いろんな職業のヤンデレつめあわせセット 作:ドシテ・ヤンデーレ?
「今から犯人を証明しよう。助手、手伝ってくれるね?」
有無を言わせない口調。こちらを見つめるアメジストの目。全員から向けられる敵意の視線。
「もちろんですよ、探偵さん」
断る選択肢が思い浮かばない…というより、そもそも彼女に協力しようとは思っていたけど。
「というわけで…まず君が犯人、そして君の机の中にあった一つだけ傷がついている空のSDカードがデータの在り処だ」
…まず推理をしてほしかったなあ。僕が分からないふりをして説明をさせないと。
ことの発端は所長がデータを研究室で無くしたことだった。それだけならまだよかったのだけれど、問題はそのデータが機密情報だったことだ。所長含め全員が帰宅禁止命令をだされた。
帰れなくなってしまった会社の中、困った僕が呼んだのが先輩だった。
本名で呼ばれることを極端に嫌う先輩は、探偵事務所を営業している…とは、本人から聞いていたものの使うとは思えなかった。
高校時代の先輩である彼女が立ち上げた探偵事務所。もしかしたら…と、頼ったところまではいいとして。
「まさか君から連絡が来るとはね」
面白がられているのはなんでだろうか。こちら側ににっこりと笑っているのを見ると、どうやら怒っているわけではないようだけど。そんなに僕の不幸話が面白いのかなぁ?
「依頼は…」
「もちろん受けたさ。報酬も破格。しかし、まぁ……とりあえずこのあとは時間いっぱい整理しようか。なに、もう推理程度なら終わっている。君にもてなしてもらいたい」
「…それは詐欺になりますからちょっとどうかと思いますよ」
少しでもよいと思った方向に向かってつっ走る悪癖があるこの先輩に僕はつきっきりにならなければならない。2人きりの研究室で堂々とサボる宣言をする先輩に悪びれている様子もなく、寧ろ少し楽しそうにしている。
「まあまあ、そう言わないでくれよ。散見している推理なんて聞いてもつまらないだろう?」
そして推理が繋がった彼女の発言で冒頭に戻る、というわけだ。
「で、これでいいですかね?一応クライアントがどう思っているのかが重要なので」
「もちろん、データの流出がなければそれでいいのですよ、ええ。ただ、そういう、情報の流出さえなければ、はい」
あっさりとデータを盗んだ副所長を判明させた後、ぺこぺこする所長に対して彼女は言い放った。
「それじゃ、最初にボクが示していた通り、助手を貰うよ」
「どうぞどうぞ。正直いいますと、いい厄介払いができたようなもんですから、ええ。君の雇い主は、今日から、彼女になるので、はい。あとはお二人で話し合っていただければ、はい」
そそくさと退散していく所長さん。…もしかして僕、売られたのかな?もはや人権を無視しているのになぜに平然としていられるのか自分でも驚いている。
「とりあえずボクの探偵事務所に行こうか。君には整理する時間が必要なのだろう?」
こちらに優しい口調で語りかけてくれる先輩。こちらに対する細やかな気づかいが昔と変わってないのはうれしいけど…
「なんでそれがわかるのに推理を説明しないんですか…?」
「なぁに。あの程度は初歩的なことだから説明するのに値しなかったのさ」
恐ろしいことに先輩は化け物みたいな頭脳を持っている。その度に周囲の人を困り果てさせるのが問題なんだけど…まぁ、犯人が自白するような言い回しをできるから問題ないのがずるいんだけどさ。
「さて、とりあえず車に乗ろうか。久しぶりに会った後輩を一泊させるくらいの設備はあるさ…なぁに、君ぐらいの身長なら私の服ぐらいなら着られるだろう?」
そうして僕は先輩に連れていかれた。強引に連れてかれた、というわけで優しい拉致であるとはさすがにきづけなかった。
「ほら、ここがボクの家さ。だてに探偵として有名じゃないんだ」
