いろんな職業のヤンデレつめあわせセット 作:ドシテ・ヤンデーレ?
少し最初のほうが聞こえなかったが声をかけて俺に通せんぼしてきた緩くウェーブのかかっている茶髪の女。
とりあえずとして、強めの口調で質問してみる。
「…どういうことかわからない。お前はなにをしようとしているんだ?」
「おねえさんだって本当は深夜でなーんにもしたくないんだけどね?」
しかし、近くで見ると明らかにサイズオーバーで胸だけがはみ出している制服。警察官としてはしてはいけなさそうな次元まで上げたスカートの丈。特に俺の身長だと普通に見えるのは彼女の胸元が限界だ。くっそ、なんでこんなに身長がないのか…首こりに悩まされるのは嫌なんだよ…
とはいえ、この格好をみてどこが警察官と思うのか。
「だったら家に帰らせてくれよ…薬の調合が終わんないし……」
薬剤師の俺が材料を買いにコンビニまで走ったらこの始末だ。職質までされて時間把握も面倒だ。帰れるように自分の家の方向に走ろうにも、完全に邪魔される位置に立っている女。逃げられない。
「むむっ?そのセリフもそうだけど、どうやら大麻が何かでも調合してるのかな?」
「そんな訳ねぇだろ。寧ろあんたの方が警察官なのかを疑ってるんだが?」
明らかにコスプレとかのプレイで使われてそうな見た目しているのが気に食わん。どう見たって働き方改革の一環を越えているだろ。
ついでに言うなら大麻は葉を乾燥させたものだから他の違法薬物と違い調合する必要はない。せめてペーパーアシッド*1とかの調合品を言ったのなら信用することもしただろうな。
少なくとも嘘にしか見えん。誘拐犯の誘い方と言われたほうがまだ理解できる。
「ほら、これがおねえさんのけーさつてちょーですよ。ほら、ピカピカ光ってかっこいいでしょ?」
「そもそもそんなところに大切なものをしまうんじゃねーよ」
「さ、最近の子ってかわいげがありませんね…ちょっぴり悲しいです」
胸元からごそごそとこちらに向けた警察手帳は確かに本物のように見えているのだが…取り出す操作とかもそうだし、なんでこんな気の抜けた女が警察官をやってんだ。
「って、おねえさんを騙そうとしたってそうは行きませんよ〜。君のおうちに連れてってもらえるかな〜?」
「…別に、いいけど。あんたは大丈夫か?勝手に持ち場を離れるのはダメなんじゃないか?」
「あ、忘れてました〜ありがとね〜」
のんびりした手つきのまま右につけているトランシーバーで伝える彼女。今なら逃げれるかもと思ったが…動きにくいようにこちらの手を胸にぎゅっとなすりつけてくる。セクハラされてるけど動けないようにするには確かに一番だ。動いたらわいせつ罪…こんな理不尽なやり方てとめるのは頭がおかしいが。
しばらくして通信が終わったようで、胸に置いていた手を握ってこちらに振り向く。
「…ええ、はい。うん、おねえさんといっしょに行きましょう?こんな時間だから本当はいっぱい怒られちゃうんだよ?」
「…だから成人してるっての」
「それならおねえさんのおっぱい触ったからセクハラで逮捕するね〜」
「あれはあんたの故意だろ」
職質されないルートだったってのに…また新しい道を探さないとな。
面倒な誤解を解くために俺は帰り道を歩かされた。手を握られているから逃がすつもりはないようだ。…いやにラベンダーかなにかの匂いが鼻につく。
「さて、君の名前も教えてくれないかなぁ?」
「いやだ」
そもそも名前を聞かなくてもいいんじゃないのか、とは思う。もともと名前も名乗るつもりもないし、変に覚えられてもまた後が面倒くさそうだ。
「おねえさんの職質だよ…?答えなきゃ問答しないで逮捕だよ〜?」
「…はぁ。村雨
悲しいかな、ただでさえあと20分しかない時間を有意義に消費するには職質を終わらせて帰ったほうがいい。手錠で繋がれたら間違いなく交番までいかされて2時間はかかる…というかそれよりも時間のかかる可能性があるからここで緩く終わらせるのがいいだろう。
「智乃ちゃんですか。かわいい名前ですね〜」
「かわいくてすまなかったな…」
「いい名前ですよ〜む、ら、さ、め、ち、よ、っと…」
