ナギの大団円〜乙女ゲームに転移した女子高生は、推しに飼われながら大団円エンドを目指したい〜   作:どくはら

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右腕は苦労性

「辰さん、ちょーっといいですか……?」

 

 アジトへ帰還後。二人きりになれたところで、辰に恐る恐る声をかけた。

 疲れたようにため息をついていた辰がわたしの方を見る。怒ってはいなさそうだけど、ため息の原因はわたしなので思わずびくびくしてしまう。そのびくびくに目ざとく気づいた辰が安心させるように微笑むものだから、余計に申し訳なかった。ごめんね、辰……。

 

「なんですか? ちなみに、今日の件を頭目に報告しないでほしいという頼みは聞けませんよ」

「そんなお願いするほど厚かましくないですが!? あっ、でも、自分でもちゃんと言いますけど、わたしが全部悪かったって言ってくださいね?」

 

 色々聞きたいことはあるけど、何より優先すべきことを口にする。辰は優しいから、下手したら全部自分のせいってことにしかねない。

 釘を刺すと、辰は青い細目を少しだけ見開いた後、なぜか微笑ましいものを見るような優しい眼差しを向けてきた。これはOKということ?

 

「残念ですが、それも聞けない頼みです。頭目に貴方のことを任せられた以上、私の監督不行き届きなのは事実ですからね。貴方に全ての非を押しつけた方が不興を買うでしょうし、ありのままを報告しますよ」

 

 ダメだった。一理あるので食い下がることもできない。

 

「あー、えっと、そのー……。できればこのことだけは伏せてもらえると……」

 

 言いながら、焦げた髪をつまむ。ついさっき、赤い狐に燃やされたところだ。

 焦げた髪とわたしを交互に見た細目イケメンは露骨に怪訝そうな顔をした。

 

「なぜ?」

「小龍さまの耳に入ると狐鍋と狸鍋ができそうなので……」

「それはそうでしょうね。あの方は所有物と定めたものへの独占欲と縄張り意識が非常に強い。特に貴方は首輪付きです。念入りに制裁なさるでしょう」

「それはちょっと困るって言うか……やめてほしいって言うか……」

「私は遠くから聞いただけですが、それでも彼らの害意を把握するには十分でした。髪を焦がした妖火が貴方の顔に直撃していても、あれらは一抹の後悔もしなかったでしょう。そんな相手に温情を向けてほしいと?」

「えっ、痛い目にはあってほしいですけど」

「……私が言うのもなんですが、それなりに長い生を過ごしてきた中で、この手の問答中にまっすぐな目でそんなこと言ったのは貴方が初めてですよ」

「いや、だって、痛い目にはあうべきでしょう! あいつら、人気のない路地裏で可愛い女の子に絡んでたんですよ!?」

 

 結局顔見てないけど! それでもあの声はきっと可愛い女の子に違いない。可愛い女の子に狼藉を働こうとするなんて許されざる罪である。

 

「……でも、あの子に怪我なさそうだったし。なら、命で償わせるのは過剰防衛かなあと」

「自分がされたことは勘定に入れないつもりですか?」

「わたしの髪なんかじゃなおさら釣り合わないですよ。腹は立つけど」

「貴方という子は、本当に……」

 

 なぜか遠い目をされた。解せぬ。

 

「……頭目の〝首輪〟がついた人の子を衆人環視で追い回したんです。回礼の沽券のために相応の制裁は与えますが、命まではとらない。それで構いませんね?」

「もちろんです。遠慮なくやっちゃってください!」

 

 さっきも言ったけど、痛い目自体はあうべきなのだ。

 これで反省してくれたらいいけど、ああいうのは懲りないのがお決まりだからなあ……。二度あることは三度あるとも言うし。

 

「ところで貴方、その髪はどうするつもりだったんです?」

 

 三度目は嫌だなあと考えていると、辰がそんなことを聞いてきた。

 

「えっ、自分で適当に切ろうかなって」

「はあ……。娟に頼みなさい。彼女は器用ですから、綺麗に整えてくれるでしょう」

「確かに娟姐さん上手そう。でも迷惑にならないです?」

「後で適当に切った姿を見せた方が気分を害しますよ、彼女は」

「確かに……」

 

 娟、そういうとこある。

 そういえば、と。ふと、一瞬脳裏によぎった姿。懐かしいその姿を追い払うように、わたしはもうひとつの本題を口にした。

 

「あっ、そうだ! 辰さん、質問なんですけど……」

 

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