新一と一緒に   作:井沢晴明

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前回、偽名を決めたけれど、しばらくの間はふたりの正体を知っている人しか出てこないので、表記は今まで通りです。


第十二話 安心させたい

 体が小さくなってから初めての月曜日の夜、私は居候先の博士の家の受話器を取った。

 そこから聞こえてくるのは、お父さんの声。

 

「ちゃんと休学届、提出しておいた」

「うん、ありがとう」

「それと、放課後、事務所に園子が尋ねてきた。突然、蘭が休学したから、驚いて、事情を聞きに来たんだ」

「えっ」と驚き、私は目を丸くした。

「安心しろ。あの秘密は誰にも話してないからな。俺が伝えたかったのは、それだけだが、そっちの生活はどうだ?」

「ちゃんと自宅学習もしてるし、いつも通り、家事もやってるから」

「ああ、そうか。じゃあ、また連絡する」

 

 電話が切れると、私は受話器を握り締めたまま、溜息を吐き出した。

 そんな時、風呂から上がってきた新一が、濡れた髪をタオルで吹きながら、私がいるリビングに顔を出す。

 

「蘭、どうしたんだ?」

 心配そうに顔を覗き込まれると、私は首を縦に動かした。

 

「さっき、お父さんから電話があって、放課後、探偵事務所に園子が来たみたいなの。突然、休学した私のことを心配して、事情を聞きに来たんだって。まあ、私と新一が子どもになってることは、バラしてないから安心だけど……私、どうしたらいいんだろう? 私が生きていることが黒ずくめの男にバレたら、殺されるってことは分かってるけど、突然、親友がいなくなった園子の気持ちを考えたら、安心させたいって思うの。すごく心配してるみたいだから、直接会って、元気な姿を見せたいけど、今の姿だと、それもできない」

 

「蘭……」

「どうしよう。新一」

「じゃあ、手紙を書くのはどうだ? 筆跡は高校生だった頃の蘭と同じだったからな。それを読めば、園子も安心するはずだ。住所を探偵事務所にしとけば、俺たちが子どもになって博士の家に住んでるってこともバレないだろう」

「うーん。園子に手紙を送ったことがないから、逆に心配させちゃうかも。わざわざ手紙を書いたってことは、余程のことが起きてるんじゃないかって。例えば、難病に入院してるんじゃないかとか」

 

 

 ふたり揃って考え込むと、博士が私たちの元へ歩み寄った。

「何か悩んでるようじゃな?」

「あっ、博士も一緒に考えて。どうしたら、突然休学した私のことを心配している園子を安心させることができるのか」

 顔を上げて、白衣姿の博士の顔を見る。そのあとで博士は腰を落とし、私たちに視線を合わせた。

「そういうことなら、今、開発中の発明品が役に立つかもしれん」

「発明品って?」

「変声機じゃ。それを使えば、子どもから大人まで、ありとあやゆる声が出せる。もちろん、高校生の蘭くんの声もな」

「えっ!」と私は驚きの声を出した。そんな私の隣で、新一は首を縦に動かす。

「じゃあ、それを使って、電話すればいいんだ。もちろん、非通知にして」

 

「博士、いますぐそれをここに持ってきて!」

 真剣な表情で博士の顔を見つめる。だけど、博士は首を横に振り、両手を合わせた。

「悪いが、まだ開発中なんじゃ。一週間、いや、三日もあればできるから、待ってくれんかの? 出来上がったら、すぐに教えるから」

「……うん、分かった」と明るく答えてから、三日後の夕方、その発明品は出来上がった。

 

 リビングの机の前に、蝶ネクタイのような見た目の変声機が置かれ、私はそれを手に取る。

 一方で、私の前に座った博士は首を縦に動かした。

「いいか、蘭くん。その青いボタンを押したら、高校生だった頃の蘭くんの声が出せる。そして、ここに予め非通知設定にしておいたスマホがある。それを使って、電話するんじゃ」

 

「ありがとう。博士」

 言われるまま、ボタンを押して、声を出すと、高校生だった頃の私の声が発せられた。

 それから、すぐに電話番号を入力し、スマホを左耳に当てる。

 

 電話はツーコールで繋がり、蝶ネクタイ型の変声機を握り締めて、声を出す。

 

「もしもし、園子?」

「蘭! 蘭なの?」 

 スマホ越しに驚いた親友の声が聞こえてきて、私は頷いた。

「ごめんね。驚いたよね? 急に休学しちゃって」

「そうだよ。蘭。今、どこにいるの? 探偵事務所にもいないみたいだし……まさか、新一君と駆け落ち!」

「そっ、そんなんじゃないから!」

 動揺して顔が赤くなると、園子はクスっと笑った。

「その反応、ホントに蘭みたいね。まあ、いいわ。それで、どこで何やってるの? 新一君も休学してるから、どうせ、一緒にいるんでしょ? 」

「……ごめん、園子。今は何も言えないの。話せるようになったら、ちゃんと話すから」

 園子も危険なことに巻き込みたくない。そう思った瞬間、声が震えた。そんな私の心を察したのか、園子は私に優しく語り掛けてくる。

「よく分からないけど、ちゃんと待ってるから」

「うん、じゃあ、また連絡するね」

 

 「はぁ」と溜息を吐き出し、通話ボタンを切る。

 

 元の高校生の姿に戻って、いつも通り高校に通えるようになったら、休学中に何をしていたのかを伝えよう。

 そう決意した私は、変声機を机の上に置いた。

 

 

 

 

 

 

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