど父さんはアルを信じているし……

 

 たしか今の状況を……ドンドン巡りって言うのよね。

 どうしたものかしら……

 

「……そうだ!父さんに隠密を教えてもらえばいいのよ!」

 

 父さんが協力してくれないなら、父さんから学んで私が実践すればいい。簡単なことだった。

 それに隠密には興味はないが、隠密について学べば隠れている敵の考えも学べる。それは最終的に私の力となることは確実だ。

 

 そうと決まれば父さんに頼みに行こう。

 私は部屋を飛び出し、父さんの執務室に向かった。

 

 

●●●●●

 

 

「くくく……コイツの出番が来たようだな……」

 

 ローガンの協力のもと、ようやく完成した例のブツを手にし、俺は笑みを浮かべる。

 ローガンには「何に使うんだ?」と訝しげな目で見られたが、そのうちわかるとだけ伝えておいた。

 

 まあ、無理もない。こんな物を村の中で使ったら、あまりの威力でひとたまりもないだろう。試運転は誰もいない森の中の拠点で行うことにする。

 ……いや、ルンバあたりに使ってみるのもいいかもしれないな。少なくともいきなりエリノラ姉さんに使う前に、威力を試しておきたい。

 

 それにしても、やっぱり重いな。6歳児が扱うには大きすぎたか……?でも、これくらい大きくないと火力が出ないし、何より多人数を相手にする時は心もとない。

 

「まあいい。どうせ俺が使うのは1回か2回きりだし、魔法を併用すればなんとでもなる」

 

 そう言うと俺は、ソイツをサイキックで浮かべ、屋敷へと歩を進めた。

 鉄でできたソイツは、冬に素手で持つには冷たすぎた。

 

 

●●●●●

 

 

 父さんの執務室に向かった私だが、今は村から離れた山奥にいる。

 

「隠密を学びたい?……じゃあ、魔物退治に行こうよ」

 

 父さんいわく、取っ掛かりは訓練ではなく実戦のほうが得やすいらしい。

 今回の獲物はゴブリンと雪兎だ。冬になると餌を探しにゴブリンが人里に降りてきてしまうので、定期的に駆除する必要がある。雪兎は普段狩らないが、晩御飯にでもするのだろうか。

 

 しばらく進むと、雪をかき分けるゴブリンが目についた。手には棍棒が握られ、背の低い草を叩いてきのみがないか探しているようだ。

 ノルド父さんが足を止め、ハンドサインを送ってくる。

 

(まずは、ゴブリンに気付かれないように仕留めてみなさい)

(わかったわ!)

 

 足音を消して、ゴブリンの後ろから近付く。雪の中での歩行術はすでにマスターしているので、足をとられることなく近付くことができた。

 そのまま茂みに頭を突っ込んでいるゴブリンの首を刎ねる。頭を置き去りにして体だけが雪の中に沈んだ。

 

「よくできたね」

「ふん、当然よ」

 

 いつの間にか近付いてきたノルド父さんが拍手をする。その後ろには足跡一つない雪が広がっている。

 ……今度教えてもらおうかしら。

 ゴブリンの死体を火魔法で焼き払い、後処理を行いながらそう考える。

 

「次はあっちにいる雪兎を仕留めてみなさい」

「……わかったわ」

 

 ノルド父さんが指差した方向を見てみるが、雪兎は見当たらない。僅かに気配はするが、近付いてみないとわからないだろう。

 気配を探りながら自分の気配を消して移動する。なるほど、これはいい訓練になりそうね。

 

 ゴブリンの時よりも集中して気配を消し、ノルド父さんが指差した方向に進む。近付くに連れて気配が鮮明になり、やがて雪の中で蠢く小さな塊が見えた。

 どうやらちょうど反対側を向いているらしく、スライムのようなまん丸のお尻がフリフリと揺れているのが見える。

 ……雪兎って捕れたてが一番美味しいのよね。ステーキもいいけど、やっぱりシチューがいいわ。カレーに入れるのもいいかもしれないわね。

 

「……あ」

 

 なんて考えていると、雪兎は突然こちらを向き、文字通り脱兎のごとく逃げ出した。急いで追いかけようとしたが、既に雪兎は地面の穴に潜ってしまっている。

 

「おしかったね」

「今のはちょっと……油断しただけよ」

 

 するといつの間に回り込んだのか、先程の兎を捕まえたノルド父さんがやってくる。脳を揺すぶられたのか、兎は外傷もなく、舌を出して気絶していた。

 その姿に実力の差を感じ、思わず言い訳をしてしまう。その心境を見透かしたように、ノルド父さんは乾いた笑いを浮かべた。

 

「ちょっと休憩しようか。火を起こしてくれるかい?」

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