ナギの大団円〜乙女ゲームに転移した女子高生は、推しに飼われながら大団円エンドを目指したい〜   作:どくはら

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大団円エンドってありですか?

「ま――――ふぎゃっ!」

 

 三つ編みが体に巻き付いているのを忘れたまま、わたしはヤタを引き留めるため立ち上がろうとする。結果としてリードに繋がれた犬よろしく体が引っ張られ、そのまま前の方につんのめった。バランスを崩した体が、大きな音を立ててベッドの下に転がり落ちる。

 

「何をしているんだ、お前は」

「なにしとるん?」

 

 イケメン二人に、訝しそうな声でハモられた。穴があったら入りたい。

 ……じゃなくて!

 

「どこいくの?」

「どこって、それ凪ちゃんに言う必要あるん?」

「ない! でも気になる!」

「はははっ。ほんま正直者やねえ、凪ちゃんは」

 

 そう笑った後、ヤタは振り返ってこっちを見た。

 笑っているけど笑っていない。そんな琥珀色の目とかち合う。

 

「僕のやりたいことがどこまでバレたかわからんけど、どのみち神代一派に追いかけられとるうちは目立つことできんし、無面くんには嫌われとるしなあ。ほとぼりが冷めるまでは適当に国中ぶらぶらしとくわ」

「ぶらぶらって、どれくらい?」

「んー、まあ百年くらい?」

「ひゃくねん!?」

 

 さらっととんでもない年数がお出しされた。これが長命種の時間感覚……。

 それにしたって百年は困る。そんなに経ったら人間(まひろ)は死んでしまう。小夜エンドはメリバにもほどがあるから断固として阻止しないといけないけど、それはそれとして烏丸小夜を幸せにできるのは主人公(まひろ)しかいないだろうから、真の意味で友好的な関係を築いて欲しい。

 

 だって、小夜にも幸せになってもらわないと……困る。

 

「あのー……、ぶらぶらしないという選択肢は……」

「ないなあ」

「そこをなんとか!」

「そないなこと言われても、僕もあんま危ない橋は渡りとうないしなあ。おもろそうなもんがあるなら話は別やけど」

「なら、わたしがあんたに面白いものを見せてあげるから!」

「ほーん。例えば、どんな?」

 

 勢いで言った言葉に少しは興味を惹かれたのか、琥珀色の目が細められる。このチャンスを逃すわけにはいかない。わたしはさらに勢いよくまくし立てた。

 

「メタ知識をフル活用して、大団円エンドを見せてあげる! ゲームプレイヤー…げふんげふん、未来を知ってる者にしか作れないようなレアエンディングまでの道のりなら、ヤタだって退屈しないでしょ!」

「あんだけ人のことを冷血呼ばわりしといて、今さら大団円なんてぬるいもんで釣れると思うんは虫がええんとちゃう?」

「でも、めちゃくちゃ難しいことだけは保証するよ。自分で言っといてなんだけど、どうやったら大団円になってくれるのかちっっっとも見当つかないし! 困難なものに挑んで無様にあがいてる姿は悪くない見世物だと思うんですがどうでしょうか!」

 

 目の前の破滅的享楽主義イケメンが大団円エンドに惹かれないのは百も承知だ。

 だから、わたしはそうなるのがいかに困難なのかをアピールする。何せ、(主に目の前にいる黒幕のせいだけど)メタ知識なし(主人公視点)だと糸口もなさそうなエンドだ。ゲーム知識というアドバンテージがあっても難しいに違いない。そんな艱難辛苦に、いったん生かしてもいいと思えるくらいには興味をそそられた人間が振り回されている姿はドSなヤタ好みのはずだ。

 

 逆に、これでだめならもうどうしようもない。祈るような、そして挑むような気持ちで琥珀色の目を見つめていると、後ろから地の底から響くような不機嫌ボイスが聞こえた。

 

「おい」

「は、はい?」

 

 ぎぎぎと、錆びついたロボットのように振り返る。そこには、お面の穴からほとんど真っ赤になった目を覗かせている推しがいた。

 

「えっ、なんでマジギレしていらっしゃる……?」

「ついさっき言われたことも忘れてふざけたことをぬかす駄犬を縊り殺さないだけ冷静だが?」

「ひえっ」

 

 やばい、目が笑ってない。

 慌てて記憶を掘り返し、推しに言われたことを思い出す。

 

「えーっと……。これは決して、小龍さまの飼い犬だという自覚が欠如しているからではなく……ただ、知ってる人にはできるだけハッピーエンドもとい幸せになってほしいだけでぇ……」

「俺以外の存在に心を砕くことが不愉快だ。犬は犬らしく飼い主を至上としろ」

「そりゃあもちろん、小龍さまがわたしの最推しでナンバーワンですよ! でも、それとこれとは話が別っていうかぁ……」

 

 必死に言葉を連ねていると、真っ赤だった推しの目が急に赤紫になった。

 思わず推しをまじまじと見れば、形のいい唇がへの字になっている。機嫌が良さそうな口角とは言えないけど、それでもさっきより威圧感が減っていると感じるのは気のせいじゃないはずだ。助かったけど……なんで?

 

「……おい、子犬」

「は、はい」

「お前にとって、そいつは〝推し〟か?」

「…………はい?」

 

 どういうこと?

 思わず首を傾げたけど、どうやら答える気はないらしい。

 

「二度は言わん」

「え、えーっと、キャラとしては好きだけど推しとは違うかな……」

 

 静かな圧に負けて、正直な感想を口にする。登場キャラの中では上位に入るくらいには好きだけど、推しと胸を張って言うのは小夜推しの人に申し訳ない。そんな感じだ。

 

「ならいい」

 

 わたしの答えは、どうやらお気に召したらしい。推しは一言そう言うと、目の色をすっかり元通りにして小さく息をついた。しゅるりと音を立てて、体に巻き付いたままだった三つ編みも離れていく。

 よくわかんないけど……なんとかなったならヨシ!

 

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