いろんな職業のヤンデレつめあわせセット 作:ドシテ・ヤンデーレ?
「全くもう…どうしてあなたは倒れていたんですか?」
俺と聖女様が出会ったのは、本当に奇跡を重ねたものだろう。
村外れに倒れていた俺を介護していたらしく、彼女にははっきりとした疲労の色がみてとれた。
「わからない、としか」
彼女の言葉に対してこんな答えを返すのは今では考えられない。とはいえ、どんな身分だったかもわからないガキが返せた言葉としては上等だろう。
今よりはよほどそっけないしゃべり方だ。
「本当に、わからないのですか…?」
こちらに向けて驚きの表情を隠せない聖女様。ちらちらと輝く銀髪に、僅かに潤みだす青い瞳。彼女が何を考えていたのかは理解できなかったが、悲しんでいることは理解した。
「本当にわからない、かな…名前も覚えてない、し」
あとで聖女様から教えてもらった知識なのだが、記憶喪失なるものであったらしい。記憶を引きずり出すのも問題はないが、トラウマであるならわざわざ引き出して壊れさせる必要もなかったとのこと。
何を言っているのかはさっぱりわからなかった。
「なら、この村に住みませんか?その、名前とかは私がつけてあげますから」
目的も目標も何も忘れている俺に、旅をする選択なんてものは思いつかなかった。
「うん…よろしくおねがいします…」
「礼儀正しいですね…では、あなたの名前はギレイです」
「あなたの、名前は…?」
この頃の俺は恥ずかしいことに単語すらもあまり分からず、精々が聖女様の言葉を真似して言っているだけだった。最も、言葉足らずでも彼女は俺の意図をしっかりと読み取ったようだ。
「ええ、私の名前はメシアです。よろしくおねがいします、ギレイさん」
彼女に拾われて以降、俺はいろんなことを教えてもらって、それから…
「…おきてください。もう、さては休んでませんね?」
住んでいる教会の中。俺が尊敬している聖女様に起こされた。体は既に怠いが、起きれないほどではない。聖女様は肌艶もよく、なぜ同じ食事でここまで差が出るのか全くわからない。
「いや、そんなことは…ここ数日は充分に休んでますよ」
彼女には畑仕事から日々の生活に至るまで本当に助けられている。俺みたいなガキの流れ者が数年で馴染めるようになったのも彼女のお陰だ。
「そうであってもあなたの限界まで頑張ろうとする行動は危険なのです。数日と言えども体に染み付いた生活習慣は抜けませんからこういうときに少しづつ改善しないといけないんです……わかってるんでしょうか?」
澄まし顔でそう問い詰める聖女様だが、こちらに対してぐいぐいと近づけているのは無自覚なのだろうか。
かわいいけれどいろいろと目のやり場に困るからやめてもらいたいし、格好が完全に人を誘惑してるってことに気づいてほしい。
そんなことをこちらから言ってしまって聖女様に嫌われたら怖いからやれないけど。
「勉強まで教えてもらった上で村に役立つことをしているだけだ。…まあ、死んではないけど心配なら控えるよ」
「ん、今はそれでよいでしょう。ほら、こっちに来てください…福音を授けます」
聖女様はときどきこうやって福音を授けるとして優しく抱きしめてくれる。子どもとしてみられているだろうことなんだけど、柔らかな胸の感触と彼女が教えてくれるドクンドクンとよく跳ねる福音が気持ちよくてあらがえない。
「うふふ、神さまはいつも私たちのことを見守ってくださってますから…」
ぽんぽんと頭を撫でられつつ、何か祈りの言葉を言っている。聞こえないけれど彼女のことだしなんかいい言葉をなんだろう。しばらくすると終わったらしく体を起こしてくれた。
「あなたに神の祝福があらんことを」
「…ん、ありがとう。行ってくる…」
気恥ずかしくなった俺は、小走りで教会を出ていった。
聖女様に拾われる、なんて素敵な経験をしているが本当に夢のようだろう。前の記憶が戻ったとしてもこの村からは離れたくないと感じるような次元だ。
(というか、もとの俺はどこから来たんだろうか)
考えてみるとおかしな話だ。聖女様から教えてもらった地図としてかなり辺境だった。まあ、少なくともここに来るとしたら逃げるとかの負のイメージの方が大きい。
あるいは、もしかしていいところのお坊ちゃんだったのかもしれんが。
昔の夢を見てしまったからか、彼女に助けられる前の自分の境遇を考えてしまう。
「どうしましたか、ギレイさーん」
「あ、悪い。ちょっと考えごとしちまってた」
少し農作業の手が遅れていることを後輩に指摘されたので慌てて速める。麦の収穫なんて急がないと害虫が出るからな、終わらせるのを速めるに越したことはない。
とはいえ、集中してやればまだ終われる範囲だ。
「さて、と…このあと話したいことがあんだっけ?」
「そうでーす!忘れないで来てくださいねー!」
会話をし過ぎると作業がさらに進まないのですぐにきり上げ、草刈り鎌を麦に当てた。
「…そんで、話はなんだ?」
麦刈りも終わった夕方の暮れ。よほどのことがない限り話すことはしない後輩からの呼び出し。なにがおきるかはわからないから逃げる準備はしておく。
「えーっと、その、あの…」
もじもじとして顔を赤らめつつこちらを見やってくるのはいったいなぜなのだろうか。特に伝えたいこともないなら速く帰りたい。まあ、用事が終わらなさそうなのは困るが。
「私と付き合ってください!」
…どうしようもなく答えられないタイプの用事だったか。俺はあらかじめ言えるようにしていた言葉をすらすら口に出す。
「俺は聖女様一筋なんで無理だな」
「あ、あの、そっちじゃなくてですね…!」
あわあわとぱくぱくしながら後輩はたどたどしく言いたいことを口にする。
「その、もうそろそろ税を運ぶ季節になるので…案内役、です!」
「そういうことか。あーまあ、確かに俺と聖女様しか首都に行ってないからな」
なぜここまでこちらに対して緊張していたのかは定かではないけど、それなら全然ついて行ったのに。…こんなに覚悟を決めて言う必要あったのか?