そういうとスマホを弄り始めた。私服警察とかならまだしもこの見た目でそれはただのギャルだろ。二タップで俺の情報を見つけると、明らかに先ほどよりも困惑した顔でこちらを見ている。
「…ふぅ。智乃ちゃんのお家はわかりました〜」
「住所でも言えば俺が本人だと証明できるから…」
あからさまに警察官を避けようとしている俺を訝しんでいるな。
「だめですよ〜、本当に智乃ちゃんなら自分のお家わかりますからおねえさんを連れていっていけますよね?最近、ちょ〜っとニセモノさんがたくさんこの町に潜んでいるらしいので〜…」
…なるほど。まあ、確かにそういうニュースが頻発しているのは耳にしている。書かれてある住所に行ってどうなってるかを確認しないといけない、ということか。そんな細かなところまで確認するこの女は真面目かよ。そりゃあ本来データベースにあるはずの顔写真もないし二十代にはみえない体と顔つきってのに、こうして同じようにやってる時点でそう考えるべきか。
こちらがうんざりしていることが目でバレていたのか、握る手の力が強くなった。離すつもりのなさに辟易しつつも、ある程度急ぐためにはや歩きした。
「ふふ、ちゃんと案内してくれておねえさん感激してます」
「…やかましい」
全く、この体だと舐められて嫌になる。なんでこんな目にあわなきゃならないんだ。
「ほら、これでわかるだろ。この家が俺の家だ」
わざわざ証明するために手に持っていた鍵を見せてから自宅を開けた。本来ならこんなことする必要がなかった訳だから残り5分。
「お邪魔します〜」
勝手に入ろうとする女を制止できるような腕力もなく、するりと俺の家に入られる。律儀に靴を脱いでいることに安堵するべきか、ラベンダーの匂いが付くことを嫌がるべきか。
「え…?」
見慣れた実験室は少なくとも女にとっては理解しがたいものばかりがあるようで、その場にぺたんと座り込んでいる。幸いにして何一つ実験器具には触れてないので、さっさと停止させることにする。
「ちょっと待て、実験を一回止める」
全ての液体に液体窒素を流し入れるボタンを押し、そのまま部屋を冷凍庫に変える。もちろん女をこの中に入れていたら凍死するので抱えて引っ張りだす。
「…さて、これで俺がこの家の住人だって理解してもらえたか?」
こちらにしがみついて離れるつもりのない警察官に至近距離で囁く。この距離で話すのも普通に面倒だ。
「あ、ごめんね…おねえさん驚いちゃった〜」
「驚いたのはわかったから速く帰ってくれ。あんたのせいで薬の製造が止まったしな」
作り直す手間はそこまででもないが、金のかかる量は段違いだ。
「困ったことに智乃ちゃんが本人である証拠はまだないんですよ〜」
「ちっ…どうすればいいんだよ」
最近事情を知っている探偵が休んでいるからなおさら証明しづらい。職質があると知っていたら代わりの人物を探してたのに…もうあとの祭りか。
「簡単ですよ?マイナンバーカードを出してください」
「ちょっと待っててくれ…」
そうして後ろを向いた直後、肩に焼き切れる痛みと全身が痺れる。
今日は本当に大損だ。
舌の回らない体の中、かすかな意識でそう悪態をついた。
「だめですよ、こんなおねえさんを信用しちゃ〜」
「よしよし、ちゃんともっていけますね。かわいい寝顔って、どれだけおねえさんをさそえば気がすむんですかね〜?」
「智乃ちゃん、ちゃんとヒントは出てましたよね…?それに気づいてここまで招いてくれたのなら結婚してもいいってサインですよね?」
「大丈夫ですよ。寝て起きたらもうコトは全部終わってます…」
気づけたポイント
・制服がおかしい
これは最初に気づきますよね。智乃くんも気づいていたけれどこんなんコスプレの次元。
・香水をつけて業務
捜査などをするときには現場の残り香が証拠になる場合もあるので、パトロールなど業務中に香水をつけるのは原則禁止、ということ。
・スマホ
スマホは業務中の使用は禁止。加えて二タップで『村雨
・職務質問
最初からマイナンバーカードを見せていればいい話。おねえさん側から提案しているので気づいていた…つまり、わざわざ家まで連れてこさせた。