約5年ぶりに連載再開です。
それから簡単に朝食を済ませると、インターフォンが鳴り響いた。お父さんや新一と一緒に玄関へ向かうと、その先で、紙袋を抱えた阿笠博士が佇んでいる。
「おはよう。新一君。蘭君。朝早くからすまないが、今後のことを話し合おう。あれから徹夜で作ったプレゼントもある」
「プレゼントって……」
そう呟きながら、私は博士が抱えていた紙袋を見上げた。博士は、そのまま居間まで足を踏み入れる。
居間にあるテーブルの前に博士が腰かけると、その右隣に、お父さんも座った。
そんなお父さんたちの前に、新一と並んで座り、四人でテーブルを囲む。
まず、博士は自分が抱えていた紙袋を開け、中から何かを取り出し、私と新一の前にそれぞれ置いた。
レンズの大きな黒縁メガネのように見える。
「話し合いの前に、ふたりにプレゼントじゃ。素顔で出歩くと、正体がバレるかもしれんからな。これで簡単に変装すると良い。もちろん、度は入っておらんよ」
「ありがとうございます」と博士に頭をさげて、目の前に置かれたメガネをかけてみる。
メガネなんて、かけたことがないから、新鮮な気分がする。
なぜか、心がウキウキとしてきて、私は隣に座る新一に視線を向けた。
私と同じメガネをかけている新一は、ジト目で博士を見つめている。
「博士、これ、ただのメガネじゃないだろ?」
「流石じゃな。左のフレームのボタンを押せば、アンテナが伸びて、発信器を追跡できる。また、特殊な音波で鼓膜を刺激して、メガネをかけたままで盗聴することもできるんじゃ!」
「なるほどな」と新一が呟くと、博士は両手を叩いた。
「さて、そろそろ今後のことを話し合おう。まずは、どこに住むのかじゃな」
「えっ、私、小さくなる前みたいに、ここに住むつもりだった」
最初の議題に、私は驚いた。すると、博士は優しく微笑む。
「蘭君。キミの遺体が見つからなかったことは、いずれ、あの黒ずくめの男たちにもバレる。そうなったら、真っ先に疑われるのは、この家に出入りする人間じゃ。キミが薬を飲まされた直後に、毛利君が小学生の女の子と一緒に住みだしたと知ったら、すぐに疑われるじゃろう。そして、最悪、正体がバレて、命を狙われるかもしれん。辛いかもしれんが、ここに住むわけにはいかないんじゃ」
「はぁ」と溜息が漏れ、涙が溢れてくる。
私の所為で、家族がバラバラになるんだ。
今日からお父さんは一人になる。そう思うと、寂しくなる。
そんな気持ちを察したのか、新一は私の隣で慌てたような顔になった。
「蘭、泣くなって。元の姿に戻ったら、また一緒に暮らせばいいんだ」
「うん。そうだね」
流れ落ちる涙を指で拭う。
その間に、博士はジッとお父さんと顔を合わせた。
「そこで、ふたりをわしの家で預かろうと思うんじゃ」
「そうだな。ここは、事情を知っていて、信頼できる大人と暮らした方が良い。この家ではダメだって言うんなら、そうするしかないな。博士、蘭のことを頼む」
博士の家で新一と暮らすことになった。
一瞬で結論が出て、面食らいながら、隣を見ると、顔を赤くした新一がボーっと私の顔を見ている。
「新一、今、変な想像したでしょ?」
「そんなわけないだろ!」と新一はなぜか慌てて、両手を左右に振った。
「次はお互いの呼び方だな。いつもと同じように、名前で呼びあってたら、すぐに正体がバレる」
顎に手を置くお父さんの隣で、博士が頷く。
「そうじゃな。ここは別人を装った方が良い。この場で新しい名前を考えよう」
「つまり、偽名を考えろってことか?」
新一の声に博士が頷く。
「そうじゃ。なるべく身元を特定されにくいものが良い」
「うーん。いきなり偽名を考えろって言われても……」
どう考えたらいいのか、分からず、私は首を傾げた。そんな私の隣で、新一は首を縦に動かす。
「蘭、そんなに難しく考えなくていいぜ。俺は江戸川コナンって名乗るつもりだ」
「ああ、分かった。江戸川コナンくんじゃな?」
「ああ。蘭。俺みたいに好きなことから考えれば良いから」
「……聡……美?」
不意に浮かんだ名前を口にすると、お父さんたちが首を捻った。
「聡美。いい名前だ」
そんなお父さんの答えに、私は眉を顰めた。
「憧れてる前田聡選手の名前を拝借して、女の子っぽく美しいって漢字を合わせてみたんだけど、苗字は……佐倉……佐倉聡美にしようかな? よく分からないけど、佐倉って苗字が浮かんだから」
「江戸川コナン。佐倉聡美。今からこれが君達の名前じゃ。さて、最後は明日からの学校をどうするか?」
「そうだよね? こんな小学生みたいな体だと、高校にも通えないし」
博士の話に頷くと、博士はお父さんと顔を合わせた。
「毛利君。ここからはキミの協力が必要じゃ。急な話で申し訳ないが、無期限の休学届を提出してほしい。新一くんの方は、ワシが手続きするから」
「分かった。そういうことなら、任せてくれ」
「それと毛利君。もう一つ頼みがある。新一くんと協力して、この探偵事務所を有名にしてほしいのじゃ。そうしたら、黒ずくめの男の情報が入ってくるかもしれん」
そんな博士の頼みを聞き、お父さんは頭を掻きながら、視線を新一に向けた。
「あんまりお前のチカラは借りたくないが、蘭のためだ。協力してやる」
「ああ、分かった。よろしくな」
こうして、話し合いは終わった。
元の姿に戻るまで、長年暮らしたこの家を離れて暮らす。
それはとても寂しいことだけど、元の姿に戻ったら、すぐに元通りになる。
そんな希望を私は抱いた。
別に読み飛ばしても構わないあとがきコーナー!
約5年ぶりに最新話を投稿しました。
毛利蘭も新一と一緒に薬を飲まされて幼児化する話を考えるにあたって、最初の難関といっても過言ではない、毛利蘭の偽名問題。
感想で読者の方にヒントをいただきましたが、苗字が思いつかず、時間だけが過ぎていきました。(お仕事や他のサイトでの執筆活動で忙しかったからというのも休載理由なのだが……)
そして、2021年10月。悩み続けた偽名問題を解決し、連載を再開します!
投稿していたエピソードも納得できる内容に加筆修正しているので、第一話から読み直してほしいものです。