ナギの大団円〜乙女ゲームに転移した女子高生は、推しに飼われながら大団円エンドを目指したい〜   作:どくはら

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VS黒幕 弐

「実はわたし、ここじゃない別の世界から来たの」

「へえ?」

「心当たりがあるとしたらそれくらいかな……。わたしがいた世界の人間全員が幻術無効体質ってわけじゃ多分ないんだけど」

「多分なんだ?」

「こっちの世界で言う霊力を持ってるって言う人も中にはいるから……」

 

 そういうのは本当だったらロマンがあると思っているタイプだから、否定したくはない。そんなわたし情を挟みつつ、いったん言葉を切って小夜の様子を窺った。

 

 推しと同じで、小夜もわたしの話を一笑に付すことはせず、真面目な様子で咀嚼している。現代日本ならまず正気を疑われそうな話も、ファンタジー世界の住民にとっては本当に一考の余地に値するものらしい。まあ、だからといって言いふらしたい話でもないけど。

 

「嘘のような真実を語る時、人は何を考えていると思うかい?」

「へ?」

 

 急に質問を振られ、思わず首を傾げた。

 

「えっ? そりゃあ……」

 

 信じてほしいという気持ちではないのかと。

 そう反射的に答えかけたところで、嫌な予感がして慌てて口を押える。そのまま小夜の方を見れば、琥珀色の目は意地悪げに細められていた。それを見て、試されていると確信する。

 

 さすが攻略難易度ナンバーワンの男。実際に対峙するとなかなかに最悪な性格をしている。

 そんなことを考えながら、今さっき、わたしは何を思い、何を感じていたかを振り返る。小夜が求めているのはおそらく一般論じゃなく、話をしているわたしを見て、小夜がどういう感想を抱いたかの言語化だと思われる。なら、答えはわたしの中にしかない。

 

 うんうんと唸ること一分。

 感覚派のわたしは、それらしいものをなんとか形にした。

 

「……信じてもらえなくても仕方ないなあっていう、諦め?」

「うん、そうだね」

 

 成果物を恐る恐る提出すれば、小夜は問題に正解した生徒を見るような顔をした。

 

「嘘を騙ろうとする詐欺師や、妄想を真実だと思い込む狂人の言葉に、疑念や諦念は宿らない。相手に対してか自分に対してかの違いはあるけど、彼らはそれを唯一無二の真実だと思わせるために喋るからね」

「でもわたしはそうじゃなかったと」

「それに加えて、君はさっき「わかってほしい」という言葉を使った。信じてほしい、じゃなくてね。信じなくてもいいからこれで納得してほしいっていう姿勢が、かえって僕の中で信憑性を高めているわけだ」

「なるほど……?」

 

 つまり……信じてくれたってこと?

 ホッと安堵の息をついたのも束の間、ドアの前にいたはずの小夜に、吐息が触れ合う近さで顔を覗き込まれていた。そのまま、ベッドの上に組み敷かれる。

 

 イケメンに押し倒されるという、乙女なら一度は夢見るシチュエーション。

 しかし、素直に胸キュンするには相手が悪かった。

 

「まあ、君が嘘をついていようがいまいが関係ないんだけどね」

 

 冷めた目でそう言いながら、まずは声を封じるとばかりにわたしの首に手をかける。

 

 あ、これ、やば。

 頭が真っ白になりかけた直後。バチッという音が鼓膜を震わせたかと思うと、小夜の手が弾かれたように離れた。

 

「ちっ、爬虫類め。抜け目ない」

 

 舌打ち混じりの言葉が、わたしを冷静にする。焦る気持ちとビビる気持ちを抑え込むようにシーツを握りしめながら、頭を必死にフル回転させた。

 

 ここの選択をミスると、冗談抜きで殺される。

 異世界転移初日のやりとりが可愛く思えるレベルだ。あれも選択をミスっていたらデッドエンド直行だったと思うけど、言葉を選ぶ時間があった分、今に比べるとだいぶ優しい。わたしの推しって優しかったんだ。じゃなくて!

 

 助けを呼ぶ? 誰かが来る前に殺される。

 なら命乞い? 殺さないで言って聞いてくれるならこんな目にあってない。

 今必要なのは小夜の興味を引くこと。彼の殺意を削ぐこと。

 どうする? どうする? どうする? ――――あっ!

 

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