転移して田舎でスローライフをおくれない   作:やません

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7 狩る者・狩られる者・振るう者

 パチパチと脂が炎で弾ける音がする。内蔵を抜かれた兎肉は枝を刺され、炎に炙られている。

 肉が焼けるまでは生姜を溶かしたお湯を飲んでいる。金属製のコップがかじかんだ指先を温めてくれる。

 

「さて、ゴブリンには気付かれなかったけど、雪兎には気付かれた。この違いがわかるかい?」

 

 ノルド父さんが兎肉の焼き加減を調節しながら質問してくる。

 

「……耳の大きさ?」

「ははは、感知能力の違いも気付かれた理由の一つだね」

 

 笑いながらも次の回答を促してくる。今の答えは正解ではないらしい。

 それ以外だと……あの時、美味しそうと思いながら近付いていたわね。

 ……さすがに美味しさは関係ないと思うけど。

 

「美味しさ?」

「お、なかなか良い所に気がつくね」

「え、合ってたの!?」

 

 まさか、隠密とお肉の美味しさに関係があるなんて……

 もしかして、アルって美味しいのかしら……?

 

「正解は捕食者と被捕食者の違いだね。ゴブリンは狩る側だからエリノラの気配に鈍感だったけど、雪兎は狩られる側だからエリノラの殺気に気付けたんだ」

「な、なるほど……」

「まあ、ゴブリンの場合は群れで行動するから、はぐれのゴブリンだと警戒が薄いってのもあるけどね」

 

 つまり……どういうことかしら?

 

「……エリノラは上段の攻撃をどうやって受け止める?」

「剣を横に構えて受け止めるか、横方向にインパクトをずらす」

「じゃあ、雪兎が周囲を警戒していたら?」

「視界から逃れるか、遮蔽物に隠れながら近付く?」

「そう。つまるところ、相手の行動に対策をすればいいんだ。雪兎の察知能力を観察して、それに対する行動を気付かれる前にできるようになれば隠密能力を鍛えられるんだよ」

「……なるほど、そういうことね!」

 

 相手の行動を先読みして、気付かれないように移動する。そして背後に忍び寄って首を掻き切る。なるほど、暗殺の技術はそうやって鍛え……

 

「……ちょっとまって。これ、暗殺術の訓練方法じゃない?」

「え、違うのかい?」

 

 よく考えれば、私がほしいのはアルに気付かれずにアルの動きを観察できる隠密の技術だ。無理に近付いたりする必要はない。

 

「あはは……そのうち、エリノラにも暗殺術を教えようと考えていたから、早とちりしちゃったよ」

「私には暗殺とか向いてないわよ。それよりも、斥候みたいな誰にも気付かれずに行動できる技術を……」

「それこそ、エリノラに向いていないんじゃないかな……」

「む……」

 

 その後はノルド父さんに暗殺技術を教わりながら訓練を行い、帰る頃には雪兎に気付かれることなく狩れるようになった。

 まあ、暗殺と隠密って似たようなところがあるし、無駄じゃなかったわね。

 

 あとはこの技術でアルの秘密を……

 

 

●●●●●

 

「も、もうだめだ……」

 

 俺の目の前には地面に倒れたルンバがいた。俺が新兵器の試運転をしたいと伝えた時には余裕そうに笑みを浮かべていたが、今ではそれも嘘のように消え、苦しそうに呻いている。

 それもそうだろう。新兵器の威力を喰らい続けて、そうならないほうがおかしい。

 

 それにしても、かなり耐えたな。前から化物みたいな体力をしていると思っていたが、まさかここまでとは……

 この反応なら問題なくエリノラ姉さんを屠れるだろう。ノルド父さんは無理でも、エルナ母さんなら余裕でいけそうだ。

 

(まったく、とんでもない現代知識を輸入してしまったな)

 

 いままでリバーシやコマなど、人々の生活に影響を与えてきた前世の現代知識だが、今回のものは洒落にならない。何枚もの金貨が動く上、様々な文化を侵略してしまうだろう。

 

「さて、それじゃあ帰るとするよ」

「ま、待ってくれ、アル……!」

 

 去ろうとする俺をルンバが引きとどめる。起き上がろうとしているが、あの様子じゃ無理そうだ。

 

「薬なら棚の中にあるから、好きに使っていいよ」

「いや、それは大丈夫だ。30分もすれば動けるようになる……」

(化物かよ……)

「そ、それよりもだ……!」

 

 ルンバが懇願するような顔を見せる。まさか……まだ戦うつもりか?

 

「た、頼む……俺の、俺の──」

 

 

 

 

 

 

「晩飯も作り置きしておいてくれ……!」

「まだ食べるの……?さすがに心配なんだけど」

 

 俺は中華鍋をサイキックで浮かべ、ため息をついた。

 食材に万遍なく火を通し、一度にたくさんの食材を高火力で調理できる夢のアイテム、中華鍋。

 今まではルンバの食べるスピードに調理速度が追いついていなかったが、これならそれに追いつける。

 

 現に、俺のパラパラ炒飯を腹一杯に詰めて動けなくなっている。

 一応食い過ぎの薬は用意しているが、その心配はないようで、苦しそうな笑顔を浮かべていた。

 

 今まで作れなかった料理にも挑戦できるし、クオリティも爆上がり。調理中には強烈な香りが腹を鳴らし、音すらも美味しそうに聞こえる。

 

 そう、俺が考えた作戦とは『俺の魔法よりも料理の方に興味を向かせよう作戦』だ。

 中華鍋は作れる料理も魅力的だが、調理方法も豪快で目立つ。調理の香りと音は屋敷中に広がるだろうし、ハラペコで単純なエリノラ姉さんのことだ、僕のことなんか忘れて料理に飛びつくだろう。

 

「あとはバルトロに使い方といくつかの料理を教えれば……くくく……」

「こ、この料理って村の食堂でも食えるようになるのか……?」

「え、ああ。うちで効果を実証できたら村でも広めるよ。セリアさんならこの中華鍋も使えるだろうし」

 

 ……技術的な面と腕力的な面の両方の意味でね。

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