それから、私と新一は夜の街を走った。
服や靴がブカブカになっていて、走りにくい。
靴はすぐに脱げそうになるし、動こうとすると服がずり落ちそう。
体力も落ちているようで、今までなら何ともなかった距離を走っても、すぐに息切れを起こす。何度も歩いてきた道も、長く感じる。
「蘭。大丈夫か?」
隣を走る新一が心配そうな表情で私の顔を覗き込んでくる。
「うん。大丈夫。だけど、たったあれだけ走っただけでこんなに息が上がるなんて……」
「ああ。そうだな」と新一は私と同じように息切れを起こし、その場に立ち止まった。
すると、暗い空から雨がポツリを降り始める。
雨粒が小さな私の頭の上に落ちると、私は新一の小さな手を繋ぎ、近くに見えた商店街の軒下に入った。
シャッターが閉まり、誰もいない商店の下で新一は私の前で頭を下げた。
「ごめんな。蘭。こんなことに巻き込んで」
謝ろうとする新一に対して、私は優しく微笑む。
「いいよ。私が勝手に追いかけたのが原因だから。ところで、あの場所で何があったの? あの黒ずくめの男たちは何者?」
私が尋ねると、新一は頭から血を流した私の顔に視線を向けた。
「あの場所でサングラスを付けた黒ずくめの男と社長みたいな男が拳銃密輸の証拠フィルムを取引していた。その証拠を押さえようとしたら、背後から長髪の男に殴られたんだ。あの時は驚いたぜ。蘭が突然現れたから……」
一方、私は怪我を負った頭に触れながら、記憶を手繰り寄せた。
「あの時、私は新一のことが心配になって追いかけたの。それで新一に近づく銀髪の男に気が付いて、思わず叫んだら、私も見つかってあの男に殴られた。でも、なんで、私たち、小さくなってるの?」
「うーん」と唸りながら、新一は何重にも袖を折り曲げて出した自分の小さな両手を見つめた。
黒ずくめの男に殴られた後……
必死に思い出そうとすると、黒ずくめの男の声が頭に蘇る。
『組織が開発した毒薬だ』
冷酷な目をした男が、意識が朦朧としている私の口にカプセルの薬を押し込む。
それから、私はカプセルを飲み込むまで大量の液体を無理矢理飲まされた。
今まで体験したことがないような高熱と骨が溶けるような感覚に襲われて、気がついたら、体が小さくなっていた。
断片的な記憶が蘇り、私と新一は血で汚れた互いの顔を見合わせる。
「新一。もしかしてあの薬を飲んだから……」
「体が縮んだのかもな」
今の私たちには答えが分からない。でも、これ以外の原因は思いつかなかった。
「本当に逃げて良かったの? あのまま医務室で手当てを受けて、保護してくれた警察の人に事情を話した方が……」
不意に浮かんだ疑問を口にすると、新一はなぜか首を横に振った。
「いや、これで良かったんだ。子供の言うことなんて信じてくれないかもしれないからな」
「だったら、これからどうするの?」
「とりあえず、俺の家に行く。ここからだと蘭の家は遠いし、俺たちの体力は落ちているから、長距離を歩けば、疲れて、街中で倒れてしまうかもしれない。それに、あの薬を飲まされてから、汗をいっぱい掻いたし、雨も降ってきて、体も冷えてきている。このままだと風邪をひくかもしれないからな。ここは俺の家で汗をシャワーで洗い流して、着替えた方がいい。幸い、俺の家には、今の俺たちの体にピッタリな子供服があるから、それに着替えれば、今のブカブカな服よりも動きやすくなる。それから、その頭の傷を手当して、元の姿に戻る方法を考えるつもりだ」
「分かった」
私は小さく頷き、新一の意見に賛同する。
やっぱり、新一はいざという時、頼りになる。
突然、小さくなって、不安な私のことを真剣に考えてくれているんだ。
雨が少しずつ弱くなり、私たちはブカブカになったフードを被り、新一の家へと歩き始めた。
「そういえば、あの時、なんて言ったんだ?」
突然、小さな体で私の隣を歩く新一が尋ねてくる。その意図が分からず、私は首を傾げた。
「あの時って?」
「さっき、俺が毒で苦しんでた時に蘭の声が聞こえた気がしたんだ。確か、だ……って言ってたような……」
「だっ、だめって言おうとしたの」
慌てて新一の声を遮り、誤魔化す。それに対して、新一は腑に落ちないような表情で黙り込んだ。
大好き。
最期に伝えたかった言葉は、元の姿に戻るまで言えない。
そう誓った私は、真実を飲み込んだ。