それからルンバの晩飯を作り置きし、屋敷に帰ってきた。
……エリノラ姉さんの靴がない。どうやらエリノラ姉さんはまだ帰ってきていないようだし、今のうちにバルトロに使い方を教えよう。
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ふふふ……どうやら気付かれていないようね。
魔物退治を早めに切り上げて、潜伏しておいた甲斐があったわ。
私に見られているとも知らずに、アルは呑気に廊下を歩いている。時たま振り返ったり、周囲を見渡したり、耳を済ませているようだけど、そんなんじゃ見つからないわよ。
……にしても、雪兎と同じくらい警戒心が強いわね。屋敷の中で何を警戒しているのかしら。
あと、アルの横に浮かんでいる黒いのは何かしら?
盾……にしても持ち手が変なところにあるし、新しい玩具かもしれないわね。
アルが進むと同時に私も追いかける。やがてアルは厨房に入っていった。
「ん、どうした坊主……って、なんだそりゃ」
「中華鍋だよ。新しい調理道具で、一度に大量の食材を調理できるんだ」
「へ~、なるほど。熱伝導が高い素材で作られているな。全く新しい料理にも挑戦できそうだ」
どうやら、あの黒いのは鍋らしい。前に使った土鍋よりもずいぶんと大きくて扱いづらそうだ。
けれど、頭の中であの黒い鍋で食べる鍋料理を考えると、不思議とおなかが空いてくる。
「これだけで焼き、炒め、揚げ、煮、蒸し、スープ、煎り、焚き、再炒め……いろんな調理方法に使えるんだ」
「……ちょっと貸してくれ」
「いいよ。あ、使う前にじっくりと油を十分に加熱する必要があって……」
するとバルトロが野菜を炒め始めた。一瞬「野菜か……」と残念に思ったが、味噌を入れた瞬間厨房に強烈な味噌の香りが充満した。
ぐ……なんていい匂いなの……!
「よし、にんじんとキャベツだけの野菜味噌炒めだ!」
「わ~、中華鍋で作るとまた一段とすごいね」
「ちょっと振り方と混ぜ方にコツがいるが、使いこなせれば一段と調理が楽になるな。さて、さっそく味見を……」
グ~~~……
「「「……」」」
厨房に腹の音が鳴り響く。アルとバルトロが目を見合わせ、ゆっくりとこちらに視線を動かす。
天井に張り付いていた私と二人の目が合った。
玄関からここまで、アルに気付かれないように移動してきたけど、まさかおなかの音でばれるなんて……
「……エリノラ姉さん、何してるの?」
「こ、これは……訓練よ!」
「あ~なんだ、嬢ちゃんも食うか?」
私が言い訳すると、バルトロが味噌炒めを私に差し出してきた。
肉なしの野菜炒めだったが、かなり美味しかった。