着いた場所はかなり都市の郊外から離れた町で、僕の家からも徒歩で行けそうな距離に建てられていた。なんなら大通りの直線上にある。
「わぁ…!」
「ほらほら、興奮してるのはわかったから降りてくれないか?」
思わず驚いてしまうようなことだったのが気に障ったのだろう先輩から注意されてしまった。反省しないと。
とはいえ、先輩が喜んでいるような顔をしているのでまんざらでもなさそうだ。
「す、すみません…」
「まあ、別に構わないさ。君と話すことが山積みだからね」
とりあえず入ろうか、そんな意思で扉の前で手招きしている先輩に慌ててついて行った。
先輩といるときはやっぱり主導権を握られている感覚がするなあ。嫌じゃないから別にいいんだけど。
「どうだい、助手。この家は指紋と虹彩認証を搭載しているからハイテクなんだ。ま、少しばかり登録が面倒だけれど慣れれば楽なんだよね」
堂々と話している彼女は談話室のプレートを手で弄んでいる。間違いなく人との応対としてはありえないけれど、それをしていても全くの違和感がないのも先輩の凛とした雰囲気だからなのだろう。
「ふふっ、そんな緊張しなくてもいいんだよ?なにせ君の運命を決断する重要な選択肢なんだから、さ?」
「はっ、はい…」
「とはいっても緊張するのも無理はないか。ほら、おちついてアイスティーでも飲んでくれたまえ」
冷えているカップから飲みつつ、改めて先輩の顔を見やる。整った顔に、紫色の濁った瞳。
「さて、君がどのような状況にいるのかは説明してあげよう」
もはやわけがわからないから正直ありがたいけれど、なんで当事者の僕より先輩の方が詳しいんだろう。
「そりゃこの一部はボクがやってしまったことだからね。…あぁ、君の思考を読んでいることについては昔もやっていたから気にしないでくれよ」
「まあ、わかります。それで?」
「君はね、今雇用主が僕になっているんだ。正確に言うなら助手見習いとして雇えることを今回の報酬にしてもらったんだ。その期間が終わったら君にどちらの仕事がいいのかを選んでもらおうと思っているんだ」
「…ということは」
「3ヶ月はここに来ないといけないね。もちろん、私と仕事をするのが嫌なら君を返却して終わりさ。どうするかい?」
先輩に対する返答は決まっている。こんな珍しい機会なんて逃したらもったいない。
「はい!やらせていただきましゅ!」
「ふふ、肝心なところで噛むのは君らしいね」
真っ赤な顔を見つめつつ、こちらに差し伸べてくれた手をとった。締まらないことを褒められているのは男としても複雑なんだけど…まあ、職場環境がかなり変わったならいいのかな。
「さて、やることは明日に回すとして一度帰宅してくれ。そうだな…次来るときは最低限生活ができるものを全て持ってきてくれ」
「はい!」
「うん、まあ助手として及第点で何よりだよ」
こちらに対して軽く手を振りながら見てきた先輩はどうやら安心している。にしてもなぜ僕のことをそんなに助手にしたがるのだろうか。
「今日は研修だし、難しいことは考えなくて大丈夫さ。登録作業と軽い事務作業の説明。それが終わったら帰ってもらうことにするよ」
ゆっくりと笑われるが、後ろからの呼び鈴。
「あ、いま出ますよ」
そう言って先輩にくるりと背を向け、一度そちらに向かおうとした。が、体が眠気の限界なのかそれとも別の要因かはわからないけれど動かない。
「……!…!」
先輩からの声が遠くから聞こえてくる。
「ふぅ…やっと寝てくれたか。助手がいないでどうして探偵を名乗れるだろうね?」
「言わずもがななんだけど、ここで眠ることの危険性を理解していなかったね。ボク以外がセキュリティを破れるように設定していない…つまり、密室であるということさ」
「本来なら依頼人を匿うように…と、作ってみたんだがね。結局ボクの処理能力の問題で一日で終わってしまうんだ」
「ならどうすればいいか?何で埋めたらいいか、って考えたら…一つしか思いつかなくてね?」