「でも今年も任せてもらっても構わないんだぜ?」
「聖女様とギレイさんに任せっきりですと、その…もし倒れた時に納税が間に合わなくなるかもしれませんから!なので今のうちに学びたいんです!」
「わかった、わかったからまず離れてくれ!」
説教中の聖女様もかくやと言わんばかりに顔を近づけてくる後輩をつき離し、了承の意を返す。
「わかりました!2週間後には出発したいのでお願いします!」
「…はぁ」
とりあえず聖女様に帰ったら話さないといけないな。
俺は教会に戻るといい匂いが鼻の辺りをくすぐる。どうやら今日は後輩と話して遅くなっていたからか、もう夕食は作り終わっていたみたいだ。
「あ、お帰りなさいあなた。…麦刈りは腰を痛めると言いますからね、ずっとやっているからと油断をしないでください」
「ただいま。ごめん、帰るの遅れちゃって」
「大丈夫ですよ、私も準備をしなくてはならなかったのでお互いさまです」
「準備?」
「話すと長くなるのでまずは食べましょうか」
腹も減ったことだし、彼女の言葉に従って席に着く。
「はい、どうぞ」
聖女様曰く、これが食べ方の最低限のマナーらしいが…正直言って食べづらいことこの上ない。貴族様の場合とはまた訳が違うらしいけど…
そんなことを考えつつ、俺は彼女の
「どうですか?」
「いつもと同じでおいしいよ」
「それはよかったです。私にもお願いします」
食事が終わるのはだいぶ後になりそうだなぁ…ま、聖女様が嬉しそうだしいっか…
「お粗末さまでした。それで、話というのは…?」
「その、もうそろそろ納税しに都に行かないと駄目だろ?いつも俺たち二人だけだから他のやつにも道ぐらいは教えた方がいいんじゃないか?それで俺ともう一人で行きたい、ってところなんだが…」
後輩からの話ではあったが、行き方を知っているのが二人しかいないのも問題だろう。
「そう、ですね…今度行くときに地図を作りましょうか。悪いですけれど、その方を連れていきますと旅費もかさみますし縁がなかったということで」
「確かにな…」
聖女様の言うことは最もである。自費でいくのも含めて馬鹿にならないし、やっぱり2人以上は無理か。
「ところでなんですけど」
「どうしました聖女様」
「せめて名前で呼んでください。
「いやまあ、あまりにも聖女様がかわいかったから…」
「ほら、またそうやって私の名前を呼んでくれませんし!昔はちゃんと私の名前を呼んでくれましたのに…もしかして、やはり嫌いになってしまったのでしょうか?」
「違います違います!おちついて…」
体を抱きしめると落ちついたようで深呼吸をする。最近はもう聖女様として見ないと何か危険な気配がしてならない。
「すーはーすーはー…くんかくんか…」
「大丈夫ですか?メシアさん」
「はい…ええ、おちつきました…とはいえ夜も更けていますしもう寝ましょうか。その人と詳しいことを話したいので明日にでも呼んでください」
「ん、わかった…」
しょぼしょぼとする目をこすり、聖女様を抱きかかえる。お姫様だっこで運ばないといけないそうだ。
「ありがとうございます…」
「気にしなくていいです…ちゃんと私の言ったことを覚えているのはいいことです」
そのまま彼女をベッドに横たわせ、俺もその隣のベッドで寝る。そのまま眠りについたのになんでだろうか、視界の端に光のない聖女様が見えた気がした。
「…よしよしちゃんと眠りましたね」
「本当はあなたのことを教会に閉じ込めたかったんですけど…想像以上のがんばりやさんでビックリしちゃいました。まさかここまで村に馴染むとは思いませんでしたし」
「もちろん、私のことが大好きなこともわかってますけど…私は一目惚れしましたからね?」
「ちゃあんと嘘のマナーばっかり教えちゃいましたから、もう私以外とは生活しちゃだめだめのおバカさんです♡」
「夜のお世話の方もたぁっぷりしてあげてますからね…抱きしめても大人しいのに、まさかああなるなんて…おっと、まだですよ…」
「…ふふ。なーんにも気づいていないあなたが愛おしくて愛おしくて…♡」
「さて、今日も…」
ヤンデレってなんだっけ…?